異世界超人

からとあき

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第一話 後編

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「この子名前が無いんだって」

 グリがユーラフにさっきの話をしている。

「なら名前をつけないとね」

 ユーラフが名づけの提案をしてくるが魔族に名前をつけてもいいのだろうか、その疑問をユーラフに尋ねる。

「そうね。エルフの私と、プリーストのグリュンはやめておいた方がいいかも。私が名づけたら進化を促してしまうかもしれないし、グリュンだと背信行為に繋がって聖魔法が使えなくなって、加護も受けれなくなるかも」

「それは困るよ!」

 焦った様子でグリが立ち上がる。
そんなグリを座るように促し、俺が名づけることを宣言する。

「変な名前にしないでよ」

「ラテリーはセンスないからな」

 失礼な、数分考え名前を考え始める。

「なん……で……?」

 魔族は小さくつぶやき俺を、いや俺達を見ている。
何に対してのなんでなのかわからないな。

「今はわからないことばかりかもしれないけど、わからないという気持ちがあるのがいいことなのよ、そして貴女に名前をつけたいのは家族になりたいからなの」

「わから……ない……」

 ユーラフは優しい表情で微笑みかけている。

「名前が決まった。君の名はアンデルシア・ロンドだ。俺の親戚ってことにする」

「アンデルシア。いいんじゃないかしら」

「ラテリーにしてはましだね」

 失礼な。
アンデルシアは何とも言えない表情をしていたが、魔族の気持ちはわからない。
 その日はそのままお開きとなった。
部屋に戻る際にグリが俺に1レルク渡してくる。

「ラテリーおやすみ!」

「おう! グリもゆっくり休めよ。アンデルシアに変なことすんなよ」

「し、しないよ! バーカ!」

 赤くなっているグリをほほえましく思い、部屋に入り就寝する。
 翌日、空き家に向かう為早く起き準備をする。
部屋を出たところで、ユーラフが袋を手渡してくる。

「これ、朝食よ」

「すまない」

 俺がレルクを取り出そうとするとユーラフに手で制止される。

「私たちの家を見に行くのに早起きしてくれたんだからいらないわ」

「ありがとう、いってくるよ」

「うん。気を付けてね」

 玄関先まで出てきてくれたユーラフに手を振り俺は、市壁の出入口に向かい市壁の扉を護る全種連合の兵士と世間話をした後、市壁外の森林に足を踏み入れる。

 市壁から徒歩で十分ぐらいのところに昨晩話をしていた空き家があった。
空き家を大きく囲む木の柵を見て歩き、空き家かどうか確認するのに家をノックする。
 返事も人がいる気配もない、カギが壊れていたので遠慮なく中に入る。
 今住んでいる家と似た作りだが、一階、二階ともに部屋数が一つ多かった。
前入居者が残していった物はなく、埃が溜まっているのと、扉の鍵が壊れている事以外特に気になる部分はなかった。

「いい家だ」

 ここを新しい拠点にするのもいいだろう。
庭も広い、雑草で酷いことになっているが何とでもなる。
ユーラフが花壇を作りたいと言っていたことがあったが十分な広さがあるだろう、あとはこの家が誰のものかということだけだ。

 俺は家を後にしギルドに向かう。
 
 ギルドは早朝だというのに賑わっており、朝食を食べている者が多くギルド内にいい匂いが広がっている。
匂いが空腹を刺激し食事をしたい欲にかられるが、先に話を進めておこう。

 カウンターにいる運営者の一人、アイビー・ケイズンに声をかける。

「おはよう、アイビー」

「ラテリー。おはよう、今日は早いのね」

  朗らかな笑顔で挨拶をしてくる彼女アイビーとは、このギルドがただの料理屋だった頃からの知り合いだ。

大規模な魔王軍の侵略に、全種連合という全種族の集合組織が手に負えなくなり、小さい村や街を護ることができなくなった時期に冒険者や退役した兵士、傭兵が団結しそれを街で支援するようになり出来上がったのがギルドで、支援者ようは街の役人がギルドを運営するようになりギルドマスターと呼ばれている。

 ギルドに所属している者は街から身分を保障された形となり守護者と呼ばれている。
ギルドができてから5年経つが未だに守護者という呼び名が慣れなく俺は冒険者と名乗っているが、出先の街やギルドでは等級と守護者だということを伝えると、話が通りやすいのでそういうときだけ守護者と名乗っている。
 俺は空き家の件をアイビーに伝える。

「ああ、あそこの拠点ならギルドの所有物件よ」

 これは好都合だ。

「予約がなければ拠点をそこに移したいんだが」

「わかったわ。手続きしとくわね。入居者はラテリーを入れて三人でいいのかしら?」

 カウンターの下から拠点移動の書類をだしアイビーは記載を始める。

「一人増やしてほしい。名はアンデルシア・ロンド、俺の親戚だ。俺以外の親族がいないうえ、まだ九つだから証明書がない」

「そうなのね。ギルドで発行する?」

「そうだな、今は来たばかりで精神的にも落ち着いていないから、しばらく様子をみてから連れてくるよ」

「わかったわ。一週間後にもう一度来てくれる? といってもほぼ毎日きてるか」

「何かあるのか?」

「内装とか確認して修繕にどれくらいかかるか確認して、問題が無ければ鍵を渡すわ。修繕費やらなんやらはギルド所有の拠点だからこちらで持つわ」

「それはありがたい。よろしく頼む。」

 なるほど守護者にはこういう恩恵が与えられるのか。
俺はアイビーに礼を言って気分よく空いている席に座り水を頼み、ユーラフが作ってくれた朝食を広げる。

「ラテリーの旦那」

 声をかけてきたのはゴブリンのヒューゴだった。
このゴブリンとは何度か仕事をしたことがある。お調子者な所があるが機転がよくきき、耳もいいので洞窟の探索では世話になった。

「よう、ヒューゴ。まあ座れよ」

「それじゃ遠慮なく。すまねえ麦酒をくれ!」

 ヒューゴは手をあげ給仕をしているものに注文をする。

「朝から酒とは景気がいいな」

「景気もなにも今一仕事終えてきたことろなんだよ。一杯やって飯食ったら嫁と子供の待ってる拠点に帰るさ」

 確かにそうとう危険な依頼だったのだろう、衣類がボロボロになっている。
機嫌がよさそうな様子をみるとそのぶん報酬も良かったのだろう。

「誰と組んだんだ?」

 ゴブリンは当たりを見渡してから小声で話始める。

「帝国からきた魔法使いと剣士、それとハルピュイアのデュラ姉さんと小規模な魔獣の群れの討伐にいってきた」

 どうやら、ヒューゴは帝国からきた者に何かを感じたらしく当たりを警戒している。
小規模とはいえ通常なら十数体いる魔獣を討伐してきたというということは、相当な手練れだったのだろう。

「どうにもおかしいんだ。魔獣退治をしているのに捕縛用のアイテムをもっていたり、魔族を探知する水晶を持っていたり」

「そうか」

 魔族探知と聞いて思い浮かぶのは、アンデルシアの事だった。

 だがアンデルシアは捨てられたと言っていた、その帝国の者達がアンデルシアを探しているのだとしたら、魔族がどうしてアンデルシアを捨てたことを知っている。

「貴様がラテリー・ロンド、この町の上級守護者だな」

 目の前に現れたのは、全種連合の紋章をつけた剣を持つ男だった。
こいつが帝国の剣士か、気づけばヒューゴはいなくなっていた。

「飯を食っているんだが、何かようか?」

「私達から仕事の依頼だ」

 剣士の後ろから、紋章をかたどった装飾をつけた杖をもつ女がヒューゴが座っていた場所に座る。
雰囲気的に魔法使いか、剣士と魔法使いこいつらがヒューゴと仕事をした奴らだな、全種連合の奴にしてはうさん臭いことこの上ない、どうやらヒューゴが言っていた通りなにかありそうだ。

「今日は忙しいまた今度にしてくれ」

 テーブルの上空に炎の塊が現れる。
魔法使いの杖の先端につけられている水晶が赤く輝き、魔法使いは不敵な笑みを浮かべる。
炎の出現に周りがざわめき始める。

「なんの真似だ?」

「私は何もしないで待つのが苦手でね。貴様がだらだら食事をしている間に、暇つぶしも兼ねてこの古臭いギルドを燃やしてやろうかと思ってね」

「やれるもんならやってみろよ。このギルドに少しでも火が付いたらてめえを一瞬でミンチにしてやる」

 殺気をこめて魔法使いを睨みつける。

「カイラ様。ここは私が」

 剣士が魔法使いをカイラとと呼び剣を抜き俺の目と鼻の先に突きつける。
周りが心配そうな表情で俺達を見ている。

「表に出な」

 語気を強めた言葉を放ち二人と共にギルドから出る。

「ラテリー」

 心配そうな顔をしたアイビーが声をかけてくる。

「アイビーすまない。騒がしてしまった」

「うん。気を付けて。あとむかつくからぶっ飛ばして!」

「おう」

 数歩程の距離をとり二人と退治する。
魔法使いが魔法を強化するため詠唱している間に剣士が盾となり魔法使いをかばうのが、魔法使いと剣士の組み合わせでよくあるセオリーだ。

「カイラ様ここは私一人で」

「二人でもいいんだが? その方が時間が短縮できる」

 剣士は魔法使いの前で膝まづく。

「お前に任す」

 魔法使いはギルド前のベンチに腰をかけ俺達を楽しそうな表情で見ている。
すぐにそのいやらしい笑みを凍り付かせてやる。

 立ち上がった剣士は剣を構える。
俺は右こぶしを前にだし星の力をまとわせる。

 1年前にユーラフ達を隕石から護るために、隕石を受け止めた俺は魔法が使えなくなり、代わりに未知の力が使えるようになった。

その力を俺は星の力と名づけ最近少しづつだが扱いに慣れてきた。

「貴様は剣士だと聞いていたが。剣はどうした?」

 剣士が剣を構えながら過去の話を持ち出す。
星の力のせいで、少しでも力を入れてしまうと剣が壊れてしまうため素手を主体としている。

「剣の勝負がしたかったのか? 悪いが俺は武闘家だ」

「笑わせるな。素手が剣に勝てるはずなかろう」

「いいからかかって来いよ、お前の主人はよく吠える犬が好きなのか?」

「調子にのるなよこの冒険者風情が!」

 怒りにまかせ剣士は俺に突っ込んでくる。
 はたから見たら、剣士が一瞬で俺の間合いを詰めたように見えるかもしれない。
だが、俺には剣士の動きがとてものろく見える。
突き出された剣をかわし、剣士の顔面をつかみ地面にたたきつける。
ほんの一瞬の出来事で、剣士は自分が何をされたのか理解することもできなかっただろう、砕かれた頭蓋骨から血が流れ硬い地面に血が染みこんでいく、剣士は死んだ。
ひきつった笑みを浮かべている魔法使いをみながら死体となった剣士を指さす。

「どうする? 相方は先に死の世界に旅だったぞ、後を追うなら手伝ってやる」

「ふん。野蛮人が」

 魔法使いは負け惜しみをいいつつ、転移の魔法を使いいなくなる。
詠唱無しで転移の魔法を使えるとは、口だけじゃなくなかなかの使い手だったのだろう。
死んだ剣士の懐をあさりレルクの入った袋を見つける。

「三千レルクか、かなりの金持ちだな」

 掃除屋を呼ぶ代金と、騒がせた詫びに守護者の朝食料金として 様子を見ていたアイビーに500レルク渡す。
その後、ユーラフの朝食を食べ家に向かう、あの様子だとまた仕掛けてきそうだな用心しておこう。
二週間後俺達は引っ越しをすることになった。
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