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巧み

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 俺の意見を聞いて、皆黙ってしまった。どうしたものか、このエキストラフィールドから出る光明が見えたのに、フタをされた印象だからだろう。


「バヨネッタさんの『慧眼』でも見通せない感じですか?」


 俺の疑問にバヨネッタさんが首を横に振るう。


「全員が超越者になってギフトとスキルが増えた事で、選択肢も増え過ぎて、一つに絞れないのよ。どれも一長一短って感じかしら」


 成程。


「武田さんの『空識』はどうですか? 『空識』には未来視も含まれていましたよね?」


「俺も同じ感じだな」


 そうなんだ。


「そもそも、タケダが超越者になって得たスキルやギフトも汎用性が高い。って言うのも、悩みどころなのよ」


 とバヨネッタさんが嘆息を漏らす。そうなのか。


「武田さん、差し支えなければ、どんな能力か教えて頂いても?」


「まあ、別に構わねえよ。他の面子は工藤が眠っている間に知っている事だしな」


 そうですか。


「まず、超越者としては巧仙と言うものだった」


 巧仙ねえ。『空識』や『転置』があるし、武田さんの立ち回りが上手い(巧い)のは頷ける。そこに更に便利なギフトとスキルがプラスされた感じかな?


「どんなギフトとスキルだったんですか?」


「スキルは『壁抜け』だ」


 は?


「『壁抜け』なんて名前だけど、生命体でなければ、どんな物質でも通り抜けられる能力だな」


 と武田さんが手をテーブルを透過させるように上下させて見せてくれた。


「………バグですか?」


「どちらかと言うと、運営がわざと用意した裏技って感じだな」


 ああ、確かに。コンピュータゲームの歴史において、バグは切っても切り離せないものだ。そもそもAIが発達してきている現在も、ゲーム制作において人力でコンピュータ言語を入力する機会は少なくなく、そうなるとどうしたってヒューマンエラーが出るのは必定だ。


 それをなくす為に、ゲーム会社はデバッグと言うバグを排除する作業を行う。これは会社によって様々で、自社内でデバッガーを雇用したり、デバッグ専門の会社に依頼したりする時もあれば、ベータテストと称して、限られたゲーマーに実際にゲームをして貰い、バグや不満点を洗い出す方法が取られたりもしている。


 そんなバグの中でも有名なのが『壁抜け』だ。コンピュータゲーム黎明期より存在し、実際には壁があって進めない場所が通行可能となり、ゲーム進行を大幅に短縮する事を可能とする。ゲームでRTAを行うゲーマーなどが、これを使ってそのゲームの最速クリアを配信したりする事もあったりするくらいだ。


 それだけ有名な『壁抜け』も、当初は文字通りバグだった訳だが、現在では、ゲーム会社がわざとそれが出来るように用意していたりする場合がある。RPGなんかだと、壁によって通れないはずの先に、強力な武器が隠されていたりするのだ。このPTPの運営が、そんな感じで『壁抜け』を用意していたとしても驚きではないな。


「スキルは分かりました。ギフトは何だったんですか?」


「『光晶』と言う、光を物質化させるものだ」


 言って武田さんが何もないテーブルの上を指で弾くと、弾いた先にコロンと三角柱の小さなプリズム体が現れた。成程、光を物質化か。


「それって、どこまで出来るんですか?」


「察しが良いな。デムレイとダイザーロに協力して貰って実験してみたんだが、デムレイの岩壁は、光を剣にしたり、結晶化させた光の玉で、それなりにダメージを与えられる感じだな。手応えは光の剣や『五閘拳・光拳』に劣るが、自由度はこちらの方が遥かに上だ。どんな形にも成形出来る」


 まあ、元が質量のない光だし、武器や武術のような、攻撃特化のギフトじゃないんだろう。


「ダイザーロくんの『電気』に対してはどうでしたか?」


「ダイザーロがまとう電気に触れると消滅する」


 消滅かあ。


「重ね合わせをしてみても、ですか?」


 そう質問したら、呆れた顔をされてしまった。


「高校生のくせに、フェルミ粒子とボース粒子を知っているのおかしくない?」


「ああ、俺の友達のうち、三人が異様に頭良かったんで、その影響で、変な知識が身に付いてて」


 説明すると、電子はフェルミ粒子で、質量を元々持っているので、もし、一つの箱に一つの粒子しか入れない場合、電子はその箱に一つしか入れられない。しかし光子は違う。光子は質量を持たないボース粒子である為に、一つの箱にいくつでも光子を入れる事が可能と考えられているのだ。


「結論から言えば、ダイザーロの場合は『電気』に加えて、『超伝導』があるからな、『光晶』でどれだけ光を束ねても、電気に変換されちまうんだよ」


 ふむ。光子は電磁波を説明するうえでの概念。とも言われているからなあ。電気が光るのは、電子からエネルギーが失われ、それが光に変換されるからだとか、またその逆で、光は全てのエネルギーが電子に受け渡されると、その光は消滅するとも言われている。


「だがまあ、それは俺が『光晶』のみを使った場合だ」


『光晶』のみ。そうか、武田さんには『壁抜け』のスキルがあるから、


「『壁抜け』を使えば、ダイザーロの電気の壁もすり抜けられる。ただ、相性があるから、ある程度電気の壁に吸収はされてしまうがな」


 肩を竦める武田さん。確かに、『超伝導』もあるから、電気抵抗ゼロで、光が電子に流れるのは仕方なしかも。う~ん。


「『光晶』が物質化出来る光って、どの辺までなんですか?」


「光だな。可視光線に紫外線、赤外線も入る」


「放射線や電波、電磁界は入らない訳ですか」


 俺の問いに頷きで答える武田さん。成程。聞けば聞く程、雷霆王であるダイザーロくんの凄さが分かるな。


「それに電気が発生させる熱も遮断出来ないぞ」


『光晶』は完全に光特化か。赤外線も結晶化出来るみたいだから、少なくとも熱を内包した光の結晶は作れるだろう。なら『北の氷結洞』か、『東の大草原』か、でもバヨネッタさんが、武田さんを東西南北のどこへ向かわせるか悩む。って事は、


「もしかして、『壁抜け』って結構な範囲、光も通すんですか?」


「まあな。俺の『空識』の範囲内ならどこでも光を透過させて、物質化出来る」


 うっわ~、えぐいなあ。それなら『南の溶岩洞』でもオーケーだし、深海に行く可能性があるなら、『西の大海原』もありだ。


『空識』の範囲内で『光晶』で光の結晶を作れば、『転置』でどこへでも移動可能だし、相手が光の届かないところへ逃げたところで、『壁抜け』で光が差し込むから逃げ切れない。たとえ夜だとしても、武田さんは光の剣を持っているし、『五閘拳・光拳』を使えるから、光を生み出す事に問題はない。天敵がダイザーロくんなだけで、引く程に超強力だな。


「ほとんどチートですね」


「それをハルアキが言う?」


 と嘆息をこぼすバヨネッタさん。他の皆もうんうんと頷いている。


「でもダイザーロの電気や結界は通らないし、俺自身は熱系や冷却系には弱いから、最強って程ではないぞ」


 確かに? 後は魔力切れでも狙うか、スキルを封じるか、洗脳、催眠、魅了なんかの、それ系の魔法やスキルで言いなりにする事も可能だけど、何であれ、武田さんがこちら側の人間で良かった。

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