蕾は綺麗に膨らんで…

まおまお

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女の子供

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「え? うち…くるの?」

「たまには、いいだろ? いつもいつも、ホテルばっか行かなくてもさ…」

 最初は、ほんの何気ない会話からそれは始まった。

 いま俺の目の前で酒を飲んでるのが、彼女の由紀子。こいつとは、付き合って一年くらいになるが、最初の出会いからして酒が原因だったが。あの頃に比べれば、だいぶマシになったんだと思う。

「つかさ、なんで俺がお前のアパートに行っちゃだめなんだ? まさか、他に男がいるとか?」

 俺がそう聞くと、由紀子は慌てて首を振ったが…。

「そうじゃないけど。ほら私お掃除とか苦手だから…」

「別に部屋なんか、汚くてもいいけど。俺の部屋も来たことあるんだし、わかるだろ?」

「あれで汚い? 嘘でしょ…」

 由紀子は、しばらく何かを考えていたが…

「わかったわよ。そのかわり!」

「あ?」

「大きなゴミがあっても、逃げないでよね!」と俺に言葉を投げつけた。


 いつも来てるバーから、車といってもタクシーだが、走らせて20分余りで由紀子が住むアパートに着いた。

 静かに鍵を回すと、真っ暗な部屋からなんとも言えない匂いが鼻をついた。

「変わった匂いだな。芳香剤かなんかか?」

「それも、ある…」

 確かに部屋は少し乱雑化していたが、汚いという程でもなかった。

「ふた部屋?」

 隣にも部屋があるのか、閉ざされていた。

「そこは開けないで。ここよりも汚いゴミがあるから…」

「あ、そう…」

 俺が先に風呂に入ってる間に、部屋はさっきより綺麗になっていた。隣は、閉められたままだったが…。

「ね? 先にお酒飲んでてもいいわよ」

 由紀子は、笑顔で酒やつまみを用意し、風呂場へ行って、俺は飲み始めた。

 缶ビールとしけたつまみだったが、店で飲み食べするよりは、だいぶ落ち着いた。

 カタンッと音がしたが、由紀子が風呂から出た音だと思って、また飲み始めたがなんとなく誰かに見られてるような感じがした。

「由紀子? は、まだ風呂か…」と風呂場から視線を部屋のテレビに戻そうとした時に何かが見えた。

 誰かいる!?男か?そういや、大きなゴミがどうのと言ってたが…

 襖が少しだけ開いていた。

 っ!!何か白いものがふわっと見えた。

 思いっきり襖を開けたら…

 俺の目の前に、小さな女の子が白い肌着姿のまま座ってた。開けるとは思わなかったのか、いきなり開いて腰を抜かしたらしい。

「ガ、ガキ?」

「バレちゃったかぁ。もぉ!! 優里! 大人しくしてろって言ったじゃん!!」

 小さな優里という女の子は、尻餅をついたまま母親である由紀子を見て何かを言いかけた。

「なにお前の子?」

「はぁっ…。そうというか、私の子供という訳でもない。前の男の連れ子ってやつ?」

 由紀子の話だと、俺と出会う前に付き合った男がいて、そいつがこの子供を置いて消えたらしい。

「驚いたし…。お前、名前なんていうんだ?」

 子供は嫌いじゃないが、この子はいったい幾つなんだろ?

「ほら! 優里! ちゃんと答えな!」

 いままでの由紀子とは違う態度に驚いた俺だが…。

「ゆ、優里…です」

 小さくも答えるが、見知らぬ大人がいて驚いたのか、泣きそうな顔だった。

「いくつだ?」

 俺と由紀子の顔を交互にみたが、首を傾げる。

「5歳だよ。なんかね、ココが少し弱いって聞いた」

 由紀子は、自分の頭を数回指で突いた。

 5歳にしては…細いし、小さいし、髪なんかボサボサだし。

「腹は?」と聞いたが、腹がわからないらしい。

「あー、もう、こんなに散らかして!」

 由紀子が、大きな声で部屋に散らかった菓子パンや菓子の袋を片付ける。

「お腹、空いてないか?」

 そう聞いた瞬間、グウッと鳴った。

「風呂は?」

 これは、激しく首を横に振った。

「なんかね、お風呂嫌いみたい。何度も入れてるけど、その度にギャーギャー泣くし…」

「なんかあったかな?」

 由紀子が、台所へ向かうとその優里という子は、隅に置いてあった袋をガサゴソしだし、菓子を出して食べ始めた。

「こら! それは食べちゃダメだって言ってるだろ!」

 手にした菓子を落とし、泣き始める優里は、何故か押入れに入り込んだ。

 なにがどうなったんだ?

「優里! ここ置いとくかんね!」

 そう言い由紀子は、襖を閉めた。

「ごめんね。うち、子供いるんだ…」

「そ。で?」

 別に俺は、付き合ってる女に子供がいても気にはしない。

「由紀子…」

 俺の中で、なにかが燃え始めた。よくわからない何かが…。

 その夜は、いつもより激しく何度も何度も由紀子を抱き、由紀子もまたそれに応え何度も逝き、俺を悦ばせた。


 目が覚めたのは、昼だったし。隣には、由紀子が眠っていた。

 昨日のあの子供は、夢だったのか?とも思ったが…襖を開けたら白い肌着のままパンを食っていた。

「お前、それで足りるのか?」

 そう聞いても優里という子は、答えずただパンを食べるのに夢中になっていた。

 不思議な子供だった。見た感じ身体にアザはないように思えたのに、由紀子や俺を怖かってはいるし、そもそも頭が弱いってなんだ?

 暫く見てると、由紀子が起きだし、襖を閉めた。

 それから、俺は週に一度は由紀子の部屋へ来て、1日を過ごしている。


「は? なにお前ガキ連れと付き合ってんの?」

「ふん。別にいいだろうが! お前みたいに夜の女じゃねーんだし」

 こいつは、俺の後輩の仁。同じ高校で家も近所だった。偶然、俺が出入りしてるクラブで出会った。

「つか、お前って子供好きだったっけ?」

「いや、嫌いだよ。けど、なんか違うんだよな、それと…」

 俺にもそれは、わからない。といって別に俺は、ロリコンではない!断じて!

「で、そんな淳弥さんが、俺になんの用?」

「実はな、お前に頼みがあって…」

 数分後…

「いや、俺にもそれはわからんよ? 一応、聞いてはみるけど…」

「頼む…」

 由紀子に聞くと、優里という子は、幼稚園や保育園とかには行ってないらしい。頭も弱いとかいうし…。

 そこらに詳しい(親がだな)奴が、仁だった。

「でも、その由紀子って女、大丈夫なんすか?」

「なにが?」

「前の男に逃げられて、育ててきたとこに、淳弥さんが現れて…」

 確かにその不安もあったが、由紀子は子供を置いて逃げないだろう。


 そう思っていた数時間前の俺を殴りたい。

 由紀子は、消えた。

 俺の前からも、優里という子供の前からも…。

 由紀子の部屋へ行ったら、鍵は開いてたが、中はガランとしていて、優里だけがまた白い肌着姿でポツンと座っていた。

「お母さんは?」

 首を横に振って、一枚の紙を渡してきた。

 そこには、ただひとこと。

「優里をよろしく、って…あんた」

 もう解散してしまったが、俳優として活躍している某アイドルじゃあるまいし…。


 コンコンと玄関の扉を叩く音がして、由紀子かと思って飛び出たら…お腹でっぷりのハゲたおっさんだった。

「おたく駒沢さんの旦那さん? ちょっと払ってくれませんかね?」

「は?」

 あのクソアマ!!家賃3ヶ月分滞納だぁ?!上等じゃねぇか!!

 払ってやった…。

「ほんとは、昨日が退去日なんですよ! 早く出てってくださいね!」

 ドアをバンッと閉め、中へ入る。

 優里が…いた…のを忘れてた。

「おじ…」

「お前、服は?」

 何度かここにきてはいるが、いつも優里は白い肌着のままだった…。すかさず俺は、仁に電話した。

「仁、助けろ。やられた…」

 電話口の仁は、頭にハテナマークたくさんだっただろう。


「俺、子供服ってわかんなねーんだけど!」

 俺の部屋に来た仁は、そう言って両手にたくさんの子供服が入った紙袋をドサッと置いた。

「あ、この子? 優里…ちゃんだっけ?」

 俺の後ろに隠れた優里は、顔だけ出してまた背中に隠れた。

「どうすんの? これ…」

 親に言えば、絶対にこっちにやってくるのは、わかっていた。と言って周りにも言えない。言える筈がなかった…。


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 この2人のなんとも怪しい?危ない生活が始まった。
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