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第八話「無職の最後」

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注意 今回はR18要素はありません。

無限空間生活1日目

 無限空間に転移した村長には傷一つなく襲撃があったことも覚えていなかった。

「村長良かった!」

「そんなに慌ててどうかしたのかな?」

 アイガは村長を強く抱きしめ村長は困惑していた。

「おいおい、ワシにはそんな趣味はないぞい」

「俺にもないよ!」

 アイガは泣きながら笑った。

無限空間生活2日目

 ワンレス村長から剣の稽古をつけてもらう事になった。
ここで剣の修行をしても意味があるのかアイガにはわからなかったが、ワンレス村長と一緒にいられるならと精一杯剣の修行にうちこんだ。
午前は剣の午後はワンレス村長から支配者について教えてもらった。

無限空間生活5日目

「村長は昔剣士だったの?」

「ワシの若いころは剣士をしておってな、冒険者の一団に弟のガイレスと一緒に入れてもらって色んな所に行ったんじゃ」

「冒険者って宝探しでもしていたのか?」

「そうじゃとも、ワシらの冒険は世界を救う冒険じゃった」

「またまた~。おおげさなんだから」

「信じておらぬな~!」

「はいはい、信じてますよ」

無限空間生活21日目

「アイガ、だいぶん強くなってきたの」

「ワンレスにはまだまだ及ばないよ」

 剣の修行にも慣れてきたのか、模擬戦でアイガがワンレスに勝つ頻度が増えて来た。

「衰えとは悔しいものじゃな、すぐに若い者に抜かれてしまう」

「そんなこと言うなよ! 完勝できてるわけじゃないんだから」

「そこに関してはまだまだ負けんぞい」

 アイガは恐れていたもしワンレスに勝ってしまったら無限空間から出てしまうのではないのかと、だからといってわざと手加減もしたくは無かった。
それはワンレスに対して失礼だと思ったからだ。

無限空間生活28日目

「そういえば、ワンレスはなんで村長になったんだ? 実力的には町長にだってなれただろ?」

「この村はな、ワシの嫁さんの村だったんじゃ」

「結婚してたのかよ。でもワンレスの奥さん見たことないな」

「若いころに死んでしまってな」

「あ、ごめん」

 奥さんの死にふれてしまったこともそうだが、現実の世界ではワンレスが死に直面していることがアイガを後ろめたい気持ちにさせた。

「もうかなり昔の事じゃきにするな」

「どんな人だったんだ?」

「戦争で顔を火傷してしまってな、皆からは醜い女と言われておった。でもとても綺麗な心の持ち主じゃった、ワシはそこにほれ込んだ。ワシは嫁さんに尽くしたいと思ってな冒険者を抜けたんじゃ」

「マジか! 魔人の復活を阻止する旅だったんだろ、そんな抜けて大丈夫だったのかよ」

「いやあ、あの時は仲間からかなり罵倒されての、弟には兄とは思わん! 言われてしまったよ。でもワシも一度言い出したら聞かないから冒険者達とは喧嘩別れをしてしまってな。それでもワシを気にかけてくれる人もいて、冒険者の目的を達成して解散した後、たびたび訪れてくれるようになったんじゃ」

「なんやかんやいい友達だったんだな」

 村長の入れた紅茶を飲みながら雑談をするアイガはとても幸せだった。

「それで気が付いたら村長になっておったわい」
「そこ省くのかよ」

「だからこの村は大切なんじゃ、なのに盗賊なんぞに……盗賊……はて?」

「ワンレス今日は休もう!」

 ここ数日、ワンレスが現実世界の事を思いだそうとしている様子が見られるようになり、アイガは本当のことを話すべきなのか苦悩していた。

無限空間生活74日目

「参った参った。ワシの完敗じゃ」

 とうとうアイガはワンレスに完勝してしまい、もとの世界に戻らないか心配する日々を送っていた。

「あとは、ワシの知識を授けるだけじゃな」

「ゆっくり教えてくれよ」

「そうじゃな……村は大丈夫かのう」

「ワンレス、ここが村だよ」

「そうじゃったかな?」

無限空間生活159日目

「これでワシの知っていることは全部じゃ」

「ありがとうワンレス、これでこの世界を知ることができたよ」

「なあに、お前さんの役に立てて嬉しい限りじゃ」

「今日は俺が何か作るよ」

「キノコのスープだけは嫌じゃぞ、死にかけたからな!」

無限空間生活222日目

「そろそろ限界じゃのう」

無限空間生活251日目

「アイガ。少し話をしよう」

「うん」

 アイガ達は家からでて森の中を散策することにした。

「アイガ君。そろそろ帰りなさい」

「どこにだよ? 帰るってあそこが俺達の家だろ?」

 どういう意味かはアイガが一番よくわかっていた。
この空間にいる目的も達成していることもわかっていた。
それでもワンレスと一緒にいたいという気持ちが強く、無理やり無限空間に残っていた。
そのため、突発的に強い頭痛がアイガを襲っていた、それにワンレスも気づいていた。

「もう十分じゃ。最後にいい思い出を貰った」

「何を言っているんだ全然ピンピンしているじゃないか」

「本当のワシは死にかけているんじゃろ?」

「なんでそんなこと」

「あの日、両親を殺されたオリーブがワシの所に着てな、ワシは見たんじゃ村が燃えているところを」

「もういいよ」

「それでワシはオリーブだけは絶対に助けなきゃならんと思った」

「そんな話いいから、家に帰ろう」

「そして盗賊が襲撃してきてな、1人は倒したんじゃがもう一人は倒せなかった。でもお前さんが助けに来てくれたんじゃよ。声しか聞こえ無かったワシにとって、救いじゃった。アイガ君助けてくれてありがとう」

「結局なにもできなかった」

「そんな事はない、オリーブを救ったじゃないか。だから何も気に病むことはない。さあ帰ろう皆待っているのじゃろ?」

「でも。それじゃ」

「わかっておる。だからここできちんと別れをすまそう」

「ワンレス」

 涙を流しながらワンレスを強く抱きしめる、それに対してワンレスも強くアイガを抱きしめた。

「最後に村を、いやもう村と呼べるかわからないが、君に譲りたいその為にいろいろワシの知識を与えた。できるね」

「うん」

「いい子じゃ」

 ワンレスはアイガの頭を優しく撫でる。
その表情には、慈愛と少しの寂しさが映っていた。

[無限空間から現実世界へ転移します]

 アイガは、ここでの事は絶対に忘れないと心に誓った、ワンレスが忘れてしまっていても。
アイガが目をあけると元の世界に戻っていた。
腕には息が絶え絶えのワンレスがいる。

「ワンレス」

「アイガ君……」

「村長!」

「イレイザか……エリザさんもいるかのう?」

「はい」

 村長の眼は空いているがもう見えてはいなかった。

「オリーブもいるな?」

「うん、いるよ」

「君たち三人が……証人だ」

「ワンレス記憶が」

 アイガはワンレスの様子から無限空間の記憶が残っている事を察した。

「この村を、アイガ君に……譲渡する。新しい村長は……アイガ君じゃ、よいな」

 三人は困惑したが、村長の最後の望みだという事がわかっていたので承認した。

「ありがとう。アイガ君……紋章の箱、開け方は……」

「覚えているよ」

「いい子じゃ。あとは……任せ……」
 アイガは息を引き取った村長を力強く抱きしめ、涙を流した。
この日アイガは名もなき村の村長となった。
それと同時に年の離れた大切な友人を天に還すこととなった。
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