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抜け穴
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ぱちりと目を覚ますと、見知らぬ天井……、いや知っているな。俺がいつも止まっている安全地帯の町の宿屋の天井だ。
「あ、起きられましたか」
声のした方へ顔を向けると、椅子に座ったダイザーロくんが、こちらを心配そうに覗いている。
「ああ、うん」
だるい身体を起こすと、ダイザーロくんが背中を支えてくれた。
「ありがとう。…………俺、どれくらい仮死状態だったの?」
「三日です」
神丹を飲んだ時は七日ギリギリだった事を考えると、意外と短かったな。天仙法だと考えると、三倍か、一ヶ月は掛かると覚悟していたが、たった三日かあ。
「大丈夫ですか?」
「う~ん、お腹空いているかな」
三日とは言え、何も食べていなかったし。いや、その前、岩山のダンジョンから帰ってきてから食事してないや。
「俺、食堂行って、何か軽いもの作って貰ってきます」
そう言って部屋から出て行こうとするダイザーロくんを止める。
「良いよ。俺が下に行く。皆食堂にいるみたいだし」
「分かりました」
立ち上がった俺は、首肯するダイザーロくんの肩を借りて、一階の食堂へと下りていった。
「早かったな!」
俺にいち早く気付いたリットーさんが、階段を下りてくる俺たちに声を掛けてきた。それに笑顔を返しながら、ゆっくり階段を下りると、バヨネッタさんがいる卓に座る。
「それで、どうだったの?」
俺を椅子に座らせてくれたダイザーロくんが、食堂に軽食を頼みに行くのを見送ったところで、バヨネッタさんが尋ねてきた。皆も気になっているのだろう。俺を見ている。
「久し振りの友人に会いました」
「友人に?」
首を傾げる武田さんに、俺は首肯で返す。
「リョウちゃん、……え~と、桑田涼って言う、あの天使が引き起こした事故で、俺やタカシ、シンヤなんかと一緒に事故に巻き込まれて、死んだ友達です」
「ああ、工藤が仲の良かった五人の内の一人か」
これにも首肯で返す。
「金丹を飲むと、一度死んで超越者として生まれ変わるみたいだし、工藤はその時に天国にでも行って、再会でもしたのか? いや、天国も地獄も存在しないんだったな。人間死ねばその魂は数日で世界を構成する魔力となって消えるんだった。となると、その友達は異世界転生でもしていたか?」
「まあ、そんなところになるんですかね。転生先はこの世界の運営でしたけど」
「なっ!?」
これには仲間全員が驚いていた。
「マジかよ?」
「ええ。何を考えてそんなものになったのか、俺には全く見当も付きませんけど。見た目はまんま天使でしたね」
「私やパジャン殿とは違うのか!?」
リットーさん的にはそこが気になるところか。
「完全に運営でしたね。話の内容から推察するに、俺たちを今の役につかせるのが目的だったみたいで、今後介入はしてこないみたいです」
「でもハルアキには会いに来たのよね?」
不審がるバヨネッタさん。『慧眼』である程度の未来は幻視出来ても、既に起こった過去は見通せないだろうからなあ。
「まあ、あいつは出会った時から掴みどころのないやつだったので、今回俺と会ったのも、気まぐれでしょう」
俺の説明にもあまり納得していないようだが、バヨネッタさんとしては、俺が旧友に会った事は些末事であるようで、
「それで? ハルアキはどんなギフトとスキルを、そのオトモダチから授かったのかしら?」
バヨネッタさんの顔が、怪訝な顔から面白いものを期待する顔になっている。まあ確かに、面白いだろうけど、使いどころがなあ。などと思っていると、ダイザーロくんが俺の前に食事を持ってきてくれた。豆粥と野菜ジュースだ。俺は野菜ジュースで喉を潤しながら、『空間庫』から一冊の大学ノートと万年筆を取り出した。
「『クリエイションノート(模造品)』と『フィックスペン(模造品)』?」
『空識』で鑑定した武田さんが、大学ノートと万年筆が何なのか声に出す。まあ、それを聞いても他の皆の頭には?マークが浮かんでいるだろうけど。
「説明させて頂くと、俺は三種の超越者のうち、王、虚空王と言う存在となりました」
ふむふむ。と皆が頷く。
「どうやら俺のギフトは三つが統合して、『虚空』と言うギフトになったようです」
「それは、強くなったの? 弱くなったの?」
バヨネッタさんの疑問ももっともだ。
「さあ? 俺も今起きたばかりで、使い心地は分かりません。リョウちゃんの説明では、『虚空』とは、何もなく、全てが存在する。のだそうです」
「矛盾していないかい?」
とはミカリー卿。そうなんだよなあ。俺もそう思う。でも、
「この世界が全て魔力と時空で出来ていると前提すると、全ての物質や事象は魔力と時空に還元し、また魔力と時空は物質や事象へと姿を変える訳で、トータルで、俯瞰で見たらこの世界全てが夢で現実な訳です」
「ふむ。面白い考え方だね」
「デウサリウス教にはないが、ゼラン様が極神教の教えにそのようなものがあると、言っておられたな!」
ミカリー卿が信仰する一神教であるデウサリウス教にはなく、ゼラン仙者などが説く多神教の極神教にはあるのか。宗教哲学的な違いなんだろうか?
「それで? 『虚空』の検証はまた後にして、そのノートとペンは何なの?」
バヨネッタさん的には、宗教哲学よりも目の前のノートとペンらしい。
「この『クリエイションノート(模造品)』に『フィックスペン(模造品)』でスキルを書くと、そのスキルが使えるようになるんです」
「はあっ!?」
うん。そりゃあ皆驚くよね。
「それがあれば、魔王を今すぐ殺す事も可能って事!?」
バヨネッタさんが食い気味に尋ねてきた。まあ、確かにそれが今回の戦争を終わらせるのに一番手っ取り早いよねえ。
「すみません、この『フィックスペン(模造品)』って、命秒、命をインクにする代物みたいで、魔王を倒すような強力なユニークスキルを書くと、それだけで俺の命が尽きます」
俺の説明に、バヨネッタさんだけでなく、皆ががっくりと肩を落とす。
「まあ、世の中そんなに上手くいかないわよねえ」
はい。
「あ、起きられましたか」
声のした方へ顔を向けると、椅子に座ったダイザーロくんが、こちらを心配そうに覗いている。
「ああ、うん」
だるい身体を起こすと、ダイザーロくんが背中を支えてくれた。
「ありがとう。…………俺、どれくらい仮死状態だったの?」
「三日です」
神丹を飲んだ時は七日ギリギリだった事を考えると、意外と短かったな。天仙法だと考えると、三倍か、一ヶ月は掛かると覚悟していたが、たった三日かあ。
「大丈夫ですか?」
「う~ん、お腹空いているかな」
三日とは言え、何も食べていなかったし。いや、その前、岩山のダンジョンから帰ってきてから食事してないや。
「俺、食堂行って、何か軽いもの作って貰ってきます」
そう言って部屋から出て行こうとするダイザーロくんを止める。
「良いよ。俺が下に行く。皆食堂にいるみたいだし」
「分かりました」
立ち上がった俺は、首肯するダイザーロくんの肩を借りて、一階の食堂へと下りていった。
「早かったな!」
俺にいち早く気付いたリットーさんが、階段を下りてくる俺たちに声を掛けてきた。それに笑顔を返しながら、ゆっくり階段を下りると、バヨネッタさんがいる卓に座る。
「それで、どうだったの?」
俺を椅子に座らせてくれたダイザーロくんが、食堂に軽食を頼みに行くのを見送ったところで、バヨネッタさんが尋ねてきた。皆も気になっているのだろう。俺を見ている。
「久し振りの友人に会いました」
「友人に?」
首を傾げる武田さんに、俺は首肯で返す。
「リョウちゃん、……え~と、桑田涼って言う、あの天使が引き起こした事故で、俺やタカシ、シンヤなんかと一緒に事故に巻き込まれて、死んだ友達です」
「ああ、工藤が仲の良かった五人の内の一人か」
これにも首肯で返す。
「金丹を飲むと、一度死んで超越者として生まれ変わるみたいだし、工藤はその時に天国にでも行って、再会でもしたのか? いや、天国も地獄も存在しないんだったな。人間死ねばその魂は数日で世界を構成する魔力となって消えるんだった。となると、その友達は異世界転生でもしていたか?」
「まあ、そんなところになるんですかね。転生先はこの世界の運営でしたけど」
「なっ!?」
これには仲間全員が驚いていた。
「マジかよ?」
「ええ。何を考えてそんなものになったのか、俺には全く見当も付きませんけど。見た目はまんま天使でしたね」
「私やパジャン殿とは違うのか!?」
リットーさん的にはそこが気になるところか。
「完全に運営でしたね。話の内容から推察するに、俺たちを今の役につかせるのが目的だったみたいで、今後介入はしてこないみたいです」
「でもハルアキには会いに来たのよね?」
不審がるバヨネッタさん。『慧眼』である程度の未来は幻視出来ても、既に起こった過去は見通せないだろうからなあ。
「まあ、あいつは出会った時から掴みどころのないやつだったので、今回俺と会ったのも、気まぐれでしょう」
俺の説明にもあまり納得していないようだが、バヨネッタさんとしては、俺が旧友に会った事は些末事であるようで、
「それで? ハルアキはどんなギフトとスキルを、そのオトモダチから授かったのかしら?」
バヨネッタさんの顔が、怪訝な顔から面白いものを期待する顔になっている。まあ確かに、面白いだろうけど、使いどころがなあ。などと思っていると、ダイザーロくんが俺の前に食事を持ってきてくれた。豆粥と野菜ジュースだ。俺は野菜ジュースで喉を潤しながら、『空間庫』から一冊の大学ノートと万年筆を取り出した。
「『クリエイションノート(模造品)』と『フィックスペン(模造品)』?」
『空識』で鑑定した武田さんが、大学ノートと万年筆が何なのか声に出す。まあ、それを聞いても他の皆の頭には?マークが浮かんでいるだろうけど。
「説明させて頂くと、俺は三種の超越者のうち、王、虚空王と言う存在となりました」
ふむふむ。と皆が頷く。
「どうやら俺のギフトは三つが統合して、『虚空』と言うギフトになったようです」
「それは、強くなったの? 弱くなったの?」
バヨネッタさんの疑問ももっともだ。
「さあ? 俺も今起きたばかりで、使い心地は分かりません。リョウちゃんの説明では、『虚空』とは、何もなく、全てが存在する。のだそうです」
「矛盾していないかい?」
とはミカリー卿。そうなんだよなあ。俺もそう思う。でも、
「この世界が全て魔力と時空で出来ていると前提すると、全ての物質や事象は魔力と時空に還元し、また魔力と時空は物質や事象へと姿を変える訳で、トータルで、俯瞰で見たらこの世界全てが夢で現実な訳です」
「ふむ。面白い考え方だね」
「デウサリウス教にはないが、ゼラン様が極神教の教えにそのようなものがあると、言っておられたな!」
ミカリー卿が信仰する一神教であるデウサリウス教にはなく、ゼラン仙者などが説く多神教の極神教にはあるのか。宗教哲学的な違いなんだろうか?
「それで? 『虚空』の検証はまた後にして、そのノートとペンは何なの?」
バヨネッタさん的には、宗教哲学よりも目の前のノートとペンらしい。
「この『クリエイションノート(模造品)』に『フィックスペン(模造品)』でスキルを書くと、そのスキルが使えるようになるんです」
「はあっ!?」
うん。そりゃあ皆驚くよね。
「それがあれば、魔王を今すぐ殺す事も可能って事!?」
バヨネッタさんが食い気味に尋ねてきた。まあ、確かにそれが今回の戦争を終わらせるのに一番手っ取り早いよねえ。
「すみません、この『フィックスペン(模造品)』って、命秒、命をインクにする代物みたいで、魔王を倒すような強力なユニークスキルを書くと、それだけで俺の命が尽きます」
俺の説明に、バヨネッタさんだけでなく、皆ががっくりと肩を落とす。
「まあ、世の中そんなに上手くいかないわよねえ」
はい。
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