10 / 15
〈金色狐〉の絵2
しおりを挟む
小刀を持つ絵師の妹の手が震える。
絵師の妹は兄を探す途中。他の旅人から、とある村で旅の絵師が『獣の領域』を守る〈金色狐〉に殺されたとの噂を聞いた。それを確かめるために、絵師の妹は〈金色狐〉がいる『獣の領域』を訪れた。
目の前にいる〈金色狐〉は自分が兄を殺したと口にした。
ならば、目の前にいる〈金色狐〉は兄の仇。それなのに、絵師の妹は、動くことができなかった。
目の前の〈金色狐〉はただ静かに、泣くことを耐えているように見える。どうして、〈金色狐〉はこんな表情をしているのだろうか。
絵師の妹は、兄が描いた〈金色狐〉の絵に視線を向ける。美しい金色の毛並みの狐が描かれている絵。
絵師の妹は幼いころから、兄の絵を見てきた。絵師の妹が知る限りの絵師である兄の最高ともいえる傑作だ。
兄はどんな想いで、この絵を、〈金色狐〉を描いたのだろうか。
(きっと、兄様は)
絵師の妹は小刀をしまう。
絵師の妹が聞いた噂、〈金色狐〉の言葉は真か偽りなのか、わからない。
ただ、一つだけ、確かなことがある。
「…………兄様は最後にあなたの絵を描けたのですね」
絵師の妹は呟く。
・・・…すまない……最後にお前の絵を描けてよかった…ありがとうな……・・・
絵師の最後の言葉。
(……ああ)
絵師の妹の言葉が〈金色狐〉の心の決意を揺らす。この兄妹は同じことを言うのだろうか。
「あなたの領域に無断で入り込んで、申し訳ありませんでした」
絵師の妹は〈金色狐〉に頭を下げる。
〈金色狐〉が娘の行動に驚いている間に、絵師の妹は小屋から出て行こうとする。
「(待ちなさい。絵は持っていかないの?)」
〈金色狐〉は慌てて、絵師の妹を止める。絵師の妹は〈金色狐〉に振り返る。
「(絵を持って行ってちょうだい!)」
〈金色狐〉は慌てるあまりに早口になる。
絵師の妹が絵を持ってくれないと、〈金色狐〉は絵師の元に逝けない。
「兄様が描いた絵はここに置いていきます」
絵師の妹は〈金色狐〉の言葉に首を横に振る。絵を持って行くことなど、絵師の妹はできるはずはなかった。
「兄様を愛してくれてありがとうございます」
絵師の妹は目元に涙を溜めながら、〈金色狐〉に優しく笑う。そして、絵師の妹は小屋から出て行った。
呆然と絵師の妹を見送った〈金色狐〉は小屋に残された絵を見る。誰にも知られずこのまま絵を残したくない。
「(……私はまだ、あなた元には行けないわ)」
まるで、絵師に生きろと言われているようだ。小屋に残された〈金色狐〉は、涙を流した。
「これで、いいのよね。兄様」
兄が最後に描いた絵を妹は持って帰ることはできなかった。だって、あの絵は、兄が愛しい女に贈った求婚の絵なのだから。
兄は頑固者で、自分が納得できるまで絵を描き続ける人だった。自分が美しいと認めるモノしか描かなかった
それと、もう一つ、兄には譲らないモノがあった。
・・・俺が初めて描く女は俺の惚れた女がいい・・・
恥ずかしそうに兄は笑いながら、よく言っていた。
兄は自分が美しいと認めるモノしか描かなかった。そして、兄は初めて描く女は、自分が愛する女を描きたいと願っていた。
〈金色狐〉の話を聞いて、〈金色狐〉を見て、妹は思った。
兄は、あの〈金色狐〉に一目惚れをしたのだ。
「とても美しい狐様でしたわ。兄様が惚れてしまうのは、仕方がないわ」
『獣の領域』から帰ってきた絵師の妹は慈愛の笑顔で語った。
絵師の妹は兄を探す途中。他の旅人から、とある村で旅の絵師が『獣の領域』を守る〈金色狐〉に殺されたとの噂を聞いた。それを確かめるために、絵師の妹は〈金色狐〉がいる『獣の領域』を訪れた。
目の前にいる〈金色狐〉は自分が兄を殺したと口にした。
ならば、目の前にいる〈金色狐〉は兄の仇。それなのに、絵師の妹は、動くことができなかった。
目の前の〈金色狐〉はただ静かに、泣くことを耐えているように見える。どうして、〈金色狐〉はこんな表情をしているのだろうか。
絵師の妹は、兄が描いた〈金色狐〉の絵に視線を向ける。美しい金色の毛並みの狐が描かれている絵。
絵師の妹は幼いころから、兄の絵を見てきた。絵師の妹が知る限りの絵師である兄の最高ともいえる傑作だ。
兄はどんな想いで、この絵を、〈金色狐〉を描いたのだろうか。
(きっと、兄様は)
絵師の妹は小刀をしまう。
絵師の妹が聞いた噂、〈金色狐〉の言葉は真か偽りなのか、わからない。
ただ、一つだけ、確かなことがある。
「…………兄様は最後にあなたの絵を描けたのですね」
絵師の妹は呟く。
・・・…すまない……最後にお前の絵を描けてよかった…ありがとうな……・・・
絵師の最後の言葉。
(……ああ)
絵師の妹の言葉が〈金色狐〉の心の決意を揺らす。この兄妹は同じことを言うのだろうか。
「あなたの領域に無断で入り込んで、申し訳ありませんでした」
絵師の妹は〈金色狐〉に頭を下げる。
〈金色狐〉が娘の行動に驚いている間に、絵師の妹は小屋から出て行こうとする。
「(待ちなさい。絵は持っていかないの?)」
〈金色狐〉は慌てて、絵師の妹を止める。絵師の妹は〈金色狐〉に振り返る。
「(絵を持って行ってちょうだい!)」
〈金色狐〉は慌てるあまりに早口になる。
絵師の妹が絵を持ってくれないと、〈金色狐〉は絵師の元に逝けない。
「兄様が描いた絵はここに置いていきます」
絵師の妹は〈金色狐〉の言葉に首を横に振る。絵を持って行くことなど、絵師の妹はできるはずはなかった。
「兄様を愛してくれてありがとうございます」
絵師の妹は目元に涙を溜めながら、〈金色狐〉に優しく笑う。そして、絵師の妹は小屋から出て行った。
呆然と絵師の妹を見送った〈金色狐〉は小屋に残された絵を見る。誰にも知られずこのまま絵を残したくない。
「(……私はまだ、あなた元には行けないわ)」
まるで、絵師に生きろと言われているようだ。小屋に残された〈金色狐〉は、涙を流した。
「これで、いいのよね。兄様」
兄が最後に描いた絵を妹は持って帰ることはできなかった。だって、あの絵は、兄が愛しい女に贈った求婚の絵なのだから。
兄は頑固者で、自分が納得できるまで絵を描き続ける人だった。自分が美しいと認めるモノしか描かなかった
それと、もう一つ、兄には譲らないモノがあった。
・・・俺が初めて描く女は俺の惚れた女がいい・・・
恥ずかしそうに兄は笑いながら、よく言っていた。
兄は自分が美しいと認めるモノしか描かなかった。そして、兄は初めて描く女は、自分が愛する女を描きたいと願っていた。
〈金色狐〉の話を聞いて、〈金色狐〉を見て、妹は思った。
兄は、あの〈金色狐〉に一目惚れをしたのだ。
「とても美しい狐様でしたわ。兄様が惚れてしまうのは、仕方がないわ」
『獣の領域』から帰ってきた絵師の妹は慈愛の笑顔で語った。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
王妃の手習い
桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。
真の婚約者は既に内定している。
近い将来、オフィーリアは候補から外される。
❇妄想の産物につき史実と100%異なります。
❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる