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疑心

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 久野の目に、ぼんやりだが2人の人影が見える。その人影は徐々に鮮明になり、心配そうにのぞき込む晴夏と長田の顔が目に映った。

 「ここは……?」と久野が尋ねると「何言ってるんですか、カフェオリジナルですよ」と晴夏が言った。「いきなり気を失ったからびっくりしましたよ」と長田に言われ久野は辺りを見回した。

 晴夏は心配そうに「大丈夫ですか?」と言って久野の顔をのぞき込んだ。久野は「とりあえず、水を……」と言って、テーブルにあったコップの水を一気に飲み干した。

 それから一息ついて「どれくらい気を失ってたんですか?」と久野が尋ねると、長田は「4・5分くらいだったかな? 光智さんが救急車呼ぼうとしてたとこですよ!」と答えた。長田が心配そうに「本当に大丈夫ですか? なんなら今から病院連れて行きましょうか?」と聞くと、久野は手で制しながら「本当に大丈夫です」と答えた。

 久野が「ただ気を失ってる間、長い夢を見て、その夢の中で光智さんのお父さんが……」と夢の出来事を話し始めたとき、晴夏の携帯の着信音が久野の話しを遮った。

 晴夏は携帯を見ると「母からだ、ちょっとすみません」と急いで店の外へと出てた。ガラス越しに電話する晴夏を眺めていると、晴夏は一瞬驚いた表情を見せたかと思うと、何故か分からないが涙を流したように見えた。

 晴夏は電話を終え、慌てた様子で店内に戻ってきたかと思うと「父が…… 父が意識を取り戻したって……」と言った。それから手帳やボイスレコーダーを鞄に投げ込むと「申し訳ありません! お話しは後日改めてで良いですか? とりあえず病院へ急がないと……」と言った。

 久野は「本当ですか? そういう事なら、早くお父さんの所へ行ってあげてください!」と言った。晴夏は「本当に申し訳ありません!」と一言いうと晴夏は走り去るように店を後にした。

 ちょっとした沈黙の後「このタイミングで、なんか驚きですね……」と長田が口を開いた。 何か考え事をしていたのか、久野は我に返った様子で、「…… なんか疲れたので、今日はこのへんで……」と言った。

 長田は「そうですね、まだ体調も万全じゃないみたいですし、久野さんも帰って休まれた方が……」と気を遣って言った。

 カフェオリジナルを出た所で長田が「家まで送って行きましょうか?」と声を掛けてくれたが、久野は「も~大丈夫なんで」と2人は店の前で別れた。

 久野は、カフェオリジナルで気を失って以来ずっと考えていた。あの夢は何だったのだろう…… 夢で会ったのは本当に光智さんのお父さんだったのだろうか…… 本当に光智さんのお父さんだったとしたら、あの夢がきっかけで昏睡から目覚めたのか……?  何も結論が出ないまま数日が過ぎた。

 久野は『考えていても仕方がない光智さんに連絡してみるか!』と決心して晴夏の名刺を取り出した。電話を掛けようと携帯を手に取った瞬間、携帯から暗黒の天使のテーゼの着信音が流れた。

 久野は「誰だろう?」と思いながら「もしもし?」と電話に出た。すると電話の向こうから聞き覚えのある声が「あの~ 光智と申しますが……」あまりのタイミングに驚きながら「あぁ光智さんでしたか! お父さんは容態はいかがですか? あれから気になってたんですよ」と久野は言った。

 晴夏は「あれからバタバタしてしまって…… 連絡が遅くなって申し訳ありません、今のところ父も順調で、昨日父に取材の話しをしましたところ、お2人に会ってみたいと申しまして……」と言った。

 久野は「私は別に構いませんよ」と答えた。晴夏が「それでは、父がまだ入院中なので退院しましたら……」と言うと久野は、こんな悶々とした気持ちで退院までなんて待っていられないと思い、被せ気味に「なんなら病院まで伺いましょうか?」と言った。

 晴夏は「本当ですか? それでは強律病院ご存知ですか?」と聞いた。久野は「はい、駅の近くにある病院ですよね? 何時にしますか? 自分は明日でも大丈夫ですよ!」と答えると、晴夏は「明日だと14時ごろだと助かるのですが……」と答えた。

 久野は「承知しました、明日の14時に伺います」と電話を切ると、まるでデートの約束でもしたような気分になった。
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