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Season1 探偵・暗狩 四折

狙い撃って1

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◇暗狩 四折

「姉ちゃん自力でカラスを追い払おうとしないで!?」
 大焦りの顔で、翔太が自室に飛びこんできた。
「いいじゃない。カラオケにもなるし」
「今朝8時よ!?騒音トラブルなるよ?!」
 私は腰に手を置き、振り返る。
「大丈夫よ。ここらの人はみんな出掛けてるし」
「姉ちゃん?何を根拠に言ってるの?」
 距離を詰める翔太に、私はあくまで冷静に言った。
「あそこは換気扇が回ってない、そこは車がない。お隣は鞄持って出ていってた」
「……よく見てるね」
「一目見たらわかったわ」
 翔太はため息しながら出ていった。
 私はもう一度息を吸い、歌い始めた。

◇暗狩 翔太

 無駄遣いされてゆく姉の美声を聞きながら、僕はもう一度ゲームを始めた。
 姉は僕を自分と同類にしたいみたいだが、そう簡単にはいけない。
 僕はゲームの世界でピッキングを始めた。これ結構リアルで面白んだよな。
「翔太!依頼よ!」
 まじかよ。
「……今回はついていかないよ?」
「えぇ?!」
 そこまで驚くことじゃないでしょ。
「ねぇ、本当について行かないの?」
「行かないよ。僕はこれをクリアしなきゃいけないんだ!」
 そう言うと、姉は静かになった。
 ようやく諦めてくれたか。
「……ポテチ食べよ」
 僕は棚にストックしてある菓子を取りに行った。
 その時だった。
「勿体ないなー、せっかくの不気味な事件なのに」
「……え?」
 姉は僕の部屋の近くに来たようだった。
「チョコレートがいつのまにか勝手に溶けたのになー!」
 まったく、そんなのでは僕は釣られないけど。
「夏だからじゃないのかな?」
「その部屋はクーラーで冷やされてるし、溶けたのは夜なのになー!」
「知らないよ。早くいってらっしゃい」
 姉の足音が遠ざかる。
 やっと諦めてくれたようだ。
「その部屋は密室で、依頼人以外誰も入ってないんだけどなー!」
「本当に、チョコを溶かす手口がわからないんだけどなー!」
「それじゃ翔太!いってきます!」
 物音が聞こえた。
 その後、ドアが開く音が聞こえた。

◇暗狩 四折

「えーと、ここでチョコが溶けてたんですね」
「そうなんです……」
 翔太は私の隣にいた。
 ちょろいな、この子。
「あの、四折さん。どうにかできますか?」
 目の前の女子高生は私に訊く。
「もちろんです!どうして溶けたのか暴いて見せましょう!」
 私は自信満々に言った。
 しかし、依頼人は少し不安そうな顔をした。
「あの、姉ちゃんは頭ヤバいけど……探偵ごっこは上手ですよ?」
 翔太、ナイスフォロー。
「わ、わかりました。しばらく家開けてるので、好きに調べて下さい」
 そう言うと、依頼人は恥ずかしそうにその場を去った。
 なんで恥ずかしそうにするのか、私には見当がつかなかった。
「……さて、翔太」
「何?姉ちゃん」
「ついて行かないって言ってたのはどうしたのかな?」
 私は思う存分にやにやしながら翔太を見つめる。
「……僕だって、少しは好奇心あるもん」
 翔太は悔しそうな声色をして答えた。
 これは育成完了近いかもな。
「さ、調べましょ」
「オッケー姉ちゃん」
 私達は依頼人の自室に向かった。
 廊下を渡り、部屋のドアを開ける。
「……きれいな部屋ね」
 物は多いが、その全てが整理整頓されている。
 部屋の理想像みたいな場所だった。
「姉ちゃんとは大違いだね」
「翔太。失礼」
 私は部屋の中に足を踏み入れた。
「……鏡、棚、机、扇風機」
 そこにあった物を、とりあえず羅列してみる。
「姉ちゃん、どこでチョコは溶けてたの?」
「えーっと、確か棚の上」
 そう言うと、翔太の視線は棚に移った。
 その棚自体に不思議なものはなかった。
「……普通の棚だね」
「本当ね」
 私は顎に手を置いて考え始めた。
 が、今の時点では情報が少なすぎる。
「どうする?姉ちゃん」
「どうするって言われても……」
 今はまだどうしようもない。
 ただ、一応仮説を作ることはできる。
「……例えば、棚の下にカイロ的なのがあったとか?」
「姉ちゃんにしては変な仮説だね」
「仕方ないじゃない。これくらいしか思いつかないのよ」
 私は棚の一番上の段を開けようとした。
 しかし、開かなかった。
「……どういうこと?」
「姉ちゃん。鍵付きだよ」
「ありゃ」
 私は棚を確認した。
 確かに鍵がついている。
「……翔太ピッキングってできる?」
「頭おかしいの?」
「翔太が言ったんじゃん。私は人間じゃないって」
「濡れ衣だよ姉ちゃん」
 まぁ、実際そこまでは言ってないが。
「というか、なんで僕がピッキングできると思ったの?」
「ピッキングのゲームやってたでしょ?」
 翔太はギクッとした。
 弟よ、姉というものをあまり舐めない方がいいぞ。
「そもそも人のプライバシーを侵害したらダメだよ?」
「『好きに調べて下さい』って言われたでしょ?」
「確かにそうだけどさぁ」
 半分怒ったような顔の翔太に、私は言葉を続ける。
「だって本当怪奇現象じゃん!チョコが自然に溶けるなんて!」
「解決しなきゃダメでしょ?翔太も気になってるんじゃない?」
 私は語気を強めて言った。
 長い沈黙の後、翔太は手を差し出した。
「……翔太、どうしたの?」
「これっきりだからね。悪事に協力するのは」
 翔太は嫌そうに、私から目をそらした。
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