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暗殺

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 それから時を経て、利休は信長にお茶会に呼ばれ出掛けて行った。お茶会の前に、信長の茶室に呼ばれた。茶室へ入ると、信長の他に誰もいない。

 信長は「これなんだが……」と紫色の風呂敷に包んだ木箱を取り出し利休の前へ差し出した。利休は「これは?」と言い、風呂敷を広げ木箱のふたを開けた。

 信長は「先祖より伝わる党首の証、行方の解らなくなっていたトリニティなる物だと考えておる」と言った。利休が箱の中の物を手に取ると、脳裏に大空を翔ける巨大な鳥の様な物が浮かんだ。利休はそのとき、これが本物のトリニティだと直感した。

 信長は「これが本物であれば、この信長が党首!この信長が組織を束ねれば天下を取るのは雑作もない」と言った。

 利休には、信長の言葉がほとんど聞こえていなかった。信長に「どうじゃ?」と聞かれ利休は我に返った。利休が「持ち帰って調べてみない事には何とも……」と言うと「どうした、顔色が悪いぞ」と信長に言われ、利休は「いえ、早急に調べて参ります」と箱を手にすると城を出た。

 利休は、組織の元へ急いだ。能力を強く受け継いでいる信長だが、掟に相反する考えの信長を組織は党首に選ばなかった。『今の信長であれば、党首になったとしても幹部連中で抑え込む事も出来るだろう、しかしあの話しに聞く朱雀を従えたとしたら……』と利休は考えていた。

 利休は幹部の元へ行くと「信長様より茶会の誘いがあり、参りましたところ、この紫の風呂敷の中の物が党首の証しではないかと……」と報告した。すると幹部は「それで、その中身は言い伝えにあるトリニティなのか?」と言った。利休は「恐らく…… 」と答えた。幹部が「不味いことになったな……」と言うと、利休は「はい…… 信長様はトリニティを盾に党首を主張し組織を使って天下を取りに出られるかと」と言った。幹部は「信長の処分に関しては組織にて対処する」と言った。

 「その箱の中身については、封印するしかあるまい」と言うと幹部の中でも能力の高い5人が立ち上がり、他の幹部へ「後を頼む」と言うと、利休に「身寄りの無い者を10人ほど集める様に」と言った。

 利休が集めた10人が穴を掘り、箱を囲む様に4隅に幹部が1人づつ大きな壺に入り埋められた。また、箱の真上にも幹部が1人壺に入り埋められると、作業を手伝った10人は組織によって消されてしまった。こうして15人の犠牲を出し箱の封印が行われると、作業を指示した利休以外、封印の場所を知る者は居なくなった。

 久野は『あぁ、慶福さんの言った事は本当だった…… 故郷ともう1つの星を破滅に追いやったのは自分なんだ……』と思い知った。『更にまた、地球も危機に追いやろうとしている原因も自分なんだと……』愕然としていると、そこで久野の意識は現実に引き戻された。

 意識が戻り行く最中、以前聞いた事のある声が…… それは長田と光智の夢から意識が戻る時に聞いた声だった。今度は『思い出せ!』とハッキリ聞こえた。

 久野は「思いだせ?  これ以上何を思い出せと言うんだ?  もっと大事な事が……?」と薄れゆく意識の中で考えていた。
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