科学魔法学園のニセ王子

猫隼

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Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀

1ー34・それぞれの初恋

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 ネージとフィオナにも、ユイトの事がバレた日。
 あの時から。
 自分が恋した相手を知ってから、フィオナは3日ほどかけて一通のメールを書いた。そしてすぐに、3日もかけたとは思えないほどに短いそのメールを、レイ宛に送った。

 なんて事ない。
 それはただ、アルデラント家の伝統的な行事である、お茶会パーティーの誘いだった。ただ、事務的な招待の文章の後に「よかったら来てください」とだけ書いてあった。
 それは明らかにレイへのメッセージではなかった。

ーー

 そしてそのお茶会の当日。
 そんなに人はいない、アルデラント家が所有する、和風のパーティ会場。
 フィオナは茶室でひとり、大事な婚約者のゲストを待っていると、彼女の執事から聞かされ、彼はそこに向かう。

 綺麗な和室、その扉を彼は開けた。
 その扉を開ける音にフィオナはすぐ振り向く。
 そして満面の笑みになりかかっていた表情を、見事に硬くする。
「レイね」
 今やそうだと簡単にわかった。
「こんな一瞬でわかるのか?」
 驚きとともに、少し楽しそうでもあるレイ。
「気づいてから、そうだと知ったら、微妙な違いもあるわ」
 満面とは言えないだろうが、フィオナも軽く笑みを浮かべる。
「あいつだと思ったのに、ぼくでがっかりか?」
「からかってるの?」
「いや、純粋に気になってる」
「その」
 少し迷ったが、結局正直に彼女は認めた。
「実は、かなり期待してました。あのメールだって、ユイトくんへって、書こうかなって、何度も思ったんだけど」
 それはあまりに恥ずかしくて、結局書けなかった。
「あいつの事、地上世界の出身だって事まで、何で気づいたんだ?」
「クマのユーキくんからね、調べたの」
「ああ、そこからか。そりゃ納得だ」
「アルケリ島。暖かい気温で、夏が長い島みたい。30平方キロメートルくらいの大きさで、半分くらいが森なんだって」
「いや、なんでそんな詳しいんだ?」
 島の大きさなど、実際にそこに行きもしたレイも知らなかった。
「あ、それは、だってもし、その、可能性はあるでしょう、わたしがそこに行くことになる可能性」
「いやいや、お嫁さんに行く気かよ」
「か、可能性はあるわ」
 お嫁さんなどとはっきりと言われ、真っ赤になるフィオナ。
「アルデラント家はどうするんだ?」
「お、お母様にはもう言っています。その、地上世界の人に恋したって」
「小さい家だし、別に気にしなくていいってか」
「そもそも、ツキシロ家当主のあなたとの婚約だって、反対してた人よ」
 むしろ、ユイトの事を話した時の喜びようったらなかった。
 おそらくフィオナが、あまりに嬉しそうに彼の事を伝えたということもあるだろう。

「あの、レイ」
「何だ?」
「ユイトくんの事、もっと教えてほしい」
「そうか」
 それからレイは、フィオナが知らないだろうユイトの事を、なるべく自分の知っている範囲で話した。フィオナも途中、いろいろ質問し、それらにも、わかる質問なら答えた。

「しかしユイトくんって、ぼくの事は呼び捨てなのに」
「だってその、い、いきなり呼び捨ては緊張しますよ」
 ユイトが基本的には、同年代を呼び捨てで呼ばない事も、その緊張に拍車をかけている。
「にしても、ほんとにあいつの事は何でも知りたいんだな、そこまでゾッコンか?」
「だ、だ、だって仕方ないでしょ。ほんとにその、は、初恋なんですよ」
 そう、初恋だった。
 同じだった。
「今日はぼくで悪かったな。次からはこういう時、あいつをよこすよ」

 そして次にはようやく、レイは今回、自分が来た目的。
 本題を告げた。
「ぼくは今日は、謝りたくてな。昔の事」
「昔の?」
「ああ」
 ずっとそうだった。
「いや、違うな。こう言いたかった」
 そしてレイは言った。ずっと前から彼女に言ってやりたかった言葉。
「現実の恋も悪くないだろ、相手が本物の王子様ならさ」
「はい。悔しいくらい」
 フィオナも素直に返した。

ーー

 静かなパーティーは性に合わないと、フィオナとの話だけ終わると、もう会場から出てきたレイ。
「少しはわかった?」
 待っていたミユ。
「あなたが泣かせてきた女の子たちの気持ち」
「さあ、どうだろうな」
 からかうような彼女の言葉に、レイはため息つく。

 レイも、ただ一度だけの初恋だった。
 だからほんの数年前、ただ、レイはフィオナに声をかけた。自分に振り向かせて、恋人になりたかった。そしてそんな事おそらく簡単だった。
 当時の彼女は純真すぎた。
 少し優しい上っ面を見せてやるだけで、多分そんな事だけでよかった。彼女に恋させるなんて事。
 だからこそレイは彼女を本気で好きになってしまって、だからこそ自分ではいけないと思った。自分には彼女を幸せにする事なんてできないし、そんな権利もないと思った。
 レイはそれから、ただ自分の情報をありのままにフィオナに流した。フィオナの理想とはかけ離れた本当の自分を。
 それから会いはしなかったが、噂はいろいろ聞いていた。
 彼女が男性不振になった事や、言葉遣いが変わった事も。自分の気持ちなどどうでもよくて、家や金のためにレイとの婚約を承諾した事も。
 だけどもうどうする事もできなかった。レイにできたのは、婚約関係を続け、彼女が貴族の娘として、自分よりずっとひどいような奴らの元に嫁いでしまうのを防ぐ事だけ。
 だからユイトがうってつけだった。
 彼の資料を見て、アルケリ島で実際に彼と会って、それでユイトなら、きっと彼女の本当の王子様になれると、レイは確信したのだった。

「それよりミユ。おまえこそいいのかよ。なにせこのサギ王子が本気になっちゃったほどの女がライバルだぜ」
 お返しとばかりに、からかい混じりのレイ。
「わたしは、まだ余裕よ。だってどう考えても彼と一番近しい立場にいるのはわたしじゃない。デートだってしたわ」
「おまえも、変わったぞ」
 レイは心底そう思った。

ーー

 休日で、特に用事もないので、ガーディは借家にいた。

[「もうあなた、普通に裏切り者ね]
「そうだな」
 スクリーンごしの雇い主からの嫌みに、苦笑するガーディ。
[「これだから男は扱いづらいわね。すぐ友情に走りたがる」]
「エマの護衛はちゃんと続けてる」
 そう、彼の本来の任務。
[「まったく」]
「だいたい、前のは、ちょっとおまえにしては急ぎすぎなやり方じゃないか」

 そもそも役割分担もおかしかった。
 足止めはアイテレーゼの方が向いているし、隙をついてユイトから転移具を奪う事ならリンリーにもできたろう。しかも彼女なら、アイテレーゼがそうされたように、転移具を奪い返される可能性も低い。
「おまえこそ、恋とやらでおかしくなってないか?」
[「あなたにそんな事、指摘されるなんてね」]
 しかし、彼の指摘に、自分でかなり納得したようであるアイテレーゼ。

[「ねえガーディ。あなたはエマになんて頼まれたの?」]
「おまえの大事な人を傷つけないようにって」
 そう、だからガーディは、さらわれたフィオナを救出するのにも手を貸した。そうしないと、結局ユイトは自分を責めて傷つくだろうと判断したから。
[「ユイトはもう敵よ」]
 それから拗ねたようにアイテレーゼは続ける。
[「まっ、だから嫌いってわけではないけどね」]
 そして切れた通信。

「もうあいつも、偽王子って言えないよな」
 そう呟いたガーディ。
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