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窮すれば濫す

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「どういう事なんですか!?」


 五百蔵さんと駒場さんに連れられて、俺と勇気くんはとあるビルの会議室に来ていた。

 その会議室で声を荒げてしまう。両親の反応が余りにも普通過ぎたからだ。

 両親に尋ねても、「どうしたの?」と俺が逆に心配される始末。両親の中では、俺は行方不明になんてなっておらず、普通の高校生として生活していた事になっていた。

 どう考えてもおかしい。政府が何かしら裏から手を回したとしか思えない。


「それについては謝罪させて頂きます」


 と詰め寄る俺に対して、五百蔵さんは頭を下げる。典型的日本人である俺には、こうやって素直に頭を下げられると強く出れない。


「加藤くんが二度目の異世界転移をした所を、誰かに見られたようでして、それが加藤くん、佐藤くんのご両親まで伝わり、政府へ抗議の電話がありました」


 そんな所まで話が行っていたのか。


「テレビ局にこの事をリークしたり、ネットで拡散すると脅してきましたので、こちらとしても対応に苦慮していたのですが、その頃に別件で出会った人物が、催眠術の使い手だったもので、お二人のご両親の安寧な生活を思って……」

「催眠術で俺たちが普通に生活しているように見せ掛けた、と?」


 首肯する五百蔵さん。確かに俺たちの事情を説明した所で、嘘を吐いていると思われるだけだが、催眠術まで使ってくるとは。


「後遺症とか大丈夫なんですか?」

「はい。その人物の話では、多少記憶の混濁を起こすかも知れませんが、お二人が戻ってきたら、違和感なく現実に移行するそうです」

「まあ、それなら良いか。ねえ勇気くん」


 俺が勇気くんを振り返ると、衝撃を受けて固まっている勇気くんがいた。


「そ、そんな事になってたの!?」


 何の違和感も感じていなかったようだ。


「はぁ。まあ勇気くんは勝手に自分の中で落とし所を見つけてもらうとして、それで? そんな事なら昨日の内に話せば良かった事ですよね。わざわざ会議室に俺たちを呼び寄せたのはどういう了見ですか?」

「流石加藤くん。話が早くて助かるわ。佐藤くんも、もう良いかしら?」

「え? あ、はい!」


 多分まだ頭の中ぐるぐるしているだろうけど、勇気くんが返事をすると、駒場さんがノートパソコンを開いて音声を再生させる。


『我が名は魔王ドゥルドゥームなり。勇者どもよ! 聞いているか! どこまで逃げようとも、我らに刃向かった罪は消え去りはしない! そこが地獄の果てであろうとも、我らが追い詰め、引きずり出し、我が前で魂も残らぬ万の刑で消滅させてやろう!!』


「……どうですか?」


 音声の再生が終わった後、五百蔵さんが俺たちに尋ねてくる。


「う~ん、魔王さん、スッゴい怒ってましたね」


 勇気くんもどう意見らしく、うんうん頷いている。


「…………やはりこの音声が理解出来るのですね」


 そこなのか突っ込む所。五百蔵がそう感じると言う事は、五百蔵さんには理解出来ない異世界言語と言う事か。


「この音声はどこで録られたものなんですか?」


 俺の質問に、五百蔵さんと駒場さんは顔を見合せてから、五百蔵さんが口を開く。


「宇宙よ」


 と五百蔵さんは上を指差した。


「宇宙……ですか?」


 まあアグラヴ所長の話では、アイテールも地球も同じ宇宙にあるらしいし、他の異世界がこの宇宙のどこかにあっても驚きはない。驚きはないが、魔王からの宣戦布告が気になる。


「SETIって知ってる?」

「SETIですか?」

「確か地球にやって来る無数の電波なんかから、宇宙人が発しているを探し出すプロジェクトですよね」


 俺は知らなかったが、勇気くんはご存知だったようだ。


「ええ。そのSETIが一ヶ月前、宇宙人から発せられたであろう怪電波を受信したの」

「それが今の魔王の勇者殺す宣言ですか」


 大きく頷く五百蔵さんと駒場さん。駒場さんも頷いている所を見ると、かなり早い段階から知っていたのだろう。


「で、この怪電波に問題があるんですよね?」

「ええ。この怪電波を受信した事は世界中で大ニュースとなり、アメリカのNASA、日本のJAXAなど、各国で研究が進められたわ。そしてどうやら日が沈む7時頃に、東の空から怪電波がやって来ているのが分かったの」


 ほうほう東の空の向こうに、魔王が住む異世界のような星がある訳か。


「そして、その怪電波が徐々に地球へ向かってきている事も分かったの」

「「はえ!?」」


 思わず勇気くんと二人で、変な声を出してしまった。


「近付いてきてるんですか?」

「ええ」

「魔王が?」

「ええ」

「大問題じゃないですか!」

「ええ。でも初めは世界中喜びムードだったのよ。とうとう宇宙時代の到来だ! てね」


 まあ、言葉が分からなければそれはそうかも知れない。


「あれ? じゃあいつそうじゃなくなったんですか?」


 俺の言に頷く五百蔵さん。


「告発者が現れたのよ。アメリカ、中国、イギリス、ドイツ、ブラジル、南アフリカ、そして日本。その告発者たちは怪電波を同じように訳し、その勇者は自分だと言って、各国政府に保護を求めてきたの」


 なんだそりゃ? 全然勇者らしくないな。


「初めはどの国も取り合おうとしなかったわ。日本以外わね」


 まあ、日本には俺と勇気くんと言う前例があるからな。それに一ヶ月前だと、アグラヴ所長の話も日本に届いた後かも知れない。


「で、内調が彼女を詳しく調べてみた結果、加藤くんと同じ、人体をレベルアップさせるナノマシンが検出されたの」


 これによって彼女の発言に真実味が増し、内調から政府上層部へ、そこから各国政府にその情報が伝えられたわ」


 何とも疲弊しきった顔の五百蔵さん。余程大変な調整だったのだろう。


「それで、俺たちも呼ばれたって事は、その宇宙からやって来る魔王とやらの対策に加わってくれ、と?」


 首肯する五百蔵さん。駒場さんの方を見ても、苦笑いだ。


「はあ、時間をくれませんか?」

「余り時間が無いのよ!」

「明日にでも来るんですか!?」

「JAXAの計算では二年後よ」

「二年もあるじゃねえか!」

「たった二年よ! 相手は外宇宙を二年間問題なく移動出来るだけの技術力と魔法を有しているのよ! それに対して各国政府で様々な調整をし、更に地球レベルで調整をし、武器を量産し、シェルターを造り、二年なんてあっという間だわ!」


 中々に切羽詰まった状況らしい。でも俺には二年先なんて想像が出来ない。


 俺と勇気くんが互いに顔を見合せ、どうするかと首を捻っていると、会議室のドアがノックされる。


「どうぞ」


 誰何する事なく五百蔵さんが招き入れると、それは黒髪長髪の美少女だった。


生口いくち ようさん。私がさっき言った勇者よ」


 紹介された生口さんは、恐縮して俯いてしまう。


「私なんて、全然勇者じゃありません。私たちは皆、逃げ帰ってきたんです」


 生口さんの話では、生口さんたち七人は、勇者召喚によって別々の場所から召喚されたそうだ。

 勇者として召喚され、初めは嫌々だった七人も、冒険を続ける内に勇者として自覚が芽生え、その冒険も着実に進んでいった。

 だが生口さんたちは虎の尾を踏み、龍の逆鱗に触れてしまったのだ。倒した魔王軍の中に、魔王の子供がいたらしい。

 自身の子が殺された魔王は憤怒し、自らが軍勢を率いて勇者たちを追い詰めようと、襲い来た。

 その勢いは凄まじく、山は平らに、河は干上がり、草木は全て枯れ、街は死体で埋め尽くされた。

 ここに来て世情は魔王側に傾き、魔王の傘下に入り難を逃れようとする人間国が続出。勇者を召喚した国は、周辺諸国から吊し上げられる事になった。

 これによって勇者召喚をした国は白旗を上げて降伏宣言。「勇者を差し出せ」との魔王の命令に、勇者捕縛令が発令された。

 魔王軍からも人間からも追われる事になった生口さんたち勇者七人は、命からがら、ある賢者の所まで逃げ延びる。それは勇者召喚をした賢者であり、彼にも捕縛令が出ていた。

 その彼を合わせた八人で転移魔法を使い、地球に逃げ延びた。と言う話らしい。


「成程ねぇ。折角生き延びたってのに、まさか魔王がこんなにしつこく追ってくるとは思わなかったと」


 首肯する生口さん。それはそうだろう。俺でも思わない。

 さて、当人に会ってしまい、事情まで聞かされてしまった。これは感情的退路を塞がれたとみて相違無いだろう。

 ちらりと五百蔵さん、駒場さんを見ると目を反らす。生口さんは今にも泣きそうでいたたまれない。


「勇気くん、どう思う?」

「この状況で「やらない」とは言い出し辛いですよねえ」


 同意見。仕方ない。


「分かりましたよ。手伝える事があったら手伝いますよ」


 俺の発言に駒場さんはすまなそうにしているが、五百蔵さんは素直にガッツポーズなんてしてる。生口さんは驚いていた。

 はあ、それにしても俺は損な性格をしている。

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