16 / 73
水族館デート。
16
しおりを挟む次の日、学校へ行く。
伊吹くんはもう教室にいて、いることを確認すると直ぐに目をそらした。
昨日の今日で伊吹くんに会うのが恥ずかしいのは私だけかな。
まあ、クラスではめったに話さないし、今後の接し方についてゆっくり考えよう。
そう思っていたのに。
1限目で、急に席替えが行われた。
私の席は窓際の一番後ろの席で、何気にこの席が気に入っていた。
できれば席替えなんてしたくないなー、なんて思いながらくじを引く。
私が引いたのは窓際の1番後ろから2番目の席だった。
私のくじを覗き見してくる桃々。
「新奈はどこだった?」
「私は今の席の1個前」
「まじ!?私はその前の席だよ!?やったね」
今の席が究極にいい席だと思ってたけど、仲良しの桃々と後前になれてもっといい席を更新してしまった。
「もう2度と席替えしなくていい」
「同感!」
桃々とテンションが上がりながら、席を移動して椅子に座る。
隣に誰か来たなって思って顔をあげると、思ってもいない人がそこにいた。
「あれ、隣井上さん?」
伊吹くんだ。
え?
伊吹くんが隣の席…?
伊吹くんと目が合うと、伊吹くんは少しだけ口角を上げて笑った。
「どうも…」
どうもってなんだ、どうもって。
やばい、教室であんまり喋ったことがないから、いまいち距離感がつかめない。
私が挙動不審になっていると、伊吹くんは肩を揺らして笑っていた。
「伊吹、何笑ってんだよ」
「なんでもねーよ?」
私の後ろの席は、どうやら伊吹くんと仲のいい水島くんが着たみたいだ。
前言撤回。
今すぐ席替え希望します。
だって、伊吹くんは水島くんと仲がいいから、私の方に足を出して水島くんと楽しそうに喋ってる。
すごい、見られているような感覚になって居心地が悪い。
実際、私なんて眼中に入ってないんだろうけど。
それでも気になっちゃう。
「新奈?さっきからどうしたの?」
「なんでもないよ!あ、桃々トイレ行こ!」
「うん」
あの場からの脱出成功。
もし、桃々の席が離れていたら、そこに避難できたのに。
前後だから逃げるすべがトイレしかない。
運がいいのか悪いのか。
そしてトイレから戻ってくると、伊吹くんは私の席に座っていた。
いやいや。
水島くんと席近いんだからさ?
わざわざ私の席に座らなくてもいいじゃん…?
「あれ、皆藤くん新奈の席にいない?」
桃々はそんなことを言いながら自分の席に向かう。
言う?
「どいて」って言う?
言えばいいんだよ。
だってそこは私の席なんだし。
でも、盛り上がってる伊吹くんの邪魔はしたくなくて、私は桃々の席の隣の席を借りることにした。
「ちょっと彼氏に連絡していい?」
「どうぞどうぞ、私のことはお気になさらず」
桃々はスマホを取り出して文字を打っている。
ふと顔をあげると伊吹くんと目が合った。
今が言うチャンス?
そう思っていると、伊吹くんは何も言わずに私の席から立った。
これって、私に気が付いて私に席を譲ってくれたってことだよね?
伊吹くんが自分の席に戻るのを確認して、私は借りていた席から立ち上がる。
その時、私の耳元で声がした。
「教室でもよろしくね」
伊吹くんの声がはっきり聞こえた。
だけど、周りは喋ることに夢中で、桃々もスマホを打つのに集中してて、たぶんその声に気が付いたのは私だけ。
伊吹くんと目が合うと伊吹くんは不敵に笑った。
…教室でもカレカノごっこしようとしてる?
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説



その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛してほしかった
こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。
心はすり減り、期待を持つことを止めた。
──なのに、今更どういうおつもりですか?
※設定ふんわり
※何でも大丈夫な方向け
※合わない方は即ブラウザバックしてください
※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる