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正直に。
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しおりを挟む今日は休日。
久しぶりに休日に渉と会う。
なんか変な感じ。
渉の家に行くと、私服で出てくる渉が新鮮だった。
「渉ってそんなファッションセンスだったっけ」
「え、なんか変?」
「うんん、似合ってる」
私たちはそのまま近所の公園へ向かった。
今日は私から渉を誘った。
話したいことがあったから。
ちゃんと言わなくちゃいけない。
渉の気持ちにちゃんと向きあって考えた、自分の本当の気持ちを。
「私ね、渉に感謝してるんだ」
「え。俺、なんかしたっけ?」
「ずっと仲良しの幼なじみでいてくれたことに、感謝してる」
「なんだよ改まって。どうしたんだよ」
「だから、これからも幼なじみでいたい」
「……やっぱ俺、振られるの?」
「うん、振る!だって私、渉のこと大好きだから。だから振る!」
「…すげーーー矛盾してる」
「ごめんね、渉」
「別に謝んなくていいから」
やっぱり渉に対しての気持ちは、恋愛のそれとは違った。
小さい頃から一緒に遊んでくれた、気の合う友達。
いつでも私を守ってくれる優しいお兄ちゃん。
変なところは怖がりで、守ってあげたくなるような弟。
私にとって、渉はそんな存在。
「これからも幼なじみでいたい」
「それは無理かな…」
「…そっか」
ある程度は覚悟していた。
もう仲良しの幼なじみでいられなくなるのが怖かったから、私は渉への返事を躊躇していた。
でも私は渉の気持ちに答えることができないから、こうなっても仕方なんだ。
「新奈に好きな人がいなくなったら、また仲良くしてあげてもいいけど?」
「あはは、なにそれ。もしかしてワンチャン狙ってる?」
「狙ってる」
「だから無理だって言ってるのに」
「無理って言うな。10年後、どうなってるか分かんないだろ」
「どんな先まで見据えてんの」
私は呆れながら言うと、渉は笑った。
前に渉から恋愛的なニュアンスの言葉を聞いた時、どういう反応をしていいのか分からなかった。
だけど今はやっと、友達としてちゃんと返せている気がする。
「俺も新奈に言わなきゃいけないことがあるんだ」
「え、なに?」
「駅で急にキスしてごめん」
「…あ~、あれね」
やっぱりあれ、キスだったんだ。
「なんか、線路挟んで見つめあってる新奈と皆藤見てたら、いても立ってもいられなくて」
そうだったんだ。
そんなところを渉に見られていたのかと思うと、すごく恥ずかしい。
「新奈の了承も得ずに、本当にごめん」
「ホントだよ。あーあ、私のファーストキスだったのになー」
「え?!」
渉のびっくりしている顔を見ると、なんだかおかしくなってきた。
「別にもう気にしてないよ」
謝るのは私の方だよ。
ずっと渉の好意に甘えて来たのに、その気持ちに答えられない私が悪いんだ。
それからは、たわいもない話をして。
渉は幼なじみはもう無理って言ってたけど、今まで通り普通に話してくれた。
つくづく、渉の優しさを感じた。
「俺、やっぱサッカー部に入ることにした」
「本当?」
「うん、やっぱりサッカー好きだから」
「そっか。応援してる!」
「だからもう、放課後一緒に帰れない」
「うん」
「別に新奈に気を使ってるわけじゃないから」
「分かってるって」
最後の最後まで、渉は優しかった。
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