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勇者になりました

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 さて、状況を整理しようか、ギルドの酒場で剣を見ていたら勇者が絡んできた。

「おい!早くその剣をよこせ!」

 しかもかなりガラが悪い。

「えーと、それはこの剣をあなたが買い取るって事ですか?」

「はぁ?金なんか払うわけ無いだろ?」

 はい、論外。

「お断りします、これは従者がわたしのために作ってくれた物ですので」

 派手で俺には似合わないと思うが、使わないとは言っていない、なので馬の骨にくれてやる謂れはない。

「なにぃ!?俺は勇者だぞ!」

「勇者?盗賊の間違いでは?」

 偉そうな態度が目に余ったので少し挑発してしまった。

「お前ぇ!!」

 勇者が腰に下げていた剣に手をかけ、クロノ達の警戒が跳ね上がった時。

「勇者様!何をしているのですか!?」

 勇者の後ろから大声を上げながら近づく人影があった。

「……ちっ、うるさいのが来た」

 どうやら勇者の御目付らしい、僧侶、魔法使い、騎士だろうか?怒っているもしくは呆れている所を見るとまともな人達の様だ。

「勇者様!あなたはいったい何をしていたんですか!?」

「お前には関係ないだろ!」

「いいえ、関係あります!貴方の行いでどれだけの人が迷惑しているかまだ分からないのですか!?」

「ちっ、俺は勇者だ!魔王を倒すのが使命なんだぞ!それに協力するのは当然だろうが!」

「限度があります!」

 目の前で突然勇者と僧侶らしき少女が罵り間を初めてしまい、途方にくれる俺達。

「くそっ!いいから次に行くぞ!」

「待ちなさい!まだ、話は終わってません!」

 出ていく勇者を少女が怒鳴りながら追いかけていくの見送り、ため息を吐く魔法使いと騎士に目を向ける。

「はぁ、迷惑をかけたな、謝罪する」

「あ、いえ、実害は無かったので」

「そう言ってくれると助かる、奴は何処に行っても人に迷惑をかけるからな」

「……昨日も雑貨屋で暴れたらしい、そのせいでミリアリアは朝からぷりぷりしてる」

 それを言うならぴりぴりでは?ぷりぷりだと緊張感が無くなる。

「そういうわけで犬に噛まれたとでも思って、気にしないでくれ」

「はぁ、まぁ、分かりました」

「ああ、早く新しい勇者が来ればいいんだがな……」

 ここで聞き捨てならない台詞が聞こえた。

「え?勇者って新しい人が来るモノなんですか?」

「基本はない、これはリノの勝手な希望」

「希望くらい持たせてくれよ、じゃなきゃやってられない」

「どんなに希望を持っても今代の勇者はあいつに変わり無い」

 何だ、ただの希望か、てっきり他に転移者が居たら移り変わるモノかと思った。

「ではな、あまり待たせると勇者様がうるさいので失礼するよ」

「あ、はい、ありがとうございました」

 手をひらひらとさせてギルドを出ていく騎士と魔法使いを見送る。

「……あれが、勇者ねぇ」

「そうじゃよ、あれが今の勇者さね」

「マガリさん」

 マガリさんがギルドの奥から出てきて語り始める。

「今の勇者はとてもじゃないが勇気ある者とは言えないよ、強気に屈し、弱気に当たる、民衆からは疎まれ、魔族からは相手にする価値無しと捨て置かれるくらいさ」

 魔族に捨て置かれるってなんか逆にすごくないか?

「はぁ、それでも勇者の定めをまっとうして貰わないとならない、だから、ギルドでもサポートしているだが……」

「だが?」

「どうやらそれがあやつの増長を促したようでね、以前にも増してワガママ放題だよ、困ったものさね」

 冷ややかな目をするマガリさんに苦笑していると、隣のフェンが袖を引っ張る。

「タクト様、タクト様!」

「ん?どうした?」

「手に変なアザが出来てますが、大丈夫ですか?」

「アザ?」

 フェンに言われて手を確認すると、確かに甲の部分に変わったアザが出来ていた。

「何だこのアザ?翼見たいな形だな?何時できたんだろ?」

 消えないか何度か擦ってみたが消えないので落書きではなく、アザで間違いないんだろう。

「翼のアザだって!!」

「うわ!びっくりした」

 突然大声を出し、手を掴んでくるマガリさんに驚く。

「………まさか、そんな事が……」

「マ、マガリさん?」

 手のアザを見ながら震えるマガリさんに恐る恐る話し掛ける。

「タクトや!確か次は北に行くんだったね!?」

「え、ええそうです、北の教会に……」

「直ぐに出発しな!これは一大事だよ!」

「え?いや、まぁ、そのつもりだったので構いませんが」

 言うより早くマガリさんにギルドを追い出される俺達であった。

「……いったい何なんだ?」

「タクト様に何て仕打ちを!」

「まぁ、どうせ行く予定だったんだしいいじゃないか、出発しよう!」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 タクト達の出ていったギルドでは慌ただしくマガリの指示が飛んでいた。

「至急全ギルドに伝達をする準備をしな!」

「マ、マガリ様!何事ですか!」

「………タクトの手に浮かんだアザは翼の形をしていたよ」

「そ、それが何か?」

「あれは紛れもなく……」

 その後のマガリの言葉はギルド処か国中を震撼させるものであった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 一方タクトは馬車に揺られながら手のアザを見つめる。

「うーん、絶対何か意味が有るんだよなぁ、それもかなり重要な」

 マガリさんがあそこまで慌てるのだ、余程の事があるに違いない。

「………よし、クロノ!少し急ぎ目で頼む!」

「畏まりました」

 クロノに指示を出し急がせる。通常三日の道のりでもユニコーン馬車なら一日半で着く。

「これなら明日の夕方には着くだろう」

 と、思っていたのだが……。

「タクト様、前方に検問が開かれています」

「検問?」

 見ると、確かに検問があった、この世界に検問と言う物があるのに驚いたが、突破する必要もないので応じる事にする。

「そこの馬車ゆっくり路肩に止まれ」

 指示に従い馬車を止める。

「ここは現在通行止めだ、迂回するか解除されるまで待て」

「何かあったんですか?」

 何が有ったのか聞くと、鎧を来た騎士は疲れきった顔で答える。

「……今、勇者様御一行が北の街ベイルンヘ移動中だ、悪いことは言わない関わらない方がいい」

 また勇者か、にしても何で通行止め?疑問に思い聞いてみると驚きの話が出てきた。

「以前勇者が移動中に他の馬車が邪魔だと言って、襲われた事があってな」

「……勇者にですか?」

「そうだ、聖女様方が止めるまもなく、御者を切り捨てたらしい」

 もはや盗賊だな。

「それ以来移動する際は聖女様からの要請で道を塞ぎ、民に犠牲が出ないようにしているんだ」

 うーん、勇者にも問題が有るが国も甘やかしすぎじゃないか?取り締まれよ!

「なるほど、それなら大人しく待ちます、いつ頃解除されますか?」

「明日の昼には解除される予定だ、それくらい離れれば大丈夫だろう」

 明日の昼か、まぁ仕方ないか。

「分かりました、じゃあ今日はここで野営します」

「ああ、すまないな」

「いえいえ」

 申し訳なさそうな騎士に手を振り、野営の準備をする。思わぬ足止めを喰らったが仕方ない。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 野営にシフトし、やることもないので馬車で過ごし夜。

「さて、少し時間が出来たわけだが、クロノ馬車を走らせたとして、途中で勇者に追い付く可能性は?」

「十分にあるかと思います」

「ふむ……」

「排除しますか?」

「いや、それはまずいだろ」

 あれでも勇者なのだ、魔王を倒すために必要かもしれないので、居なくなられては困る。

「そうだな、近づいたらゆっくりに切り替えて、勇者に会わないようにしよう!」

 できることなら二度と会いたくない。

「畏まりました」

「タクト様、夕食が出来ました」

「お、ありがとう」

 メロウに呼ばれ食卓に行く。

「仰せの通りにスープを多めに作りました!」

「じゃあ先に配ってきますか」

 フェンにお願いしてスープを多めに作ってもらい、それを検問を開いている騎士に配る、ついでにいろいろ情報を得る。

「え?じゃあ皆さんは教会の人なんですか?」

「ああ、教会所属の騎士だよ」

 所謂聖騎士ってやつか。

「教会は勇者に全面的に協力するって言っちまったからな、実際聖女様もずっと勇者に付きっきりだし、本当まいっちまうぜ、あんな野郎に……」

「おいよせよ、そんな事言うなって」

「構わねぇよ、この間教皇様も嘆いてたしな」

 おう、かなり嫌われている様子。

「ん?おっと悪いなお兄さん、あんたに話すような事じゃあ無かった」

「あ、大丈夫です、今聞いた話は胸の内にしまっておきますので」

「そうかい?悪いねぇ……」

 教会も大変なんだなぁと思いながら、軽く雑談をして馬車に戻る。クロノ達も話を聞いたらしいがどれも似たり寄ったり、勇者への罵詈雑言が出てきただけだった。

「よほど傍若無人なんだな勇者って」

「理解に苦しみます、何故こうも周りを見ずに振る舞えるのか」

「うーん、自分が強いって勘違いしてるんですかね?」

「実際どうなんだ?勇者って強いのか?」

「ん、微妙」

「普通の市民よりはましですかね?」

「蟻と蛾の違いくらいはあったと思いますわ」

「ふむ、市民以上ギルドマスター以下と言った所ですかな?ケイン殿といい勝負だと思います」

 全員微妙な例えを出してきた、クロノの例えは要するに勇者は冒険者と変わらないって事だよね?魔王を冒険者が倒せるのか?

「……微妙だな」

『微妙です』

「それでも周りがちやほやするからなぁ」

「最初の頃は特に周囲が持ち上げていたようです」

 魔王を倒すために勇者を呼んだんだ、断られないためにいろいろやったらしい。

「厚待遇に増長したと」

「豪華な部屋を用意され、望んだ物は直ぐに全て持ってこられる」

「お金、食事、女、何でもだったそうですよ?」

「本当甘やかされたんだな」

「その上旅に出たら教会も国も全てを助けると約束」

「その為国民は逆らえず」

「街では好き放題しても咎める人は居ないとか!」

「ん、腐ってる」

 どっちが?勇者が?国が?あ、どっちもか。

「このままだとまずいな、これから王国を出る事も視野に入れていこうか」

『はい!』

 従者達と今後について検討しつつ夜は更けていった。


 明くる日の朝、朝食を食べていると昨日話した聖騎士さんが寄ってきた。

「待たせたな、勇者一行が順調に進んでいるので、少し早いが通行止めが解除される事になった」

「あ、そうなんですねありがとうございます」

 もう勇者に様は付いていなかった。

「ああ、だがくれぐれも注意してくれよ?いつ襲って来るか分からないからな」

 勇者がね。

「はい、気を付けます」

 聖騎士さん達にお礼を言って馬車を走らせる。

「………クロノ、昨日よりはゆっくりで頼む」

「畏まりました」

 その後は何事もなく馬車を走らせ、勇者にも遭遇せず、北の街ベイルンに着いた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 さて、ベイルンに着いて直ぐ、聖騎士さんに聞いたおすすめの宿で部屋を取り、馬車を置いて教会に言ったのだが。

「申し訳ない、今、勇者様御一行が来ているので、通すわけにはいかないのだ」

 またか!勇者め、つくづく邪魔をする。

「………仕方ない、もう日が暮れるし、明日出直そう」

「ん、めんどくさい」

 従者も全員イライラしているようだ、なるべく速く立ち去ろう。

 従者達のイライラを抑えつつ宿屋に戻り、次の日教会に行くと入れるようになっていたので、シスターに朱の鳥のミリーさんから貰った紹介状を見せた。この紹介状が後にミリーさんを大変な目に遇わせるのだが、それを俺はまだ知らなかった。

「シスターミリーからの紹介ですね、見学ですか?」

「はい、出来れば異界神様について教えてください!」

「ええ、構いませんよ、こちらへどうぞ」

 その後教会に有る異界神様についてのあれこれを見せて貰った、姿えや伝記、勇者の伝説に、伝説の魔神について……ん?この魔神の伝説見に覚えが有るような、無いような?

「以上が教会に伝わる異界神様の御話です」

「ありがとうございました、とても勉強になりました」

「最後に良ければ異界神様にお祈りしていきませか?」

「はい、ぜひ!」

 そう言って最初に入って来た聖堂に行くと、先客が居た。

「あれは……」

「聖女様です、今たまたま勇者様御一行がこの街に来ているんですよ」

 はい、知ってます、そのせいで何度も足止めされました。

「…………」

 聖女様は熱心に祈りを捧げている、しかし、何て言うか、その姿には鬼気迫る物が有り、ちょっと近寄り難い、たまに歯ぎしりも聞こえる。

「………ふぅ」

 十分くらいしてやっと終わったらしい、息を吐き額に少し浮かんでいた、汗を脱ぐっていた。

「おや?あなた方は……」

「こ、こんにちは」

 こちらに気付かれてしまったのでとりあえず挨拶しておいた。

「こんにちは、巡礼ですか?」

 おや?俺達の事は覚えていないようで、ただの見学と思われた、まぁ、ただの見学なんだけど。

「はい、見学の後お祈りをしようと思って」

「そうですか、異界神様の祝福を願います」

 さっきと違い、まさに聖女らしく優しく微笑み場所を空けてくれる、帰らないあたりまだ祈り足りないのだろう。

「じゃあ失礼して」

 両膝を着き手を組んで祈りを捧げる、異界神様ここに連れてきていただきありがとうございます。

 祈りを捧げる事数分、立ち上がり帰ろうとした時。

「よいしょっと、ん?何だ?」

 頭上からひらひらと一枚の紙が落ちてくる。それを取り見てみると。

『ごっめーん!送った勇者が余りにもクズで、聖女がうるさいから君を勇者にしちゃった、テヘペロ!』

 と、日本語で書かれていた、うん、よし、落ち着こう、勇者にしちゃった?俺が?勇者?嫌われものの?絶対嫌なんだけど? 

「どうかしましたか?」

 後ろに居た聖女様が声をかけてくる。そう言えば聖女がうるさいからって書いてあったな。

「えっと、聖女様?ひょっとして神様に勇者の愚痴とかお祈りで言いませんでした?」

「ど、どうしてそれを!?」

 言ったんですね。

「えっと、実は……」

 仕方なく、聖女様に手紙の内容を話してみる。

「そ、そんな、まさか……」

 聖女様は後ろに数歩下がりふらつく。

「聖女様?大丈夫ですか?」

「はっ!そうだ!手!手に翼のアザはありますか!?」

 わぉ、嫌な予感。

「あります、やっぱりこれって」

「勇者の証です!」

 ですよねぇ、そうだと思いました。

「あ、ああ、なんと言う事でしょう………」

 聖女様が膝から崩れ落ち、そのまま祈りを捧げる。

「私の声は、ちゃんと異界神様に届いていたのですね……」

 うん、うるさいって言ってたからね届いてたんだね。そこでふと疑問に思った。

「あれ?じゃあ、あの勇者はどうなるんだ?」

「……そう言えば、三日ほど前から、手に包帯を巻いていたような……」

 聖女様が首をぐりんとこちらに向ける。怖い。

「あ、えっと、アザが出たのも三日ぐらい前です、はい」

 かっと目を見開き、聖女が叫ぶ。

「全聖騎士に緊急召集!『北の頂亭』に居る勇者を名乗る不届き者を捕らえなさい!」

 勇者が不届きにランクアップしたらしい、そして泊まっていたのは俺達と同じ宿、会わなくて良かった。こうして俺は勇者になったらしい。
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