7 / 16
置き忘れた想い
〈火焔の魔女〉
しおりを挟む
しみじみと当時を思い出す仁に、湊は気になっていたことを尋ねた。
「そんで」
「ん?」
「その〈魔術師〉さんはどない人?」
湊の問いに、仁は眼を瞬かせる。
「どんなって、容姿は真白の髪に真紅の瞳、歳は18か19ぐらい。あ、そうそう〈魔術師〉なのに刀を持っていた」
「……刀を持った〈魔術師〉……」
「ああ、炎を放つ不思議な〈チカラ〉を持った刀だった」
〈魔術師〉、横山玲奈との最初の出会いを、仁は話す。話を聞いた湊は眉を寄せて考え込み、口を開く。
「……それって、もしかして〈火焔の魔女〉ちゃう?」
「〈火焔の魔女〉?」
「……もしかして、仁君知らへんの?」
「知らない」
堂々ときっぱりと答える仁に、湊と小鉄は呆れる。相変わらず、『こちらの世界』の情報に疎い。
「………仁君らしいな」
「(うん、仁らしい)」
やれやれと首を横に振った湊が、〈火焔の魔女〉について話す。
〈火焔の魔女〉
魔術師たちの研究機関兼自衛組織の『魔術師協会・塔』に所属する〈魔術師〉。〈錬金術〉の大家と呼ばれる名門中の名家の若き当主。
珍しい武闘派の〈魔術師〉で刀を得物、〈妖刀・緋真〉の主としても有名。
〈妖刀〉
世界に十数本しかないと言われる〈人ならぬモノ〉を宿した、〈人ならぬモノ〉の意思を持った刀。人の〈カラダ〉を鞘に、使い手を選ぶ。
〈火焔の魔女〉の持つ〈妖刀〉は〈妖刀〉の中で五指に数えられる刀と聞く。〈人ならぬモノ〉たちのなかで強い〈チカラ〉を持つ上位種〈猛火の大妖〉と呼ばれる〈九尾狐の妖狐〉を宿す〈妖刀・緋真〉。
〈火焔の魔女〉は〈妖刀・緋真〉の鞘であり、優れた使い手と有名だ。
「へぇ。そうなんだ」
「その反応はないやろ、仁君。あの〈火焔の魔女〉やで」
「(あはは。仁らしいね)」
他人ごとのような反応をする仁に、湊は呆れて、小鉄は笑う。
「いやだって、まだ彼女が〈火焔の魔女〉だと決まったわけではないし?」
「……まぁ。確かに別人の可能性もあるかもしれへんけど、本物の可能性のほうが高いで」
仁の楽観的な考えを、湊は否定する。
刀を得物とする〈魔術師〉は、他にいないとは言えない。しかし、仁が見た刀が炎を纏う、妖しの〈チカラ〉持っていたことに、人の〈カラダ〉を鞘としていた。
ならば、玲奈が持っていた刀が、〈妖刀・緋真〉の可能性は充分に高い。そうなると〈火焔の魔女〉の特徴と一致する。
「そんで、仁君はどないするつもりなん?もし本物の〈火焔の魔女〉やったとしたら、この依頼とは手を切ったほうが、ええんやないか?」
〈火焔の魔女〉は『魔術師協会・塔』に強い影響力を持つ『こちらの世界』の大物とも言える存在。そのために〈火焔の魔女〉の敵は多い。下手に関わりあいをもてば、仁が危険にさらされる可能性がある。
「心配しすぎだよ。湊さん。まだ、本物だと決まったわけではないし、もし本物の〈火焔の魔女〉だとしても、依頼が終われば関わることなどなくなるんだから、大丈夫」
「……仁君がそう言うやったら、ボクは口出しせぇへんけどなぁ」
湊の心配を断ち切るように、仁はソファーから立ち上がる。
「さて、湊さん、小鉄。夕飯はうちで食べるでしょ?すぐ作るから、待っていて。それと、野崎修のことはおねがい」
「ああ、わかったわ」
「(仁!オイラ、おなかすいたから大盛りにしてね!)」
「わかってるよ。小鉄」
夕飯の支度をしようと仁は台所に向かう。そんな仁の背中を眺める湊が呟く。
「これは面倒事になるかもしれへんなぁ」
湊が呟いた言葉が本当になるとは、その時の仁は思いも知らなかった。
「そんで」
「ん?」
「その〈魔術師〉さんはどない人?」
湊の問いに、仁は眼を瞬かせる。
「どんなって、容姿は真白の髪に真紅の瞳、歳は18か19ぐらい。あ、そうそう〈魔術師〉なのに刀を持っていた」
「……刀を持った〈魔術師〉……」
「ああ、炎を放つ不思議な〈チカラ〉を持った刀だった」
〈魔術師〉、横山玲奈との最初の出会いを、仁は話す。話を聞いた湊は眉を寄せて考え込み、口を開く。
「……それって、もしかして〈火焔の魔女〉ちゃう?」
「〈火焔の魔女〉?」
「……もしかして、仁君知らへんの?」
「知らない」
堂々ときっぱりと答える仁に、湊と小鉄は呆れる。相変わらず、『こちらの世界』の情報に疎い。
「………仁君らしいな」
「(うん、仁らしい)」
やれやれと首を横に振った湊が、〈火焔の魔女〉について話す。
〈火焔の魔女〉
魔術師たちの研究機関兼自衛組織の『魔術師協会・塔』に所属する〈魔術師〉。〈錬金術〉の大家と呼ばれる名門中の名家の若き当主。
珍しい武闘派の〈魔術師〉で刀を得物、〈妖刀・緋真〉の主としても有名。
〈妖刀〉
世界に十数本しかないと言われる〈人ならぬモノ〉を宿した、〈人ならぬモノ〉の意思を持った刀。人の〈カラダ〉を鞘に、使い手を選ぶ。
〈火焔の魔女〉の持つ〈妖刀〉は〈妖刀〉の中で五指に数えられる刀と聞く。〈人ならぬモノ〉たちのなかで強い〈チカラ〉を持つ上位種〈猛火の大妖〉と呼ばれる〈九尾狐の妖狐〉を宿す〈妖刀・緋真〉。
〈火焔の魔女〉は〈妖刀・緋真〉の鞘であり、優れた使い手と有名だ。
「へぇ。そうなんだ」
「その反応はないやろ、仁君。あの〈火焔の魔女〉やで」
「(あはは。仁らしいね)」
他人ごとのような反応をする仁に、湊は呆れて、小鉄は笑う。
「いやだって、まだ彼女が〈火焔の魔女〉だと決まったわけではないし?」
「……まぁ。確かに別人の可能性もあるかもしれへんけど、本物の可能性のほうが高いで」
仁の楽観的な考えを、湊は否定する。
刀を得物とする〈魔術師〉は、他にいないとは言えない。しかし、仁が見た刀が炎を纏う、妖しの〈チカラ〉持っていたことに、人の〈カラダ〉を鞘としていた。
ならば、玲奈が持っていた刀が、〈妖刀・緋真〉の可能性は充分に高い。そうなると〈火焔の魔女〉の特徴と一致する。
「そんで、仁君はどないするつもりなん?もし本物の〈火焔の魔女〉やったとしたら、この依頼とは手を切ったほうが、ええんやないか?」
〈火焔の魔女〉は『魔術師協会・塔』に強い影響力を持つ『こちらの世界』の大物とも言える存在。そのために〈火焔の魔女〉の敵は多い。下手に関わりあいをもてば、仁が危険にさらされる可能性がある。
「心配しすぎだよ。湊さん。まだ、本物だと決まったわけではないし、もし本物の〈火焔の魔女〉だとしても、依頼が終われば関わることなどなくなるんだから、大丈夫」
「……仁君がそう言うやったら、ボクは口出しせぇへんけどなぁ」
湊の心配を断ち切るように、仁はソファーから立ち上がる。
「さて、湊さん、小鉄。夕飯はうちで食べるでしょ?すぐ作るから、待っていて。それと、野崎修のことはおねがい」
「ああ、わかったわ」
「(仁!オイラ、おなかすいたから大盛りにしてね!)」
「わかってるよ。小鉄」
夕飯の支度をしようと仁は台所に向かう。そんな仁の背中を眺める湊が呟く。
「これは面倒事になるかもしれへんなぁ」
湊が呟いた言葉が本当になるとは、その時の仁は思いも知らなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
暗闇の中の囁き
葉羽
ミステリー
名門の作家、黒崎一郎が自らの死を予感し、最後の作品『囁く影』を執筆する。その作品には、彼の過去や周囲の人間関係が暗号のように隠されている。彼の死後、古びた洋館で起きた不可解な殺人事件。被害者は、彼の作品の熱心なファンであり、館の中で自殺したかのように見せかけられていた。しかし、その背後には、作家の遺作に仕込まれた恐ろしいトリックと、館に潜む恐怖が待ち受けていた。探偵の名探偵、青木は、暗号を解読しながら事件の真相に迫っていくが、次第に彼自身も館の恐怖に飲み込まれていく。果たして、彼は真実を見つけ出し、恐怖から逃れることができるのか?
失踪した悪役令嬢の奇妙な置き土産
柚木崎 史乃
ミステリー
『探偵侯爵』の二つ名を持つギルフォードは、その優れた推理力で数々の難事件を解決してきた。
そんなギルフォードのもとに、従姉の伯爵令嬢・エルシーが失踪したという知らせが舞い込んでくる。
エルシーは、一度は婚約者に婚約を破棄されたものの、諸事情で呼び戻され復縁・結婚したという特殊な経歴を持つ女性だ。
そして、後日。彼女の夫から失踪事件についての調査依頼を受けたギルフォードは、邸の庭で謎の人形を複数発見する。
怪訝に思いつつも調査を進めた結果、ギルフォードはある『真相』にたどり着くが──。
悪役令嬢の従弟である若き侯爵ギルフォードが謎解きに奮闘する、ゴシックファンタジーミステリー。
そして503号室だけになった
夜乃 凛
ミステリー
『白き城と黒き砦を血濡れに』。
謎のメッセージが、対を成すホテルである、
『ホテル・ホワイトホテル』と『ホテル・ブラックホテル』に同時に届いた。
メッセージを反映するかのように、ホワイトホテルと、ブラックホテルにて、
殺人事件が発生する。対を成すような、二つの死体。
二つの死体は、同時に発見されたと証言された。
何のために?何故同時に?関係は?
難事件に、二人の探偵が挑む。
幽子さんの謎解きレポート
しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。
彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。
果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。
シグナルグリーンの天使たち
聖
ミステリー
一階は喫茶店。二階は大きな温室の園芸店。隣には一棟のアパート。
店主やアルバイトを中心に起こる、ゆるりとしたミステリィ。
※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました
応援ありがとうございました!
全話統合PDFはこちら
https://ashikamosei.booth.pm/items/5369613
長い話ですのでこちらの方が読みやすいかも
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる