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夢の中へ

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 晴夏が「母は、父が悩みごとを抱えていたのかも解らず、駅まで送ってくれた時も喧嘩したまま、そっけない態度で別れてしまったことを悔やみ、それ以来塞ぎ込んだままで……」と目を潤ませた。

 話を聞いていた長田が「大変ですね……」と言うと、久野は「お父さんが意識を取り戻すと良いですね」と励ましの言葉をかけた。

 晴夏が「でも2人に会えて父の事に少し希望が持てました、お2人は父のこと、ご存知ないですか? 光智英昭(みつともひであき)といいます、聞き覚えないですか?」と聞いた。

 長田は「知り合いに、そんな名前いたかなぁ~ 久野さんは?」と久野に話しを振るが、「私もその名前に聞き覚えは……」と久野は言葉を詰まらせた。

 「そうですかぁ……」諦めつかない様子の晴夏は、鞄から手帳を取り出すと「この右に写っているのが父です」と挟んであった写真を差し出した。

 長田は写真を受け取り確認したが「やっぱり見覚えないかなぁ~」と久野に写真を渡す。 久野が長田から写真を受け取りのぞき込んだ瞬間、辺りが暗闇に包まれた。久野は、長田の声が少しづつ遠ざかって行くのを感じた。

 気付くと久野は竹藪の中に立っていた。何処かの山に迷い込んでしまったようだ。時折、笹が風に揺られカサカサカサと音をたてる。そんな中、耳を澄ますと風に乗って微かに鈴の音が聞こえる。

 とりあえず久野は音のする方へ歩いて行くと、私有地につき無断で立入り禁止! と書いた、木で出来た立て看板を見つける。久野は『無断で筍を掘りにくる人がいるのかなぁ~?』等と考えながら、その先の鈴の音が鳴る方へと歩いて行った。

 鈴の音に近づくに連れ、お経を唱えるような声も聞こえてきた。声の主を探すのだが、辺りに人の気配は感じられない。「おかしいなぁ~ 確かにこの辺りから声がするんだけど……」と久野が辺りを見回しながら歩いていると、何かにつまづきそうになった。

 足元を見ると竹が地面から飛び出していた。『竹を切ったあとか? 竹を使って何か作っているんだったら近くに誰か人がいるかもしれない』と久野は思った。

 久野は辺りを見回しながら、ふと気付く『この竹から声が聞こえくる様な……』

 まさかと思いながら竹に耳をあてると、確かにそこから人の声が聞こえる。『間違いない!』よく見ると竹を切ったあとではなく、竹筒のように見える。

 久野は竹筒に口をあて「誰かいますかぁ~」と声をかけてみるが返事はなく、お経を唱えるような声だけが聞こえる。『誰かこのしたに居ることは間違いない!』と確信した久野は竹筒思われる物の回りの土を手で掘り始めた。

 だが、いくら掘っても手では埒が明かない。久野は『そういえば!』と来る途中で見かけた木の看板のことを思い出し、来た道をもどった。木の看板を無理やり引き抜くと、それを使い再び竹筒と思われる物の回りを掘り始めた。

 しばらく掘り進めると、木の看板にガチッと硬い物に当たる感じがした。手で土をかき分けると、そこには大きな石があった。その隙間に竹筒と思われる物がつながっているように見える。そこまで掘り進めると更に声が鮮明に聞こえるようになった。

 久野は『この石を動かすのは1人じゃ無理だなぁ~』と思い誰かに手伝って欲しいのだが、辺りには人っ子1人いない。そもそも誰かいるなら、こんな苦労して穴を掘る必要もない。『とりあえず石を除けて掘るしかないか……』とあきらめて石に沿って横へ掘っていくと、突然石が途切れた。

 その場所から更に下へ掘り進むと、掘った右側の土がボロッと崩れ、石の下に空間が見え、確実にお経を唱える声が聞き取れるようになった。

 のぞき込むが、中は真っ暗で様子が解らない。久野がとりあえず「誰かいますか?」と声を掛けてみると、中から「誰だ!」と返事があった。

 久野は「久野と申しますが、どうやらこの竹藪に迷い込んでしまったみたいで……」と簡単に自己紹介した。久野は「こんな所で何を……? とにかく今助けるので!」と穴を広げると中に光りが差し込み、ぼんやりだが人の姿が浮かび上がった。

 久野が「さぁこちらへ」と穴の中に手を伸ばすが「余計なことをするな!」と穴の中にいる男性に差し出した手を弾かれた。「何を言ってるんですか、とにかくここを出ましょう!」と穴を広げようとする久野の腕を掴み「即身仏として、ここを離れる訳にはいかないんだ!」と穴の中にいる男性は再び久野の手を拒んだ。

 久野は『即身仏って…… 確かテレビの刑事ドラマで見た記憶があるような……』と思い出していた。

 久野の腕を掴むため、穴に近づいてくれたお陰で声の主の姿が見えた。『この顔、何処か見覚えがあるような……』と久野が思いを巡らせてハッと気付き「光智さんですよね?」と言った瞬間、久野の腕を掴む手に更に力が入った。

 「痛っ!」久野が声をあげると穴の中にいる男性は手の力を緩め、「いったい何者なんだ……? 何故私の名前を……?」と久野の顔をまじまじと見た。

 『そういえば、さっきまでカフェオリジナルで長田さんと光智さんの3人で話していたはずが……』と久野は思い出した。『そうだ、長田さんから晴夏さんの家族3人が写った写真を受け取って……』と久野は思い出すが、それからの記憶が全くない。

 久野は「とにかく怪しい者じゃありません、娘さんとは最近知り合いまして…… とりあえず手を離してもらえると……」と言った。

 光智は「あぁ、すまない……」と手を離し「それで、妻と娘は元気でやってますか……?」と心配そうに聞いた。

 久野は、カフェオリジナルで晴夏から聞いたガス漏れ事故のこと、今でも光智は意識不明で入院していること、その事故から奥さんが塞ぎ込んだままだということを話した。光智は黙って聞いていたが、話し終わるころには「妻にはすまない事をしていまった……」と言って泣いた。

 光智が「そうか俺は死ねなかったなのか……」と言うと、久野は「やはり自殺だったんですね、何でまた自殺なんて……」と聞いた。光智は「君は知らない方が良い……」と答えた。久野が「とりあえず、話はそこを出てからにしましょう!」と手を差し出すと、光智は黙って久野の手を掴んだ。

 久野が掴んだその手を思い切り引き寄せると、青白い光に包まれた。「おも…… い…… だ…… せ……」遠くの方で、聞き覚えのある声がした。

 「思い出せ?」薄れゆく意識の中で、久野は「あぁ何か大切な事を忘れてる様な……」と考えていた。
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