517 / 642
鍵穴三つ
しおりを挟む
「インゴットだな」
地下四十三階でデムレイさんが鍵穴二つの宝箱から手に入れたのは、小さなインゴットだった。
「ふむ? この光沢に重さ、肌触り、鎧のミノタウロスが身に着けていたのと同じ素材か」
あれか。
対魔鋼:特殊な製法で造れた金属。向かってくる魔力を拡散させる。
「あれ? 神鎮鉄じゃない?」
「神鎮鉄ではないわ」
俺の独り言に、バヨネッタさんが答えてくれた。
「違っていたんですか? 俺はてっきり神鎮鉄だと思っていました」
「神鎮鉄なら、肉体強化系の魔法も無効化するわ」
そう言うものなのか。となると、この対魔鋼のインゴットはそれよりは劣る? って事か?
「でも使い勝手としては、何でもかんでも無効化してしまう神鎮鉄よりも、こっちの方が使い易くはあるわね」
「ああ、確かに?」
神鎮鉄だと防具は作れないものな。いや、
「このインゴットがあれば、罠を破壊出来るんじゃないですかね?」
と俺が発言したら、バヨネッタさんとデムレイさんに難しい顔をされた。そう上手くはいかないらしい。
「私が言うのもあれだけど、これだけ罠を張り巡らせているのだし、それにこのインゴットで出来た中ボスが現れるのだから、向こうも対策はしているのじゃないかしら? 下手にこのインゴットで罠を解除したら、別の罠が作動するとか」
それはありそうだなあ。
「じゃあ、加工して武器や防具にして、戦闘に使うって感じですかね?」
「そうなるわね」
しばらくは死蔵品になりそうだな。と俺が思っている中、デムレイさんは慎重に己の『空間庫』に対魔鋼のインゴットを仕舞った。普通に仕舞えるって事は、空間系には作用しないのか? いや、向かってくる魔力じゃないからか? 何に作用して、何に作用しないか、調べる必要もありそうだ。
その後も俺たちは順調にアルティニン廟を攻略していった。俺以外は。探索自体は捗るのだが、戦闘が厳しくなってきたのだ。主に俺の。ベイビードゥに俺がトドメを刺した事で俺のレベルが四十三まで上がり、ダンジョンの魔物とのレベル差が俺の方が上になってしまったのである。その為に『逆転(呪)』で俺の能力が低くなってしまったのだ。
先々の事を考えると、中ボスや大ボスは俺よりレベルが高いから良いが、ボス特化で雑魚を皆に任せてばかりは良くないよなあ。『代償』でレベルを下げるべきか? それも一時的なものだしなあ。
などと俺が悶々と考えているうちにも、ダンジョン攻略は進んでいく。どうやら鍵穴二つの宝箱は、一階層に一つしかないらしく、それをジャンケンで開ける人間を決めながら進んでいく。中身は片眼鏡の時もあれば、秒数や回数が倍に増えたスイッチや護符、スキルスクロールなど様々だ。
「おお! 治癒の指輪か!」
治癒の指輪:触れた者を治癒する指輪。治癒量は込めるMPに比例する。
地下四十九階で俺が鍵穴二つの宝箱から引き当てたのは、治癒魔法が使えるようになる指輪だった。思わずガッツポーズをしてしまったよ。
「はあ、小太郎くんに『回復』を奪われて以来、長かった。これで回復持ちに戻れた」
「そうね。それに治癒なら他者の傷も癒せるから、より便利ね。ポーションの使用頻度を落とせるわ」
そんな平坦に言わなくても。いや、そうか、バヨネッタさんや武田さんは、魔王の一人、ブラフマーの『抹消』による過去改変で、小太郎くんや百香がいなかった世界で生きているんだ。たまたま俺が『記録』持ちだから覚えているだけで、本来なら、俺も違う感情だったのかも知れない。二人の顔がはっきり思い出されて、少し泣きそうになるな。
そして五十一階から、鍵穴が二つの宝箱だけでなく、三つの宝箱も登場したのだった。それは同時に宝箱を守る魔物も現れると言う事だった。
ドガガガガガ……ッッ!! ズガガガガガガ……ッッ!!
バヨネッタさんたちによる連携攻撃を、宝箱を守る五メートルはある金属ゴーレムは、その自らの頑丈さと、金属壁を生み出す事で防いでいた。この魔物のやるべき事は、俺たちの討伐ではなく、宝箱を守る事だろうから、これはこれで正しいのだろうけど、硬すぎる。その上『回復』持ちで、壊した先から回復していくのだ。手数で押し切れない。
ゴーレムには確か弱点があったはずだ。と武田さんに尋ねたが、このゴーレムにそんなものはないそうだ。くっ、そう上手くはいかないか。まあ、それも織り込み済みの連携攻撃なんだけど。
ゴーレムの意識を前方のバヨネッタさんたちに集中させている間に、俺と武田さんが『転置』でゴーレムの後ろに移動、素早く鍵穴三つの宝箱を開けてその場を脱出する作戦だ。
上手くいくと思ったんだが、ゴーレムの反応が早過ぎた。武田さんが『転置』で転移するなり、ぐるんと上半身だけ回転して、俺たちに襲い掛かってきたのだ。それを防ぐ為に俺は慌ててアニンで大盾を作った。相手は機械的なゴーレムである。害意や敵意を持ち合わせておらず、『聖結界』が効かない可能性があったからだ。
「ぐっ、武田さん!」
「もう開けた!」
流石はピッキングの天才。と思ったところで、ゴーレムの重い拳にアニンの大盾も限界がきていた。やはり重量系の魔物の相手はきつい。早く転移しなければ。
「伏せろ!」
そこに響く武田さんの一言に、はあ!? と思いながらも、俺はその場に伏せた。すると光線がビーッと俺の頭上を横切り、あの硬いゴーレムが上下に切断されたのだった。
何事が起きたのか理解出来ず、武田さんの方を振り返れば、武田さんの右手には、剣の柄が握られており、そこから伸びる剣刃は、金属のそれではなく、光で出来ていた。
地下四十三階でデムレイさんが鍵穴二つの宝箱から手に入れたのは、小さなインゴットだった。
「ふむ? この光沢に重さ、肌触り、鎧のミノタウロスが身に着けていたのと同じ素材か」
あれか。
対魔鋼:特殊な製法で造れた金属。向かってくる魔力を拡散させる。
「あれ? 神鎮鉄じゃない?」
「神鎮鉄ではないわ」
俺の独り言に、バヨネッタさんが答えてくれた。
「違っていたんですか? 俺はてっきり神鎮鉄だと思っていました」
「神鎮鉄なら、肉体強化系の魔法も無効化するわ」
そう言うものなのか。となると、この対魔鋼のインゴットはそれよりは劣る? って事か?
「でも使い勝手としては、何でもかんでも無効化してしまう神鎮鉄よりも、こっちの方が使い易くはあるわね」
「ああ、確かに?」
神鎮鉄だと防具は作れないものな。いや、
「このインゴットがあれば、罠を破壊出来るんじゃないですかね?」
と俺が発言したら、バヨネッタさんとデムレイさんに難しい顔をされた。そう上手くはいかないらしい。
「私が言うのもあれだけど、これだけ罠を張り巡らせているのだし、それにこのインゴットで出来た中ボスが現れるのだから、向こうも対策はしているのじゃないかしら? 下手にこのインゴットで罠を解除したら、別の罠が作動するとか」
それはありそうだなあ。
「じゃあ、加工して武器や防具にして、戦闘に使うって感じですかね?」
「そうなるわね」
しばらくは死蔵品になりそうだな。と俺が思っている中、デムレイさんは慎重に己の『空間庫』に対魔鋼のインゴットを仕舞った。普通に仕舞えるって事は、空間系には作用しないのか? いや、向かってくる魔力じゃないからか? 何に作用して、何に作用しないか、調べる必要もありそうだ。
その後も俺たちは順調にアルティニン廟を攻略していった。俺以外は。探索自体は捗るのだが、戦闘が厳しくなってきたのだ。主に俺の。ベイビードゥに俺がトドメを刺した事で俺のレベルが四十三まで上がり、ダンジョンの魔物とのレベル差が俺の方が上になってしまったのである。その為に『逆転(呪)』で俺の能力が低くなってしまったのだ。
先々の事を考えると、中ボスや大ボスは俺よりレベルが高いから良いが、ボス特化で雑魚を皆に任せてばかりは良くないよなあ。『代償』でレベルを下げるべきか? それも一時的なものだしなあ。
などと俺が悶々と考えているうちにも、ダンジョン攻略は進んでいく。どうやら鍵穴二つの宝箱は、一階層に一つしかないらしく、それをジャンケンで開ける人間を決めながら進んでいく。中身は片眼鏡の時もあれば、秒数や回数が倍に増えたスイッチや護符、スキルスクロールなど様々だ。
「おお! 治癒の指輪か!」
治癒の指輪:触れた者を治癒する指輪。治癒量は込めるMPに比例する。
地下四十九階で俺が鍵穴二つの宝箱から引き当てたのは、治癒魔法が使えるようになる指輪だった。思わずガッツポーズをしてしまったよ。
「はあ、小太郎くんに『回復』を奪われて以来、長かった。これで回復持ちに戻れた」
「そうね。それに治癒なら他者の傷も癒せるから、より便利ね。ポーションの使用頻度を落とせるわ」
そんな平坦に言わなくても。いや、そうか、バヨネッタさんや武田さんは、魔王の一人、ブラフマーの『抹消』による過去改変で、小太郎くんや百香がいなかった世界で生きているんだ。たまたま俺が『記録』持ちだから覚えているだけで、本来なら、俺も違う感情だったのかも知れない。二人の顔がはっきり思い出されて、少し泣きそうになるな。
そして五十一階から、鍵穴が二つの宝箱だけでなく、三つの宝箱も登場したのだった。それは同時に宝箱を守る魔物も現れると言う事だった。
ドガガガガガ……ッッ!! ズガガガガガガ……ッッ!!
バヨネッタさんたちによる連携攻撃を、宝箱を守る五メートルはある金属ゴーレムは、その自らの頑丈さと、金属壁を生み出す事で防いでいた。この魔物のやるべき事は、俺たちの討伐ではなく、宝箱を守る事だろうから、これはこれで正しいのだろうけど、硬すぎる。その上『回復』持ちで、壊した先から回復していくのだ。手数で押し切れない。
ゴーレムには確か弱点があったはずだ。と武田さんに尋ねたが、このゴーレムにそんなものはないそうだ。くっ、そう上手くはいかないか。まあ、それも織り込み済みの連携攻撃なんだけど。
ゴーレムの意識を前方のバヨネッタさんたちに集中させている間に、俺と武田さんが『転置』でゴーレムの後ろに移動、素早く鍵穴三つの宝箱を開けてその場を脱出する作戦だ。
上手くいくと思ったんだが、ゴーレムの反応が早過ぎた。武田さんが『転置』で転移するなり、ぐるんと上半身だけ回転して、俺たちに襲い掛かってきたのだ。それを防ぐ為に俺は慌ててアニンで大盾を作った。相手は機械的なゴーレムである。害意や敵意を持ち合わせておらず、『聖結界』が効かない可能性があったからだ。
「ぐっ、武田さん!」
「もう開けた!」
流石はピッキングの天才。と思ったところで、ゴーレムの重い拳にアニンの大盾も限界がきていた。やはり重量系の魔物の相手はきつい。早く転移しなければ。
「伏せろ!」
そこに響く武田さんの一言に、はあ!? と思いながらも、俺はその場に伏せた。すると光線がビーッと俺の頭上を横切り、あの硬いゴーレムが上下に切断されたのだった。
何事が起きたのか理解出来ず、武田さんの方を振り返れば、武田さんの右手には、剣の柄が握られており、そこから伸びる剣刃は、金属のそれではなく、光で出来ていた。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果
yuraaaaaaa
ファンタジー
国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……
知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。
街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる