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ヤキモチ
しおりを挟む「おい、優里。朝だって、起きろ!」
「まだ眠い…」
「学校! 遅れるぞ!」
「…。」
慌ててベッドから飛び出し、コケる。
階段から下のリビングに行く途中、階段を滑り落ちる。
由紀子に捨てられた優里は、今年7歳を迎える。
あれから全てを調べ尽くした。
優里の本当の父親は、既に逝去していた。由紀子は、いまだ行方がつかず届は出している。
田舎の両親には、バレた。たまたま俺が優里を連れて買い物に出かけてる姿をたまたま地元で親しいご近所の人が見つけ、両親へ…。
特に怒られることはなく、何故か定期的にこちらへやってきては、俺ではなく優里の世話を焼いている。
優里も仁の親の伝手で、近所の保育園へ入る事も出来、病院で調べた結果、軽度の知的障害があるが、生活は普通に出来ると言った。
「もぉ!! パパのバカ! なんでもっと早く起こさないのよ!」
パパと呼んではいるが、血のつながりはないし、周りの関係上、みんなで話し合ってそうした。
「普通に起こしたじゃねぇか。そもそも、夜遅くまで…」
「パパ、ご飯は? もしかして、これだけ?」
テーブルに置かれたのは、パンと目玉焼き。
優里は、冷蔵庫からジャムやらヨーグルトやらいくつか出し、食べ始めた。
「あと! いい! 絶対に今日は、変な格好で学校にこないでよ!!」
「わかってるって! 参観日だろ! 普通の格好でいくよ!」
小学一年の初めての参観日、俺は優里に泣かれた。教室の中で、延々と泣かれた。
仁にも両親にも、怒られた。
以来、キラキラ系の服は辞めたのに…
白でも泣かれた。
グレーでも泣かれた。
「今回は大丈夫だから! ちゃんとみんなに見て貰ったし」
恐らく俺だけだろう。ゾロゾロと俺の服を選ぶために、家族を連れてくる客は…。
ハンガーには、無難な紺色のスーツが掛かっている。
ヘアセットは、行きつけのサロンで!これもまた優里が店長にお願いしていた。
朝食を食べ終えた優里は、毎朝両親に電話してる。なぜ?
学校へと送り出し、一通りの家事を済ますと、もう昼近い。世のお母さん達、ご苦労様です。
スーツハンガーを車に入れ、サロンへ行く。
ここの店長も俺の仕事関係だし、子供がいたという事もあまり人には言わないから、信用がおける。
「もう7歳だもんねぇ。淳弥くん、子供に尻敷かれてるんじゃない?」
そんな他愛のない話もする。
セットが終わって、着替えると…
「あなた、またホストする?」とまで言われる。
「しない。もう十分稼いだ…」
高校出て妹を助ける為にその道へ入ったが、時既に遅く柑奈は天使になった。
そして、俺はホストから足を洗ったが、やはり夜系の仕事からは完全に足を洗う事はできなかった。
車は、学校へは停められず歩いて数分の駐車場へ。ここは、優里が小学校へ入学してから契約した。
「多分、大丈夫な筈!」
思わず声に出たのか、周りの保護者が少し避けた。
「2年2組は…と」
事前に優里から、参観日の御案内を渡されたいたから、それを見ながら2階へと進む。
教室を覗くとまだ半分の保護者が集まっては、何故か俺を見てはヒソヒソ話す。
あ、いた。つか、優里のやつ、俺の顔見て目を逸らしやがったな。おやつは抜きだな!
授業始まりのチャイムが鳴るとゾロゾロ廊下にいた保護者が狭い教室に入ってきた。
会釈はするも誰だかわからない。
授業は、算数だった。
優里は、軽度の知的障害ではあるが、実際にこうして授業風景を見ると、ついていけてるみたいだなと思う。
優里は、優里で、隣の席の子と話しながら何かを書いていた。
授業は、45分で終わった。あの全世界を揺るがせた感染症の関係で短くなったのは知ってはいたが…。
懇談会は、仕事の関係で出る事はできなかったが、そのクラスで知ってる人がいたから、後で教えてくれるらしい。
「で、なんで優里は俺を無視するんだ?」
「…。」
車に乗る前から、優里は何故かご機嫌斜めだった。おやつがないのが原因なのか?
「パパのバカ! 不謹慎よ!」
「はい? 不謹慎? 俺の服?」
あまりにも不機嫌だから、ケーキ屋で優里の好きなケーキ買って帰ると部屋に入るなりそう言ってきた。
「服は、お前もオッケーしたじゃん!」
「服じゃない! バカなの? ねぇ…」
意味がわからない…。
「あんな香水を撒き散らしたおばさんなんか相手にして!」
「は? 香水? おばさん?」
「もぉ、パパなんか知らない! 大嫌い!」
「…。」
これはある意味、ショックだった。由紀子がいなくなって、2年近く一緒に暮らしてるけど…。なんだろ?同じ言葉でも、付き合った女から言われる嫌いよりもグサっとくる。
ちょっと待てよ?確か、前にも似たようなことがあったような?
「って、ヤキモチじゃねーの?」
「ヤキモチ? なんで? 親子だぜ?」
「親子ってあんた。血、繋がってます?」
ん?血?繋がってないな。けど…。
あまりにも優里が、無視するから仁に電話したが…。
「ヤキモチ…ねぇ」
俺からしたら、血は繋がってなくても、親子みたいなもんだと思ってるけど。優里が、俺を?
「んな、バカな…」
20歳も歳の差があるし、俺おじさんだぜ?
「おい、優里。風呂…」
「わかってる。もううるさいなー」
いや、一度しか言ってないが?
風呂から出るまで優里は、機嫌が悪かったが…。一緒には、いつも寝てくれる。
「お前、自分の部屋があるだろう」
そう言っても優里は、寝るのは俺とと言っている。
もしかしたら、優里はファザコンなのかもしれない。
パパのバカ!
あんな香水を撒き散らしてるおばさんにヘラヘラしちゃって!!
里美ちゃんの言う通りだわ!
男は、みんな綺麗でおっぱいの大きい人が好きって言ってたし。
私は、まだツルツルペタペタだもんなぁ…。
どうしたら、先生みたいにおっぱいがボンッてなるのかなぁ?
「パパ…」
「…だっ」
相変わらず優里は、寝相が悪い。だから、別々で寝たいのに…なんてことを言える筈もなく。
右目を押さえながら、ベッドから出る。
優里を起こさないようにリビングに出ると、ソファへと座りスマホで仁に電話をする。
「悪いな、起きてたか? ああ、それで例の件は? わかった。静かにやれ…」
カチッとタバコに火をつける。
優里は、タバコが嫌いだ。特に火傷の跡はなかったが…。
ベランダに出て、遥か下につく無数の灯り。
優里は、気にはならないのだろうか?
俺がどんな仕事をしているのか?
何故、こんな高いところに住んでいるのか?
暗闇に白く揺らぐ煙を眺めながら、ふとそんなことを考える。
両親は、いまだ健在だ。優里がいることで、より健康に気を使うようになった。仕事も今は落ち着いている。
由紀子がいなくなった今、優里をどうするか?で家族で考えた事もあったが…。
優里は、泣いて俺の側から離れようとはしなかった。
恐らく俺の側にいれば、いつか由紀子が迎えにきてくれると信じているのかも知れん。
警察にも届けを出し、仲間も探してはくれているが…依然、足取りが掴めない。
「明日は、休みだったな」
いいよな、子供は。参観日や運動会の次の日が休めて…。
「え?」
「嘘…」
「え? やだ、可愛い…」
「…。」
学校の振り替え休日で、優里は俺の社にきた。
「お前、いつの間に…」
仁は、ヘラヘラと笑って、優里を見、優里は優里で社員に囲まれて笑っていた。
「偶然っすよ! 偶然!」
嘘だ…。
社員には、誰一人とも優里の事を話してなかったから、さぞ驚いた事だろうし、隠してたお詫びとして3時のおやつ代を出す事になった。
「うん? 偶然だよ。うち里美ちゃんと遊ぶ約束してたけど、里美ちゃんちのおばあちゃんが亡くなったとかで。帰る途中、人おじさんにあったの.」
どうやら、本当だったらしい…。
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