異世界超人

からとあき

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第三話 後編

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 ラテリーのふてぶてしい発言にテント内の殆どの人類が呆れた表情を浮かべていた。

「お久し振りですラテリーさん」

 テントの端にいたメガネをかけた金髪のヒューマンの男がラテリーに近づいてくる。

「イワン副団長、君の知り合いかね?」

「はい。ラテリーさんとはジーニス砦の戦いで魔人を倒すのに協力してもらいました。私が今この地位にいるのは彼のおかげです」

 メガネのずれを直しながらイワンと呼ばれた男は団長の問いに答える。
ラテリーが剣を振るう事が出来、ユーラフ達と出会う前、訪れていた村の近くにあったジーニス砦を魔人に占拠され村に駐留していた全種連合の部隊と共に魔人を倒し砦を奪還したことがあり、当時下っ端兵士だったイワンはラテリーが魔人を倒した現場に居合わせ、全種連合の面子を保つためラテリーの提案でイワンが魔人を倒したことになった。
その後、魔人を倒した事を疑われないように激しい修行を行い、全種連合の中でも戦闘能力だけで見たら1、2を争う程の騎士となる。

「イワンか久し振りだな。お前ほどの力があっても団長にはなれないのか?」

 貴族の階級で能力に関係なく団長が決まっているのを知っているラテリーだったが、皮肉をこめてイワンに尋ねる。
 イワンは苦笑いを浮かべながらその言葉を流す。

「なんと無礼な! 我らが団長は貴族の中でも王族に継ぐ力を持つ一族! 貴様のような下級市民が言葉をかけていい存在ではないわ!」

 団長の取り巻きが、ラテリーの発言や態度に文句を行ってくるがラテリーは意にも返さず、地形図の前に移動する。

「君に魔人の居場所を教えれば、この戦況を何とかしてくれるのかね?」

 団長がラテリーの目をみて問いかける。

「ああ。一人で敵を全滅させるのは難しいが、魔人一人を倒すぐらいだったら何とかできる」

 顎に手を当て団長はラテリーをどうするのかを思案する。

「ふざけるな! 失敗したらどうする!?」

「失敗したら無謀な馬鹿が一人死ぬだけだ、今の戦況には一切影響しない。それともお前らお貴族様が何とかしてくれるのか? お前らはテントの中で地形図と睨みあっこしているだけで何かしている気になっているみたいだが、外の様子は見ているのか? 魔獣討伐と聞いていたが、明らかに普段戦っている魔獣以上に被害が出ている。このままここにいてもいいが気づけば部隊は全滅、そして最後に魔獣の餌になるのはお前らだ」

 魔獣の戦闘能力事態はそこまで高くなく、数的な所と組織的に動いてくる事が厄介であっても、全種連合の鍛えられた兵士が遅れをとることはなく、今回のように大量に負傷兵を出す事はめったにない。

「なにお!」

 貴族の一人が剣を抜きラテリーに切っ先を向ける。

「まて!」

 その様子を団長が制止する、そして兵士が戦っている平地よりやや北にある緩やかな山岳地帯の中腹に指を当てる。

「開戦と同時に10人の魔導士で探知魔法を使用し、10人中8人がこの場所に魔人がいると進言して来た」

「わかった。ひと先ずその場所に行ってみる。ちなみに残りの二人はどこを探知したんだ?」

「ここだ。二人とも同じ場所を進言してきた」

 その場所は8人が進言した場所よりやや南に位置しており、その場所は中腹へ向かう登山道の入口付近でもあった。

「通り道だ、ついでに確認する」

「僕も行きましょうか?」

「いや、イワンはここを守ったほうがいい。転移の魔法陣が消されたらそれこそ事だからな」

「わかりました」

「じゃあ、行ってくる」

 テントを出たラテリーの前を負傷した兵士を担いだゴーレムが横切る。

「急がないとな」

 最初の目的地を二人の魔導士が探知した場所としラテリーは駆け出す、ラテリーに対し逆走するゴーレムやオークにはぶつからないように間をぬって駆け抜ける。
 ラテリーが前線に着いたときに見えたのは、大量の見たこともない魔獣と蹂躙されている兵士と兵士の壁となっているゴーレム達だった。
 魔獣は4本の腕をはやした全身紫色の人型で二本の腕で兵士を捕まえ残りの腕で首をへし折るという動作と四本の腕で槍を振り回しながら兵士を切り刻むという動作を繰り返している。
 この攻撃で生き残った者は運がいいとラテリーは思った。
一体一体の魔力もそこそこ強く、魔力の量がそのまま力となるこの世界ではただの魔獣と定義するには無理があった。

「どけ」

 ラテリーの前に槍を振り回す魔獣が現れるが、槍ともども拳で粉砕し直進し続ける。

「た……助けて!!」

 ラテリーの横から助けを求める今にも首を折られそうな兵士がいたが、目的達成のためラテリーは気に留めず次々と目の前に現れる魔獣のみを殺しながら進む。
 助けを求める兵士を救う事はできても、戦闘が長期化すればするほど被害が増える事をわかっているラテリーは、救える兵士数人と数百の兵士の命を天秤にかけた、いや天秤にすら乗せなかった。
 登山道の付近に四本腕の魔獣を六本腕にし、二階建ての家程ある巨大な魔獣一体が大きな斧を持ち立ちふさがる。

「こいつか」

 二人の魔導士が探知したと思われる魔人は、魔人ではなく魔獣だった。
 それまで足を止めることのなかったラテリーだったが巨大な魔獣の前で足を止める。
それと同時に取り巻きの四本腕の魔獣が数体ラテリーに襲い掛かってくる。

「ちっ」

 ラテリーは槍を避けカウンターで拳を叩き込む、その一瞬動きが止まり二体の魔獣が八本の腕でラテリーの両手、両足をつかみ拘束する。
その隙を逃さず六本腕の魔獣は斧を大きく振り被る。

「おおぉぉぉぉぉぉぉおお!!」

 全身に星の力をめぐらせ拘束している魔獣を振りほどく、それと同時に斧が振り下ろされ間一髪で斧を避けるが、斧が地面にあたった衝撃でラテリーと近くの魔獣数体が吹き飛ぶ。

「あぶね」

 両足を上手く動かし地面に着地したラテリーだったが、それを見計らったように魔獣が迫り来る。
向かってくる四本腕魔獣数体と六本腕魔獣の位置を確認しようと、ラテリーは顔を上げると六本腕の魔獣が腰から上下に離れている。
一瞬あっけにとられたが、向かってくる魔獣に対処しながら六本腕の魔獣の残骸付近を見ると、腰まである赤い髪を一本に縛り黒いマントと服に身を包んだ女剣士が、剣についた桃色の血を払っている。
ラテリーはその女剣士を知っていた。

「なんでこんな所にいる。魔王軍最上級魔族にして、魔王の剣と呼ばれたオリベリア・ジューラ!!」
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