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後編
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◇2・友人の考察◇
光弥は私の中学時代からの友人で、推理小説の犯人をすぐに当ててしまうことが悩みと言っていた。
ひょっとしたら、今回もこの謎の答えを見つけてくれるかもしれない。
そう思い、私は間取り図を送信した。
「スゥー……んー?」
光弥は間取り図に苦戦しているらしい。
「なぁ、この穴本当に訳が分からないんだが」
「そ、そうですか……」
まいったな。私は光弥以上に賢い人間を知らないんだが……
私はひとまず、ここまでの考えを彼に伝えた。
「模倣、か」
「ただ、その仮説には違和感があるんですよね」
「確かにな」
光弥はしばらく唸った。
「にしても、どうしてこの穴が抜け道じゃないかもしれない、なんてこと思ったんだ?」
「先入観にとらわれてる気がしたから、でしょうか」
「ん?」
電話口から疑問の声が聞こえる。
「どうしました?」
彼はしばらく考え、言葉を放った。
「確かに、俺も先入観にとらわれていたのかもしれない」
「え?」
私は少し驚いた。すると、間髪入れずに彼は言葉を続ける。
「今から言う事は結構適当な考えだから、ガバがあったらすまん」
◇3・真実◇
「悪魔のコスプレって、できると思うか?」
「……何の話です?」
なぜそんな質問をするのか、私にはわからなかった。
「とりあえず答えてくれ」
「……できると思いますよ、やる意味があるかはわからないけど」
すると、彼は微笑んだ。
「その抜け道は、居住スペースなのかもしれない」
「へ?」
私はつい声を出してしまう。
「まぁ聞いてくれ」
光弥は話を続けた。
「まず悪魔のコスプレをした人間がダンジョンに忍び込み、悪魔っぽい行動をする」
「当然、いずれ悪魔はコスプレに気付き、彼を攻撃する」
「でも、彼は悪魔に追い出された後も懲りずにダンジョンに忍び込んで悪魔のふりをし続ける」
「悪魔は知能がないのがほとんどだからな」
「何度も何度も忍び込む内に悪魔には刷り込まれる」
「『彼は人間ではなく、悪魔』だとね」
彼の言葉を咀嚼しながら、私は彼に質問する。
「だとしても、そんなことをするメリットは何です?」
「今年の冬は異常気象で、とてつもない寒さ。外に長居はできない」
「でも、外に長居、どころかそこで生活しなきゃいけない人たちもいる。誰のことかわかるか?」
――――まさか。
「ホームレス?」
彼は答える。
「そう。ダンジョンの中はまだ暖かいし、悪魔を狩ればお金も手に入る」
「ホームレスにとって、理想的な環境なんです」
「その辺に落ちてるビニール袋や無料のティッシュでコスプレを作る。難しいですが、できないことじゃない」
「だって、悪魔はあまり知能がないんですから、雑なコスプレでもバレないんです」
彼は息を吸いつつ、話を続ける。
「そして、自分は悪魔だと思わせることに成功したホームレスはおもむろに壁を殴り始める」
「悪魔の『他の悪魔の行動を模倣する』性格によって、本物の悪魔も壁を殴り始める」
「そして――――いつか、それなりの居住スペースが出来上がる」
そう考えると、いくつか納得がいくところがある。
最初に気づいた、間取り図のデコボコ。
あれは悪魔が壁を殴ったことによって出来たのか?
「あ、ちょっと用事があるから電話切るね」
そう言うと、光弥の声は聞こえなくなった。
居住スペース。確かにそう考えることもできる。
――――夜桜さんに電話しよう。
そう思い、私はスマホの電源を入れる。
その瞬間、軽快な音楽が聞こえた。
――――このスマホの着信音だった。
「はい、もしもし?」
「あ、もしもし!夜桜です!」
電話しようとした相手が、電話をかけてきた。
どういうことだ?
「どうしました?夜桜さん」
電話先から、焦った声が聞こえた。
「どうしても気になったんで、ダンジョンに侵入して抜け道を覗いてみたんです」
「そしたらその中に、死体があって」
――――え?
◇4・最新のシステム◇
「悪魔にやられたのかは分かりませんが、とにかく死体を調べてみます」
「もしかしたら、この抜け道は悪魔の罠だったのかも……」
――――わけがわからない。
なんで死体が見つかるんだ?
そこは居住スペースのはずだ。
悪魔にやられたのか?いや、悪魔が攻撃するわけがない。
だって、悪魔はその人間を悪魔だと思い込んでいるんだから。
その瞬間、悪い予感が背筋を伝った。
「え、え?」
わけがわからない。
なんでこんな予感がするんだ?
その瞬間、私の脳裏にある記憶がよみがえった。
「あの!」
私は彼に質問する。
「なんですか?」
「この間取り図って、いつ作ったんです?」
しばらくの静寂の後、彼は答えた。
「今日の朝、だったと思います」
放射線。それはレントゲンや発電にも使われるもの。
一見すると便利だが、使い方を誤ると死人が出る。
――――強力な放射線を利用したシステムによって、ダンジョンに入らずとも間取り図を作ることが可能になったらしい。
彼は、放射線の使い方を間違えたのかもしれない。
「もう切りますよ?」
「あ、はい!」
彼にこの事実を伝えるべきか迷う暇もなく、電話を切られた。
光弥は私の中学時代からの友人で、推理小説の犯人をすぐに当ててしまうことが悩みと言っていた。
ひょっとしたら、今回もこの謎の答えを見つけてくれるかもしれない。
そう思い、私は間取り図を送信した。
「スゥー……んー?」
光弥は間取り図に苦戦しているらしい。
「なぁ、この穴本当に訳が分からないんだが」
「そ、そうですか……」
まいったな。私は光弥以上に賢い人間を知らないんだが……
私はひとまず、ここまでの考えを彼に伝えた。
「模倣、か」
「ただ、その仮説には違和感があるんですよね」
「確かにな」
光弥はしばらく唸った。
「にしても、どうしてこの穴が抜け道じゃないかもしれない、なんてこと思ったんだ?」
「先入観にとらわれてる気がしたから、でしょうか」
「ん?」
電話口から疑問の声が聞こえる。
「どうしました?」
彼はしばらく考え、言葉を放った。
「確かに、俺も先入観にとらわれていたのかもしれない」
「え?」
私は少し驚いた。すると、間髪入れずに彼は言葉を続ける。
「今から言う事は結構適当な考えだから、ガバがあったらすまん」
◇3・真実◇
「悪魔のコスプレって、できると思うか?」
「……何の話です?」
なぜそんな質問をするのか、私にはわからなかった。
「とりあえず答えてくれ」
「……できると思いますよ、やる意味があるかはわからないけど」
すると、彼は微笑んだ。
「その抜け道は、居住スペースなのかもしれない」
「へ?」
私はつい声を出してしまう。
「まぁ聞いてくれ」
光弥は話を続けた。
「まず悪魔のコスプレをした人間がダンジョンに忍び込み、悪魔っぽい行動をする」
「当然、いずれ悪魔はコスプレに気付き、彼を攻撃する」
「でも、彼は悪魔に追い出された後も懲りずにダンジョンに忍び込んで悪魔のふりをし続ける」
「悪魔は知能がないのがほとんどだからな」
「何度も何度も忍び込む内に悪魔には刷り込まれる」
「『彼は人間ではなく、悪魔』だとね」
彼の言葉を咀嚼しながら、私は彼に質問する。
「だとしても、そんなことをするメリットは何です?」
「今年の冬は異常気象で、とてつもない寒さ。外に長居はできない」
「でも、外に長居、どころかそこで生活しなきゃいけない人たちもいる。誰のことかわかるか?」
――――まさか。
「ホームレス?」
彼は答える。
「そう。ダンジョンの中はまだ暖かいし、悪魔を狩ればお金も手に入る」
「ホームレスにとって、理想的な環境なんです」
「その辺に落ちてるビニール袋や無料のティッシュでコスプレを作る。難しいですが、できないことじゃない」
「だって、悪魔はあまり知能がないんですから、雑なコスプレでもバレないんです」
彼は息を吸いつつ、話を続ける。
「そして、自分は悪魔だと思わせることに成功したホームレスはおもむろに壁を殴り始める」
「悪魔の『他の悪魔の行動を模倣する』性格によって、本物の悪魔も壁を殴り始める」
「そして――――いつか、それなりの居住スペースが出来上がる」
そう考えると、いくつか納得がいくところがある。
最初に気づいた、間取り図のデコボコ。
あれは悪魔が壁を殴ったことによって出来たのか?
「あ、ちょっと用事があるから電話切るね」
そう言うと、光弥の声は聞こえなくなった。
居住スペース。確かにそう考えることもできる。
――――夜桜さんに電話しよう。
そう思い、私はスマホの電源を入れる。
その瞬間、軽快な音楽が聞こえた。
――――このスマホの着信音だった。
「はい、もしもし?」
「あ、もしもし!夜桜です!」
電話しようとした相手が、電話をかけてきた。
どういうことだ?
「どうしました?夜桜さん」
電話先から、焦った声が聞こえた。
「どうしても気になったんで、ダンジョンに侵入して抜け道を覗いてみたんです」
「そしたらその中に、死体があって」
――――え?
◇4・最新のシステム◇
「悪魔にやられたのかは分かりませんが、とにかく死体を調べてみます」
「もしかしたら、この抜け道は悪魔の罠だったのかも……」
――――わけがわからない。
なんで死体が見つかるんだ?
そこは居住スペースのはずだ。
悪魔にやられたのか?いや、悪魔が攻撃するわけがない。
だって、悪魔はその人間を悪魔だと思い込んでいるんだから。
その瞬間、悪い予感が背筋を伝った。
「え、え?」
わけがわからない。
なんでこんな予感がするんだ?
その瞬間、私の脳裏にある記憶がよみがえった。
「あの!」
私は彼に質問する。
「なんですか?」
「この間取り図って、いつ作ったんです?」
しばらくの静寂の後、彼は答えた。
「今日の朝、だったと思います」
放射線。それはレントゲンや発電にも使われるもの。
一見すると便利だが、使い方を誤ると死人が出る。
――――強力な放射線を利用したシステムによって、ダンジョンに入らずとも間取り図を作ることが可能になったらしい。
彼は、放射線の使い方を間違えたのかもしれない。
「もう切りますよ?」
「あ、はい!」
彼にこの事実を伝えるべきか迷う暇もなく、電話を切られた。
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