514 / 642
対骸骨騎士(前編)
しおりを挟む
「はあ、ここでお出ましですか」
地下四十一階。その広いホール状のフロアに、ベイビードゥが軍勢を引き連れ待ち構えていた。
「何か問題があったかな?」
既に勝ち誇ったように、右手の剣で左手を叩くベイビードゥ。そりゃあ、勝った気にもなるだろう。ベイビードゥの軍勢の中には、中ボスたちまで含まれているのだから。
「どう言う事ですか?」
俺はアニンの曲剣を出し、ベイビードゥを牽制しつつ、ちらりと武田さんを見遣る。
「地下四十一階以降は、倒した中ボスが少し弱くなって、フィールドモンスターとして徘徊するようになるんだよ。恐らくそれを支配下に置いたんだろう」
成程。
「『支配』か『指揮』のスキルを持っているのかな?」
とミカリー卿が武田さんに尋ねる。
「恐らく。強力な『隠蔽』であいつのスキル構成は見えないけど」
そうでなければ武田さんに、ベイビードゥが消えたりする理屈が分からないはずないものね。
「当たりだ。両方持っているぜ」
ベイビードゥはカカカと笑いながらそう答えた。
「意外だな。スキルを教えてくれるなんて」
「お前たちの中に、『奪取』やスキル封じ系のスキルを所持している面子はいないみたいだからな。知られたところで。それに……」
「それに?」
「ここで全滅するんだ。冥土の土産ってやつだよ」
こっちの世界にもそんな文化あるのか。
「それなら、あの突然消えたり現れたりするスキルも教えて欲しいんだけど?」
「そっちもすぐに分かるさ」
とベイビードゥは答えて、右手に持つ剣を俺たちへ向けた。それを合図に、魔物の軍勢が俺たちへと押し寄せる。
バヨネッタさんを囲う三体の鎧ミノタウロスに、スピードでデムレイさんを撹乱する狼の中ボスたち。ミカリー卿には数で対抗するらしく、フロアで良く見るアンデッド系魔物が一斉に押し寄せている。カッテナさん、ダイザーロくんも魔物たちに囲まれ動けず、武田さんはヒカルの結界の中で事の次第を見守っている。
そうなると俺の相手は、
「ダイザーロくんに執着していたと思っていたけど?」
俺の前には、ベイビードゥと人型の中ボスが二人立っている。
「雷使いか? 確かに俺の鎧を壊してくれたんだ。報復してやりたい気持ちはあるが、まずはお前だ」
『まずは』ね。俺を倒してからダイザーロくんを倒すつもりか。となると、ベイビードゥの中で俺の何かが、ダイザーロくんを差し置いても倒さなければならない対象になっている訳か。が、そんな悠長に思考を巡らせている時間を、相手が与えてくれている訳がなかった。
(消えたか!)
目の前から人型二体の魔物の姿はなくなり、俺は直ぐ様未来視の片眼鏡を発動して、敵二体の動きを予測する。すると二体の動きが良く見えた。片方は双剣で片方は槍を持ち、高速移動で俺に攻撃を仕掛けてくる。俺はそれをバックステップで躱すと、一息吐いて『時間操作』タイプBを発動させる。
『どうやらベイビードゥは、己のスキルを配下の魔物にも発動させる事が出来るようだな』
アニンの意見に首肯しながら、俺はアニンの曲剣を構え直す。と消える二体の魔物たち。が、未来視の片眼鏡には、二体の姿がはっきりと映っている。
武田さんが言うように、少し弱くなっているからだろう。俺は二体の魔物相手でも、反撃は出来ないものの、攻撃を受け止めるには十分だった。そうやって攻撃を受け止めつつ、俺は『重拳』を発動させる為に、坩堝を回転させていく。
そして二体の攻撃を曲剣で受け止めたところで、『重拳』発動。周囲に重力フィールドを展開する。これで二体の動きを封じられたはず。と攻撃に移ろうとしたところで、二体はバックステップであっさりこの重力フィールドから退避してみせた。
(どうなっているんだ?)
疑問が顔に出ていたのか、一歩も動かないベイビードゥが、カカカとまた笑う。くっ、恐らくは向こうだけが状況を理解しているのが可笑しいのだろうが、笑われるのは癪に触る。と、
「くっ、攻撃すると消えやがる!」
「こっちもだねえ」
「俺たちの攻撃も当たりません!」
とこそかしこからそんな声が聞こえてくる。攻撃が当たっていないのは、俺だけではないみたいだ。いや、攻撃しようとしたら、皆の場合は消えているのか。俺は見えているからちょっと違うな。
「どぅわあっ!? ぎゃあああ!? ぬわあああ!?」
そこに武田さんの悲鳴まで聞こえてきた。見れば武田さんが魔物たちから逃げている。武田さんはヒカルが結界を張っているはずだ。それをすり抜けてきたのか? となると、ベイビードゥのスキルは、攻撃をすり抜ける能力? いや、それなら消える理由ってなんだ?
ギィンッ! ガガッ!
「ほらほら、考えている余裕なんてあるのかな?」
などとベイビードゥが二体の魔物をけしかけてくる。くっ、確かに思考の時間は短いけれど、こう言う事だって、出来るんだぜ? と俺はアニンを地中を這わせて、エルデタータの時のように、ベイビードゥの下から攻撃する。いや、しようとしたのだ。が、ベイビードゥはそれが来るのを分かっていたかのように、アニンが足下から攻撃する前に、それを避けてみせた。
「その動き、未来視か」
「う~ん? どうだろうなあ?」
はぐらかすって事は、半分は当たっていると考えるべきか。だが、ベイビードゥが未来視を持っているなら、こちらの攻撃が当たらない理由の説明はつく。消える理由は説明出来ないけど。
地下四十一階。その広いホール状のフロアに、ベイビードゥが軍勢を引き連れ待ち構えていた。
「何か問題があったかな?」
既に勝ち誇ったように、右手の剣で左手を叩くベイビードゥ。そりゃあ、勝った気にもなるだろう。ベイビードゥの軍勢の中には、中ボスたちまで含まれているのだから。
「どう言う事ですか?」
俺はアニンの曲剣を出し、ベイビードゥを牽制しつつ、ちらりと武田さんを見遣る。
「地下四十一階以降は、倒した中ボスが少し弱くなって、フィールドモンスターとして徘徊するようになるんだよ。恐らくそれを支配下に置いたんだろう」
成程。
「『支配』か『指揮』のスキルを持っているのかな?」
とミカリー卿が武田さんに尋ねる。
「恐らく。強力な『隠蔽』であいつのスキル構成は見えないけど」
そうでなければ武田さんに、ベイビードゥが消えたりする理屈が分からないはずないものね。
「当たりだ。両方持っているぜ」
ベイビードゥはカカカと笑いながらそう答えた。
「意外だな。スキルを教えてくれるなんて」
「お前たちの中に、『奪取』やスキル封じ系のスキルを所持している面子はいないみたいだからな。知られたところで。それに……」
「それに?」
「ここで全滅するんだ。冥土の土産ってやつだよ」
こっちの世界にもそんな文化あるのか。
「それなら、あの突然消えたり現れたりするスキルも教えて欲しいんだけど?」
「そっちもすぐに分かるさ」
とベイビードゥは答えて、右手に持つ剣を俺たちへ向けた。それを合図に、魔物の軍勢が俺たちへと押し寄せる。
バヨネッタさんを囲う三体の鎧ミノタウロスに、スピードでデムレイさんを撹乱する狼の中ボスたち。ミカリー卿には数で対抗するらしく、フロアで良く見るアンデッド系魔物が一斉に押し寄せている。カッテナさん、ダイザーロくんも魔物たちに囲まれ動けず、武田さんはヒカルの結界の中で事の次第を見守っている。
そうなると俺の相手は、
「ダイザーロくんに執着していたと思っていたけど?」
俺の前には、ベイビードゥと人型の中ボスが二人立っている。
「雷使いか? 確かに俺の鎧を壊してくれたんだ。報復してやりたい気持ちはあるが、まずはお前だ」
『まずは』ね。俺を倒してからダイザーロくんを倒すつもりか。となると、ベイビードゥの中で俺の何かが、ダイザーロくんを差し置いても倒さなければならない対象になっている訳か。が、そんな悠長に思考を巡らせている時間を、相手が与えてくれている訳がなかった。
(消えたか!)
目の前から人型二体の魔物の姿はなくなり、俺は直ぐ様未来視の片眼鏡を発動して、敵二体の動きを予測する。すると二体の動きが良く見えた。片方は双剣で片方は槍を持ち、高速移動で俺に攻撃を仕掛けてくる。俺はそれをバックステップで躱すと、一息吐いて『時間操作』タイプBを発動させる。
『どうやらベイビードゥは、己のスキルを配下の魔物にも発動させる事が出来るようだな』
アニンの意見に首肯しながら、俺はアニンの曲剣を構え直す。と消える二体の魔物たち。が、未来視の片眼鏡には、二体の姿がはっきりと映っている。
武田さんが言うように、少し弱くなっているからだろう。俺は二体の魔物相手でも、反撃は出来ないものの、攻撃を受け止めるには十分だった。そうやって攻撃を受け止めつつ、俺は『重拳』を発動させる為に、坩堝を回転させていく。
そして二体の攻撃を曲剣で受け止めたところで、『重拳』発動。周囲に重力フィールドを展開する。これで二体の動きを封じられたはず。と攻撃に移ろうとしたところで、二体はバックステップであっさりこの重力フィールドから退避してみせた。
(どうなっているんだ?)
疑問が顔に出ていたのか、一歩も動かないベイビードゥが、カカカとまた笑う。くっ、恐らくは向こうだけが状況を理解しているのが可笑しいのだろうが、笑われるのは癪に触る。と、
「くっ、攻撃すると消えやがる!」
「こっちもだねえ」
「俺たちの攻撃も当たりません!」
とこそかしこからそんな声が聞こえてくる。攻撃が当たっていないのは、俺だけではないみたいだ。いや、攻撃しようとしたら、皆の場合は消えているのか。俺は見えているからちょっと違うな。
「どぅわあっ!? ぎゃあああ!? ぬわあああ!?」
そこに武田さんの悲鳴まで聞こえてきた。見れば武田さんが魔物たちから逃げている。武田さんはヒカルが結界を張っているはずだ。それをすり抜けてきたのか? となると、ベイビードゥのスキルは、攻撃をすり抜ける能力? いや、それなら消える理由ってなんだ?
ギィンッ! ガガッ!
「ほらほら、考えている余裕なんてあるのかな?」
などとベイビードゥが二体の魔物をけしかけてくる。くっ、確かに思考の時間は短いけれど、こう言う事だって、出来るんだぜ? と俺はアニンを地中を這わせて、エルデタータの時のように、ベイビードゥの下から攻撃する。いや、しようとしたのだ。が、ベイビードゥはそれが来るのを分かっていたかのように、アニンが足下から攻撃する前に、それを避けてみせた。
「その動き、未来視か」
「う~ん? どうだろうなあ?」
はぐらかすって事は、半分は当たっていると考えるべきか。だが、ベイビードゥが未来視を持っているなら、こちらの攻撃が当たらない理由の説明はつく。消える理由は説明出来ないけど。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果
yuraaaaaaa
ファンタジー
国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……
知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。
街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる