先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

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夏の忘れもの

*22

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柾木たちと合流すると、知らない女子も数人いた。
「あいつら誰?」
「女子高の子たち。たまにはいいじゃん?」
柾木はたまにって言うけど結構頻繁に知らない女を連れてくる。
その中に1人だけ、先生に雰囲気が似てる子がいて、目に止まった。
目が合うとその子は、最初に会った頃の先生のように口角を上げて笑った。

みんなで屋台をまわった。
かき氷を食べたり射的をしたり。
俺のノリが悪いことは通常運転だから、誰にも何も悟られなかった。

なのに。

「夕惺くんだっけ、大丈夫?」
みんなが金魚すくいに夢中になっているのを、ただ茫然と後ろから眺めていると、先生と雰囲気が似てる子が話しかけてきた。

「えっと」
「私、海香」
「海香ちゃん、大丈夫ってなにが?」
「悲しそうな顔してた」

今日会ったばっかりなのに、なんでそんなことが分かるんだろう。
「私でよかったら話聞くよ?」
謎に優しい海香と名乗るその女は、俺の弱った心にずかずかと入り込んでくるようだ。

「別になんにもないよ」
そう言って金魚すくいに混ざろうと、柾木に近づいた。
「ちょっと待って」
海香は俺の洋服の袖を掴んで、俺の動きを止める。

「もうすぐ花火始まるよね。私よく見える場所知ってるの」
そう言って俺の目をじっと見つめる海香。
「そうなんだ?」
「だから…、一緒に行かない?」

昨日までの俺だったら確実に断ってた。
先生以外の女子と一緒に花火を見るメリットなんてどこにもない。

だけど俺は
「いいよ」
そう言ってみんなと離れて海香についていった。


後ろ姿まで先生にそっくり。
先生も浴衣着るとこんな感じなのかな。
先生の浴衣、見てみたかったな。
海香の背中を見ながら、俺は先生のことで頭がいっぱいになっていた。

少し歩くと、人けがなくなってきて。
海辺近くの防波堤についた。
「ここならよく見えそうだな」
そう言って2人で腰を下ろす。

先生は今ごろ彼氏と祭りに来てるんだろうか。
一緒にこの花火を見るんだろうか。

俺はずっと心ここにあらずだった。


「夕惺くんって好きな人いるの?」
隣に座っている海香は緊張した面持ちで口を開いた。

「いたけど失恋した」
自分の気持ちすら言えないまま。
てか、普段だったらこんな事誰にも言わないのに、つい口を滑らせてしまった。
やっぱり今の俺は通常じゃないからかもしれない。

「だから寂しそうにしてたの?」
「そんなことないよ」
「でも、瞳の奥が泣いてる」
俺の目をじっと見つめて海香は言う。

この子はたぶん鋭い子。

「私でよかったら慰めてあげよっか」
先生に似ているその子は、先生に似た優しさで、俺の中に入ってくる。

そんな目で見ないで。
ずっと閉じ込めていた感情が、抑えられなくなる。
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