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嫉妬。
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しおりを挟む無我夢中で廊下を歩く。
歩くと言うより競歩に近い感じだったと思う。
できるだけ早く、あの教室から離れたかった。
余計な情報を自分の中に入れたくなかった。
「井上さん」
だから聞こえていなかった。
「井上さんてば」
まさか伊吹くんが私を追って来てるなんて思ってもみなかったから。
「待ってよ、新奈」
新奈って声が聞こえて、私は足を止めた。
びっくりして振り返ると、伊吹くんがすぐ近くまで来ていた。
「ちょ、急に止まるとびっくりすんじゃん」
私にぶつかりそうになるくらい近くまで来ていた伊吹くん。
「私のこと呼んだ?」
「呼んだ。たくさん呼んだ」
「うそ、ごめん気がつかなくて」
「わざとやってるのかと思った」
伊吹くんともう話すことはないと思ってたのに。
って、伊吹くん私のこと追って来ちゃダメじゃん。
「さっき話してた女の子のとこ戻りなよ」
「なんで?」
「なんでって、楽しそうに話してたじゃん。私邪魔したくない」
「あの子はそんなんじゃないよ」
そんなんじゃないってなに…?
私みたいな都合のいい女じゃないってこと?
「私、渉と一緒に帰る約束してるから。じゃ」
そう言って一旦止まってしまった足を前に進める。
「だから待ってってば」
そんな私の隣を一緒に歩く伊吹くん。
「教室戻りなよ」
「だからなんで?」
「私は皆藤くんに用なんてないもん」
「それ、わざと言ってる?」
「は?」
「俺は新奈と話したいんだけど」
ほら、なんでこんな時ばっかり強引なの。
私は伊吹くんのこと好きになりたくないから、線を引こうとしてるの。
気づいてよ。
「だから、もうデートやめるって言ったじゃん」
「デートじゃなきゃいいんでしょ」
「え…」
「ちょっと来て」
伊吹くんはそう言って私の手を掴んだ。
そしてすぐ近くにあった放送室の鍵を開けた。
「ねー、なんで鍵なんて持ってんの?」
「俺、放送委員だから」
「そうなんだ。…じゃなくて!」
伊吹くんがなぜ私を放送室に連れ込むのか疑問しかない。
だってもうデートはしないって言ったのに。
このまま普通のクラスメートに戻るって思ってたのに…。
「新奈ってひどいよな。俺、新奈のこと待ってたのに」
「いや、勝手に待たれても」
「ひどい」
そこにはいつもみたいに、いじける伊吹くんがいた。
上目遣いで見てくる伊吹くんのあざとさが、今は憎い。
「傷ついたから責任とって」
伊吹くんはそう言って私の髪に自分の指を絡めた。
「っ…」
近い…。
伊吹くんとの距離感にぐっと心拍数が上がってしまう。
「やめてよ…」
私はそう言って伊吹くんに背を向けた。
こんなことで動揺する自分を見られたくなかった。
「名前、呼ばなかったから罰ゲーム」
デート初日に伊吹くんは言っていた。
名前を呼ばなかったらキスするって。
でもそれは半分冗談だって思ってた。
「は?それ言ったら伊吹くんだって…」
私が振り返るのと同時に、私のほっぺたに伊吹くんの唇が触れた。
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