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Season1 探偵・暗狩 四折

読み解いて2

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◇ 暗狩 四折

 腕時計の針は1を指していた。
 そろそろ昼食が食べたいけど……どこかにいい店はないものか。
「翔太、お昼何食べたい?」
「……特に何も」
 じゃあ私の好きなのを選ぶか。
「姫路駅前のファミレスでいい?」
「いいよ」
 ここから駅まで5分、その間になにか考えられるかな。
「そういや姉ちゃん、一つ質問なんだけど」
「……何?」
「姉ちゃんメール見た途端急に飛び出したけど、メールに何かあったの?」
 何か、と言われても困る。
 ただ依頼人が指定した場所が近くて、興味を引くものだったから以外の理由はないんだが。
「……強いて言うなら、パソコン?」
「どんなパソコンだったの?姉ちゃん」
 私はパソコンの画像を思い出していた。
 確か、横に『00』のキーがついたテンキーがあった気がする。
 『00』というキーに見覚えがなかったから、よく覚えている。
「テンキー付きの随分古いパソコンで、確か10年前の機種のはずだけど」
 翔太は聞くだけ聞くと、「ふーん」とだけ言った。
「失踪した人の私物?」
「うん。失踪した人が依頼人にもらったやつみたい」
 翔太の質問に答えながら、私は道を歩いた。

◇暗狩 翔太

「で、どうだと思う?翔太」
 落ち着いたファミレスの店内で、僕達は謎解きに励んでいた。
「どうだと思うって……これは姉ちゃんが頼まれたんじゃ」
「まぁいいじゃん!なんか考えてよ」
「そんなこと言われても……」
 一応、僕は姉の言うことに従う。
 暗号の数字『676800567004』。
 何かの型番にしては長い気がするし、語呂合わせでもなさそうだ。
 だとしたら……
「やっぱり、ポケベル?」
「……でも、私が試したらうまくいかなかったけど?」
「そうなんだよなぁ」
 僕はどうしようか考えあぐねた。
 目の前の姉は、のんきにステーキを食べていた。
「そういう姉ちゃんは?なんか考えてるの?」
「考えてもどうしようもないから、のんびり食べてる」
 この人どうしようもないな。
「ま、食べ終わったらもう一度ゆっくり考えるから」
「はいはい」
 僕はハンバーグを切り分けて、口に運んだ。
 ドリンクバーに行って戻ってきたら、姉はステーキを平らげていた。
「食べるの早いね。ちゃんと噛んだ?」
「おかんか」
 そうツッコむと、姉は顎に手を置いた。
「じゃ、考えましょうか」
「オッケー姉ちゃん」
 姉と同じように、僕も顎に手を置く。
 ポケベルでも語呂合わせでもないとしたらなんだ?
 やっぱり型番?それか二人にしか通じない何かか?
 そもそも、暗号化するならもっと複雑にしなきゃ。
 ポケベルとかだと、ヒントさえあればすぐに元に戻される。
 じゃあどうする?もっと複雑な方法で暗号化したのか?
 もしくは……まさか。
「組み合わせ」
「……組み合わせ!」
 数秒後、僕は目を見開いた。
「どうやら、翔太も同じところにたどり着いたみたいね」
「らしいね、姉ちゃん」
 カルピスソーダを飲みながら、僕は姉と目を合わせた。
「暗号は二つ以上の方法を組み合わせて作られた。でしょ、翔太?」
「そういうことだね」
 あくまで可能性の段階だが、それっぽさはある。
 第一、ポケベル以外の方法は少々現実味がないように感じる。
 それに、さっき思いついた方法以外は少々複雑すぎる気がする。
 だが……どうするんだ?
「ねぇ翔太」
「……何、姉ちゃん」
「考えてる姿、結構様になってるよ!」
 姉は涼しい笑顔で言った。
「……あっそ」
 僕は姉から目をそらしながら、この状況の突破口を探していた。

◇暗狩 四折

「タッチパネルって便利だよね、翔太」
「それな」
 もう少し推理が長引くことを悟った私は、デザートも注文することにした。
「……組み合わせとしても、何と何を組み合わせたんだろ」
 私はソファにもたれかかり、推理を続ける。
 簡単な暗号を作るとしたら、何を使う?
 まぁ、そりゃ身近にあるものを使うよな。
 わざわざ何かを買いに行った可能性もあるが……
「トリュフアイスでございます」
「ありがとうございます。姉ちゃん来たよ」
 店員はペコリと頭を下げた。
 美味しそうな黒色のそれを、私はスプーンで削る。
「どうする姉ちゃん?とりあえず家帰る?」
「それがいいかもね」
 私は伝票を確認する。
 さすがにこれ以上注文するのはまずそうだ。
「ねぇ翔太。翔太は何が暗号に使われたと思う?」
「え?」
 私はふと、翔太に訊いてみた。
 一人じゃ難しくなってきたから……ってのもある。
 まぁ、翔太の考える姿をもう一度見たかったってのが本音だが。
「ねぇ翔太」
「……何?」
 私はその瞬間、にやりと笑って見せた。
「まだまだだなー翔太も」
「え何が?」
「私くらいになると、考えてるときは何を言われても反応しないもん」
 翔太は呆れた顔になった。
「それ何の自慢にもならないよ?」
「わかってまーす」
 私はいつのまにか、トリュフアイスを食べ終わっていた。
 弟は席を立ち、こちらに目を向けた。
「じゃ、帰ろっか。姉ちゃん」
「オッケー」
 席を立ち、伝票を持つ。
 その時、翔太が声をかけた。
「姉ちゃん、やっぱり暗号に使うとしたらあのパソコンじゃないの?」
「……どういうこと?」
 翔太の声に、私は一瞬歩みを止めた。
「あれは失踪した人が依頼人にもらったやつなんでしょ?」
 私はうんうんと首を縦に振った。
「だとしたら、何か二人にとって大切な物じゃないのかな?」
「……確かにね、翔太」
 そうは言っても、パソコンで暗号を作るなんて何かおかしい。
 機械で作るような暗号を、人間が解読できるわけ……その時だった。
 私の体をぞわぞわした感覚が襲った。
「待ってて、翔太」
 私はもう一度椅子に座り、周りの世界から自分をシャットアウトする。
 パソコンを利用してどうする?パソコンを使って……違う!
 暗号を作るのに利用したのはパソコンの『中』じゃなくて『外』なんじゃないのか?
 キーボード?キーボードの順番……これも違う。
 だとしたら……そうか!
「翔太、帰るわよ!」
「え、ちょっと!?」
 私はその場から走り出していた。
 会計を済ませると大急ぎで家に帰った。
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