【完結】Imagine alive『新居武はヒーローになって異世界魔人との絆で７つの大罪から世界を救う』

怠惰

　異魔人が連行されて一週間が過ぎようとしていた。武はここ一週間、日課であったパトロールもしないで「異魔人はどうなったんだろう……」とそればかりを考えていた。

　武は河原に座り「異魔人にDVDあげたけど、見せて貰えるのかな？　重い罰じゃないと良いけど……」等と考えていた。すると橋の下から男女が揉める様な声がして来た。声のする方へ視線をやると、もう何日も風呂に入ってないといった感じの男女がいい争っていた。

　女は40代半ば位で髪はごわごわで、汚れた服を何枚も着込んでいた。男の方は40前後といった感じだろうか、やはり服を着込み汚れているのか日に焼けているのか見分けは付かないが色黒に見えた。

　女の名は佐藤美保（さとうみほ）といい、男の名は斉藤和也（さいとうかずや）といった。２人の出会いは和也が20歳のころ川崎の銀龍街で美保に「キャバクラ興味ない？　お姉さんだったら綺麗だから直ぐに月100万くらい稼げるよ！」と声を掛けたのが始まりだった。

　美保がキャバクラで働く様になると、閉店後に車で自宅まで送ってくれる和也と親しい関係になって行った。２人は同棲する様になり7年が過ぎたころ美保はキャバクラでも御局様（おつぼねさま）扱いされる様になった事もあり、今の生活が何時まで続くのか不安を感じ始めていた。そんな時だった、美保が妊娠し和也は美保に「結婚しよう！」とプロポーズをした。

　美保は喜んだが、和也に「でも、和君が定職に就かないと将来が不安だよ……」と言った。和也は「分かった！　子供に自慢出来る仕事じゃないし、ちゃんとした仕事探すよ！」と言った。美保の妊娠を機に２人は水商売から足を洗った。

　子供も生まれ新たな生活をスタートした２人だったが、和也はどんな仕事に就いても長続きしなかった。次第に和也は就職活動もしないで、パチンコ屋通いをする様になって行った。貯金がある間は良かったが、贅沢な生活から抜け出せない２人の貯金は直ぐに底をついた。

　やがて２人は美保の両親に子供を預け路上生活を送る様になった。妊娠に出産、就職活動に追われた２人は落ち着いたら結婚しようと話していたが、それから10年を過ぎてもその約束は果たされぬままだった。最初のうちは和也と一緒に居られるだけで幸せだった美保だったが、路上生活になり余計に就職先も決まらなくなり自暴自棄に陥った和也は、口では「定職に就かないと！」と言いつつ何も行動を起こさない和也に対し美保の怒りが爆発した。

　美保は「何時になったら結婚出来るの？　何時になったら普通の生活に戻れるのよ！？」と言った。和也が「そのうち俺が定職に就いたら……」と言うと、美保は「そのうちそのうちって言って、就職活動なんて全然してないじゃない！」と言った。和也が「ちゃんと仕事探すから……」と言うと、美保は「何時も同じ事言って就職活動した試しがないじゃない！　だいたいこんな汚い格好して面接なんて……」と言って泣きだした。

　そんな喧嘩の最中に武は居合わせてしまったのだった。和也が「何とかするから！」と言うと、美保は「何時もそんな事言って！　もう貴方とは一緒に居られない……　さよなら！」と言って美保はその場を走り去ってしまった。

　武は心の中で「追いかけないと！」と思ったが、和也は頭を抱えてその場に蹲（うずくま）り「俺にどうしろって言うんだよ……」と呟いた。和也蹲ったまま頭を掻き毟（むし）っていると、和也の体はモコモコと膨らみ始め、やがて熊の様な姿へと変化した。

　武は驚き「もしかしてこいつが異魔人の言っていた残りの悪意なのか？」と思った。思わず声をあげてしまった武に熊の化け物が気付き目が合った瞬間、化け物は「何見てんだ！」と言って物凄い勢いで武の方へと突進して来た。武はその場から逃げながら「こんな時、異魔人がいてくれたら……　aliveに変身出来たら……」と思った。

　武が必死に逃げていると、上空から武を目掛け何かが落ちて来た。その何か柔らかい物は武の顔に直撃し、そのまま顔にへばり付いた。武はタオルか何かかと思い顔から引き剥がすと、それは見覚えのある縫いぐるみだった。武が「これは異魔人が……」と言うと、縫いぐるみが「よ！　悪意が出たみたいだな！」と言った。武は驚き縫いぐるみを落としそうになりながら「何で異魔人がここに？　ジャスティスから逃げて来たの？」と聞いた。異魔人は「詳しい話しは後で話す、兎に角今はaliveの事を考えろ！」と言った。

　武が頭にaliveを思い描くと、また何処からともなくユニコーンが現れた。武はユニコーンの角から放たれた光に包まれると、次の瞬間aliveに変身していた。そこからアクションヒーローさながら化け物との格闘を繰り広げ、化け物が怯んだ瞬間、頭の中で必殺技を頭に思い描いた。すると次の瞬間左手には弓が、そして右手には矢が出現した。武は迷わず弓を引き「wrath of heaven（ラス オブヘブン）」と叫びながら矢を放った。放たれた矢が化け物を貫くと化け物は光りに包まれ、次の瞬間細かい光りの泡が宙を舞い、その光の中から和也の姿が現れた。