3 / 7
3.逃走
しおりを挟む
あー、今日も長かったなぁ、ようやく半分ってマジかよ。
え?昨日の続き?ってなんだっけ?………わかった、わかったよ、続きな、えーと何処まで話したっけか?ああ、そうそう勇者と別れてからだったな。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者と別れた俺は転移でたどり着いた場所に居た。
「ここがそうか、ククク、本当便利な物だよ」
ガントラームとウロボロスの腕輪を造った後、残った左手の指の骨で造った物、転移の崩玉。
アーティファクトの下、レジェンダリー級のただ行きたい所へ転移できると言うだけの物。
「燃費としては圧倒的に転移魔法の方が良いのだが、こいつの強みは、一度も行った事のない所にも行ける所だな」
俺がその時何処に転移したかと言うと。
「まさか魔王城の前にも転移できるとはな」
え?だったらさっさと造って勇者を連れていけば良かったって?いや、待て、その為に自分の腕切ったりできるか?無理だろ?そもそもアガートラームとガントラームが有ったからできた芸当な訳で、普通は無理。
「さて、行くか……」
俺は迷わず古城の中に入る。目指すは古城の主の元。
「む、なんだ貴様」
「邪魔だ」
「ぐはぁ……」
「て、敵襲!敵襲だ!」
「ちっ、ろくに素材に成りそうにない奴等がうじゃうじゃと」
まぁ、人間が一人乗り込んできたら普通はそうなるよな。でも、俺には全能のガントラームがある。
「はぁ、邪魔くさい」
「な、なんだこの人間!強っ、ぐはぁ」
「さてと、おい、魔王は何処に居る?」
「ふん、誰が貴様に教えるか」
「ふーん、あっそ、じゃあもう用はないな」
「ひっ、待て、ぐぁぁ……」
ボキンという鈍い音が魔族の首から聞こえた。
「ふぅ、聞くより自分で探した方が早そうだな、アガートラーム検索だ、魔王は何処に居る?」
『ポン、この建造物の最上階に強い生態反応を感知、魔王と断定』
「ほいほい、最上階ね、昇るのめんどくさ」
魔王城の最上階を目指す。めんどくさいが仕方ない、素材の為だ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ふぅ、ようやく最上階か」
魔王城最上階、大きな扉の前、ここに魔王が居る。
「よっこらせっと」
扉を開けるとそこには。
「………よく来た勇者よ」
玉座に座る魔王、その周りには無数の魔族達。途中から襲って来ないと思ったら、ここに集まってたのか。
「勇者じゃないんだがな、どうやら歓迎はしてくれるらしい」
「勇者ではない?なら貴様は何者だ?」
「只の錬金術師だよ」
「ククク、よもや只の錬金術師がこの魔王を倒しに来るとはな、よい、相手をしてやろう」
それから三日三晩魔王と戦い続けた……え?三日は嘘だって?食事?いや、そんなのそこら辺に転がってたよ?ほら、魔族の中には豚に似た奴とか、鶏に似た奴とか居たし。ああ、ちゃんとアガートラームに食って平気か確認したよ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
さて、三日三晩戦い続けた俺と魔王。お互い満身創痍になりながらようやく決着を迎えた。
「よもや只の錬金術にここまでの力が有ろうとは……見事なり」
呟き倒れる魔王。
「ああ、しんどい」
それを見届け、座り込む俺。
「ク、ク、ク………」
「おいおい、まだ笑う余裕が有るのかよ」
「いや……我も……ここまでの……ようだ」
「そりゃ良かった、こっちももう限界なんだ」
正直かなりきつい、立ち上がれるか?
「神の摂理に……反するものよ……これから……貴様の前には……茨の道……が………」
わかってるよそんなもん、それでも抗い続けてやる。
俺は魔王の死体を持ちながら転移の崩玉を使った。
転移したのは懐かしの故郷、我が家の中。
「けほっけほっ、埃っぽいな、しばらく誰も入って無いから仕方ないけど」
我が家、正確には師匠が亡くなった時に受け継いだ研究所は、マジックアイテムで入り口を塞いでいるので誰も入れない。
「まずは換気か」
灯りをつけて窓を開ける。外には懐かしい町並みが見えた、田舎特有の田畑の香り。
「そこの貴方!その家で何してるの!?」
大きな声が聞こえそちらの方を見ると、一人のシスターの姿が目に入る。
「どうやって中に入ったの?答えなさい!」
「おー、シスター久しぶりー」
「久しぶりも何もわたしは貴方に………」
シスターが目をパチクリ瞬きする。
「え!?貴方クロなの?」
「そうそう、久しぶりシスター」
「あ、うん、久しぶり、じゃなくてその髪どうしたの?それに腕も?」
「あー、まぁ、色々あってね、それよりくたくたなんだ、何か食べる物ない?」
「えっと、シチューくらいならあるけど」
「シチュー!良いね、シスターのシチュー大好きだよ」
そのまま外に出て教会に移動する。
三日ぶりのまともな食事に舌鼓を打っていると。
「クロ、その髪は?」
「ああ、これね……」
俺はこれまでの事をシスターに話した。旅の様子、アニエス達の様子、勇者の事、右腕を切られた事、左腕を切り落とした事、魔王との戦い。
「…………」
シスターは黙って最後まで聞いていた、その瞳は悲しそうで………。
「そう、辛かったわね」
ポツリと呟くだけだった。
「それで、これからどうするの?」
「とりあえずしばらくは研究所に籠るよ、そのあとは………まだ考えてない」
「……何か手伝えることがあったら言うのよ?」
「……うん」
その後、噂を聞き付けたご近所さん達に挨拶をして、研究所に戻る頃にはくたくたになってベッドにダイブした。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
それから約一ヶ月、俺は魔王の亡骸を使い一通りの研究と錬成を終えた。
できたのは。
骸の魔丈(アーティファクト)
拒絶の法衣(アーティファクト)
異次元の鞄(レジェンダリー)
転移の指輪(レジェンダリー)
骸の魔丈は、魔丈に取り込ませた亡骸の魔法が使えるように成るという物、試しに魔王の亡骸の一部を取り込ませたら、魔王の使っていた魔法が使えるようになった、さすがアーティファクト。
拒絶の法衣、これはあらゆる敵意ある攻撃を弾くことができる、文字通り拒絶する物、但し使用者が敵意を認識しなければならない、つまり突然の暗殺には対応できないと言う事だな、あとは落石などの自然現象にも弱い。
異次元の鞄、収納数無限、荷物の大きさ無視、まさに異次元の収納能力を持つ鞄。旅に便利だと思い制作した、魔王の亡骸とかめっちゃ重かったしな。
転移の指輪、何処か転移する度に転移の崩玉を作るのが面倒なので制作、最初からこっち作るべきだったな。
「さてと、研究も一通り終わったか………」
この後どうするか思いを馳せていると。
コンコンコン。
誰かがドアを叩く音がした、シスターかな?ここ一ヶ月は研究の合間に、シスターやご近所さんの手伝いをして生活していた。
「はい、誰ですかっと………」
ドアを開けたその先に立っていたのは。
「ひ、久しぶりクロ……」
「アニエス……」
名前を呼んだ声に嫌悪感を感じたのか、アニエスは顔を曇らせる。
「クロも帰って来てたんだね、シスターに聞いてびっくりしちゃった……」
「ああ、まぁ、ね……」
今さらアニエス達とは話したくなかったので、曖昧に答えるしかなかった。
「私もね、休暇を貰って帰って来てたの、また旅に出なきゃ行けないから………」
「そう………」
「本当はね、カティ達も誘ったんだけど、みんな辛いからって、断られちゃった……」
「…………」
会話を終わらせたくないのか、アニエスは喋り続ける、以前のようにその声を心踊らせて聞く事ができない。
「い、今ね、王都では、すごい騒ぎに」
「もういいかな?忙しいんだ」
無理矢理会話を終わらせる。
「あ、ご、ごめん……」
「じゃあ……」
扉を閉めようとすると。
「あ、あの、明日も来ていいかな?……」
バタン
何も答えず扉を閉める。冗談、明日にはもうここには居ないよ。
「…………」
俺は手早く村を出る準備をする。このまま誰にも何も言わず出ていこうかとも思ったが、それだとシスターが心配するだろうと思い、シスターにだけは告げる事にした。
教会に行くと、警戒しながらシスターを探す、ひょっとしたらアニエスにも出くわすかも知れないからな。
「クロ?」
「シスター……アニエスは?」
「………アニエスなら自分の部屋で休んでるわ」
「そう……」
「アニエスに会ったのね?」
「うん、ひょっとしてシスターが?」
差し向けたのだろうか?
「いいえ、わたしはまだ会わない方が良いと言ったのだけれど………」
「そうか、………シスター、俺は今夜村を出るよ」
「そう、急ね、でも分かったわ村のみんなには上手く言っておくわね」
「………あと、この村には多分もう戻って来ない」
「………分かったわ、元気でね?」
シスターは少し悲しそうな顔をして、優しく微笑んだ。
「さよならシスター」
それだけ言って、俺は教会を後にする。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
夜、村が寝静まった頃。
「よし、行くか………」
研究所を出て扉を閉めると、両手を合わせる。
「ごめん師匠、せっかく貰ったのにこんな事になってしまって本当に申し訳ない………」
亡き師に謝りつつ、俺は研究所に火を着けた。
「もう、帰って来る事はない、さよなら師匠」
転移の指輪で少し離れた村の見える丘に移動、燃え行く我が家を見守った。
「………もともと村の離れに作ってあるから、他の家屋に燃え移る事はないけど、一応な」
燃え盛る炎に気付いたのか村人達が集まって来ていた、その中にはアニエスの姿もあった、かなり慌てていて中に入ろうとして、シスターに止められていた。
「………これなら大丈夫だろう」
俺は再度転移の指輪を使いその場を離れた。
え?昨日の続き?ってなんだっけ?………わかった、わかったよ、続きな、えーと何処まで話したっけか?ああ、そうそう勇者と別れてからだったな。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
勇者と別れた俺は転移でたどり着いた場所に居た。
「ここがそうか、ククク、本当便利な物だよ」
ガントラームとウロボロスの腕輪を造った後、残った左手の指の骨で造った物、転移の崩玉。
アーティファクトの下、レジェンダリー級のただ行きたい所へ転移できると言うだけの物。
「燃費としては圧倒的に転移魔法の方が良いのだが、こいつの強みは、一度も行った事のない所にも行ける所だな」
俺がその時何処に転移したかと言うと。
「まさか魔王城の前にも転移できるとはな」
え?だったらさっさと造って勇者を連れていけば良かったって?いや、待て、その為に自分の腕切ったりできるか?無理だろ?そもそもアガートラームとガントラームが有ったからできた芸当な訳で、普通は無理。
「さて、行くか……」
俺は迷わず古城の中に入る。目指すは古城の主の元。
「む、なんだ貴様」
「邪魔だ」
「ぐはぁ……」
「て、敵襲!敵襲だ!」
「ちっ、ろくに素材に成りそうにない奴等がうじゃうじゃと」
まぁ、人間が一人乗り込んできたら普通はそうなるよな。でも、俺には全能のガントラームがある。
「はぁ、邪魔くさい」
「な、なんだこの人間!強っ、ぐはぁ」
「さてと、おい、魔王は何処に居る?」
「ふん、誰が貴様に教えるか」
「ふーん、あっそ、じゃあもう用はないな」
「ひっ、待て、ぐぁぁ……」
ボキンという鈍い音が魔族の首から聞こえた。
「ふぅ、聞くより自分で探した方が早そうだな、アガートラーム検索だ、魔王は何処に居る?」
『ポン、この建造物の最上階に強い生態反応を感知、魔王と断定』
「ほいほい、最上階ね、昇るのめんどくさ」
魔王城の最上階を目指す。めんどくさいが仕方ない、素材の為だ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ふぅ、ようやく最上階か」
魔王城最上階、大きな扉の前、ここに魔王が居る。
「よっこらせっと」
扉を開けるとそこには。
「………よく来た勇者よ」
玉座に座る魔王、その周りには無数の魔族達。途中から襲って来ないと思ったら、ここに集まってたのか。
「勇者じゃないんだがな、どうやら歓迎はしてくれるらしい」
「勇者ではない?なら貴様は何者だ?」
「只の錬金術師だよ」
「ククク、よもや只の錬金術師がこの魔王を倒しに来るとはな、よい、相手をしてやろう」
それから三日三晩魔王と戦い続けた……え?三日は嘘だって?食事?いや、そんなのそこら辺に転がってたよ?ほら、魔族の中には豚に似た奴とか、鶏に似た奴とか居たし。ああ、ちゃんとアガートラームに食って平気か確認したよ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
さて、三日三晩戦い続けた俺と魔王。お互い満身創痍になりながらようやく決着を迎えた。
「よもや只の錬金術にここまでの力が有ろうとは……見事なり」
呟き倒れる魔王。
「ああ、しんどい」
それを見届け、座り込む俺。
「ク、ク、ク………」
「おいおい、まだ笑う余裕が有るのかよ」
「いや……我も……ここまでの……ようだ」
「そりゃ良かった、こっちももう限界なんだ」
正直かなりきつい、立ち上がれるか?
「神の摂理に……反するものよ……これから……貴様の前には……茨の道……が………」
わかってるよそんなもん、それでも抗い続けてやる。
俺は魔王の死体を持ちながら転移の崩玉を使った。
転移したのは懐かしの故郷、我が家の中。
「けほっけほっ、埃っぽいな、しばらく誰も入って無いから仕方ないけど」
我が家、正確には師匠が亡くなった時に受け継いだ研究所は、マジックアイテムで入り口を塞いでいるので誰も入れない。
「まずは換気か」
灯りをつけて窓を開ける。外には懐かしい町並みが見えた、田舎特有の田畑の香り。
「そこの貴方!その家で何してるの!?」
大きな声が聞こえそちらの方を見ると、一人のシスターの姿が目に入る。
「どうやって中に入ったの?答えなさい!」
「おー、シスター久しぶりー」
「久しぶりも何もわたしは貴方に………」
シスターが目をパチクリ瞬きする。
「え!?貴方クロなの?」
「そうそう、久しぶりシスター」
「あ、うん、久しぶり、じゃなくてその髪どうしたの?それに腕も?」
「あー、まぁ、色々あってね、それよりくたくたなんだ、何か食べる物ない?」
「えっと、シチューくらいならあるけど」
「シチュー!良いね、シスターのシチュー大好きだよ」
そのまま外に出て教会に移動する。
三日ぶりのまともな食事に舌鼓を打っていると。
「クロ、その髪は?」
「ああ、これね……」
俺はこれまでの事をシスターに話した。旅の様子、アニエス達の様子、勇者の事、右腕を切られた事、左腕を切り落とした事、魔王との戦い。
「…………」
シスターは黙って最後まで聞いていた、その瞳は悲しそうで………。
「そう、辛かったわね」
ポツリと呟くだけだった。
「それで、これからどうするの?」
「とりあえずしばらくは研究所に籠るよ、そのあとは………まだ考えてない」
「……何か手伝えることがあったら言うのよ?」
「……うん」
その後、噂を聞き付けたご近所さん達に挨拶をして、研究所に戻る頃にはくたくたになってベッドにダイブした。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
それから約一ヶ月、俺は魔王の亡骸を使い一通りの研究と錬成を終えた。
できたのは。
骸の魔丈(アーティファクト)
拒絶の法衣(アーティファクト)
異次元の鞄(レジェンダリー)
転移の指輪(レジェンダリー)
骸の魔丈は、魔丈に取り込ませた亡骸の魔法が使えるように成るという物、試しに魔王の亡骸の一部を取り込ませたら、魔王の使っていた魔法が使えるようになった、さすがアーティファクト。
拒絶の法衣、これはあらゆる敵意ある攻撃を弾くことができる、文字通り拒絶する物、但し使用者が敵意を認識しなければならない、つまり突然の暗殺には対応できないと言う事だな、あとは落石などの自然現象にも弱い。
異次元の鞄、収納数無限、荷物の大きさ無視、まさに異次元の収納能力を持つ鞄。旅に便利だと思い制作した、魔王の亡骸とかめっちゃ重かったしな。
転移の指輪、何処か転移する度に転移の崩玉を作るのが面倒なので制作、最初からこっち作るべきだったな。
「さてと、研究も一通り終わったか………」
この後どうするか思いを馳せていると。
コンコンコン。
誰かがドアを叩く音がした、シスターかな?ここ一ヶ月は研究の合間に、シスターやご近所さんの手伝いをして生活していた。
「はい、誰ですかっと………」
ドアを開けたその先に立っていたのは。
「ひ、久しぶりクロ……」
「アニエス……」
名前を呼んだ声に嫌悪感を感じたのか、アニエスは顔を曇らせる。
「クロも帰って来てたんだね、シスターに聞いてびっくりしちゃった……」
「ああ、まぁ、ね……」
今さらアニエス達とは話したくなかったので、曖昧に答えるしかなかった。
「私もね、休暇を貰って帰って来てたの、また旅に出なきゃ行けないから………」
「そう………」
「本当はね、カティ達も誘ったんだけど、みんな辛いからって、断られちゃった……」
「…………」
会話を終わらせたくないのか、アニエスは喋り続ける、以前のようにその声を心踊らせて聞く事ができない。
「い、今ね、王都では、すごい騒ぎに」
「もういいかな?忙しいんだ」
無理矢理会話を終わらせる。
「あ、ご、ごめん……」
「じゃあ……」
扉を閉めようとすると。
「あ、あの、明日も来ていいかな?……」
バタン
何も答えず扉を閉める。冗談、明日にはもうここには居ないよ。
「…………」
俺は手早く村を出る準備をする。このまま誰にも何も言わず出ていこうかとも思ったが、それだとシスターが心配するだろうと思い、シスターにだけは告げる事にした。
教会に行くと、警戒しながらシスターを探す、ひょっとしたらアニエスにも出くわすかも知れないからな。
「クロ?」
「シスター……アニエスは?」
「………アニエスなら自分の部屋で休んでるわ」
「そう……」
「アニエスに会ったのね?」
「うん、ひょっとしてシスターが?」
差し向けたのだろうか?
「いいえ、わたしはまだ会わない方が良いと言ったのだけれど………」
「そうか、………シスター、俺は今夜村を出るよ」
「そう、急ね、でも分かったわ村のみんなには上手く言っておくわね」
「………あと、この村には多分もう戻って来ない」
「………分かったわ、元気でね?」
シスターは少し悲しそうな顔をして、優しく微笑んだ。
「さよならシスター」
それだけ言って、俺は教会を後にする。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
夜、村が寝静まった頃。
「よし、行くか………」
研究所を出て扉を閉めると、両手を合わせる。
「ごめん師匠、せっかく貰ったのにこんな事になってしまって本当に申し訳ない………」
亡き師に謝りつつ、俺は研究所に火を着けた。
「もう、帰って来る事はない、さよなら師匠」
転移の指輪で少し離れた村の見える丘に移動、燃え行く我が家を見守った。
「………もともと村の離れに作ってあるから、他の家屋に燃え移る事はないけど、一応な」
燃え盛る炎に気付いたのか村人達が集まって来ていた、その中にはアニエスの姿もあった、かなり慌てていて中に入ろうとして、シスターに止められていた。
「………これなら大丈夫だろう」
俺は再度転移の指輪を使いその場を離れた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる