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影武者
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2人が戸塚駅に到着し、時計を見ると18時を過ぎていた。久野は「元気を出してください」と晴夏に声を掛けた。晴夏は「父の周りであんな事が起きてるなんて想像もしていなかったので……」と言った。
久野が「とりあえず食事して帰りませんか? 何かご馳走しますよ」と言うと、晴夏は元気無さげに「はい……」とだけ答えた。
久野は、少しでも場を明るくしようとテンション高目に「でも戸塚って良い店無いですよね、とりあえず駅ビルの上でも行ってみますか!」と言った。
改札から右手に歩くと直接駅ビルに繋がっている。自動ドアから入り、食料品売り場を横目にエスカレーターで7階まで上がるとレストラン街に着いた。久野が「またもテンション高目に、やっぱイタリアンが良いですか?」と聞くが、晴夏は「私は何でも……」とだけ言って心ここに在らずといった感じだった。
久野が「じゃ~パスタにしましょう」と言ってパスタ屋に入ると、ちょっと暗めの照明に『店の選択間違えたか?』と久野は思った。
店の入り口でウェイトレスに「何名様ですか?」と聞かれると、久野はVサインをしながら「2名で!」と言った。ウェイトレスは2名様ですね、店内は禁煙になっております」と言って席に案内した。久野は『やっぱり店の選択間違えたかな……』と思った。
2人は席につき、メニューを広げるが、晴夏はメニューを広げただけで、選んでいる様子がない。久野は「これなんか美味しそうですよね?」とメニューのスモークサーモンのクリームパスタを指差して晴夏に見せるが「はぁ……」と言って晴夏は別のことを考えているようだった。
久野が「トマトとニンニクのパスタも捨てがたいなぁ~」とあえて大きい声で言ってみるが、晴夏は一向に感心を示さない。久野はあきらめて「スモークサーモンのクリームパスタと、トマトとニンニクのパスタを頼んで半分づつにしましょうか?」と提案した。
晴夏は久野が気をつかっていることに気付いたのか「あ! はい、それで……」と言った。久野がウェイトレスを呼び「スモークサーモンのクリームパスタを1つと、トマトとニンニクのパスタを1つ」と注文し終えると、晴夏が「誘ってくれてありがとうございます、このまま帰って1人でいたら頭がパニックになりそうで……」と言い、ぺこりと頭を下げた。
久野はとりあえず晴夏を安心させようと「慶福さんの話し飛躍しすぎてて、信じて良いものか…… もし本当だとしても、相手はお父さんに危害は加えないだろうと言っていたし、そこは安心して良いんじゃないですかね……」と言った。
晴夏は「そうですね、でも結局手掛かりもつかめないままで……」と言うと、そこへウェイトレスが「スモークサーモンのクリームパスタとトマトとニンニクのパスタになります」と注文した品を持って来た。
テーブルにパスタを置き、ウェイトレスに「取り皿はご利用になりますか?」と聞かれ、久野が「はい!」と答えると、ウェイトレスは直ぐに取り皿を持って来た。ウェイトレスが「以上でご注文の品はお揃いでしょうか」と聞くので、久野が「はい!」と言うと、ウェイトレスは「どうぞ、ごゆっくり」と言って奥へ戻って行った。
久野が『何処の飲食店入ってもマニュアル通りだな……』などと考えていると、晴夏はぼそっと「私に出来る事あるのかな……」と言った。
久野は「とりあえず啓明結社について調べてみますか! 私も広告の事が気になるし…… 後は慶福さんからの連絡を待ちましょう」と久野が言うと「そういえば慶福さんに連絡先送るの忘れてました!」と晴夏が思い出した様に言った。
久野は「とりあえず冷めないうちに食べちゃいましょう! そんな直ぐに何か解るとも思えないし、食べてからでも大丈夫でしょう」と言って2人はパスタを食べ始めた。
2人がパスタを食べ終わると、店員が皿を下げに来て「お飲み物は何になさいますか?」と聞いた。久野が「コーヒーで!」と言うと、晴夏も「私もコーヒーで!」と言った。
晴夏は「そうだ! 忘れないうちに慶福さんにメールしちゃいますね」と言って携帯を取り出した。晴夏がメールする間、久野がコーヒーが来るのをぼ~っと待っていると、何やら横で人の気配を感じる。久野が横を向くと、店の外で手を振る男性がいた。
その男性は、店の中へ入ってくると久野の横に座って「こんばんは、こんなとこで会うなんて奇遇ですね」と言った。晴夏が、男性に気付き顔を上げ「あぁ長田さん! こんばんは」と挨拶した。
久野が「仕事帰りですか?」と聞くと、「ちょっとパチンコに柿太郎まで行った帰りです」と長田は言った。「それよりも何? 2人はデート? 何時からそんな仲良くなっちゃった訳?」と長田が2人をからかうように言った。
晴夏は頬を赤くしながら「違いますよ~」と恥ずかしそうに言った。久野が「こんな美人と付き合えたら良いんですけどね」と言うと、晴夏は「何言ってるんですか~」と言って耳まで赤くなった。
長田はウェイトレスを呼ぶと、「ペスカトーレ1つください」と注文して、「腹へっちゃって、ここのペスカトーレ美味いのよ!」と言った。
久野が「パチンコは勝ったんですか?」と聞くと長田は「駄目駄目、柿太郎も西横も全然遊べないしクソですよ!」と言って、おしぼりをテーブルに叩きつけた。
長田がパチンコの愚痴を話していると、そこへウェイトレスがペスカトーレを持って来た。長田がペスカトーレを食べて静かになると、晴夏の携帯がテーブルの上で振動した。晴夏は「ちょっとすみません!」と言うと携帯を持って店の外へ出て行った。
暫くして戻って来ると「慶福さんからの電話でした」と晴夏が言った。「慶福さんは何て? 何か解ったんですか?」と久野が聞くと「話したい事があるので、西麻布の神野ビルまで来て欲しいと、久野さんはお時間大丈夫ですか?」晴夏が言った。
久野は「行くのは構わないけど、この時間からだと帰りの電車が無くなりそうですね…… 1度帰って車取って来ますか?」と言った。
すると長田が「西麻布まで道解ります? なんなら私の車で送りましょうか?」と会話に入ってきた。 晴夏が「そんな申し訳ない……」と言うと「いや、別にそれくらい構わないですよ、神野ビルなら多分知ってる病院が入っているビルだし」と長田が言った。
そんなやり取りをしていると、また晴夏の携帯がなる。今度は慶福からメールで神野ビルの住所が送られてきた。
晴夏が「慶福さんからメールで住所が……」と言うと、長田が携帯を覗き込み「やっぱり私の知っているビルだ!」と言った。長田は久野を見ると「以前、久野さんに紹介すると言ってた病院が入っているビルですよ!」と言った。
久野が晴夏に「急いだ方が良いですよね? お願いしますか?」と聞くと、晴夏は「じゃぁ申し訳ありませんが、お願いします!」と長田に言った。久野は「それじゃ長田さんお願い出来ますか? ここは私が払いますんで……」と伝票をもち、レジへ向かった。
久野は2人を店の外で待たせ会計を済ませると「お待たせしました、車は何処に止めてあるんですか?」と長田に聞いた。長田は「駅ビルの駐車場です」と言って歩き出した。2人が長田に着いて歩き出すと、長田が「本当にご馳走になって良かったんですか?」と言った。久野が「そんな、遠くまで送ってもらうんだから、それくらい!」と言うと、長田は「じゃぁ遠慮なく……」と言った。
3人が車に乗り込むと、久野は「遠慮なく高速使ってくださいね! 高速代もちゃんと出しますから!」と言った。車を走らせると、夜の上りとあって首都高も空いていた。車内で、慶福に車で向かうことを連絡し、1時間ほどで、神野ビルに到着した。
車を地下駐車場に入れ「久野が、申し訳ないですが、待っててもらって良いですか?」とお願すると、長田は「近くでお茶でもしてるから、終わったら連絡してください」と言ってビルから出て行った。
1階にあがり慶福に電話をかけ「もしもし光智ですが、いま神野ビルに着きました」と言うと、慶福は「1階ですよね? いま迎えに行きます」と言った。
待っていると、慶福がエレベーターで降りてきた。慶福が「こんな時間にお呼びだてして申し訳ありません」と言うと、晴夏は「何か解るなら、私も早く聞きたかったので」と言った。
「ご案内します」と言った慶福の後に着いてエレベーターにのると、エレベーターは3階で止まった。
先を歩く慶福の足が止まり自動ドアが開くと、右手に受け付けカウンターが有った。カウンターの後ろの壁には、ジェファソニアン・クリニックの文字が『長田さんが言ってた病院だ……』と久野は思った。
カウンターにも、院内にも人の気配は無く、廊下も電気が消されている。左右に合わせて4つの扉と、廊下正面奥にもう1つ扉がある。
その廊下正面奥にある扉を慶福が、コンコンと2回ノックすると、中から「どうぞ!」と男性の声がした。扉を開けると左手にはデスクが置かれ、中央には応接セットが置かれていた。
デスクに腰掛けている男性に慶福が「お連れしました」と言うと、男性は「どうも、榊です」と名乗った。
慶福が「こちらが光智の娘さんで、こちらが…… まだお名前を聞いてませんでしたね」と久野を覗き込む。「あぁ、申し遅れました久野です」と答えると、慶福が「どうぞお掛けください」と言った。榊はデスクに腰掛けたまま、久野と晴夏はソファーに座った。
慶福が「会社の応接室で、お2人との話しの最中に掛かってきた電話ですが、八咫烏本部からの緊急召集でした……」と話し始めた。
慶福は「あのあと本部で、八咫烏の内部でも上層部の限られた者しか知らない事実を知らされました。その1つが、光智は利休の転生者では無く、八咫烏が仕立てた利休の影武者だった事が解りました」と言った。
晴夏は「父が転生者では無かったのですか?」と一瞬ホッとした表情を見せ「その場合、父はどうなるんですか?」と聞いた。慶福は「光智が利休の転生者で無いと解れば、監禁しておく必要も無くなるかと思います。私が考えられる事は3つ…… 1つは、そのまま解放される。1つは、八咫烏との何らかの取り引きに利用される。もう1つは、あまり考えたくはありませんが……消される可能性も……」と言った。
晴夏は今にも泣き出しそうな顔で「父は殺されるんですか?」と聞いた。慶福が「そうと決まった訳じゃありません、啓明結社も無闇に殺生するとは考えにくい、とりあえず今は、最悪の事態にならないことを願うしか……」と答えると、晴夏は「そうですか……」と言って、うなだれた。
その時久野は『それならば利休の転生者は何処に……? 光智さんが自殺した意味がないじゃないか……』と考えていた。
「まだ他にも解ったことが……」と再び慶福が話し始めた。慶福は「会社でお2人にトリニティのお話しをしたと思いますが、現在3つのトリニティが確認されているそうです。その内2つのトリニティを八咫烏が所持していましたが、啓明結社に最近奪われ、切り札を失った八咫烏は残る1つのトリニティを何がなんでも死守しなければなりません。残る1つのトリニティも啓明結社の手に渡るとなれば、世界は啓明結社が支配し能力を持たない人達がどうなるかは……」と言った。
それから慶福に「そうならない為にも、久野さんにご協力願いたい」と言われ「はぁ? 何で俺が?」と久野の声が部屋に響き渡った。うな垂れていた晴夏もとっさに顔を上げ「どういうこと!?」と言った。
慶福は「八咫烏の調査に間違いが無ければ久野さん、貴方が利休の転生者です!」と言った。久野と晴夏は、顔を見合わせた。久野は「無い無い!」と顔の前で手を振った。
慶福は「私も本部から送られた情報を見て驚きました、先程まで会社で会っていた久野さんの情報が送られてきたのですから。お名前を聞くまで信じられなかったのですが、でもお2人が一緒で良かった、もしかしたら啓明結社がすでに自宅に手を回していたらと……」と言った。
そして「久野さん、ご協力願えますか?」と慶福に言われ、久野は「ご協力と言われても、いったい何をすれば……?」と答えた。
慶福は「トリニティの隠し場所を思い出して頂きたい!」と言った。久野が「思い出せと言われても……」と言うと、慶福は「その為にここへ来て頂いたのです、榊先生の催眠誘導で、貴方に前世をたどって記憶を取り戻して頂きたい」と言った。
晴夏は心配になり「危ないことは無いんですか?」と尋ねると、慶福は「危ない事は一切ありません」と答えた。
久野が「誘導催眠って…… 具体的に何をすれば?」と聞くと、慶福は「ベッドで横になっているだけで構いません、後は榊先生の指示に従って頂ければ……」と言った。久野は「まぁ~寝てるだけなら……」と言うと、「それでは隣りの部屋へお願いします」と榊が言った。
隣りの部屋は診察室のようだった。ドアを入ると左手にデスク、右手にベッドが配置されていた。「それでは、そこのベッドに仰向けに寝てください」と榊が言った。久野は榊にうながされるまま、ベッドに横になった。
榊が「それでは目はつむったまま大きく3回深呼吸しましょう」と言うと、久野はゆっくりと大きく深呼吸をした。それが終わると榊は「私が3つ数えると段々深い眠りに入ります……」
そして榊が数える「3…… 2……1 …………」
久野が「とりあえず食事して帰りませんか? 何かご馳走しますよ」と言うと、晴夏は元気無さげに「はい……」とだけ答えた。
久野は、少しでも場を明るくしようとテンション高目に「でも戸塚って良い店無いですよね、とりあえず駅ビルの上でも行ってみますか!」と言った。
改札から右手に歩くと直接駅ビルに繋がっている。自動ドアから入り、食料品売り場を横目にエスカレーターで7階まで上がるとレストラン街に着いた。久野が「またもテンション高目に、やっぱイタリアンが良いですか?」と聞くが、晴夏は「私は何でも……」とだけ言って心ここに在らずといった感じだった。
久野が「じゃ~パスタにしましょう」と言ってパスタ屋に入ると、ちょっと暗めの照明に『店の選択間違えたか?』と久野は思った。
店の入り口でウェイトレスに「何名様ですか?」と聞かれると、久野はVサインをしながら「2名で!」と言った。ウェイトレスは2名様ですね、店内は禁煙になっております」と言って席に案内した。久野は『やっぱり店の選択間違えたかな……』と思った。
2人は席につき、メニューを広げるが、晴夏はメニューを広げただけで、選んでいる様子がない。久野は「これなんか美味しそうですよね?」とメニューのスモークサーモンのクリームパスタを指差して晴夏に見せるが「はぁ……」と言って晴夏は別のことを考えているようだった。
久野が「トマトとニンニクのパスタも捨てがたいなぁ~」とあえて大きい声で言ってみるが、晴夏は一向に感心を示さない。久野はあきらめて「スモークサーモンのクリームパスタと、トマトとニンニクのパスタを頼んで半分づつにしましょうか?」と提案した。
晴夏は久野が気をつかっていることに気付いたのか「あ! はい、それで……」と言った。久野がウェイトレスを呼び「スモークサーモンのクリームパスタを1つと、トマトとニンニクのパスタを1つ」と注文し終えると、晴夏が「誘ってくれてありがとうございます、このまま帰って1人でいたら頭がパニックになりそうで……」と言い、ぺこりと頭を下げた。
久野はとりあえず晴夏を安心させようと「慶福さんの話し飛躍しすぎてて、信じて良いものか…… もし本当だとしても、相手はお父さんに危害は加えないだろうと言っていたし、そこは安心して良いんじゃないですかね……」と言った。
晴夏は「そうですね、でも結局手掛かりもつかめないままで……」と言うと、そこへウェイトレスが「スモークサーモンのクリームパスタとトマトとニンニクのパスタになります」と注文した品を持って来た。
テーブルにパスタを置き、ウェイトレスに「取り皿はご利用になりますか?」と聞かれ、久野が「はい!」と答えると、ウェイトレスは直ぐに取り皿を持って来た。ウェイトレスが「以上でご注文の品はお揃いでしょうか」と聞くので、久野が「はい!」と言うと、ウェイトレスは「どうぞ、ごゆっくり」と言って奥へ戻って行った。
久野が『何処の飲食店入ってもマニュアル通りだな……』などと考えていると、晴夏はぼそっと「私に出来る事あるのかな……」と言った。
久野は「とりあえず啓明結社について調べてみますか! 私も広告の事が気になるし…… 後は慶福さんからの連絡を待ちましょう」と久野が言うと「そういえば慶福さんに連絡先送るの忘れてました!」と晴夏が思い出した様に言った。
久野は「とりあえず冷めないうちに食べちゃいましょう! そんな直ぐに何か解るとも思えないし、食べてからでも大丈夫でしょう」と言って2人はパスタを食べ始めた。
2人がパスタを食べ終わると、店員が皿を下げに来て「お飲み物は何になさいますか?」と聞いた。久野が「コーヒーで!」と言うと、晴夏も「私もコーヒーで!」と言った。
晴夏は「そうだ! 忘れないうちに慶福さんにメールしちゃいますね」と言って携帯を取り出した。晴夏がメールする間、久野がコーヒーが来るのをぼ~っと待っていると、何やら横で人の気配を感じる。久野が横を向くと、店の外で手を振る男性がいた。
その男性は、店の中へ入ってくると久野の横に座って「こんばんは、こんなとこで会うなんて奇遇ですね」と言った。晴夏が、男性に気付き顔を上げ「あぁ長田さん! こんばんは」と挨拶した。
久野が「仕事帰りですか?」と聞くと、「ちょっとパチンコに柿太郎まで行った帰りです」と長田は言った。「それよりも何? 2人はデート? 何時からそんな仲良くなっちゃった訳?」と長田が2人をからかうように言った。
晴夏は頬を赤くしながら「違いますよ~」と恥ずかしそうに言った。久野が「こんな美人と付き合えたら良いんですけどね」と言うと、晴夏は「何言ってるんですか~」と言って耳まで赤くなった。
長田はウェイトレスを呼ぶと、「ペスカトーレ1つください」と注文して、「腹へっちゃって、ここのペスカトーレ美味いのよ!」と言った。
久野が「パチンコは勝ったんですか?」と聞くと長田は「駄目駄目、柿太郎も西横も全然遊べないしクソですよ!」と言って、おしぼりをテーブルに叩きつけた。
長田がパチンコの愚痴を話していると、そこへウェイトレスがペスカトーレを持って来た。長田がペスカトーレを食べて静かになると、晴夏の携帯がテーブルの上で振動した。晴夏は「ちょっとすみません!」と言うと携帯を持って店の外へ出て行った。
暫くして戻って来ると「慶福さんからの電話でした」と晴夏が言った。「慶福さんは何て? 何か解ったんですか?」と久野が聞くと「話したい事があるので、西麻布の神野ビルまで来て欲しいと、久野さんはお時間大丈夫ですか?」晴夏が言った。
久野は「行くのは構わないけど、この時間からだと帰りの電車が無くなりそうですね…… 1度帰って車取って来ますか?」と言った。
すると長田が「西麻布まで道解ります? なんなら私の車で送りましょうか?」と会話に入ってきた。 晴夏が「そんな申し訳ない……」と言うと「いや、別にそれくらい構わないですよ、神野ビルなら多分知ってる病院が入っているビルだし」と長田が言った。
そんなやり取りをしていると、また晴夏の携帯がなる。今度は慶福からメールで神野ビルの住所が送られてきた。
晴夏が「慶福さんからメールで住所が……」と言うと、長田が携帯を覗き込み「やっぱり私の知っているビルだ!」と言った。長田は久野を見ると「以前、久野さんに紹介すると言ってた病院が入っているビルですよ!」と言った。
久野が晴夏に「急いだ方が良いですよね? お願いしますか?」と聞くと、晴夏は「じゃぁ申し訳ありませんが、お願いします!」と長田に言った。久野は「それじゃ長田さんお願い出来ますか? ここは私が払いますんで……」と伝票をもち、レジへ向かった。
久野は2人を店の外で待たせ会計を済ませると「お待たせしました、車は何処に止めてあるんですか?」と長田に聞いた。長田は「駅ビルの駐車場です」と言って歩き出した。2人が長田に着いて歩き出すと、長田が「本当にご馳走になって良かったんですか?」と言った。久野が「そんな、遠くまで送ってもらうんだから、それくらい!」と言うと、長田は「じゃぁ遠慮なく……」と言った。
3人が車に乗り込むと、久野は「遠慮なく高速使ってくださいね! 高速代もちゃんと出しますから!」と言った。車を走らせると、夜の上りとあって首都高も空いていた。車内で、慶福に車で向かうことを連絡し、1時間ほどで、神野ビルに到着した。
車を地下駐車場に入れ「久野が、申し訳ないですが、待っててもらって良いですか?」とお願すると、長田は「近くでお茶でもしてるから、終わったら連絡してください」と言ってビルから出て行った。
1階にあがり慶福に電話をかけ「もしもし光智ですが、いま神野ビルに着きました」と言うと、慶福は「1階ですよね? いま迎えに行きます」と言った。
待っていると、慶福がエレベーターで降りてきた。慶福が「こんな時間にお呼びだてして申し訳ありません」と言うと、晴夏は「何か解るなら、私も早く聞きたかったので」と言った。
「ご案内します」と言った慶福の後に着いてエレベーターにのると、エレベーターは3階で止まった。
先を歩く慶福の足が止まり自動ドアが開くと、右手に受け付けカウンターが有った。カウンターの後ろの壁には、ジェファソニアン・クリニックの文字が『長田さんが言ってた病院だ……』と久野は思った。
カウンターにも、院内にも人の気配は無く、廊下も電気が消されている。左右に合わせて4つの扉と、廊下正面奥にもう1つ扉がある。
その廊下正面奥にある扉を慶福が、コンコンと2回ノックすると、中から「どうぞ!」と男性の声がした。扉を開けると左手にはデスクが置かれ、中央には応接セットが置かれていた。
デスクに腰掛けている男性に慶福が「お連れしました」と言うと、男性は「どうも、榊です」と名乗った。
慶福が「こちらが光智の娘さんで、こちらが…… まだお名前を聞いてませんでしたね」と久野を覗き込む。「あぁ、申し遅れました久野です」と答えると、慶福が「どうぞお掛けください」と言った。榊はデスクに腰掛けたまま、久野と晴夏はソファーに座った。
慶福が「会社の応接室で、お2人との話しの最中に掛かってきた電話ですが、八咫烏本部からの緊急召集でした……」と話し始めた。
慶福は「あのあと本部で、八咫烏の内部でも上層部の限られた者しか知らない事実を知らされました。その1つが、光智は利休の転生者では無く、八咫烏が仕立てた利休の影武者だった事が解りました」と言った。
晴夏は「父が転生者では無かったのですか?」と一瞬ホッとした表情を見せ「その場合、父はどうなるんですか?」と聞いた。慶福は「光智が利休の転生者で無いと解れば、監禁しておく必要も無くなるかと思います。私が考えられる事は3つ…… 1つは、そのまま解放される。1つは、八咫烏との何らかの取り引きに利用される。もう1つは、あまり考えたくはありませんが……消される可能性も……」と言った。
晴夏は今にも泣き出しそうな顔で「父は殺されるんですか?」と聞いた。慶福が「そうと決まった訳じゃありません、啓明結社も無闇に殺生するとは考えにくい、とりあえず今は、最悪の事態にならないことを願うしか……」と答えると、晴夏は「そうですか……」と言って、うなだれた。
その時久野は『それならば利休の転生者は何処に……? 光智さんが自殺した意味がないじゃないか……』と考えていた。
「まだ他にも解ったことが……」と再び慶福が話し始めた。慶福は「会社でお2人にトリニティのお話しをしたと思いますが、現在3つのトリニティが確認されているそうです。その内2つのトリニティを八咫烏が所持していましたが、啓明結社に最近奪われ、切り札を失った八咫烏は残る1つのトリニティを何がなんでも死守しなければなりません。残る1つのトリニティも啓明結社の手に渡るとなれば、世界は啓明結社が支配し能力を持たない人達がどうなるかは……」と言った。
それから慶福に「そうならない為にも、久野さんにご協力願いたい」と言われ「はぁ? 何で俺が?」と久野の声が部屋に響き渡った。うな垂れていた晴夏もとっさに顔を上げ「どういうこと!?」と言った。
慶福は「八咫烏の調査に間違いが無ければ久野さん、貴方が利休の転生者です!」と言った。久野と晴夏は、顔を見合わせた。久野は「無い無い!」と顔の前で手を振った。
慶福は「私も本部から送られた情報を見て驚きました、先程まで会社で会っていた久野さんの情報が送られてきたのですから。お名前を聞くまで信じられなかったのですが、でもお2人が一緒で良かった、もしかしたら啓明結社がすでに自宅に手を回していたらと……」と言った。
そして「久野さん、ご協力願えますか?」と慶福に言われ、久野は「ご協力と言われても、いったい何をすれば……?」と答えた。
慶福は「トリニティの隠し場所を思い出して頂きたい!」と言った。久野が「思い出せと言われても……」と言うと、慶福は「その為にここへ来て頂いたのです、榊先生の催眠誘導で、貴方に前世をたどって記憶を取り戻して頂きたい」と言った。
晴夏は心配になり「危ないことは無いんですか?」と尋ねると、慶福は「危ない事は一切ありません」と答えた。
久野が「誘導催眠って…… 具体的に何をすれば?」と聞くと、慶福は「ベッドで横になっているだけで構いません、後は榊先生の指示に従って頂ければ……」と言った。久野は「まぁ~寝てるだけなら……」と言うと、「それでは隣りの部屋へお願いします」と榊が言った。
隣りの部屋は診察室のようだった。ドアを入ると左手にデスク、右手にベッドが配置されていた。「それでは、そこのベッドに仰向けに寝てください」と榊が言った。久野は榊にうながされるまま、ベッドに横になった。
榊が「それでは目はつむったまま大きく3回深呼吸しましょう」と言うと、久野はゆっくりと大きく深呼吸をした。それが終わると榊は「私が3つ数えると段々深い眠りに入ります……」
そして榊が数える「3…… 2……1 …………」
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『柿ノ木川話譚3・栄吉の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/398880017
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