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Season1 探偵・暗狩 四折
暗狩翔太最初の事件・逃げ切って1
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◇暗狩 翔太
「かけられた……液体?」
メールソフトを開いたはいいが、どうすればいいかはわからない。
そのメールの内容は、随分と奇妙な内容だった。
「私が不審者にかけられた液体の正体を教えて下さい」
「私は23歳の男です。小学生の頃、私は不審者に誘拐されかけました」
「なんとか逃げ切りはしたのですが、逃げる際に謎の液体をかけられました」
「その経験が特にトラウマになることもなく、私はここまで生きてきました」
「しかし、今でも稀に気になるのです。あの液体はなんだったのか」
「私の名前は呉崎 唯助、集合場所、身分証明書は添付しております」
僕はひとまず文を読み終えた。
謎の液体。その正体が気にならないわけがない。
その液体は……まさか、何かの体液か?
いや、だとしたら誘拐完了後にかけて『嗜む』のが自然だろう。
変態の思考もそれくらいならエミュレートできるが……それ以降は無理だ。
液体の正体はわからない。
「……どういうことだろ」
まぁ、この依頼を受けられるのは三日後だ。
今は姉が入院してて、依頼を受けられるわけがない。
僕はパソコンをパタンと閉じた。
それと同時に、僕は自分の気持ちに……気づいてしまった。
「いやいやいや……無理だって」
一瞬だけ、一人だけでこの依頼を受けようかと血迷った。
僕も姉の付き添いをして、多少は考える力が身に着いた、かもしれない。
もちろん、自分一人で依頼を受けるなんて無理だ。
この人は『暗狩 四折』に依頼をしているんだ。
僕はお呼びじゃない。
「……姉ちゃんのところ行こ」
それでも、僕は正体不明の感情に包まれていた。
もしかしたら……本当に、姉色に染まってしまったのかもしれない。
◇◇◇
「いいじゃん!一人でやってみなよ」
「はぁっ!?」
姉は破ったたくさんの紙と共に、病室に佇んでいた。
「……というかその紙、なんで破ったの?」
「退屈だったから。この病院一つも謎がないのよ」
もうこの人だめだ。
「まぁ話戻すけど……いいの?姉ちゃん」
「いいのって、どうしてよ?」
「依頼人は姉ちゃんに依頼してるんだよ?」
そう言うと、姉は微笑んだ。
「別にいいよ。いざとなったら私も手助けするし」
「……えぇ?」
姉は財布を取り出すと、一枚お札を取った。
「私は普段1000円くらいで解決するから……翔太には5000円あげちゃう」
「えぇ?」
この数分間、僕は困惑しっぱなしだった。
姉は一人でやってみろと言うし、お金は出すし。
「余ったらゲームにでも使っていいから!」
「……う、うん」
僕は少し手を震わせて、その札を受け取った。
「こ、これっきりだからね!代理は!」
「オッケー!」
僕は逃げるように病室から出た。
姉の表情は見えなかったが、多分またにやけているんだろう。
◇◇◇
「では、その時の状況をお願いします」
結局、僕は依頼人と一人で会うことになってしまった。
道路の端には山と獣道があり、誘拐にはピッタリそうな場所だ。
「まず、俺が肩を掴まれたのがこの場所です」
「……はい」
依頼人は地面を指さした。
「そして、おおよそこのあたりまで強引に連れていかれて」
20メートルほど歩き、依頼人は止まった。
「それで、ここの茂みに座らせられて」
「……その後はどうなったんです?唯助さん」
「俺は焦って暴れ回りました。それで、アイツは手を放しました」
アイツ、というのは誘拐しようとした不審者のことだろう。
僕は依頼人に近づき、話の続きを待った。
「それで、液体はいつかけられたんです?」
「その直後、逃げようとした時です」
依頼人はまたしても10メートルほど歩いた。
そして、依頼人は空を指さした。
「ここでかけられました。とにかくたくさん」
「たくさん?」
僕は疑問を持った。
たくさん……十数年経っても覚えてるほどの量だったのか。
「えぇ。たくさん」
「……それで、その後どうなったんです?」
「追われましたけど……しばらくすると、なぜか追われませんでした」
追われなかった……諦めたのか。
「諦められた理由はわかりますか?」
「いや、ちょっとわからないですね」
手がかりが少ないな。
僕は困惑しながら、依頼人を見つめた。
依頼人は視線に気づかず、自分が誘拐されかけた道を見つめていた。
◇◇◇
「……送っていきましょうか?」
「あぁ。タクシー捕まえるので大丈夫です」
依頼人は意外そうな顔をした。
まぁ小学生が一人タクシーで移動なんて、ちょっと変ではあるだろう。
「あぁ……じゃあ翔太さん。また何かあれば」
「はい。何かあれば」
僕は一人残されながら、姉からのメッセージを思い出していた。
二人きりで密室に籠ってはいけないとか、交番の箇所は把握しとけとか。
おそらく、姉が培った『探偵』としてのテクニックだろう。
「……あの人も意外と考えてんだな」
僕は姉の言葉を思い出した。
カラオケでの『この楽しさをリスク低めで味わってもらいたい』という言葉を。
「かけられた……液体?」
メールソフトを開いたはいいが、どうすればいいかはわからない。
そのメールの内容は、随分と奇妙な内容だった。
「私が不審者にかけられた液体の正体を教えて下さい」
「私は23歳の男です。小学生の頃、私は不審者に誘拐されかけました」
「なんとか逃げ切りはしたのですが、逃げる際に謎の液体をかけられました」
「その経験が特にトラウマになることもなく、私はここまで生きてきました」
「しかし、今でも稀に気になるのです。あの液体はなんだったのか」
「私の名前は呉崎 唯助、集合場所、身分証明書は添付しております」
僕はひとまず文を読み終えた。
謎の液体。その正体が気にならないわけがない。
その液体は……まさか、何かの体液か?
いや、だとしたら誘拐完了後にかけて『嗜む』のが自然だろう。
変態の思考もそれくらいならエミュレートできるが……それ以降は無理だ。
液体の正体はわからない。
「……どういうことだろ」
まぁ、この依頼を受けられるのは三日後だ。
今は姉が入院してて、依頼を受けられるわけがない。
僕はパソコンをパタンと閉じた。
それと同時に、僕は自分の気持ちに……気づいてしまった。
「いやいやいや……無理だって」
一瞬だけ、一人だけでこの依頼を受けようかと血迷った。
僕も姉の付き添いをして、多少は考える力が身に着いた、かもしれない。
もちろん、自分一人で依頼を受けるなんて無理だ。
この人は『暗狩 四折』に依頼をしているんだ。
僕はお呼びじゃない。
「……姉ちゃんのところ行こ」
それでも、僕は正体不明の感情に包まれていた。
もしかしたら……本当に、姉色に染まってしまったのかもしれない。
◇◇◇
「いいじゃん!一人でやってみなよ」
「はぁっ!?」
姉は破ったたくさんの紙と共に、病室に佇んでいた。
「……というかその紙、なんで破ったの?」
「退屈だったから。この病院一つも謎がないのよ」
もうこの人だめだ。
「まぁ話戻すけど……いいの?姉ちゃん」
「いいのって、どうしてよ?」
「依頼人は姉ちゃんに依頼してるんだよ?」
そう言うと、姉は微笑んだ。
「別にいいよ。いざとなったら私も手助けするし」
「……えぇ?」
姉は財布を取り出すと、一枚お札を取った。
「私は普段1000円くらいで解決するから……翔太には5000円あげちゃう」
「えぇ?」
この数分間、僕は困惑しっぱなしだった。
姉は一人でやってみろと言うし、お金は出すし。
「余ったらゲームにでも使っていいから!」
「……う、うん」
僕は少し手を震わせて、その札を受け取った。
「こ、これっきりだからね!代理は!」
「オッケー!」
僕は逃げるように病室から出た。
姉の表情は見えなかったが、多分またにやけているんだろう。
◇◇◇
「では、その時の状況をお願いします」
結局、僕は依頼人と一人で会うことになってしまった。
道路の端には山と獣道があり、誘拐にはピッタリそうな場所だ。
「まず、俺が肩を掴まれたのがこの場所です」
「……はい」
依頼人は地面を指さした。
「そして、おおよそこのあたりまで強引に連れていかれて」
20メートルほど歩き、依頼人は止まった。
「それで、ここの茂みに座らせられて」
「……その後はどうなったんです?唯助さん」
「俺は焦って暴れ回りました。それで、アイツは手を放しました」
アイツ、というのは誘拐しようとした不審者のことだろう。
僕は依頼人に近づき、話の続きを待った。
「それで、液体はいつかけられたんです?」
「その直後、逃げようとした時です」
依頼人はまたしても10メートルほど歩いた。
そして、依頼人は空を指さした。
「ここでかけられました。とにかくたくさん」
「たくさん?」
僕は疑問を持った。
たくさん……十数年経っても覚えてるほどの量だったのか。
「えぇ。たくさん」
「……それで、その後どうなったんです?」
「追われましたけど……しばらくすると、なぜか追われませんでした」
追われなかった……諦めたのか。
「諦められた理由はわかりますか?」
「いや、ちょっとわからないですね」
手がかりが少ないな。
僕は困惑しながら、依頼人を見つめた。
依頼人は視線に気づかず、自分が誘拐されかけた道を見つめていた。
◇◇◇
「……送っていきましょうか?」
「あぁ。タクシー捕まえるので大丈夫です」
依頼人は意外そうな顔をした。
まぁ小学生が一人タクシーで移動なんて、ちょっと変ではあるだろう。
「あぁ……じゃあ翔太さん。また何かあれば」
「はい。何かあれば」
僕は一人残されながら、姉からのメッセージを思い出していた。
二人きりで密室に籠ってはいけないとか、交番の箇所は把握しとけとか。
おそらく、姉が培った『探偵』としてのテクニックだろう。
「……あの人も意外と考えてんだな」
僕は姉の言葉を思い出した。
カラオケでの『この楽しさをリスク低めで味わってもらいたい』という言葉を。
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