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五人目の友

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 視界が暗転し、次の瞬間には俺は、白いような黒いような茫洋とした空間にいた。見覚えがある。前に神丹を飲んだ時にやって来た、Play The philosopher 4D の限定ショップだ。成程? 俺が金丹を飲むと、強制的にここに来る事になるのか。バヨネッタさんやデムレイさん含む他の人からはそんな話は聞いていないから、俺が何かしらイベントを踏んだんだろうな。


「前に来た時と……、違いがあるな」


 ぐるりと周囲を見回すと、茫洋とした空間にそぐわない、机と椅子が置かれていた。学校にあるような机に椅子。椅子は二脚で、机を挟んで置かれていると言う事は、あそこに座って、誰かと話すのか? 前回は女神様? が現れたけど、今回も同じだろうか?


 机と椅子がある場所へと歩いていくと、対面の椅子の上から場違いな光が差し込み、その光を道標にするように、何かが降臨してくる。真っ白でゆったりした服を着た、長い髪も白、肌も白、そして三対六翼ある翼も白い、全てが白い存在だ。


「久し振りだな」


 気軽い言葉を差し向けながら、俺は中空から降りてきた存在の対面の椅子に座った。俺の反応は向こうとしても予想の範疇だったのだろう。


「そうだね」


 と笑顔で返しながら、対面の椅子に座った。


「お前が死んでから、もう二年近くなるぞ? でもここでリョウちゃんが出てくるとはねえ。ここまで散々な目にあってきたんだけど、何か申し開きとかある?」


 眼前の天使は、俺の軽い愚痴に対しても、菩薩のような中性的な笑顔を崩さない。リョウちゃんは出会った中学時代からこんな感じだ。髪こそ白くなったが、さらさらの長髪もそのままだし、中性的な美貌もそのままだ。


「ハルアキは、あの橋での天使出現による事故からの一連の出来事の裏で、僕が暗躍していた。と考えているのかな?」


「そうだな。少なくとも、あのネオトロンとか言う天使が現れるまでの流れを作り出したのは、リョウちゃんだと思っているよ」


 俺の反論にも笑顔を崩さないリョウちゃん。


「まあ、半分合っているかな。トモノリにPTPを薦めたのは僕だし」


「こうなるって知っていて薦めたんだろう?」


「別にトモノリにだけ薦めた訳じゃないよ。五人全員に薦めたもの。その中で興味を示したのがトモノリと美空の二人だけだったっていう話」


 それは、そうかも知れない。


「? その口振りだと、浅野もトモノリが魔王になるって分かっていたって事か?」


 だがそれには首を横に振るリョウちゃん。


「僕ら二人があの時点で知っていたのは、あの日、天使が僕らの前に現れて、それぞれが思う願いを叶えてくれる。と言う事だけ。トモノリも美空も、互いに何を望んでいたかは知らなかったかな」


「その話し方だと、リョウちゃんは知っていたみたいだけど?」


「二人から相談されていたからね」


 と肩を竦める。


「だったら、リョウちゃんにはトモノリの強硬を止める事が出来たはずだ!」


 思わず語気が強くなってしまった。だがリョウちゃんの柔和な笑顔は崩れない。


「仕方ないよ。トモノリは、彼は何度人生をやり直しても、周囲を巻き込み、戦争を起こす星の下に生まれているから」


「? まるで未来を見てきたかのような物言いだな?」


『未来視』のスキルでも持っているのか? それとも、


「リョウちゃん、もしかして、初めからそっち側だったのか?」


 アンゲルスタの国主であったドミニクが、そもそも天使が擬態して人間に紛れて生活ゲームプレイしていたように、リョウちゃんもそもそも天使であったと仮定したら? それなら眼前で天使の姿をしているのも頷けるし、人が死ぬ事に対して鈍感なのも頷ける。


「いいや、僕もハルアキたちと同じ、この世界ゲームのNPC始まりさ」


「…………転生者か」


「まあ、同じスタートではないのは否定しないよ」


 含みのある表現だ。リョウちゃんは昔からこうやって煙に巻くんだよなあ。だけど、転生者なら、天使でなくてもこの世界の命が軽いと思うのも頷ける話だ。


「と言う事は、武田さんみたいな、生まれ持ってのスキル持ちか」


「そうなるね。気になるだろうから教えてあげると、僕のスキルは『通信販売』さ」


「『通信販売』!?」


 確か武器屋で鍛冶師のゴルードさんが持っていたな。自分がいる世界だけでなく、異世界からも様々な物品を購入出来るスキルだったはずだ。


「成程。PTPの出所はそこか」


「そう言う事」


 俺が正解したからか、笑顔を深めるリョウちゃん。しかし、


「ゲームを進める事で、転生や転移を可能にさせる程のゲームが、レベル一のスキルで購入出来るものなのか?」


「そこは裏技があるんだよ。『通信販売』で購入出来るのは、何も無機物だけじゃない。生き物だって購入可能なのさ」


「生き物……って、成程。『通信販売』で魔物を買って、それを殺してレベルを上げ、購入制限を徐々に緩和させていったのか」


「そう言う事」


 そりゃあジュニアオリンピックで金メダルなんて、取れて当然か。イジメにあっていても、レベル差あって相手にしていなかったのも頷ける。当時の俺たちの介入なんて、いらないお世話で、腹の中でどう思っていたのやら。


「そこら辺は理解したが、それでなんでトモノリと浅野に、いや、俺たちにPTPを薦めたんだ?」


 ここまでリョウちゃんは『通信販売』と言うスキル・・・の話はしたが、他にもスキルがあるかも知れないし、何ならギフトの話はしていない。ここまでの口振りからして、スキルだけでなく、ギフトも持っていてもおかしくない。それも『未来視』なんかの未来が分かる系統のギフトかスキルを。でなければ、トモノリの未来に対して言及していないだろう。


「僕はこれまで幾度となく様々な歴史を見てきた」


 他のスキルやギフトに言及はしないけれど、「歴史を見てきた」とはっきり言ったな。


「時には何もせずに静観し、時には自ら行動を起こして、様々な歴史を見てきた。その中には、ハルアキたちと敵対する歴史もあったし、個々人と友誼を結ぶ歴史もあった」


 気に食わない。その言い方だと、まるでリョウちゃんの手の平の上で踊らされているかのような印象だし、きっとリョウちゃんが見る歴史ではその通りなのだろう。そんな俺の不服そうな様子が態度に出ていたのだろう。リョウちゃんは苦笑を漏らす。


「そう言った色々な歴史を見てきたけれど、ハルアキたち全員と友誼を結んだのは、今回が初めてだった」


「ふ~ん」


 俺からしたら、だからどうした? って話だ。


「だから、僕は僕の人生を終わらせる事にしたんだ」


「は?」


 思わず気の抜けた声を漏らしてしまった。


「僕にとって君たちはそれくらい特別なんだよ」


 それまでの菩薩のような柔和な笑顔と違い、リョウちゃんはまるで子供が誕生日プレゼントを貰ったかのように、嬉しそうな笑顔をこちらへ向ける。


「だから、今回の歴史は僕から五人へのプレゼントさ」


「プレゼントって……」


「宇宙の神秘に並々ならぬ興味を持っている美空には、違う銀河へ行って貰い、皆よりも身体が弱い事にコンプレックスを持ち、英雄願望のあるシンヤには異世界で勇者になって貰い、どうしても世界と反りが合わないトモノリには、世界改変の力を獲得出来る魔王になって貰い、女の子からちやほやされたい、皆が一目置くような存在になりたいと願うタカシには『魅了』のスキルを。そしてハルアキには……」


 ごくり。と自分の喉が鳴ったのが分かった。


「ハルアキのこれからの返答次第かな」


 何だよ、それ。

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