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2.別れ

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 カティの背を擦る事数分。

「おーい、そろそろ次に進みたいんだけどいいかな?」

「うっ、うん、ごめん、大丈夫」

 少しえずきながら、首を縦に振るカティ。

「あー、どのくらい覚えてる?」

 ウロボロスの腕輪の効果を知るために色々聞きたいんだが。まずはこれだよな、所謂洗脳状態をどこまで認識しているか。

「う、うぅ、ぜ、全部覚えてます、クロに言った事もしたことも……」

 まぁ、そりゃそうだよね?この反応視れば解るよ、うん。

「そうか……」

 概ね成功、あとは……と、方針を考えながら頭を掻くと。

「く、クロ!その腕……」

「ん?」

 俺の右腕、正確には右腕に着いているアガートラームを見て目を見開いているカティ。

「う、腕、あたしが切ったはずじゃあ……」

 くっついたって勘違いしてる?

「………ああ、そうだよ?この腕は、切られた腕を使って作ったんだ」

 俺は包み隠さず、全て話した、禁忌?罪?道徳観?そんなものどうでもいいよ。

「………そんな、じゃあその髪も?」

「そ、右腕も左腕も命も、全部使って使って、使いきったんだよ」

 極力楽しそうに、家族に「今日こんな事があったんだよー」と報告する様に話す。

「そんな、そんな、そんな」

 この世の終わりでも迎えたかのように頭を抱えるカティに近づいて一言。

「そんなもこんなも、ぜーんぶみんなのお蔭だよありがとうカティ」

「あ、あ、あぁぁ………」

 まさに絶望に叩き込まれたようなカティ、え?そこまでする必要ないだろうって?まぁ、無いわなぁ、今ではちょっとだけ後悔してるよ、いや、本当に真剣マジで。

「なぁカティ、ちょっとだけ手伝って欲しいことがあるんだけど?」

「する!するから!何でもするから………」

 精神的に弱っているカティは内容も聞かずに承諾する、今なら何でもしそうだな。

 俺はカティにめいれ………お願いを伝え、直ぐに実行に移させる。

「カティちゃん?こんな所に連れ出してなんの用事?せっかくの夜なのに……」

 カティへのお願い、それは順番に連れ出す事。

「それはねエマ姉さん、こう言うことだよ!」

「え?きゃあ!?」

 すかさず背後からエマ姉さんの腕を取りウロボロスの腕輪を嵌め込む。

「え?な、何?え?うっ、うげぇ」

 そして嵌められたものはもれなく吐くようだ。

「よし、カティ次だ」

「え?で、でもエマさんが」

「カティ、次だ」

「は、はい」

 いちいち介抱してたら時間が掛かる。サクサクやっていかないとな。

「え、エマ姉さん!どうしたの!?」

 おっと、次の獲物はコレットか。うーんさすがにコレットはなぁ。

「カティ!コレットを捕まえろ!」

「は、はい!」

 カティにめいれ…お願いをすると直ぐに捕まえた。

「え?え?え?」

 エマ姉さんの状態と突然カティに後ろから羽交い締めにされた事に混乱するコレットに腕輪嵌める。

「何これ!?取れな………え?うそ?おぇぇ」

 はい一丁上がり。

「みんな?どうしたの?」

 おっと最後の獲物が出てきてしまった。まぁ、三人が次々出ていったらおかしいと思うか。

「やぁ、こんばんはアニエス」

「……あんたも居たの」

 興味が無さげに言うアニエス。

「ああ、みんな気分が悪いみたいなんだ、見て上げてくれるかい?」

「あんたに言われないでも看るわよ」

 忌々しげに睨むアニエス。

「………二人とも同じ症状みたいね、カティいったい何があったの?」

 エマ姉さんとコレットを見て、唯一落ち着いているように見えるカティに聞くが。

「それは直ぐに解るよ?」

 その腕に腕輪嵌める。

「クロ?何を………げえぇ」

 結局四人の吐瀉物による水溜まりが完成する。

「ふむ、精神的負担によるものか?或いは魅力が吐瀉物として体内から押し出されているのか?」

 少女達の嘔吐を興味深そうに観察する青年という、実に奇妙な構図はしばらく続いた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「うっ、おぇ、ク、クロ、教えて何が起きたの?私達は何をしていたの?あなたに何をしてしまったの?」

 ようやく胃の中の物を全て吐き出したのか、アニエスが問いかけてくる。奇しくもそれは俺が何度も自問自答していたのと同じ物だった。

「ああ、いいよ?順番に確かめて行こうか?とりあえずみんな口を濯いだらどうだい?気持ち悪いだろ?」

 さて、これから楽しい楽しい査問会が始まるが、何故か俺の心は穏やかだった。

「そうだな、まずは………」

 それからアニエス達にゆっくり説明をした。旅が始まってしばらくして様子が変わった事。右腕を切り落とされた時の事(ここら辺で全員ビクッてしていた(笑))。その右腕でアガートラームを創った事。アガートラームで勇者の魅了の力を知った事。自分で左腕を切り落とした事。アーティファクトを二つ創った事で俺の命はだいぶ少なくなった事。

「ふぅ……」

 全てを語り終え、目を閉じて一息着く。目を開けると。

「あぁぁ、いや、いや、何で私……」

「あたしは、あたしは、クロを、クロのうでを……」

「ふふふ、これは夢なんだ、悪い夢、早く起きなきゃ……」

「…………」

 地獄絵図だった。四人共、ちゃんと記憶があったようで話せば話すほど青ざめていった。そしてそれぞれの反応は実に面白い。

「っ!うっ、嘘よ、ウソ、私があんなこと……」

 特に酷かったのはアニエスだった。アルフはアニエスがお気に入りだったからな。まぁ、何とは言わないが色々やったんだろう。

「ッッ!!」

 そんな様子を見ていると、突然アニエスが立ち上がる。

「どこに行くんだ?」

「アルフの、勇者の所!」

「何をしに?」

「決まってるでしょ!捕まえるの!それで、それで!」

「うん、気持ちは分かる、でもそれは君のする事じゃない」

「え?」

 ………先に言っておくが、決して優しさなどではない。

「ふぅ、まずは勇者と俺が話す、君達は後ろで聞いていてくれ」

「………うん、わかった」

 ちょうど勇者がテントから出てきたので焚き火の元に向かう。ある程度近づいたらアニエス達には木の影に隠れてもらう。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「やぁアルフ、良い夜だね?」

「お前クロか?そうだな、お前を見るまでは良い夜だったよ」

「つれないなぁ、少し世間話でもどうだい?」

「遠慮しておくよ、アニエス達を探さないといけないからね」

「そのアニエス達と、君の力についてだよ」

「………」

 アルフは俺を睨みつつ押し黙る。続けて良いってことかな?

「最近のアニエス達は様子がおかしいと思わないかい?」

「さぁ、どうだろうな?お前が何かしたんじゃないか?」

「いやいや、俺じゃないよ、アルフが何かしたんじゃないかい?」

「…………」

 再び押し黙るアルフ。その手はゆっくりと剣の柄を掴んだ。

「お前、どこまで知っている?」

「全部知っているよ?その上で君に確認に来たんだ」

 言い終わるや否や、勇者が剣を抜き放った。

「なるほど、どうやら俺はアルフ、君より強くなれたらしい」

「なっ!?」

 全能の力は勇者を凌駕する。抜き放った勇者の剣は黄金の左腕によって折られ宙を舞った。

「さて、あとは……君の魅了の力について聞こうか?」

 俺は自分の知りうる限りの情報を勇者アルフに問いただす。全てを聞き終えたアルフは目を見開き答える。

「…………ああ、全部お前の言う通りだ、間違いない」

「……そうか」

 込み上げて来るものを押さえる。まだだ、まだ早い、我慢だ。

「………今の話は本当何だな?」

 アルフに問いただしたのは待てずに出てきたカティだった。

「か、カティ……」

 その手には剣が握られていた。俺の腕を切った剣が。

「ま、待てカティ、ご、誤解だ!僕は君を愛している!」

「黙れ下衆!」

「な、何で?何で魅了が効かない!?」

 どうやら勇者は再度カティを魅了しようとしたが失敗したらしい。

「貴方はまた!」

「最低ですね」

「……死ね」

 カティに続いて三人も出てきた。

「くっ…………ま、また!?何でだ!どうして……」

 誰も魅力出来ない、その事実を知って狼狽える勇者アルフ。どうやら本当に魅了出来ないようだ。

「くふっ、くくく、くはははは!あはははは!」

 カティが勇者の首元に剣を着ける中、俺は嬉しさの余り笑いが込み上げてくる。

「お、お兄ちゃん?」

 突然笑い出す俺を唖然と見つめるコレット達。

「ひひひ、やった、やったんだ!俺は真理を覆したんだ!」

 勇者や魔王とは神に選ばれた絶対の存在。その"絶対"は覆すことの出来ない、真理の頂き、そう思われてきた。

「だが!俺はその真理を越えたんだ!あははは!」
 
 気が狂ったように笑い出す俺を、カティ達がどんな目で見ていたのか、そんな事すら気にならないほど、俺は高揚していた。

「お、おめでとうお兄ちゃん」

「う、うん、さすがクロね」

 苦笑いを浮かべながらコレット達が誉めてくれる。

「と、ところで、この後なんだけど、一度王都に戻りましょう、さすがにこのまま旅は続けられないし、王様に話を」

「うん、勝手にすれば?」

「え?」

 俺の言った言葉にアニエスが驚く。

「ク、クロ、いま何て」

「だから、勝手にすれば?」

 アニエスの言葉の途中で俺はなげやりに言う。

「俺はもう旅を続ける気はない、そいつを王都に連れていくなり、旅を続けるなり、勝手にしてくれ」

「そ、そんな……」

「わ、私達の事怒ってるの?でも、それは」

「洗脳されてたから、そんなの重々承知の上だよ、だからと言ってはいそうですかって割り切れる訳でもないし、何より」

「……何より?」

「疲れたんだよ」

 俺はそう言って懐から黒い玉を取り出す。

「じゃあな」

 玉を床に落とすと魔方陣が現れ光だす。

「っ!ま、待ってクロ!お願い待って!」

 アニエスの声を遠くに聞きながら、魔方陣による転移を実行した。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
と、まぁ、ここまでが俺が経験した勇者との旅だな。

え?続き?いや、今日は遅いから明日な明日、……わかった、わかったよ、明日も早いんだから、今日はお開きだ。
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