先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

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ズルいよ、先生

*42

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「どっちの目?」
「だからいいって」

ねー、なんで泣いてんの。

「正直に言わないと、俺、また先生になにしちゃうか分かりませんけど」
そう言って更に顔を近づけると、抵抗する先生の腕が止まった。

そしてゆっくりと俺に目線を合わせる先生。
目が合うだけで、心臓が爆発してしまうんじゃないかってくらいドキドキする。


「私もなんで泣いてるか分かんない…」
「なんだよそれ…」

先生はズルいよ。
俺の気持ちを揺すぶるだけ揺すぶって、肝心なところは濁して。

もう、やなんだよ…。



「俺、先生が好き」


俺はもう抑えきれなくなって、自分の気持ちを口にした。
感情のままに。
言わなくたって、きっと態度で分かっていたと思う。
実際、告白もしてないのに振られたし。

でも、このままじゃいやだと思ったんだ。


「先生と会った時からずっと好きでした」


あの日、図書館で会った先生は本当にキレイで。
俺はあの時のこと、今でも鮮明に覚えてるよ。
あの時からずっと。
今だって。


「無理やりキスしたこと、後悔してません」


俺が喋ってる間、先生はずっと俺の目を見てくれていて。
その先生の瞳に吸い込まれそうになる。


「振られた後も、先生のことばっかり考えてました」


いつだって、どこにいたって、寝てる時だって。


「先生も俺を好きになればいいのにって、ずっと思ってました」


「…」
先生は俺の想いを聞いても、何も言わなかった。
俺は確信が欲しかった。


「先生は俺のことが好きですか?」

「好きじゃない…」
「じゃあ、なんで泣いてんだよ…!俺が他の女とキスしてて、それがショックで泣いてるんじゃないの?違うの?」
「違うよ…」

「じゃあ、なんで泣いてんの?」
「それは…ゴミが入ったからって言ってるでしょ…」

俺も矛盾してるけど、先生だって大概矛盾してるよ。

「言葉と表情が一致してねーよ…」
俺がそう言うと、先生は自分の下唇をかみしめた。

「じゃあ、さっき、彼氏が俺のこと知ってたのはなんでですか?」
「それは…言えない」
「は?気になるんですけど」
「里巳くんには関係ない」
「関係ないことないですよね?」

あーダメだ、止まらない。
本当はこんな事聞いたところで何にもなんないのに。
先生を困らせるだけなのに。

「別に大したことじゃないし」
「大したことじゃないなら言えよ」
「さっきから怖いよ、里巳くん…」
なんなんだよ、なんで言ってくれないんだよ。

「じゃあ、質問を変えます。さっきトイレの前で柾木を待ってる時。先生、赤くなったのはなんでですか?」
「…赤くなってない」
「俺、見ました」
「気のせいでしょ」

先生は意地でも俺を受け入れないつもりだ。
なのに、俺を見つめるその潤んだ瞳は、何かを求めているように見えて。
俺の感情をもっと高ぶらせる。
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