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運がない

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 カッテナさんとダイザーロくんの提案だが、やはり各国の首脳たちは良い顔をしない。ビジョンの向こうで渋い顔をしている。


『僕としては、新たに手に入れた化神族は、バヨネッタ様たちが入手したのだから、バヨネッタ様の差配で配下に下賜するのも当然だと思うけど……』


 オルさんはこちらの提案を支持してくれたが、それでも難しい顔をしている。


「やはり一国が大量に化神族なりガイツクールなりを保有するのは、問題がありますか?」


『いや、そこはハルアキ宰相を信用しているから、悪用される事はないと、僕は問題ないと思っているよ』


 信用して貰っているのは嬉しいが、その顔は浮かない。何とも奥歯に挟まった言い方だ。


「なら、何が問題なの?」


 痺れを切らしたバヨネッタさんが、ちょっと強めのトーンで尋ねる。


『バヨネッタ様たちからの提供で、『闇命の欠片』を研究している最中なのですが、『闇命の欠片』十個で、化神族を生み出す事には成功しているのですが、その仕組みをフィードバッグさせて、新たにガイツクールを作る事に苦心しているのです』


「ああ、つまり、オルバーニュ氏としたら、『闇命の欠片』の研究から、ガイツクールを大量生産出来れば、それを各国に供出し、そもそも、戦力的不公平をなくす事が出来るのに、その研究が上手くいっていない現状で、天魔国だけに化神族と言う戦力が集中するのはよろしくない、と?」


 俺の説明に眉間にシワを寄せるオルさん。確かに、オルさんに『闇命の欠片』を提供したのは、化神族なりガイツクールなりを大量生産出来ればなあ。と言う下心があっての事だったが、現状上手くいっていないようだ。それも提供段階で、こちらとしても織り込み済みだ。魔法科学が地球やこの異世界よりも発展しているであろう浅野が活躍している小銀河でも、ガイツクールを作製するのは難しく、こちらに提供されたガイツクールはたったの十個だった。


『先程も言った通り、僕はハルアキ宰相を信用しているから、提供するように言われたら、差し出す事に何ら問題ないんだけど……』


「だけど?」


『本音を言うなら、まだ研究成果が出ていないので、出来るだけ多く、『闇命の欠片』も化神族も確保して置きたい』


 本当に本音をぶっちゃけたなこの人。


「今って、どんな状況なんですか? こちらが提供したのは、化神族が三個と、『闇命の欠片』を三十九個ですよね?」


『一つは化神族へ合成させて、その後、八つや九つで化神族が出来ないか、『闇命の欠片』を核に、浅野女史から提供されたガイツクール作製法から、魔力片を作り出し、それと組み合わせる事で化神族やガイツクールが作り出せないか、試している段階だね。その比較対象として、サンプルは多い方が良いから……』


「手放したくない、と?」


 良い大人が、イタズラがバレた子供のように目を背けないで欲しいな。


「どこら辺が駄目だとかも分からないの? オルは『再現』スキルを持っているでしょう?」


 バヨネッタさんの言に俺も頷く。『再現』持ちのオルさんがいれば、化神族なりガイツクールなりを生み出す事も難しくないと思うのだけど。


『う~ん。僕自身はそう的外れな事をしているつもりはないんです。実際それっぽいものは出来ているし』


「それっぽいもの。ですか?」


『うん。魔力増幅器としたら、まあ、使えるかな? くらいのものだね。それも化神族やガイツクール程ではなく、また、意思も確立出来てない。つまり生命と成り得ていないんだ』


 生命成り得ていない、ねえ。


「そこって大事なんですか? 生命が宿っていなくても、魔力増幅器として使えれば、十分だと思いますけど?」


『いや、それだと、魔力演算で使用者の脳への負担が凄くなるんだ。化神族やガイツクールの凄いところは、生命が二倍になる事で、レベル五十以上のスキルでも魔力演算処理が圧倒的に上昇して、膨大な魔力を無理なく使えるところだから。今完成しているのは、使い勝手は化神族やガイツクール程ではなく、また、増産しようにも、魔石を大量に消費するから、コストパフォーマンスがすこぶる悪いんだよねえ』


 ふ~む。化神族にそんな効果があったのか。使ってて全然気付かなかった。なんか腹の中でアニンがほくそ笑んでいるけど、気にしたら負けな気がする。


「何が駄目なんですか?」


『『鑑定』したら、どれもステータスの幸運値がゼロなんだよねえ』


「幸運値がゼロ? それって何か問題あるんですか?」


『うん。僕もガイツクールの作製に携わるようになって理解したんだけど、ガイツクールも化神族も、膨大な魔力を凝集させた魔力生体兵器、魔力生命体だろう? 魔力のみで出来ているから、ステータスでも物理的な指標である、膂力、耐久、敏捷のパラメータは元々ゼロ。その代わりに器用と精神の数値が高い傾向にある』


「そうなんですか」


『そう。そしてガイツクールの作製上、物質的制約がない分、器用と精神が一定以上の数値に達していないと、そもそもガイツクールにならないんだけど、器用と精神の数値を上げようとすると、どうにも幸運の数値が比例して下がっていってしまってね、器用と精神のガイツクールでの基準を満たそうとすると、幸運値がゼロになってしまうんだよ』


 話を聞くに、それってどうやってもガイツクールが出来ないのでは? それこそ、何百、何千、何万回と試行してやっと一つ二つ出来るのが関の山だろう。それこそコスパが悪い。成程、浅野が苦戦する訳だ。


「精神のパラメータが高ければ、幸運値がゼロでも、生命体として認定されないんですか?」


『バヨネッタ様の妹君であられる、そこにおられるアネカネ嬢に協力を仰ぎ、彼女のスキル『生命の声』で確認して貰ったんだけど、彼女曰く、これでは生命ではないそうだ』


 ううん? と俺がアネカネを振り返ると、首肯が返ってくる。


「う~ん、アネカネ嬢の『生命の声』って、スマホのAIでも生命判定しますよ?」


『うん。そうなんだけどねえ。僕らもそう思ってあっちを『鑑定』したら、あっちにはそもそも、物質的基礎である器があるから、一応膂力なんかのパラメータにも数値が振られているし、幸運値のパラメータにも少しだけ数値が入っていたんだよ』


「そうなんですか?」


 ちょっと意外だ。大量生産品だぞ?


「どうやら、最初から完品な訳じゃなくて、拡張性を持っている事が、使用者によって様々な方向に変化? 進化? するから、それが生命判定されて、幸運値に数値が入っているみたい」


 とアネカネ談。つまり、いくら器用と精神に高い数値が入っていても、完品で拡張性がないそれは、ガイツクール成り得ないのか。


「現状、その解決案は見付かっていない。って事ですね?」


『そうだね』


「困りましたねえ」


『本当に』


 二人して溜息を吐いてしまった。

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