上 下
20 / 78
夏の忘れもの

*20

しおりを挟む
夏休み。

俺は友達とカラオケに行ったり、買い物したりして暇をつぶしていた。
そして夕方は決まって図書館に行く。

どんなに友達と盛り上がっていても、これだけは外せなかった。
先生は来る日もあったし、来ない日もあった。
来た日は嬉しくて、1人で舞い上がる。
来ない日は、学校があったら毎日会えたのになって、強く思う。

もうすぐ夏祭りがある。
先生は行くのかな。
先生の浴衣姿、見てみたいな。
なんて。

この時の俺は真夏の陽気と一緒に、少しだけ浮かれていた。



「先生は夏祭り行くの?」

夏祭りが明日に迫った今日の夕方。
いつもの図書館で先生に問う。
「行けたら行きたいんだけどねー」
なんて、先生はあいまいな返事をした。

「里巳くんは?」
「俺はたぶん柾木たちと」
「そう。本当に仲がいいわね」

本当は先生と行きたいけど。
でもそんなこと言えない。
言ったところで、相手にされないのは分かってる。

「じゃあ、私帰るわね。里巳くんもあんまり遅くならないようにね」
そう言って、俺に背を向けてどんどん遠くなっていく先生。
今日はいつもにも増して、この時間が名残惜しいのは、やっぱり夏祭りに何かを期待してしまっているからだろうか。

屋台で偶然会ったりして、あばよくば一緒にまわったりして。
成り行きで花火も一緒に見てくれちゃったりして。
そもそも行くかすらも分からないのに、そんな妄想が膨らんでしまう。

はぁとため息をついて顔を上げると、さっき先生が座っていた場所にペンが置きっぱなしになっていることに気づいた。

先生が忘れていったんだ。
今ならまだ間に合うかも。
そう思って急いで先生の後を追った。
せめて今だけでも、もう少しでいいから先生と一緒にいたいと思ったんだ。



図書館を出ると、うっすらと夕焼けが滲んでいて、夜に差し掛かるところだった。
先生はもう見えなくなってしまいそうなくらい遠くにいて、俺は必死に走った。


先生、待って。


忘れていったペンなんて口実で、本当はもっと一緒にいたいって。
そう言ったら先生はなんて思うかな。

先生の背中を一生懸命追うと、少しづつ距離が近づいて。
それと同時に俺は見たくないものまで見てしまった。


え?

ウソだろ。



どうして俺は今まで考えていなかったんだろう。


先生に彼氏がいる可能性について。


心臓が大きく音を立てた。
頭に衝撃がはしる。


なんだ。

先生、彼氏いたんだ。



俺は、先生が忘れていったペンをギュッと握った。
もう少し走れば先生に追いつけたけど、俺はそれをしなかった。
ペンを握りしめたまま、来た道を戻った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

親友の彼氏と、一つ屋根の下。

みららぐ
恋愛
親の仕事の都合で主人公が独り引っ越してきた先は、親友の彼氏が独りで住む家でした。 「嘘でしょ…!?」 「これから、よろしく」

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...