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Season1 探偵・暗狩 四折
罠にかけて2
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◇暗狩 翔太
「カルビもう一個いっとく?翔太」
「いっとく」
駅の近くの焼肉屋。
そこで僕と姉は話し合っていた。
「……そういや姉ちゃん」
「何?翔太」
「姉ちゃんどうやってお金を工面してるの?」
よく考えたら、捜査には捜査費用が掛かる。
特に姉は、よくカフェに入ったり依頼料を免除したりで金欠でもおかしくないけど。
「広告収入……かな」
「広告?」
「翔太には言ってなかったけど、私Webライターなの」
そういえば、最近まであまり姉と会話していなかった。
だとしても、一言言ってくれてもよかったのに。
「姉ちゃんはその収益で稼いでるの?」
「うん。月収4万」
「えぇっ?!」
危うくひっくり返るところだった。
姉はそんな僕をクスクス笑うと、また肉を焼き始めた。
「……事件を記事にしてるの?」
「ええ。もちろん、かなり色々変えてね」
余裕そうな表情だ。
本当、この姉はまったくわけがわからない。
この姉と同じことを、よりにもよって他人の前でしてしまった自分を恥ずかしく思った。
「で、姉ちゃんは何か思いついた?」
「……いや?まだ何も」
じゃあただ肉を焼いてるだけじゃないか。
僕は隣に座る姉を、呆れ果てた目で見つめた。
しかし、その目線に姉は気づくわけがなかった。
◇暗狩 四折
「ありがとうございます」
一枚の新札を受け取り、私はバッグにしまった。
「すいませんね。裸で」
「いえいえ」
翔太は一瞬目を輝かせたが、すぐに真顔に戻った。
やっぱりこの子は常識があるな。
「あの、一つお願いがあるんですけど……」
「何ですか?」
「あの、あなたの家にカメラをしかけてもいいですか?」
唐突な提案に、依頼人は目を見開いた。
「姉ちゃん何言ってるの?」
「あ、もちろん『不良を監視する』ためですよ?だから、窓にでも置いてくれれば」
依頼人に手紙を渡した清楚そうな子は『またしてやった!』と言っていた。
つまり、その謎の手紙を日常的に作っている可能性がある。
その様子を見ることができれば、真相にグッと近づける。
「言葉足りなすぎだよ姉ちゃん……」
「ごめんって」
依頼人の方を見ると、彼は何か言いたげだった。
「あ、あの。家からも見えないことはないんですけど……」
「家じゃない場所の方が見やすいんですか?」
依頼人は首を縦に振る。
「えぇ。近くの駐車場からが、一番見えると思います」
私は服のポケットをまさぐる。
念のために二台目のスマホを持ってきていてよかった。
「仕掛けてもらえますか?」
「えぇ……四折さんがそう言うなら」
スマホが依頼人の手に渡る。
そして、私と依頼人は同時に頭を下げた。
「それでは、明日電話します」
「ありがとうございます。四折さん」
後やるべき事は、待つことだけだ。
今のままではあまりにもトリックの手がかりが少なすぎる。
ならば、大暴れする様子を見ればいい。
「……翔太、帰るよ」
「オッケー」
依頼人とは逆方向に、私達は歩き始めた。
◇暗狩 翔太
「ねぇ、姉ちゃん」
「翔太どうしたの?」
「帰るんじゃなかったの?」
カラオケボックスの一室に、ジュースが運ばれてきた。
「だって歌いたかったんだもん」
「イカれてるのかな姉ちゃん?!」
焼肉に行って、スマホを手渡して、今度はカラオケ1時間だ。
散在しすぎだろ。月収10万野郎。
「ささ、歌いましょ!翔太先行っていいよ」
「はいはい」
僕は端末を手に取り。お気に入りの曲を選ぼうとした。
その時、僕は姉がにやついていることに気が付いた。
「……何?姉ちゃん」
「いや?翔太もずいぶん私色に染まってくれたなと思って」
「私色?」
少し考え、僕はその言葉の意味を理解した。
今日の昼間のことだ。
「……依頼人の前で、考えこんじゃった事?」
「そうそれ」
「たまたまだよ姉ちゃん。ちょっと気になったから、考え込んだだけ」
姉の口角はまた上がった。
「その『ちょっと気になる』が大切なのよ」
「ん?」
怪しげに笑う姉を見ていると、心の中に疑問が広がっていく。
不思議というか、わけがわからないというか。
「姉ちゃん。なんでそんなに僕を巻き込みたいの?」
「なんで、かぁ」
僕はジュースを口にして、姉の言葉を待った。
アイドルの広告動画が流れる中、僕と姉は目線を合わせた。
「謎解きの楽しさを翔太にも知ってほしいのと……後、翔太には私がいるからね」
「姉ちゃんがいるから?どういうこと?」
姉の顔から笑みが消えた。
ジュースを飲むと、姉はまた、僕と視線を合わせた。
「……私が探偵の真似事を始めた時、周りに誰もいなかった」
「危ないことに巻き込まれたし、一度、川に落ちて死にそうにもなった」
「でも、翔太には私っていう先輩がいる」
「翔太にも、この楽しさをリスク低めで味わってもらいたいなって」
姉はまた笑顔になり、「嫌ならいいんだけどね」と付け足した。
「なんか湿っぽくなっちゃったね、翔太」
そう言って僕にマイクを手渡す姉は、少し微笑んでいた。
「……二人で歌える曲にしよっか。姉ちゃん」
「私が知ってるのでお願いよ?」
姉の言う通り、僕の心もなんとなく湿っていた。
実際、痣だらけで姉が帰ってきたことはある。
だけど、姉はそれでも謎を愛し続けている。
「本当、イカれてるね」
「……私にとっては誉め言葉よ」
「カルビもう一個いっとく?翔太」
「いっとく」
駅の近くの焼肉屋。
そこで僕と姉は話し合っていた。
「……そういや姉ちゃん」
「何?翔太」
「姉ちゃんどうやってお金を工面してるの?」
よく考えたら、捜査には捜査費用が掛かる。
特に姉は、よくカフェに入ったり依頼料を免除したりで金欠でもおかしくないけど。
「広告収入……かな」
「広告?」
「翔太には言ってなかったけど、私Webライターなの」
そういえば、最近まであまり姉と会話していなかった。
だとしても、一言言ってくれてもよかったのに。
「姉ちゃんはその収益で稼いでるの?」
「うん。月収4万」
「えぇっ?!」
危うくひっくり返るところだった。
姉はそんな僕をクスクス笑うと、また肉を焼き始めた。
「……事件を記事にしてるの?」
「ええ。もちろん、かなり色々変えてね」
余裕そうな表情だ。
本当、この姉はまったくわけがわからない。
この姉と同じことを、よりにもよって他人の前でしてしまった自分を恥ずかしく思った。
「で、姉ちゃんは何か思いついた?」
「……いや?まだ何も」
じゃあただ肉を焼いてるだけじゃないか。
僕は隣に座る姉を、呆れ果てた目で見つめた。
しかし、その目線に姉は気づくわけがなかった。
◇暗狩 四折
「ありがとうございます」
一枚の新札を受け取り、私はバッグにしまった。
「すいませんね。裸で」
「いえいえ」
翔太は一瞬目を輝かせたが、すぐに真顔に戻った。
やっぱりこの子は常識があるな。
「あの、一つお願いがあるんですけど……」
「何ですか?」
「あの、あなたの家にカメラをしかけてもいいですか?」
唐突な提案に、依頼人は目を見開いた。
「姉ちゃん何言ってるの?」
「あ、もちろん『不良を監視する』ためですよ?だから、窓にでも置いてくれれば」
依頼人に手紙を渡した清楚そうな子は『またしてやった!』と言っていた。
つまり、その謎の手紙を日常的に作っている可能性がある。
その様子を見ることができれば、真相にグッと近づける。
「言葉足りなすぎだよ姉ちゃん……」
「ごめんって」
依頼人の方を見ると、彼は何か言いたげだった。
「あ、あの。家からも見えないことはないんですけど……」
「家じゃない場所の方が見やすいんですか?」
依頼人は首を縦に振る。
「えぇ。近くの駐車場からが、一番見えると思います」
私は服のポケットをまさぐる。
念のために二台目のスマホを持ってきていてよかった。
「仕掛けてもらえますか?」
「えぇ……四折さんがそう言うなら」
スマホが依頼人の手に渡る。
そして、私と依頼人は同時に頭を下げた。
「それでは、明日電話します」
「ありがとうございます。四折さん」
後やるべき事は、待つことだけだ。
今のままではあまりにもトリックの手がかりが少なすぎる。
ならば、大暴れする様子を見ればいい。
「……翔太、帰るよ」
「オッケー」
依頼人とは逆方向に、私達は歩き始めた。
◇暗狩 翔太
「ねぇ、姉ちゃん」
「翔太どうしたの?」
「帰るんじゃなかったの?」
カラオケボックスの一室に、ジュースが運ばれてきた。
「だって歌いたかったんだもん」
「イカれてるのかな姉ちゃん?!」
焼肉に行って、スマホを手渡して、今度はカラオケ1時間だ。
散在しすぎだろ。月収10万野郎。
「ささ、歌いましょ!翔太先行っていいよ」
「はいはい」
僕は端末を手に取り。お気に入りの曲を選ぼうとした。
その時、僕は姉がにやついていることに気が付いた。
「……何?姉ちゃん」
「いや?翔太もずいぶん私色に染まってくれたなと思って」
「私色?」
少し考え、僕はその言葉の意味を理解した。
今日の昼間のことだ。
「……依頼人の前で、考えこんじゃった事?」
「そうそれ」
「たまたまだよ姉ちゃん。ちょっと気になったから、考え込んだだけ」
姉の口角はまた上がった。
「その『ちょっと気になる』が大切なのよ」
「ん?」
怪しげに笑う姉を見ていると、心の中に疑問が広がっていく。
不思議というか、わけがわからないというか。
「姉ちゃん。なんでそんなに僕を巻き込みたいの?」
「なんで、かぁ」
僕はジュースを口にして、姉の言葉を待った。
アイドルの広告動画が流れる中、僕と姉は目線を合わせた。
「謎解きの楽しさを翔太にも知ってほしいのと……後、翔太には私がいるからね」
「姉ちゃんがいるから?どういうこと?」
姉の顔から笑みが消えた。
ジュースを飲むと、姉はまた、僕と視線を合わせた。
「……私が探偵の真似事を始めた時、周りに誰もいなかった」
「危ないことに巻き込まれたし、一度、川に落ちて死にそうにもなった」
「でも、翔太には私っていう先輩がいる」
「翔太にも、この楽しさをリスク低めで味わってもらいたいなって」
姉はまた笑顔になり、「嫌ならいいんだけどね」と付け足した。
「なんか湿っぽくなっちゃったね、翔太」
そう言って僕にマイクを手渡す姉は、少し微笑んでいた。
「……二人で歌える曲にしよっか。姉ちゃん」
「私が知ってるのでお願いよ?」
姉の言う通り、僕の心もなんとなく湿っていた。
実際、痣だらけで姉が帰ってきたことはある。
だけど、姉はそれでも謎を愛し続けている。
「本当、イカれてるね」
「……私にとっては誉め言葉よ」
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