カレカノごっこ。

咲倉なこ

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帰り道。

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俺はずっと前から、新奈のことが好きだった。


母さんに連れてきてもらった水族館がきっかけだった。

あれは小3の頃。

新奈はヒトデを触れるコーナーのところで、「触りたい」って言って、手を水槽の中に入れた。

俺は”よく触れるよな”って思って見ていた。

でもヒトデは少し遠い位置にいて、新奈は身を乗り出して捕まえようとした時、バランスを崩して、顔面から水槽に落ちた。

びっくりした俺は、必死に水槽から救い出そうとしたっけ。

本当に必死だった。

でも新奈は手にヒトデを持ったまま、


「えへへ、ヒトデ捕まえた」


って嬉しそうに笑った。


衝撃だった。

こんなにもびしょ濡れて、周りのみんなにも注目されていて。

なのに新奈はそんなこと気にも留めずに笑った。


今としては、黒歴史になってるみたいだったけど。

俺にはすごく輝いて見えた。


それまでは近所だから仲がいいってだけで。

別に意識するとか、そんなんじゃなかった。

遊んでいると楽しくて。

ただそれだけだった。


でもきっかけはすごく単純で、浅はかで。

なのに、この好きな気持ちは今でもずっと続いている。


水族館のことがきっかけで、新奈のことを女の子として意識するようになって。

周りの女子たちも、その頃には誰が好きとか嫌いとか、そんな話をすることが多くなって。

でも新奈は、あんまり恋愛に興味なさそうだった。

よく一緒にいる俺とからかわれた時だって、「そんなんじゃないから」って軽くあしらっていた。

だから俺は、新奈の近くにいれればそれだけでいいと思った。

新奈が恋愛に興味を示すまで。

それまで近くにいようって。


でも、いざ新奈が他の男と一緒にいるのを見ると、心がざわついた。

新奈が好きになる相手は俺じゃないかもしれない。

そう気がついて、今までにないくらい焦った。

こんなことは初めてだった。


俺がまたサッカーを始めなければ、こんなことになっていなかったんじゃないかとか。

クラスが離れなければとか。

色々考えた。


新奈は可愛いから。


たとえ新奈が恋愛に興味がないとしても、男が寄ってくることは今までもあったから。

でも今まではいつも一緒にいる俺を見て、抑止力になってたんだと思う。

だからそれでいいと思った。

やっぱりサッカーなんて断って、俺が隣にいるべきだった。


新奈は俺がサッカーをやめた理由を知らない。

言ったら絶対、俺から離れていくと思ったから。


だから言えなかった。

新奈に嫌われて、離れていくほうが怖かったから。


でも、自分の気持ちを言わないまま、新奈があいつと付き合うことになったら…。


俺は絶対、後悔する。


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