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漁夫の利?
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マンドラゴラ。別名マンドレイクとも言われるこの植物は、ファンタジーでは名の知れた植物として有名だろう。根菜であるマンドラゴラのその根茎は、人型をしており、引き抜くと悲鳴を発し、まともにその悲鳴を聞いた者を、死に至らしめると言われる恐ろしい植物だ。そんなマンドラゴラが、農場の一画で植わっていた。中々の大きさだ。恐らく根茎は人間大はあるだろう。
「悪気はなかったんです。お隣りの牧場で、オークに『闇命の欠片』を使用したら、味が良くなったと聞いて、私も試してみただけなんです」
農場主であろうゾンビが俺にすがりついて事情を説明してくれるが、腐った死体であるゾンビにすがりつかれるのは勘弁して欲しい。
「事情は分かりましたから、離れてください」
やんわりと、しかしはっきりと俺が言葉にした事で、農場主はおどおどと俺から離れた。
「しかしマンドラゴラか、どうしたものか」
黒いマンドラゴラはそれだけを育てる為か、周囲半径五十メートルには、何も植えられていない。いや、良く見ると、周囲に枯れたマンドラゴラらしきものが植わっているな。
「どうしたものかって、あれは倒して良いのでしょう?」
バヨネッタさんが当たり前のようにキーライフルを構え、農場主に尋ねた。
「いえ、待ってください、バヨネッタさん。相手はマンドラゴラですよ? 下手に攻撃して、悲鳴を上げられたら、死人が出ますよ」
「死人?」
首を傾げられた。あれ?
「もしかしてマンドラゴラを知らないんですか?」
俺がパーティメンバーを見遣ると、武田さん以外が首を横に振るう。どうやら、この世界にはマンドラゴラはないか、もしくはかなり貴重であるらしい。ファンタジーの定番だと思うんだけどなあ。ちなみに地球のマンドラゴラは、ナス科に属する植物として実在する。伝説のように引き抜く時に悲鳴は上げないが。
「あ、あの、倒して頂けるとありがたいです。『闇命の欠片』を与えたら、元々備わっていた『魔技吸収』の能力が強化されてしまい、近寄る事も出来なくなってしまったので」
農場主的には、倒して貰って構わないようだ。しかし、
「『魔技吸収』、ですか?」
俺の問いに頷いた農場主が、更に説明してくれる。
「マンドラゴラと言う野菜には、元来『魔技吸収』のスキルが備わっているのです。なので収穫する時、魔法やスキルは使えません。無効化してしまうので」
これを聞いて、バヨネッタさんが黒いマンドラゴラに向かってキーライフルを撃つが、発射された熱光線は黒いマンドラゴラに届く前に霧散してしまった。それを見て、キーライフルを下ろすバヨネッタさん。恐らく『慧眼』で分かった事の、答え合わせでもしたのだろう。
「これじゃあ、どうやって収穫するのよ?」
「俺の知る方法だと、耳栓をして引き抜くとか。マンドラゴラに紐の片方を結んで、その紐のもう片方を犬に結んで、犬に命令して引き抜かせるとか」
「それだと、マンドラゴラ一本に対して、犬が一匹死ぬ事になるんだけど?」
「マンドラゴラは薬や毒の素材として貴重と言われていますから、犬一匹ならお釣りがくるんじゃないですかね?」
俺の言葉が信用出来ないのか、皆の視線が俺から農場主に移る。
「私たちの場合は、耳栓をしたうえで、紐で悲鳴が届かない範囲から引っこ抜く感じですね」
成程?
「それだと、魔法やスキルを使いさえしなければ、収穫は可能なんですね?」
「ええ。普通のマンドラゴラだったら、不用意に触って起きる悲鳴にさえ気を付けていれば、近付いてもこっちが魔法やスキルを使わなければ、収穫出来ていたんです。でもあの黒いマンドラゴラは、近付くだけで、こちらの魔力や体力を吸収するようになってしまい、近付くどころか、土地の魔力を吸収し、それで更に力をつけるので、近付ける範囲がどんどん遠のいていく始末でして。このままだと、この町全体の魔力を吸収し尽くしてしまうかと」
それは問題だな。確かに、見ているだけでマンドラゴラを中心に、周囲の作物がどんどん枯れて行くのが分かる。この速度で周囲の魔力を吸収されては、夜明け前にこの町は廃墟となるだろう。
「どうします? 恐らく攻撃すれば、マンドラゴラの悲鳴で、この辺り一体の生物は死に絶えると思いますが」
バヨネッタさんたちを見遣るも、皆が苦笑気味に俺を見ている。そしてバヨネッタさんが代表して、俺に尋ねてきた。
「ハルアキ。あなたのその顔、何か策がある。って書いてあるわよ」
見抜かれていたか。でもなあ。
「俺の策だと、下手したらこれ以上化神族を入手出来ないかも知れませんよ?」
「この安全地帯の町と化神族を天秤にかけるなら、安全地帯の町でしょう。この町を失えば、このエキストラフィールドでの活動に支障が出るどころか、パーティに死人が出るわ。出来るのなら、さっさとやりなさい」
そうですか。皆を見ても、同意見なのだろう。首肯してくれた。ではやりますか。
俺の作戦を聞き、皆が農場主から受け取った耳栓をして、黒いマンドラゴラから更に離れて身構える。さて、始めますか。
「お願いします、武田さん」
俺の言葉に首肯した武田さんが、『転置』で闘技場にいた黒いイエティを、武田さんが黒いマンドラゴラに近付けられ得る一番近い、枯れたマンドラゴラと入れ替えて、この場に転移させる。やっぱりでっかいなあ。その巨体の威容に見上げてしまう。が、ぼけっとしてもいられない。ミカリー卿が結界を展開したのを横目に、俺も直ぐ様黒いイエティと黒いマンドラゴラを囲うように『聖結界』を展開し、俺の『聖結界』とミカリー卿の結界に、カッテナさんが『縮小』のスキルを『付与』する。
いきなり違う場所に転移させられた黒いイエティだったが、黒いマンドラゴラによって魔力を吸収されるのが嫌だったのだろう。俺の作戦通りに、黒いイエティが土に植わっている黒いマンドラゴラを引っこ抜いた。
その瞬間、怖気でそばたつような震えが全身を駆け抜ける。耳栓をしていたから聞こえなかったが、恐らく今のがマンドラゴラの悲鳴だったのだろう。俺たちは『聖結界』とミカリー卿の結界にプラスして、カッテナさんの『縮小』を『付与』してあるから、身体が震えた程度で済んだが、黒いイエティはそうもいかなかったようだ。
黒いマンドラゴラの渾身の悲鳴を直に聞いた黒いイエティは、黒いマンドラゴラを抜いた姿で硬直し、そのまま全身の毛を真っ白に変えて、魂が抜けたように絶命した。流石に『回復』スキルを持っていたからと言っても、即死攻撃相手では、どうしようもなかったようだ。
対する黒いマンドラゴラはどうかと言うと、引き抜かれた根茎はやはり人間の姿をしており、俺たちから逃げるようにバタバタしている。しかしそんな黒いマンドラゴラをバヨネッタさんが見逃す訳がない。
キーライフルを構えると、カッテナさんに『分割』のギフトを『付与』して貰い、黒いマンドラゴラの胴体? を撃ち抜いた。これによって黒いマンドラゴラから化神族は分離され、黒かったマンドラゴラも、恐らく元の色であろう薄茶色の根茎となり、力尽きて倒れたのだった。
「悪気はなかったんです。お隣りの牧場で、オークに『闇命の欠片』を使用したら、味が良くなったと聞いて、私も試してみただけなんです」
農場主であろうゾンビが俺にすがりついて事情を説明してくれるが、腐った死体であるゾンビにすがりつかれるのは勘弁して欲しい。
「事情は分かりましたから、離れてください」
やんわりと、しかしはっきりと俺が言葉にした事で、農場主はおどおどと俺から離れた。
「しかしマンドラゴラか、どうしたものか」
黒いマンドラゴラはそれだけを育てる為か、周囲半径五十メートルには、何も植えられていない。いや、良く見ると、周囲に枯れたマンドラゴラらしきものが植わっているな。
「どうしたものかって、あれは倒して良いのでしょう?」
バヨネッタさんが当たり前のようにキーライフルを構え、農場主に尋ねた。
「いえ、待ってください、バヨネッタさん。相手はマンドラゴラですよ? 下手に攻撃して、悲鳴を上げられたら、死人が出ますよ」
「死人?」
首を傾げられた。あれ?
「もしかしてマンドラゴラを知らないんですか?」
俺がパーティメンバーを見遣ると、武田さん以外が首を横に振るう。どうやら、この世界にはマンドラゴラはないか、もしくはかなり貴重であるらしい。ファンタジーの定番だと思うんだけどなあ。ちなみに地球のマンドラゴラは、ナス科に属する植物として実在する。伝説のように引き抜く時に悲鳴は上げないが。
「あ、あの、倒して頂けるとありがたいです。『闇命の欠片』を与えたら、元々備わっていた『魔技吸収』の能力が強化されてしまい、近寄る事も出来なくなってしまったので」
農場主的には、倒して貰って構わないようだ。しかし、
「『魔技吸収』、ですか?」
俺の問いに頷いた農場主が、更に説明してくれる。
「マンドラゴラと言う野菜には、元来『魔技吸収』のスキルが備わっているのです。なので収穫する時、魔法やスキルは使えません。無効化してしまうので」
これを聞いて、バヨネッタさんが黒いマンドラゴラに向かってキーライフルを撃つが、発射された熱光線は黒いマンドラゴラに届く前に霧散してしまった。それを見て、キーライフルを下ろすバヨネッタさん。恐らく『慧眼』で分かった事の、答え合わせでもしたのだろう。
「これじゃあ、どうやって収穫するのよ?」
「俺の知る方法だと、耳栓をして引き抜くとか。マンドラゴラに紐の片方を結んで、その紐のもう片方を犬に結んで、犬に命令して引き抜かせるとか」
「それだと、マンドラゴラ一本に対して、犬が一匹死ぬ事になるんだけど?」
「マンドラゴラは薬や毒の素材として貴重と言われていますから、犬一匹ならお釣りがくるんじゃないですかね?」
俺の言葉が信用出来ないのか、皆の視線が俺から農場主に移る。
「私たちの場合は、耳栓をしたうえで、紐で悲鳴が届かない範囲から引っこ抜く感じですね」
成程?
「それだと、魔法やスキルを使いさえしなければ、収穫は可能なんですね?」
「ええ。普通のマンドラゴラだったら、不用意に触って起きる悲鳴にさえ気を付けていれば、近付いてもこっちが魔法やスキルを使わなければ、収穫出来ていたんです。でもあの黒いマンドラゴラは、近付くだけで、こちらの魔力や体力を吸収するようになってしまい、近付くどころか、土地の魔力を吸収し、それで更に力をつけるので、近付ける範囲がどんどん遠のいていく始末でして。このままだと、この町全体の魔力を吸収し尽くしてしまうかと」
それは問題だな。確かに、見ているだけでマンドラゴラを中心に、周囲の作物がどんどん枯れて行くのが分かる。この速度で周囲の魔力を吸収されては、夜明け前にこの町は廃墟となるだろう。
「どうします? 恐らく攻撃すれば、マンドラゴラの悲鳴で、この辺り一体の生物は死に絶えると思いますが」
バヨネッタさんたちを見遣るも、皆が苦笑気味に俺を見ている。そしてバヨネッタさんが代表して、俺に尋ねてきた。
「ハルアキ。あなたのその顔、何か策がある。って書いてあるわよ」
見抜かれていたか。でもなあ。
「俺の策だと、下手したらこれ以上化神族を入手出来ないかも知れませんよ?」
「この安全地帯の町と化神族を天秤にかけるなら、安全地帯の町でしょう。この町を失えば、このエキストラフィールドでの活動に支障が出るどころか、パーティに死人が出るわ。出来るのなら、さっさとやりなさい」
そうですか。皆を見ても、同意見なのだろう。首肯してくれた。ではやりますか。
俺の作戦を聞き、皆が農場主から受け取った耳栓をして、黒いマンドラゴラから更に離れて身構える。さて、始めますか。
「お願いします、武田さん」
俺の言葉に首肯した武田さんが、『転置』で闘技場にいた黒いイエティを、武田さんが黒いマンドラゴラに近付けられ得る一番近い、枯れたマンドラゴラと入れ替えて、この場に転移させる。やっぱりでっかいなあ。その巨体の威容に見上げてしまう。が、ぼけっとしてもいられない。ミカリー卿が結界を展開したのを横目に、俺も直ぐ様黒いイエティと黒いマンドラゴラを囲うように『聖結界』を展開し、俺の『聖結界』とミカリー卿の結界に、カッテナさんが『縮小』のスキルを『付与』する。
いきなり違う場所に転移させられた黒いイエティだったが、黒いマンドラゴラによって魔力を吸収されるのが嫌だったのだろう。俺の作戦通りに、黒いイエティが土に植わっている黒いマンドラゴラを引っこ抜いた。
その瞬間、怖気でそばたつような震えが全身を駆け抜ける。耳栓をしていたから聞こえなかったが、恐らく今のがマンドラゴラの悲鳴だったのだろう。俺たちは『聖結界』とミカリー卿の結界にプラスして、カッテナさんの『縮小』を『付与』してあるから、身体が震えた程度で済んだが、黒いイエティはそうもいかなかったようだ。
黒いマンドラゴラの渾身の悲鳴を直に聞いた黒いイエティは、黒いマンドラゴラを抜いた姿で硬直し、そのまま全身の毛を真っ白に変えて、魂が抜けたように絶命した。流石に『回復』スキルを持っていたからと言っても、即死攻撃相手では、どうしようもなかったようだ。
対する黒いマンドラゴラはどうかと言うと、引き抜かれた根茎はやはり人間の姿をしており、俺たちから逃げるようにバタバタしている。しかしそんな黒いマンドラゴラをバヨネッタさんが見逃す訳がない。
キーライフルを構えると、カッテナさんに『分割』のギフトを『付与』して貰い、黒いマンドラゴラの胴体? を撃ち抜いた。これによって黒いマンドラゴラから化神族は分離され、黒かったマンドラゴラも、恐らく元の色であろう薄茶色の根茎となり、力尽きて倒れたのだった。
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