カレカノごっこ。

咲倉なこ

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水族館デート。

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次の日、学校へ行く。

伊吹くんはもう教室にいて、いることを確認すると直ぐに目をそらした。

昨日の今日で伊吹くんに会うのが恥ずかしいのは私だけかな。

まあ、クラスではめったに話さないし、今後の接し方についてゆっくり考えよう。

そう思っていたのに。


1限目で、急に席替えが行われた。

私の席は窓際の一番後ろの席で、何気にこの席が気に入っていた。

できれば席替えなんてしたくないなー、なんて思いながらくじを引く。

私が引いたのは窓際の1番後ろから2番目の席だった。

私のくじを覗き見してくる桃々。


「新奈はどこだった?」

「私は今の席の1個前」

「まじ!?私はその前の席だよ!?やったね」


今の席が究極にいい席だと思ってたけど、仲良しの桃々と後前になれてもっといい席を更新してしまった。


「もう2度と席替えしなくていい」

「同感!」


桃々とテンションが上がりながら、席を移動して椅子に座る。

隣に誰か来たなって思って顔をあげると、思ってもいない人がそこにいた。


「あれ、隣井上さん?」


伊吹くんだ。

え?

伊吹くんが隣の席…?

伊吹くんと目が合うと、伊吹くんは少しだけ口角を上げて笑った。


「どうも…」


どうもってなんだ、どうもって。

やばい、教室であんまり喋ったことがないから、いまいち距離感がつかめない。

私が挙動不審になっていると、伊吹くんは肩を揺らして笑っていた。


「伊吹、何笑ってんだよ」

「なんでもねーよ?」


私の後ろの席は、どうやら伊吹くんと仲のいい水島くんが着たみたいだ。


前言撤回。

今すぐ席替え希望します。

だって、伊吹くんは水島くんと仲がいいから、私の方に足を出して水島くんと楽しそうに喋ってる。

すごい、見られているような感覚になって居心地が悪い。

実際、私なんて眼中に入ってないんだろうけど。

それでも気になっちゃう。


「新奈?さっきからどうしたの?」

「なんでもないよ!あ、桃々トイレ行こ!」

「うん」


あの場からの脱出成功。

もし、桃々の席が離れていたら、そこに避難できたのに。

前後だから逃げるすべがトイレしかない。

運がいいのか悪いのか。


そしてトイレから戻ってくると、伊吹くんは私の席に座っていた。

いやいや。

水島くんと席近いんだからさ?

わざわざ私の席に座らなくてもいいじゃん…?


「あれ、皆藤くん新奈の席にいない?」


桃々はそんなことを言いながら自分の席に向かう。

言う?

「どいて」って言う?

言えばいいんだよ。

だってそこは私の席なんだし。

でも、盛り上がってる伊吹くんの邪魔はしたくなくて、私は桃々の席の隣の席を借りることにした。


「ちょっと彼氏に連絡していい?」

「どうぞどうぞ、私のことはお気になさらず」


桃々はスマホを取り出して文字を打っている。

ふと顔をあげると伊吹くんと目が合った。

今が言うチャンス?

そう思っていると、伊吹くんは何も言わずに私の席から立った。

これって、私に気が付いて私に席を譲ってくれたってことだよね?

伊吹くんが自分の席に戻るのを確認して、私は借りていた席から立ち上がる。

その時、私の耳元で声がした。


「教室でもよろしくね」


伊吹くんの声がはっきり聞こえた。

だけど、周りは喋ることに夢中で、桃々もスマホを打つのに集中してて、たぶんその声に気が付いたのは私だけ。

伊吹くんと目が合うと伊吹くんは不敵に笑った。


…教室でもカレカノごっこしようとしてる?


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