16 / 21
Season1 探偵・暗狩 四折
弾け飛んで1
しおりを挟む
◇暗狩 四折
「翔太!依頼よ!」
私は窓から翔太の部屋に侵入し、彼の体を揺さぶった。
「……姉ちゃん。今六時だよ!?」
「あ、ごめん」
まだ薄暗い空の下で、翔太は体を起こした。
まだポヤポヤした表情が少しかわいらしい。
しかし、その目には確かに憎悪が籠っていた。
「……ごめんって」
「で、その依頼ってのは何?」
私は翔太から手を離した。
ひとまず、この子に情報を伝えよう。
「爆弾の作り方を調べてほしいらしいの」
「爆弾っ?!」
翔太は完全に目覚めたようだった。
「いい眠気覚ましになった?」
「うん……というか姉ちゃん、早く続きを」
どうやら、いい感じに食いついてくれたらしい。
「事件はある町の商店街で起こったの」
「依頼人が朝散歩してると、通りから大きな音が聞こえてね」
「様子を見たら……ゴミ箱はへこんで、張り紙は破れていた」
「爆発が起こったの。依頼人も危なかったみたいよ」
そこまで聞くと、翔太は一つ質問した。
「あの、爆発事件なら警察に言えばいいんじゃ?」
そりゃそうだ。
どこの誰かもわからない物好きに推理を依頼するなんて、普通はしないだろう。
だが、今回の依頼人は普通じゃない。
「当日中に依頼人の知り合いが、商店街の偉い人に謝ったみたいで」
「……じゃあ解決でいいんじゃ?」
私はそれとなくにやけた。
そのまま、私は話を続ける。
「その知り合いは、どうやって爆弾を作ったのかは明らかにしなかったの」
「……それを推理する、ってことね」
私は頷いた。察しがよくて助かる。
「ということで、私は至急行くから」
「オッケー」
翔太はゆっくりと立ち上がった。
私はそれと同じタイミングで部屋を出て、外を出る準備を整える。
腕時計、白い半袖、青い短パン。
よし。完璧だ。
◇暗狩 翔太
「で、事件の場所は?」
僕は靴を履いて、外に出る準備を完全なものにした。
「……翔太ついて来るんだ」
「何か問題でも?」
姉の顔が変わった。
いつもの、怪しげなにやけだ。
「いや?私が手塩にかけて『育成』した成果が出たな、って」
「……姉ちゃん?」
姉の術中にはまっていることを自覚するのは、あまりにも遅すぎた。
「い、いや?そういえば今日はゲームの気分のような~」
「じゃあいいよ?私一人でも行けるし」
学校にも行かず、変人偏屈な行動をとる姉。
自分の趣味を他人に押し付けようとする姉。
そんな姉と同類になるのは、なるべく避けたかった。
「……事件の場所は?」
「……隣町よ!行きましょう!」
僕はこの姉と家族で、姉弟であることを理解してしまった。
そんな午前七時だった。
◇◇◇
「……暑くない?姉ちゃん」
「そりゃ熱いよ。夏休みだもん」
僕は買ったスポーツドリンクを飲みつつ、事件現場へ向かった。
白い壁と白い自販機、白いゴミ箱と白が多い場所だった。
「そういや、依頼人はいつ来るの?姉ちゃん」
「あぁ。今回は電話だけよ」
「……え?」
「この暑さじゃ、翔太も家から出たくなくなるでしょ?」
それでも僕らは外に出てるというのに。
なんか不公平な感じがした。
「それじゃ、姉ちゃんはどうやって調べるつもりなの?」
「そうね……まずは、適当に散歩とでも行きましょうか」
「は?」
姉はこっちを振り向くと、笑顔をした。
普段のにやけとは違う、明るい笑顔だ。
「散歩してたら、仮説のアイデアが見つかるかもしれないでしょ?」
「だからそれはドラマの中だけだって……」
相変わらず、この人と言うのはどういう生き物なんだろう。
僕は炎天下をルンルンで歩く姉を見て、何考えたらいいのかわからなくなった。
◇暗狩 四折
「で、翔太何頼む?」
「いちごソフトで」
私はおばあさんに注文を伝えた。
慣れた手つきで機械を操作する彼女を見ていたら、弟が服を引っ張った。
「暑さに勝ててないじゃん。言い出しっぺの姉ちゃんが」
「気温32度よ?勝てるわけないじゃん」
翔太と小競り合いをしている内に、ソフトクリームが届いた。
「はい。いちごソフトと抹茶ソフトね」
「ありがとうございます。ほら、翔太も!」
「……ありがとうございます」
私は翔太にソフトクリームを渡した。
その渦巻きを舐めながら、私達はまた夏空の下に出た。
「……姉ちゃん、ここからどうするの?」
「もうちょっと散歩しましょ。まだ時間はあるし」
翔太の顔が少し呆れたようなものになる。
まぁ、私はそんな事は気にしない。
「……姉ちゃん、今気づいたんだけどさ」
「何?翔太」
「あの自販機のゴミ箱、いっぱいだったね」
「え?」
私はなんとかして、ゴミ箱の映像を引っ張りだそうとした。
その映像には、確かに大量のゴミが映っていた。
「それがどうしたの?翔太」
「いや、特に何も」
あのゴミ箱は大きな道路に通じている。
ひょっとしたら、それでジュースがよく買われるのかもしれない。
「……こんな事、言う必要ないかな」
「いや?そういう小さい情報こそ大切なんだよ?翔太」
私は翔太の質問に答えながら、心に残ったしこりについて考えていた。
その大量のゴミに、なにがあるって言うんだ。
「翔太!依頼よ!」
私は窓から翔太の部屋に侵入し、彼の体を揺さぶった。
「……姉ちゃん。今六時だよ!?」
「あ、ごめん」
まだ薄暗い空の下で、翔太は体を起こした。
まだポヤポヤした表情が少しかわいらしい。
しかし、その目には確かに憎悪が籠っていた。
「……ごめんって」
「で、その依頼ってのは何?」
私は翔太から手を離した。
ひとまず、この子に情報を伝えよう。
「爆弾の作り方を調べてほしいらしいの」
「爆弾っ?!」
翔太は完全に目覚めたようだった。
「いい眠気覚ましになった?」
「うん……というか姉ちゃん、早く続きを」
どうやら、いい感じに食いついてくれたらしい。
「事件はある町の商店街で起こったの」
「依頼人が朝散歩してると、通りから大きな音が聞こえてね」
「様子を見たら……ゴミ箱はへこんで、張り紙は破れていた」
「爆発が起こったの。依頼人も危なかったみたいよ」
そこまで聞くと、翔太は一つ質問した。
「あの、爆発事件なら警察に言えばいいんじゃ?」
そりゃそうだ。
どこの誰かもわからない物好きに推理を依頼するなんて、普通はしないだろう。
だが、今回の依頼人は普通じゃない。
「当日中に依頼人の知り合いが、商店街の偉い人に謝ったみたいで」
「……じゃあ解決でいいんじゃ?」
私はそれとなくにやけた。
そのまま、私は話を続ける。
「その知り合いは、どうやって爆弾を作ったのかは明らかにしなかったの」
「……それを推理する、ってことね」
私は頷いた。察しがよくて助かる。
「ということで、私は至急行くから」
「オッケー」
翔太はゆっくりと立ち上がった。
私はそれと同じタイミングで部屋を出て、外を出る準備を整える。
腕時計、白い半袖、青い短パン。
よし。完璧だ。
◇暗狩 翔太
「で、事件の場所は?」
僕は靴を履いて、外に出る準備を完全なものにした。
「……翔太ついて来るんだ」
「何か問題でも?」
姉の顔が変わった。
いつもの、怪しげなにやけだ。
「いや?私が手塩にかけて『育成』した成果が出たな、って」
「……姉ちゃん?」
姉の術中にはまっていることを自覚するのは、あまりにも遅すぎた。
「い、いや?そういえば今日はゲームの気分のような~」
「じゃあいいよ?私一人でも行けるし」
学校にも行かず、変人偏屈な行動をとる姉。
自分の趣味を他人に押し付けようとする姉。
そんな姉と同類になるのは、なるべく避けたかった。
「……事件の場所は?」
「……隣町よ!行きましょう!」
僕はこの姉と家族で、姉弟であることを理解してしまった。
そんな午前七時だった。
◇◇◇
「……暑くない?姉ちゃん」
「そりゃ熱いよ。夏休みだもん」
僕は買ったスポーツドリンクを飲みつつ、事件現場へ向かった。
白い壁と白い自販機、白いゴミ箱と白が多い場所だった。
「そういや、依頼人はいつ来るの?姉ちゃん」
「あぁ。今回は電話だけよ」
「……え?」
「この暑さじゃ、翔太も家から出たくなくなるでしょ?」
それでも僕らは外に出てるというのに。
なんか不公平な感じがした。
「それじゃ、姉ちゃんはどうやって調べるつもりなの?」
「そうね……まずは、適当に散歩とでも行きましょうか」
「は?」
姉はこっちを振り向くと、笑顔をした。
普段のにやけとは違う、明るい笑顔だ。
「散歩してたら、仮説のアイデアが見つかるかもしれないでしょ?」
「だからそれはドラマの中だけだって……」
相変わらず、この人と言うのはどういう生き物なんだろう。
僕は炎天下をルンルンで歩く姉を見て、何考えたらいいのかわからなくなった。
◇暗狩 四折
「で、翔太何頼む?」
「いちごソフトで」
私はおばあさんに注文を伝えた。
慣れた手つきで機械を操作する彼女を見ていたら、弟が服を引っ張った。
「暑さに勝ててないじゃん。言い出しっぺの姉ちゃんが」
「気温32度よ?勝てるわけないじゃん」
翔太と小競り合いをしている内に、ソフトクリームが届いた。
「はい。いちごソフトと抹茶ソフトね」
「ありがとうございます。ほら、翔太も!」
「……ありがとうございます」
私は翔太にソフトクリームを渡した。
その渦巻きを舐めながら、私達はまた夏空の下に出た。
「……姉ちゃん、ここからどうするの?」
「もうちょっと散歩しましょ。まだ時間はあるし」
翔太の顔が少し呆れたようなものになる。
まぁ、私はそんな事は気にしない。
「……姉ちゃん、今気づいたんだけどさ」
「何?翔太」
「あの自販機のゴミ箱、いっぱいだったね」
「え?」
私はなんとかして、ゴミ箱の映像を引っ張りだそうとした。
その映像には、確かに大量のゴミが映っていた。
「それがどうしたの?翔太」
「いや、特に何も」
あのゴミ箱は大きな道路に通じている。
ひょっとしたら、それでジュースがよく買われるのかもしれない。
「……こんな事、言う必要ないかな」
「いや?そういう小さい情報こそ大切なんだよ?翔太」
私は翔太の質問に答えながら、心に残ったしこりについて考えていた。
その大量のゴミに、なにがあるって言うんだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる