上 下
13 / 45

西の街

しおりを挟む

 パーティーの翌朝、ギルドからベイカーさんの使いとして、ケインさん達が来た。

「何か、大変そうですね?」

「ああ、タクトくんと面識があるのが俺達だけだからな」

 少しお疲れぎみに返事をするケインさん。

「すいません」

「いや気にしないでくれ、今日はベイカーさんの使いで君を呼びに来たんだ、詳しい話はギルドで聞いてくれ」

「はい」

 ケインさんに連れられギルドに向かうと直ぐにギルドマスターの部屋に通された。

「失礼します!」

 中に入ると、ベイカーさん、昨日少しだけ話したレイツさん、見知らぬ老婆が居た、おそらくこの老婆もギルドのマスターであろう。

「よく来たな、とりあえず座ってくれ」

 座るよう指示されたソファーに腰かける。

「来て貰ったのは他でもない、Sランク昇格に伴い受けて貰いたい依頼が有るからだ」

「依頼ですか?」

「ああ、各街でSランクの登録をしてもらいたい」

 話を詳しく聞くと、有事の際に迅速に実力者有無を把握するために、Sランク以上の人には各街で何処を拠点に活動しているか等を登録してもらっているとの事。

「わかりました、じゃあ各街を回れば良いんですね?」

「ああ、西、北、東の三ヵ所を回って貰いたい」

「ん?北にはギルドは無いのでは?」

 確か王都に来る途中、北の街ベイルンにはギルドは無いと聞いた。

「いや、無いわけではない、ただその役割を教会本部が担っているんだ」

「なるほど、北の街だけ教会に行くと」

「ああ、まずは西の街ノーブルへ行ってもらう、そのギルドマスターが」

「わたしマガリだよ、よろしくね」

 ベイカーさんから話を引き継いだ西のギルドマスターマガリ。

「何、難しい事じゃない、簡単な書類上の手続きさね」

「わかりました、出発はいつ頃?」

「今日の予定だよ、大丈夫かい?」

 俺はメロウ達を見る、特に異論は無さそう。

「はい、問題ありません」

 こうして、西の街へ行くことが決まった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 出発の準備のため、馬車に集まっていた。

「え?この馬車もらっていいんですか?」

「ああ、事情は俺達からメグミさんに伝えておくよ」

 ケインさん達とはここで別れる事になったのだが、馬車を好きにしていいと言われた。

「でも、ケインさん達が帰るのが大変では?」

「俺達はたまたま知り合いがファストに帰るって言うんでそれに乗せてもらうよ」
 
「なるほど、わかりました有り難く使わせて貰います」

「ああ、気を付けてな」

 ケインさんと握手を交わす。

「タクトさん、こちらを」

 ケインさんと挨拶が終わると、ミリーさんが一枚の封筒を渡してきた。

「これは?」

「お約束していた紹介状です、北の街に着いたら司祭に渡してください、教会の見学が出来るように取り計らってくれます」

「おぉ、ありがとうございます!」

「ふふ、道中お気をつけて」

「はい!」

 紹介状をカバンにしまい馬車に乗り込む。ケインさん達に手を振り、マガリさんとの待ち合わせ場所へ馬車を進める。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 マガリさんとの待ち合わせは、街の西門を出てしばらく進んだ開けた場所。街の門の近くだと交通の邪魔になるからだ。

「タクト様、見えてきました」

 行者をするクロノが、マガリさんを見つける。

「ひひひ、ようやく来たね」

「お待たせしました!」

 マガリさんに軽く挨拶し隣を見る。

「この子達はあたしの護衛だよ」

「初めまして、Aランク冒険者パーティープライムローズのリーダー、ルミアよ」

「同じくベラーよ」

「グレル、よろしくね」

 三人の女性冒険者に挨拶をし、この後について聞く。

「ここから西の街ノーブルへは、馬車で三日の道のりよ、先導するから遅れないように気をつけてね?」

「はい、よろしくお願いします!」

 それぞれの馬車に乗り込み、道を進む。

 移動中は特に問題無いように思えたが、何故か頻繁にゴブリンを見かけた。

「あ、タクト様!あそこにもゴブリンが居ますよ!」

「ん、あっちにも」

 ただ発見するが襲っては来ない。

「遠巻きに見ているだけか?」

「群生地ですかね?」

 ゴブリンの群生地って、やばくない?

「休憩の時に聞いてみるか……」

 ぼんやり考えながら、馬車の外を眺める。あ、またゴブリンだ。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「え!?ゴブリンですか!?」

 道中の事を伝えたら、ルミアさんに驚かれた。

「はい、気付いてなかったんですか?」

「は、はい、全然……」

「まぁ、距離が有りましたし」

 フェン達の探敵能力が高いから見つけられたのであって、普通は見つからないか?

「ふむ、数はどのくらいだい?」 

「え?えっと……」

 詳しい数なんて数えてないし。

「タクト様、おそらく二、三十程かと」

 メロウが代わりに答えてくれる。え?そんなに居たの?

「スカウターで、二十!?それってかなり大きい群れですよね!?」

 ふむ、どうやら二、三十は多いらしい。

「どうします?」

「うむ、予定を変更して近くの村に寄ろう、何か分かるかもしれない」

「わかりました」

 休憩を切り上げ近くの村に移動を開始する。

(はぁ、たかがゴブリンごときに、タクト様の予定を邪魔されるなんて……)

(でも仕方ないよ、タクト様は御優しいから!)

(ん、でも、あれ汚い)

(ふむ、そうですな、またタクト様がゴブリン共の巣に行かれるのは避けたい所)

(では、汚物の方から出てきて貰いましょう、丁度いいエサもありますし)

 メロウはプライムローズの三人を見ながら不適に嗤う。

 街道を馬車で進む事数時間、もう間もなく日が暮れ始める時間に、ようやく村に着いた。

「ようこそいらっしゃいました、冒険者の皆さん」

 村に着くと直ぐに村長が出てきた、歓迎の笑顔だが、その下には下心が有ることがわかる。

「村長、近くを多くのゴブリンがうろついているみたいだけど?」

 マガリさんが村長に直ぐに本題を切り出す。

「は、はい、実はそうなんです、どうやら近くの洞窟に巣を作ったらしく、作物が荒らされ困っているしだいで……」

「冒険者に依頼は出したんですか?」

「い、いえ、それは、あの……」

 どうやら村にはお金が無く、冒険者を雇うことが出来ない様子。

「ふぅ、仕方ないね、明日格安で依頼を受けてやろう」

「ほ、本当でございますか!?」

 元々この村で泊まる予定だったらしく、マガリさんは直ぐに交渉に移った。

「その代わり、宿を無料で提供しな」

「お安いご用です!さぁ、こちらへどうぞどうぞ!」

 村長に案内されるまま、村で唯一の宿に連れていかれた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「そういう訳なんで、あんた達にも手伝ってもらうよ?」

「それは構わないんですが、俺達で二部屋借りて本当にいいんですか?」

 通された宿で今は食事をしている、やはりここでもメロウ達が断固二部屋を要求したので、二部屋使わせてもらっている。

「いつもそうなんだろ?なら、構いはしないよ、どうせ普通に依頼をするよりは安いんだからね」

 ゴブリンの大規模な群れになると、それなりに高額な依頼料になるらしい、最初俺達が二部屋借りたいと言った時は、村長が煩わしそうにしていたが、Sランクと名乗った瞬間、手を揉みながら、愛想笑いをしてきて、見事な手のひら返しを見た。

「ひひひ、それにうまい飯も優先して出してくれるそうだよ」

「それは得しましたね、所で、プライムローズの三人は?」

 先ほどから三人の姿が見えない。

「あの子達なら偵察に行ったよ、夜の内にある程度見て措きたいそうだ」

「あ、危なくないんですか?」

 夜に偵察など自殺行為なのでは?

「心配要らないよ、あの子達はAランク、それもノーブル随一の実力者さ、余程の事がない限りゴブリンに遅れは取らないよ」

「そうですか」

「さて、明日は早いんだ、もう休みな」

「では、御言葉に甘えて」

 メロウ達と宿の部屋に戻る、自分の部屋に行き寝るとする。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 タクト達の居る村から少し離れた森の中、三人の人影が走っていた。

「はぁ、はぁ、くっ、この!」

 走りながら時折近づく小さな影を払いのける。

「まさか、こんな数なんて……」

「止まるな!村まで走るんだ!」

 声を掛け合いながら走り続ける三人。その後ろに迫るのは無数のゴブリン、以前タクト達が討伐した群れの非ではないほどの数が森の洞窟に潜んで居た。

「こうなったら、村で防衛戦をするしかない!同行していたタクト達にも手伝ってもらって……」

 防衛の策を考えながら呟いていると、目の前に影が二つ現れる。

「それは些か承諾しかねますな?」

「あ、あなた達は!」

 二つの影に見覚えがあった、タクトの従者をしていた、初老の男と美しい女だった。

「この様な穢らわしい生き物、タクト様に近付けるなど、万死に値するわ」

「何を……っ!」

 二人に阻まれ足を止めたため、ゴブリンがすぐそこに迫っていた。

『グキャ!!』

『ギギャ!?』

 迫っていた、そう思ったが間違いであった、ゴブリンはいつの間に後ろに居た初老の男によって絶命していた。

「ふむ、ゴブリンは素材になりませんねぇ」

「なら、殲滅でいいわね」

 この二人は何を言っているのか?とにかく自分達だけでも逃げ……。

「あ、あれ?」

「身体が……」

 動かない、意識が朦朧とする。

「貴方達はそこで立っていなさい、案山子のように立っているだけでいいわ」

「……そうね、立っているだけ……」

「立っているだけ……」

「立っている……」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ルミア!ルミア!!」

 誰かの呼ぶ声にプライムローズのリーダー、ルミアは目を覚ます。

「……うぅん、マガリ様?」

「おお、目が覚めたかい?」

 ゆっくりと起き上がる、久しぶりによく眠れスッキリすると同時に頭がぼんやりとする。

「……あれ?私どうして?」

 森の中で寝ているんだっけ?

「あんた達は昨日、森の様子を見てくると言ったっきり帰って来なかったんだよ、それで日が昇ってから探しに来たら……」

 そこでマガリが言葉を切り、自分達の後ろを見ているのに気づき振り返ると。

「え?なにこれ?」
 
 そこには大量のゴブリンの死骸、中にはゴブリンジェネラルやゴブリンキングの死骸も有る。

「いったい昨日何が有ったんだい?お前さんらでこの数を倒したのかい?」

「……昨日、私達で倒し……あれ?逃げ?いや、倒した?」

 どうも記憶がハッキリしない、逃げた記憶が有るが、倒したと言われた記憶もある。

「ごめんなさい、マガリ様、良く覚えて無くて……」

 マガリが横目でちらりとタクトの従者達に目を向ける。

「………そうかい、きっと夢中で覚えて無いんだろう、ともあれ、大手柄だよ、帰ったら護衛の報酬に色をつけてやるよ」

「本当ですか!?」

「やった!」

 マガリの言葉に三人は喜び合う。

「さぁ、村に戻るよ、タクト達も探すのに手伝ってくれてありがとよ」

「いえいえ、無事で何よりです」

 プライムローズも無事に見つかり、タクト達は村で朝食を食べた、その際村長から深く感謝の言葉を聞いたが、聞きながらタクトは。

「いや、やっぱり俺、何もしてないから……」

 と、呟いていたが、誰も聞いていない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...