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置き忘れた想い
〈火焔の魔女〉
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しみじみと当時を思い出す仁に、湊は気になっていたことを尋ねた。
「そんで」
「ん?」
「その〈魔術師〉さんはどない人?」
湊の問いに、仁は眼を瞬かせる。
「どんなって、容姿は真白の髪に真紅の瞳、歳は18か19ぐらい。あ、そうそう〈魔術師〉なのに刀を持っていた」
「……刀を持った〈魔術師〉……」
「ああ、炎を放つ不思議な〈チカラ〉を持った刀だった」
〈魔術師〉、横山玲奈との最初の出会いを、仁は話す。話を聞いた湊は眉を寄せて考え込み、口を開く。
「……それって、もしかして〈火焔の魔女〉ちゃう?」
「〈火焔の魔女〉?」
「……もしかして、仁君知らへんの?」
「知らない」
堂々ときっぱりと答える仁に、湊と小鉄は呆れる。相変わらず、『こちらの世界』の情報に疎い。
「………仁君らしいな」
「(うん、仁らしい)」
やれやれと首を横に振った湊が、〈火焔の魔女〉について話す。
〈火焔の魔女〉
魔術師たちの研究機関兼自衛組織の『魔術師協会・塔』に所属する〈魔術師〉。〈錬金術〉の大家と呼ばれる名門中の名家の若き当主。
珍しい武闘派の〈魔術師〉で刀を得物、〈妖刀・緋真〉の主としても有名。
〈妖刀〉
世界に十数本しかないと言われる〈人ならぬモノ〉を宿した、〈人ならぬモノ〉の意思を持った刀。人の〈カラダ〉を鞘に、使い手を選ぶ。
〈火焔の魔女〉の持つ〈妖刀〉は〈妖刀〉の中で五指に数えられる刀と聞く。〈人ならぬモノ〉たちのなかで強い〈チカラ〉を持つ上位種〈猛火の大妖〉と呼ばれる〈九尾狐の妖狐〉を宿す〈妖刀・緋真〉。
〈火焔の魔女〉は〈妖刀・緋真〉の鞘であり、優れた使い手と有名だ。
「へぇ。そうなんだ」
「その反応はないやろ、仁君。あの〈火焔の魔女〉やで」
「(あはは。仁らしいね)」
他人ごとのような反応をする仁に、湊は呆れて、小鉄は笑う。
「いやだって、まだ彼女が〈火焔の魔女〉だと決まったわけではないし?」
「……まぁ。確かに別人の可能性もあるかもしれへんけど、本物の可能性のほうが高いで」
仁の楽観的な考えを、湊は否定する。
刀を得物とする〈魔術師〉は、他にいないとは言えない。しかし、仁が見た刀が炎を纏う、妖しの〈チカラ〉持っていたことに、人の〈カラダ〉を鞘としていた。
ならば、玲奈が持っていた刀が、〈妖刀・緋真〉の可能性は充分に高い。そうなると〈火焔の魔女〉の特徴と一致する。
「そんで、仁君はどないするつもりなん?もし本物の〈火焔の魔女〉やったとしたら、この依頼とは手を切ったほうが、ええんやないか?」
〈火焔の魔女〉は『魔術師協会・塔』に強い影響力を持つ『こちらの世界』の大物とも言える存在。そのために〈火焔の魔女〉の敵は多い。下手に関わりあいをもてば、仁が危険にさらされる可能性がある。
「心配しすぎだよ。湊さん。まだ、本物だと決まったわけではないし、もし本物の〈火焔の魔女〉だとしても、依頼が終われば関わることなどなくなるんだから、大丈夫」
「……仁君がそう言うやったら、ボクは口出しせぇへんけどなぁ」
湊の心配を断ち切るように、仁はソファーから立ち上がる。
「さて、湊さん、小鉄。夕飯はうちで食べるでしょ?すぐ作るから、待っていて。それと、野崎修のことはおねがい」
「ああ、わかったわ」
「(仁!オイラ、おなかすいたから大盛りにしてね!)」
「わかってるよ。小鉄」
夕飯の支度をしようと仁は台所に向かう。そんな仁の背中を眺める湊が呟く。
「これは面倒事になるかもしれへんなぁ」
湊が呟いた言葉が本当になるとは、その時の仁は思いも知らなかった。
「そんで」
「ん?」
「その〈魔術師〉さんはどない人?」
湊の問いに、仁は眼を瞬かせる。
「どんなって、容姿は真白の髪に真紅の瞳、歳は18か19ぐらい。あ、そうそう〈魔術師〉なのに刀を持っていた」
「……刀を持った〈魔術師〉……」
「ああ、炎を放つ不思議な〈チカラ〉を持った刀だった」
〈魔術師〉、横山玲奈との最初の出会いを、仁は話す。話を聞いた湊は眉を寄せて考え込み、口を開く。
「……それって、もしかして〈火焔の魔女〉ちゃう?」
「〈火焔の魔女〉?」
「……もしかして、仁君知らへんの?」
「知らない」
堂々ときっぱりと答える仁に、湊と小鉄は呆れる。相変わらず、『こちらの世界』の情報に疎い。
「………仁君らしいな」
「(うん、仁らしい)」
やれやれと首を横に振った湊が、〈火焔の魔女〉について話す。
〈火焔の魔女〉
魔術師たちの研究機関兼自衛組織の『魔術師協会・塔』に所属する〈魔術師〉。〈錬金術〉の大家と呼ばれる名門中の名家の若き当主。
珍しい武闘派の〈魔術師〉で刀を得物、〈妖刀・緋真〉の主としても有名。
〈妖刀〉
世界に十数本しかないと言われる〈人ならぬモノ〉を宿した、〈人ならぬモノ〉の意思を持った刀。人の〈カラダ〉を鞘に、使い手を選ぶ。
〈火焔の魔女〉の持つ〈妖刀〉は〈妖刀〉の中で五指に数えられる刀と聞く。〈人ならぬモノ〉たちのなかで強い〈チカラ〉を持つ上位種〈猛火の大妖〉と呼ばれる〈九尾狐の妖狐〉を宿す〈妖刀・緋真〉。
〈火焔の魔女〉は〈妖刀・緋真〉の鞘であり、優れた使い手と有名だ。
「へぇ。そうなんだ」
「その反応はないやろ、仁君。あの〈火焔の魔女〉やで」
「(あはは。仁らしいね)」
他人ごとのような反応をする仁に、湊は呆れて、小鉄は笑う。
「いやだって、まだ彼女が〈火焔の魔女〉だと決まったわけではないし?」
「……まぁ。確かに別人の可能性もあるかもしれへんけど、本物の可能性のほうが高いで」
仁の楽観的な考えを、湊は否定する。
刀を得物とする〈魔術師〉は、他にいないとは言えない。しかし、仁が見た刀が炎を纏う、妖しの〈チカラ〉持っていたことに、人の〈カラダ〉を鞘としていた。
ならば、玲奈が持っていた刀が、〈妖刀・緋真〉の可能性は充分に高い。そうなると〈火焔の魔女〉の特徴と一致する。
「そんで、仁君はどないするつもりなん?もし本物の〈火焔の魔女〉やったとしたら、この依頼とは手を切ったほうが、ええんやないか?」
〈火焔の魔女〉は『魔術師協会・塔』に強い影響力を持つ『こちらの世界』の大物とも言える存在。そのために〈火焔の魔女〉の敵は多い。下手に関わりあいをもてば、仁が危険にさらされる可能性がある。
「心配しすぎだよ。湊さん。まだ、本物だと決まったわけではないし、もし本物の〈火焔の魔女〉だとしても、依頼が終われば関わることなどなくなるんだから、大丈夫」
「……仁君がそう言うやったら、ボクは口出しせぇへんけどなぁ」
湊の心配を断ち切るように、仁はソファーから立ち上がる。
「さて、湊さん、小鉄。夕飯はうちで食べるでしょ?すぐ作るから、待っていて。それと、野崎修のことはおねがい」
「ああ、わかったわ」
「(仁!オイラ、おなかすいたから大盛りにしてね!)」
「わかってるよ。小鉄」
夕飯の支度をしようと仁は台所に向かう。そんな仁の背中を眺める湊が呟く。
「これは面倒事になるかもしれへんなぁ」
湊が呟いた言葉が本当になるとは、その時の仁は思いも知らなかった。
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