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思わぬエンカウント

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「それで? 一人でこの安全地帯を切り盛りしているんだ?」


 ベイビードゥに睨まれた。まあ、「お前分かっていて言っているだろ?」って視線に、肩を竦めるしかない。


「どうやら奥に館があるみたいだけど?」


「町だからな。町役場があって当然だろう?」


 ふむ。この安全地帯は一応、町と言う体であり、町役場が町の最奥。正確には噴水のある広場の先にある。そしてこの町はベイビードゥだけで運営している訳ではない。


「行きたくないなあ。町役場」


「勝手にしろ。あいつもいきなり町長なんて役職振られて、今はてんやわんやだろうが」


 それはそれで見てみたいな。


「どうします?」


 俺は皆を振り返る。


「町のお偉いさんにはあいさつしておいた方が良いんじゃないか? その方が今後何かあった時に融通してくれるだろう?」


これはデムレイさんの言。それに同意するカッテナさんにダイザーロくん。バヨネッタさんとミカリー卿は何やら勘繰っているのか無言だ。武田さんは、町役場に何者がいるのか想像出来るのだろう、嫌そうな顔をしている。


「俺としては行きたくはないですけど、要望がないと言えば嘘になりますし、…………いきなり襲ってきたりはしないと良いなあ」


「襲ってくるんですか!?」


「ここ安全地帯ですよね!?」


 ダイザーロくんとカッテナさん的には驚きらしい。これにデムレイさんが何やら首をひねっている。


「つまり、ヤバい奴なのか?」


 俺はデムレイさんの問いの返答として、交換所・・・で働いているベイビードゥを見遣り、それが答えだとして、何も言わずに町役場へと足を向けた。



 コンコンコン。


「町長、お客様をお連れしました」


 アンデッドたちがわっせわっせと町役場を機能させる為に働いているのを横目に、町役場の入り口で俺たちを待ち受けていた亡霊の女性の案内で、俺たちは町長室の前までやって来ていた。


「通せ」


 室内から声が聞こえてきた辺りで、ごくりとダイザーロくんの喉がなった音が聞こえた。緊張と言うか、逃げ出したいと言ったところだろう。他の面々も無口であり、室内に入る事が、これからボス戦に挑むそれとなっていた。それも仕方ないが。


 キキイと木の扉が開かれれば、執務机にどっさり置かれた書類と格闘している頬のこけた血色の悪い壮年の男性がいた。髪はグレーの長髪で瞳は淡い水色、黒色の貴族を思わせる服を着ている。その男性がこちらを睨んでいた。


「そんなところで立っていたら、他の者の通行の邪魔だ。入るならさっさと入り給え」


 圧迫面接かな? その眼光だけで人が死ぬよ。と思いながら、町長室として広いのか狭いのか分からない部屋に俺たちは足を踏み入れた。


「悪いが、今誰かさんたちのお陰で、仕事に追われていてね。一段落つくまでそこのソファでゆっくりしていてくれ給え」


 横を見れば、軽い打ち合わせくらいなら出来そうな応接セットが備えられていた。俺たちは誰が最初に座るか視線を交わしながら、結局バヨネッタさんが座り、そして各々ソファに四対三で向かい合って着席していく。


 するとそれを見計らっていたように、先程の亡霊の女性が、俺たちにお茶を差し出してくれた。秘書さんか何かなのかな?


「一応安全地帯だからな。毒物は入れていない。気兼ねなく飲んでくれ」


 町長の発言のびくびくしながら、出されたお茶に口を付けるが、緊張で味が分からないよ。


 何事か口に出すのも憚られて、腕時計で時間を確認するが、一分一秒が長く感じる。早く時間よ過ぎてくれ。とデウサリウスやら極神教の神々やら、魔女の神様やら、地球の神仏に祈るが、それで時間が進む訳がない。それにここで『時間操作』なんてしようものなら、それが敵対行為と見做されて、戦闘になる可能性だってある。デジタルで表示される数字が、一秒一秒を刻んで行くのを、早鐘の心臓とともに待ち続けるしか俺たちにはやる事がなかった。



「ふう」


 それは待たされて十分としない時間だったが、俺の人生で間違いなく一番長い十分だった。町長は椅子の背もたれに一度身体を預けたら、伸びをして、凝りをほぐしてから立ち上がると、こちらへやって来て応接セットの一人用ソファに腰掛けた。


「待たせたね」


「いえ、こちらこそお時間を取らせてしまって申し訳ありません」


 俺が頭を下げると、


「いやいや、他国の王が来たと言うのに、何のもてなしも出来なかったのだから、そうかしこまらずに」


 確かに、バヨネッタさんは一国の王なのだから、町長クラスであれば相応にもてなすものだろうが、その態度から、町長の方にこそ王者の風格が漂っていた。


「セクシーマンも、元気そうじゃないか」


 町長が秘書さんの出したお茶をすすりながら、武田さんに尋ねるが、武田さんは難しい顔を崩さない。


「…………無礼を承知で尋ねるが、お前は怨霊王ジオ、で合っているんだよな?」


 え? 違うの? 俺は怨霊王ジオの顔を知らないし、怨霊を操る術を持っているらしいから、ベイビードゥと協働でこの町(安全地帯)を運営しているのだと思っていたんだけど?


「ああ、この姿に違和感があるのか? それならこれならどうだ?」


 と町長が己の顔面にスッと手をかざすと、その顔の左半分が黒い骸骨へと変貌した。更に肉の付いている身体も透けて見える。


「ああ、どうやら本物のジオらしいな」


「そう言う事だ。事務仕事をするなら、肉があった方がやり易いからな」


 それはそうだろうな。霊じゃあ、ペンを持てるのかもそもそも怪しいし。いや、エルデタータは戦鎚振るっていたな。


「それで? 今回の訪問は顔合わせが目的で良いのかな?」


 ジオの声の音圧が、だったらさっさと出ていけ。と言外に語っていた。が、ここで引く事は出来ない。


「それもありますが、要望がありまして」


「要望?」


 睨み付けられて背中から大量に冷や汗が流れる。余計な仕事を増やすな。ってか? でもこの安全地帯を預かる者なら、利用者の意見は取り入れるべきだろう。


「どうやら町役場はまだ機能していないようですし、別に、こちらとしてはカヌス様に直接進言しても良いのですが?」


 ジオから歯軋りの音とともに凄い殺気が叩き付けられた。が、それも一瞬で霧散する。


「あの方は今、お前・・が提供したゲームに熱中している。お手を煩わせる事は出来ない。話は私が聞こう」


 ふう。この交渉如何では、俺死ぬんじゃないか? それにスマホを提供した覚えはない。

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