2 / 7
2.別れ
しおりを挟む
カティの背を擦る事数分。
「おーい、そろそろ次に進みたいんだけどいいかな?」
「うっ、うん、ごめん、大丈夫」
少しえずきながら、首を縦に振るカティ。
「あー、どのくらい覚えてる?」
ウロボロスの腕輪の効果を知るために色々聞きたいんだが。まずはこれだよな、所謂洗脳状態をどこまで認識しているか。
「う、うぅ、ぜ、全部覚えてます、クロに言った事もしたことも……」
まぁ、そりゃそうだよね?この反応視れば解るよ、うん。
「そうか……」
概ね成功、あとは……と、方針を考えながら頭を掻くと。
「く、クロ!その腕……」
「ん?」
俺の右腕、正確には右腕に着いているアガートラームを見て目を見開いているカティ。
「う、腕、あたしが切ったはずじゃあ……」
くっついたって勘違いしてる?
「………ああ、そうだよ?この腕は、切られた腕を使って作ったんだ」
俺は包み隠さず、全て話した、禁忌?罪?道徳観?そんなものどうでもいいよ。
「………そんな、じゃあその髪も?」
「そ、右腕も左腕も命も、全部使って使って、使いきったんだよ」
極力楽しそうに、家族に「今日こんな事があったんだよー」と報告する様に話す。
「そんな、そんな、そんな」
この世の終わりでも迎えたかのように頭を抱えるカティに近づいて一言。
「そんなもこんなも、ぜーんぶみんなのお蔭だよありがとうカティ」
「あ、あ、あぁぁ………」
まさに絶望に叩き込まれたようなカティ、え?そこまでする必要ないだろうって?まぁ、無いわなぁ、今ではちょっとだけ後悔してるよ、いや、本当に真剣で。
「なぁカティ、ちょっとだけ手伝って欲しいことがあるんだけど?」
「する!するから!何でもするから………」
精神的に弱っているカティは内容も聞かずに承諾する、今なら何でもしそうだな。
俺はカティにめいれ………お願いを伝え、直ぐに実行に移させる。
「カティちゃん?こんな所に連れ出してなんの用事?せっかくの夜なのに……」
カティへのお願い、それは順番に連れ出す事。
「それはねエマ姉さん、こう言うことだよ!」
「え?きゃあ!?」
すかさず背後からエマ姉さんの腕を取りウロボロスの腕輪を嵌め込む。
「え?な、何?え?うっ、うげぇ」
そして嵌められたものはもれなく吐くようだ。
「よし、カティ次だ」
「え?で、でもエマさんが」
「カティ、次だ」
「は、はい」
いちいち介抱してたら時間が掛かる。サクサクやっていかないとな。
「え、エマ姉さん!どうしたの!?」
おっと、次の獲物はコレットか。うーんさすがにコレットはなぁ。
「カティ!コレットを捕まえろ!」
「は、はい!」
カティにめいれ…お願いをすると直ぐに捕まえた。
「え?え?え?」
エマ姉さんの状態と突然カティに後ろから羽交い締めにされた事に混乱するコレットに腕輪嵌める。
「何これ!?取れな………え?うそ?おぇぇ」
はい一丁上がり。
「みんな?どうしたの?」
おっと最後の獲物が出てきてしまった。まぁ、三人が次々出ていったらおかしいと思うか。
「やぁ、こんばんはアニエス」
「……あんたも居たの」
興味が無さげに言うアニエス。
「ああ、みんな気分が悪いみたいなんだ、見て上げてくれるかい?」
「あんたに言われないでも看るわよ」
忌々しげに睨むアニエス。
「………二人とも同じ症状みたいね、カティいったい何があったの?」
エマ姉さんとコレットを見て、唯一落ち着いているように見えるカティに聞くが。
「それは直ぐに解るよ?」
その腕に腕輪嵌める。
「クロ?何を………げえぇ」
結局四人の吐瀉物による水溜まりが完成する。
「ふむ、精神的負担によるものか?或いは魅力が吐瀉物として体内から押し出されているのか?」
少女達の嘔吐を興味深そうに観察する青年という、実に奇妙な構図はしばらく続いた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「うっ、おぇ、ク、クロ、教えて何が起きたの?私達は何をしていたの?あなたに何をしてしまったの?」
ようやく胃の中の物を全て吐き出したのか、アニエスが問いかけてくる。奇しくもそれは俺が何度も自問自答していたのと同じ物だった。
「ああ、いいよ?順番に確かめて行こうか?とりあえずみんな口を濯いだらどうだい?気持ち悪いだろ?」
さて、これから楽しい楽しい査問会が始まるが、何故か俺の心は穏やかだった。
「そうだな、まずは………」
それからアニエス達にゆっくり説明をした。旅が始まってしばらくして様子が変わった事。右腕を切り落とされた時の事(ここら辺で全員ビクッてしていた(笑))。その右腕でアガートラームを創った事。アガートラームで勇者の魅了の力を知った事。自分で左腕を切り落とした事。アーティファクトを二つ創った事で俺の命はだいぶ少なくなった事。
「ふぅ……」
全てを語り終え、目を閉じて一息着く。目を開けると。
「あぁぁ、いや、いや、何で私……」
「あたしは、あたしは、クロを、クロのうでを……」
「ふふふ、これは夢なんだ、悪い夢、早く起きなきゃ……」
「…………」
地獄絵図だった。四人共、ちゃんと記憶があったようで話せば話すほど青ざめていった。そしてそれぞれの反応は実に面白い。
「っ!うっ、嘘よ、ウソ、私があんなこと……」
特に酷かったのはアニエスだった。アルフはアニエスがお気に入りだったからな。まぁ、何とは言わないが色々やったんだろう。
「ッッ!!」
そんな様子を見ていると、突然アニエスが立ち上がる。
「どこに行くんだ?」
「アルフの、勇者の所!」
「何をしに?」
「決まってるでしょ!捕まえるの!それで、それで!」
「うん、気持ちは分かる、でもそれは君のする事じゃない」
「え?」
………先に言っておくが、決して優しさなどではない。
「ふぅ、まずは勇者と俺が話す、君達は後ろで聞いていてくれ」
「………うん、わかった」
ちょうど勇者がテントから出てきたので焚き火の元に向かう。ある程度近づいたらアニエス達には木の影に隠れてもらう。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「やぁアルフ、良い夜だね?」
「お前クロか?そうだな、お前を見るまでは良い夜だったよ」
「つれないなぁ、少し世間話でもどうだい?」
「遠慮しておくよ、アニエス達を探さないといけないからね」
「そのアニエス達と、君の力についてだよ」
「………」
アルフは俺を睨みつつ押し黙る。続けて良いってことかな?
「最近のアニエス達は様子がおかしいと思わないかい?」
「さぁ、どうだろうな?お前が何かしたんじゃないか?」
「いやいや、俺じゃないよ、アルフが何かしたんじゃないかい?」
「…………」
再び押し黙るアルフ。その手はゆっくりと剣の柄を掴んだ。
「お前、どこまで知っている?」
「全部知っているよ?その上で君に確認に来たんだ」
言い終わるや否や、勇者が剣を抜き放った。
「なるほど、どうやら俺はアルフ、君より強くなれたらしい」
「なっ!?」
全能の力は勇者を凌駕する。抜き放った勇者の剣は黄金の左腕によって折られ宙を舞った。
「さて、あとは……君の魅了の力について聞こうか?」
俺は自分の知りうる限りの情報を勇者アルフに問いただす。全てを聞き終えたアルフは目を見開き答える。
「…………ああ、全部お前の言う通りだ、間違いない」
「……そうか」
込み上げて来るものを押さえる。まだだ、まだ早い、我慢だ。
「………今の話は本当何だな?」
アルフに問いただしたのは待てずに出てきたカティだった。
「か、カティ……」
その手には剣が握られていた。俺の腕を切った剣が。
「ま、待てカティ、ご、誤解だ!僕は君を愛している!」
「黙れ下衆!」
「な、何で?何で魅了が効かない!?」
どうやら勇者は再度カティを魅了しようとしたが失敗したらしい。
「貴方はまた!」
「最低ですね」
「……死ね」
カティに続いて三人も出てきた。
「くっ…………ま、また!?何でだ!どうして……」
誰も魅力出来ない、その事実を知って狼狽える勇者アルフ。どうやら本当に魅了出来ないようだ。
「くふっ、くくく、くはははは!あはははは!」
カティが勇者の首元に剣を着ける中、俺は嬉しさの余り笑いが込み上げてくる。
「お、お兄ちゃん?」
突然笑い出す俺を唖然と見つめるコレット達。
「ひひひ、やった、やったんだ!俺は真理を覆したんだ!」
勇者や魔王とは神に選ばれた絶対の存在。その"絶対"は覆すことの出来ない、真理の頂き、そう思われてきた。
「だが!俺はその真理を越えたんだ!あははは!」
気が狂ったように笑い出す俺を、カティ達がどんな目で見ていたのか、そんな事すら気にならないほど、俺は高揚していた。
「お、おめでとうお兄ちゃん」
「う、うん、さすがクロね」
苦笑いを浮かべながらコレット達が誉めてくれる。
「と、ところで、この後なんだけど、一度王都に戻りましょう、さすがにこのまま旅は続けられないし、王様に話を」
「うん、勝手にすれば?」
「え?」
俺の言った言葉にアニエスが驚く。
「ク、クロ、いま何て」
「だから、勝手にすれば?」
アニエスの言葉の途中で俺はなげやりに言う。
「俺はもう旅を続ける気はない、そいつを王都に連れていくなり、旅を続けるなり、勝手にしてくれ」
「そ、そんな……」
「わ、私達の事怒ってるの?でも、それは」
「洗脳されてたから、そんなの重々承知の上だよ、だからと言ってはいそうですかって割り切れる訳でもないし、何より」
「……何より?」
「疲れたんだよ」
俺はそう言って懐から黒い玉を取り出す。
「じゃあな」
玉を床に落とすと魔方陣が現れ光だす。
「っ!ま、待ってクロ!お願い待って!」
アニエスの声を遠くに聞きながら、魔方陣による転移を実行した。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
と、まぁ、ここまでが俺が経験した勇者との旅だな。
え?続き?いや、今日は遅いから明日な明日、……わかった、わかったよ、明日も早いんだから、今日はお開きだ。
「おーい、そろそろ次に進みたいんだけどいいかな?」
「うっ、うん、ごめん、大丈夫」
少しえずきながら、首を縦に振るカティ。
「あー、どのくらい覚えてる?」
ウロボロスの腕輪の効果を知るために色々聞きたいんだが。まずはこれだよな、所謂洗脳状態をどこまで認識しているか。
「う、うぅ、ぜ、全部覚えてます、クロに言った事もしたことも……」
まぁ、そりゃそうだよね?この反応視れば解るよ、うん。
「そうか……」
概ね成功、あとは……と、方針を考えながら頭を掻くと。
「く、クロ!その腕……」
「ん?」
俺の右腕、正確には右腕に着いているアガートラームを見て目を見開いているカティ。
「う、腕、あたしが切ったはずじゃあ……」
くっついたって勘違いしてる?
「………ああ、そうだよ?この腕は、切られた腕を使って作ったんだ」
俺は包み隠さず、全て話した、禁忌?罪?道徳観?そんなものどうでもいいよ。
「………そんな、じゃあその髪も?」
「そ、右腕も左腕も命も、全部使って使って、使いきったんだよ」
極力楽しそうに、家族に「今日こんな事があったんだよー」と報告する様に話す。
「そんな、そんな、そんな」
この世の終わりでも迎えたかのように頭を抱えるカティに近づいて一言。
「そんなもこんなも、ぜーんぶみんなのお蔭だよありがとうカティ」
「あ、あ、あぁぁ………」
まさに絶望に叩き込まれたようなカティ、え?そこまでする必要ないだろうって?まぁ、無いわなぁ、今ではちょっとだけ後悔してるよ、いや、本当に真剣で。
「なぁカティ、ちょっとだけ手伝って欲しいことがあるんだけど?」
「する!するから!何でもするから………」
精神的に弱っているカティは内容も聞かずに承諾する、今なら何でもしそうだな。
俺はカティにめいれ………お願いを伝え、直ぐに実行に移させる。
「カティちゃん?こんな所に連れ出してなんの用事?せっかくの夜なのに……」
カティへのお願い、それは順番に連れ出す事。
「それはねエマ姉さん、こう言うことだよ!」
「え?きゃあ!?」
すかさず背後からエマ姉さんの腕を取りウロボロスの腕輪を嵌め込む。
「え?な、何?え?うっ、うげぇ」
そして嵌められたものはもれなく吐くようだ。
「よし、カティ次だ」
「え?で、でもエマさんが」
「カティ、次だ」
「は、はい」
いちいち介抱してたら時間が掛かる。サクサクやっていかないとな。
「え、エマ姉さん!どうしたの!?」
おっと、次の獲物はコレットか。うーんさすがにコレットはなぁ。
「カティ!コレットを捕まえろ!」
「は、はい!」
カティにめいれ…お願いをすると直ぐに捕まえた。
「え?え?え?」
エマ姉さんの状態と突然カティに後ろから羽交い締めにされた事に混乱するコレットに腕輪嵌める。
「何これ!?取れな………え?うそ?おぇぇ」
はい一丁上がり。
「みんな?どうしたの?」
おっと最後の獲物が出てきてしまった。まぁ、三人が次々出ていったらおかしいと思うか。
「やぁ、こんばんはアニエス」
「……あんたも居たの」
興味が無さげに言うアニエス。
「ああ、みんな気分が悪いみたいなんだ、見て上げてくれるかい?」
「あんたに言われないでも看るわよ」
忌々しげに睨むアニエス。
「………二人とも同じ症状みたいね、カティいったい何があったの?」
エマ姉さんとコレットを見て、唯一落ち着いているように見えるカティに聞くが。
「それは直ぐに解るよ?」
その腕に腕輪嵌める。
「クロ?何を………げえぇ」
結局四人の吐瀉物による水溜まりが完成する。
「ふむ、精神的負担によるものか?或いは魅力が吐瀉物として体内から押し出されているのか?」
少女達の嘔吐を興味深そうに観察する青年という、実に奇妙な構図はしばらく続いた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「うっ、おぇ、ク、クロ、教えて何が起きたの?私達は何をしていたの?あなたに何をしてしまったの?」
ようやく胃の中の物を全て吐き出したのか、アニエスが問いかけてくる。奇しくもそれは俺が何度も自問自答していたのと同じ物だった。
「ああ、いいよ?順番に確かめて行こうか?とりあえずみんな口を濯いだらどうだい?気持ち悪いだろ?」
さて、これから楽しい楽しい査問会が始まるが、何故か俺の心は穏やかだった。
「そうだな、まずは………」
それからアニエス達にゆっくり説明をした。旅が始まってしばらくして様子が変わった事。右腕を切り落とされた時の事(ここら辺で全員ビクッてしていた(笑))。その右腕でアガートラームを創った事。アガートラームで勇者の魅了の力を知った事。自分で左腕を切り落とした事。アーティファクトを二つ創った事で俺の命はだいぶ少なくなった事。
「ふぅ……」
全てを語り終え、目を閉じて一息着く。目を開けると。
「あぁぁ、いや、いや、何で私……」
「あたしは、あたしは、クロを、クロのうでを……」
「ふふふ、これは夢なんだ、悪い夢、早く起きなきゃ……」
「…………」
地獄絵図だった。四人共、ちゃんと記憶があったようで話せば話すほど青ざめていった。そしてそれぞれの反応は実に面白い。
「っ!うっ、嘘よ、ウソ、私があんなこと……」
特に酷かったのはアニエスだった。アルフはアニエスがお気に入りだったからな。まぁ、何とは言わないが色々やったんだろう。
「ッッ!!」
そんな様子を見ていると、突然アニエスが立ち上がる。
「どこに行くんだ?」
「アルフの、勇者の所!」
「何をしに?」
「決まってるでしょ!捕まえるの!それで、それで!」
「うん、気持ちは分かる、でもそれは君のする事じゃない」
「え?」
………先に言っておくが、決して優しさなどではない。
「ふぅ、まずは勇者と俺が話す、君達は後ろで聞いていてくれ」
「………うん、わかった」
ちょうど勇者がテントから出てきたので焚き火の元に向かう。ある程度近づいたらアニエス達には木の影に隠れてもらう。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「やぁアルフ、良い夜だね?」
「お前クロか?そうだな、お前を見るまでは良い夜だったよ」
「つれないなぁ、少し世間話でもどうだい?」
「遠慮しておくよ、アニエス達を探さないといけないからね」
「そのアニエス達と、君の力についてだよ」
「………」
アルフは俺を睨みつつ押し黙る。続けて良いってことかな?
「最近のアニエス達は様子がおかしいと思わないかい?」
「さぁ、どうだろうな?お前が何かしたんじゃないか?」
「いやいや、俺じゃないよ、アルフが何かしたんじゃないかい?」
「…………」
再び押し黙るアルフ。その手はゆっくりと剣の柄を掴んだ。
「お前、どこまで知っている?」
「全部知っているよ?その上で君に確認に来たんだ」
言い終わるや否や、勇者が剣を抜き放った。
「なるほど、どうやら俺はアルフ、君より強くなれたらしい」
「なっ!?」
全能の力は勇者を凌駕する。抜き放った勇者の剣は黄金の左腕によって折られ宙を舞った。
「さて、あとは……君の魅了の力について聞こうか?」
俺は自分の知りうる限りの情報を勇者アルフに問いただす。全てを聞き終えたアルフは目を見開き答える。
「…………ああ、全部お前の言う通りだ、間違いない」
「……そうか」
込み上げて来るものを押さえる。まだだ、まだ早い、我慢だ。
「………今の話は本当何だな?」
アルフに問いただしたのは待てずに出てきたカティだった。
「か、カティ……」
その手には剣が握られていた。俺の腕を切った剣が。
「ま、待てカティ、ご、誤解だ!僕は君を愛している!」
「黙れ下衆!」
「な、何で?何で魅了が効かない!?」
どうやら勇者は再度カティを魅了しようとしたが失敗したらしい。
「貴方はまた!」
「最低ですね」
「……死ね」
カティに続いて三人も出てきた。
「くっ…………ま、また!?何でだ!どうして……」
誰も魅力出来ない、その事実を知って狼狽える勇者アルフ。どうやら本当に魅了出来ないようだ。
「くふっ、くくく、くはははは!あはははは!」
カティが勇者の首元に剣を着ける中、俺は嬉しさの余り笑いが込み上げてくる。
「お、お兄ちゃん?」
突然笑い出す俺を唖然と見つめるコレット達。
「ひひひ、やった、やったんだ!俺は真理を覆したんだ!」
勇者や魔王とは神に選ばれた絶対の存在。その"絶対"は覆すことの出来ない、真理の頂き、そう思われてきた。
「だが!俺はその真理を越えたんだ!あははは!」
気が狂ったように笑い出す俺を、カティ達がどんな目で見ていたのか、そんな事すら気にならないほど、俺は高揚していた。
「お、おめでとうお兄ちゃん」
「う、うん、さすがクロね」
苦笑いを浮かべながらコレット達が誉めてくれる。
「と、ところで、この後なんだけど、一度王都に戻りましょう、さすがにこのまま旅は続けられないし、王様に話を」
「うん、勝手にすれば?」
「え?」
俺の言った言葉にアニエスが驚く。
「ク、クロ、いま何て」
「だから、勝手にすれば?」
アニエスの言葉の途中で俺はなげやりに言う。
「俺はもう旅を続ける気はない、そいつを王都に連れていくなり、旅を続けるなり、勝手にしてくれ」
「そ、そんな……」
「わ、私達の事怒ってるの?でも、それは」
「洗脳されてたから、そんなの重々承知の上だよ、だからと言ってはいそうですかって割り切れる訳でもないし、何より」
「……何より?」
「疲れたんだよ」
俺はそう言って懐から黒い玉を取り出す。
「じゃあな」
玉を床に落とすと魔方陣が現れ光だす。
「っ!ま、待ってクロ!お願い待って!」
アニエスの声を遠くに聞きながら、魔方陣による転移を実行した。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
と、まぁ、ここまでが俺が経験した勇者との旅だな。
え?続き?いや、今日は遅いから明日な明日、……わかった、わかったよ、明日も早いんだから、今日はお開きだ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
(完)私の家を乗っ取る従兄弟と従姉妹に罰を与えましょう!
青空一夏
ファンタジー
婚約者(レミントン侯爵家嫡男レオン)は何者かに襲われ亡くなった。さらに両親(ランス伯爵夫妻)を病で次々に亡くした葬式の翌日、叔母エイナ・リック前男爵未亡人(母の妹)がいきなり荷物をランス伯爵家に持ち込み、従兄弟ラモント・リック男爵(叔母の息子)と住みだした。
私はその夜、ラモントに乱暴され身ごもり娘(ララ)を産んだが・・・・・・この夫となったラモントはさらに暴走しだすのだった。
ラモントがある日、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹の娘)を連れてきて、
「お前は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むぞ!」
と、言い出した。
さらには、マーガレットの両親(モーセ準男爵夫妻)もやってきて離れに住みだした。
怒りが頂点に到達した時に私は魔法の力に目覚めた。さて、こいつらはどうやって料理しましょうか?
さらには別の事実も判明して、いよいよ怒った私は・・・・・・壮絶な復讐(コメディ路線の復讐あり)をしようとするが・・・・・・(途中で路線変更するかもしれません。あくまで予定)
※ゆるふわ設定ご都合主義の素人作品。※魔法世界ですが、使える人は希でほとんどいない。(昔はそこそこいたが、どんどん廃れていったという設定です)
※残酷な意味でR15・途中R18になるかもです。
※具体的な性描写は含まれておりません。エッチ系R15ではないです。
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)
青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。
ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。
さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。
青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる