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対金毛の角ウサギ(前編)
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「ミデン、久し振りねえ」
「ウォン」
ミニピンサイズのミデンを抱き上げるバヨネッタさん。
「服まで着させて貰って、愛されているのね」
ミデンはフード付きのオレンジの犬用コートを着ている。俺が雪山に連れて行くと言ったら、家族から「馬鹿か?」と言われ、防寒用にこれを着させられた形だ。
「ふむ。遠くからでもオレンジなら目立つし、悪くないんじゃないか?」
とデムレイさんは言うが、そんな事を考えてうちの家族はオレンジのコートを着せていません。
「うちの国特有なんですよ。ペットの動物に服を着せるの」
「そうなのか?」
多分。
「まあ、そこは良いんじゃないかな。分裂さえしてくれるなら。ビチューレの方からも、あまり猶予はないと報告を受けているよ」
とミカリー卿からの報告。金毛の角ウサギの肉片を、代わる代わるアルティニン廟の前に置いて封じているようだが、効果の持続時間が短いようだ。う~ん、それはバラバラにしたから効果が弱まったのか、時を経て効果が弱まったのか、判断が難しいところだな。
「そんなものは、これを成功させれば問題解決よ。ミデン、やるべき事は分かっているわね?」
「ウォン」
言いながらバヨネッタさんはミデンの首に通信魔道具を装着させた。
「良い返事ね。あなたなら出来ると信じているわ」
ミデンの目を見ながら言葉を口にしたバヨネッタさんは、ミデンを地面に置く。同時にミデンの身体は大きくなり、ドーベルマンクラスの体躯に。服も大きくなるんだな。それは初めて知った。
「ミデン、無理はしなくて良い。囲えれば良いんだ。仕留めるのは俺たちがやる」
「ウォン」
「良し。行ってこい」
俺の命令に従って、ミデンは分裂を繰り返しながら、ハーンシネア山脈を駆けていった。
「おお。凄い数に分裂するな。あれなら下手に人海戦術でウサギを囲うよりも、きっちり囲ってくれそうだ」
額に手を当て、雪山に消えていくミデンを見送るデムレイさん。
「私たちも移動するわよ」
そんなデムレイさんを横目に、俺たちはサングリッター・スローンに乗り込んでいく。
「って、待ってくれよ」
セクシーマン山、その八合目に黄金のサングリッター・スローンは降り立った。洞穴のあるすぐ横だ。
「ここが、デウサリウスが修行して、神と同化したって場所ですか」
「ええ。ハイポーションを製造している場所でもあります。聖域ですから、不用意に中に入らないでくださいね」
ミカリー卿から釘を刺されてしまったが、そもそも洞穴には鉄格子がはめられていて、中には入れないし、衛兵が洞穴を守護している。そんな鉄格子越しに、カッテナさんとダイザーロくんが洞穴を拝んでいた。
「寒いだろうし、皆船の中に入っていて良いですよ」
俺の言葉に、直ぐ様サングリッター・スローンの中に戻っていく面々。やっぱり寒かったのか。
「何か癪ね。私たちだけ寒い思いしないといけないなんて」
とバヨネッタさんは釈然としていないようだが。
「まあまあ。それより、早く金毛の角ウサギを仕留めてしまいましょう」
「それもそうね。ミデンも寒い思いをしているでしょうし」
俺はバヨネッタさんが側車に乗り込んだツヴァイリッターに跨がると、右手のハンドルをひねってツヴァイリッターを動かし、サングリッター・スローンの上まで移動させる。
そこで着地させると、前面にウインドウが浮かび上がり、ドローンからの映像が映し出される。
「ミデンは良くやってくれているようね」
映し出されている雪山の映像には、オレンジの輪が作られており、その中心に陽光に反射する金色の点が観られた。
「半径一キロってところですかねえ。まあ、あれ以上は近付けないですよねえ。逆にあそこまで近付けているミデンの胆力を褒めたい」
ミデンに取り囲まれた金毛の角ウサギは、ジリジリと右往左往しており、それに合わせるようにオレンジの輪も右往左往している。
「やるわよ、ハルアキ」
「はい」
俺は指輪の夢幻香を灯すと、『有頂天』状態へと入った。
「良いわね。これなら一撃でウサギを貫けそうだわ」
とバヨネッタさんが『限界突破』で俺たちの力を底上げした瞬間の事だ。金毛の角ウサギが暴れ出したのだ。
「嘘でしょ!? まさかこんな遠くの魔力を感知しているって言うの!?」
暴れる金毛の角ウサギによって、ミデンによるオレンジの輪が乱されていく。
「バヨネッタさん」
「急かさないで。ミデン、聞こえる? 今から射撃するわ。気を引き締めなさい」
バヨネッタさんが通信魔道具越しにそう口にすると、ビシッとオレンジの輪を固めるミデン。これによって金毛の角ウサギが一瞬動きを止めた。
「今!」
リコピンのアシストの元、バヨネッタさんが側車からトリガーを引けば、熱光線が一直線の尾を引いてハーンシネア山脈に突き刺さった。
蒸発とともに立ち昇る雪煙。が、その中でキラキラしている何かが動いているのが見えた。
「くっ、外した」
この距離から、ほぼ光速の熱光線を避けるとか、意味が分からん。しかもこれによって金毛の角ウサギの動きは更に活発となり、ミデンのオレンジの輪がどんどん崩されていく。ミデンにしても頑張っているが、やはり金毛の角ウサギの『威圧』は尋常ではないようだ。
「一旦バラして、立て直した方が良くないですか?」
「その間に山向こうに行かれたら最悪よ。オルドランドは平地が多いから、下から狙い撃つ事になる。更に狙いを付け辛くなるわ」
そうなるのか。となるとここで金毛の角ウサギを仕留めておきたい。俺はバヨネッタさんから通信魔道具を借り、ミデンに指示を出す。
「ミデン、数を増やして輪を大きくしてくれ。狙いはこちらで付ける。逃さないようにだけ集中してくれ」
これに反応したミデンは、更にその数を増やして、輪は大きくなっていった。
「ウォン」
ミニピンサイズのミデンを抱き上げるバヨネッタさん。
「服まで着させて貰って、愛されているのね」
ミデンはフード付きのオレンジの犬用コートを着ている。俺が雪山に連れて行くと言ったら、家族から「馬鹿か?」と言われ、防寒用にこれを着させられた形だ。
「ふむ。遠くからでもオレンジなら目立つし、悪くないんじゃないか?」
とデムレイさんは言うが、そんな事を考えてうちの家族はオレンジのコートを着せていません。
「うちの国特有なんですよ。ペットの動物に服を着せるの」
「そうなのか?」
多分。
「まあ、そこは良いんじゃないかな。分裂さえしてくれるなら。ビチューレの方からも、あまり猶予はないと報告を受けているよ」
とミカリー卿からの報告。金毛の角ウサギの肉片を、代わる代わるアルティニン廟の前に置いて封じているようだが、効果の持続時間が短いようだ。う~ん、それはバラバラにしたから効果が弱まったのか、時を経て効果が弱まったのか、判断が難しいところだな。
「そんなものは、これを成功させれば問題解決よ。ミデン、やるべき事は分かっているわね?」
「ウォン」
言いながらバヨネッタさんはミデンの首に通信魔道具を装着させた。
「良い返事ね。あなたなら出来ると信じているわ」
ミデンの目を見ながら言葉を口にしたバヨネッタさんは、ミデンを地面に置く。同時にミデンの身体は大きくなり、ドーベルマンクラスの体躯に。服も大きくなるんだな。それは初めて知った。
「ミデン、無理はしなくて良い。囲えれば良いんだ。仕留めるのは俺たちがやる」
「ウォン」
「良し。行ってこい」
俺の命令に従って、ミデンは分裂を繰り返しながら、ハーンシネア山脈を駆けていった。
「おお。凄い数に分裂するな。あれなら下手に人海戦術でウサギを囲うよりも、きっちり囲ってくれそうだ」
額に手を当て、雪山に消えていくミデンを見送るデムレイさん。
「私たちも移動するわよ」
そんなデムレイさんを横目に、俺たちはサングリッター・スローンに乗り込んでいく。
「って、待ってくれよ」
セクシーマン山、その八合目に黄金のサングリッター・スローンは降り立った。洞穴のあるすぐ横だ。
「ここが、デウサリウスが修行して、神と同化したって場所ですか」
「ええ。ハイポーションを製造している場所でもあります。聖域ですから、不用意に中に入らないでくださいね」
ミカリー卿から釘を刺されてしまったが、そもそも洞穴には鉄格子がはめられていて、中には入れないし、衛兵が洞穴を守護している。そんな鉄格子越しに、カッテナさんとダイザーロくんが洞穴を拝んでいた。
「寒いだろうし、皆船の中に入っていて良いですよ」
俺の言葉に、直ぐ様サングリッター・スローンの中に戻っていく面々。やっぱり寒かったのか。
「何か癪ね。私たちだけ寒い思いしないといけないなんて」
とバヨネッタさんは釈然としていないようだが。
「まあまあ。それより、早く金毛の角ウサギを仕留めてしまいましょう」
「それもそうね。ミデンも寒い思いをしているでしょうし」
俺はバヨネッタさんが側車に乗り込んだツヴァイリッターに跨がると、右手のハンドルをひねってツヴァイリッターを動かし、サングリッター・スローンの上まで移動させる。
そこで着地させると、前面にウインドウが浮かび上がり、ドローンからの映像が映し出される。
「ミデンは良くやってくれているようね」
映し出されている雪山の映像には、オレンジの輪が作られており、その中心に陽光に反射する金色の点が観られた。
「半径一キロってところですかねえ。まあ、あれ以上は近付けないですよねえ。逆にあそこまで近付けているミデンの胆力を褒めたい」
ミデンに取り囲まれた金毛の角ウサギは、ジリジリと右往左往しており、それに合わせるようにオレンジの輪も右往左往している。
「やるわよ、ハルアキ」
「はい」
俺は指輪の夢幻香を灯すと、『有頂天』状態へと入った。
「良いわね。これなら一撃でウサギを貫けそうだわ」
とバヨネッタさんが『限界突破』で俺たちの力を底上げした瞬間の事だ。金毛の角ウサギが暴れ出したのだ。
「嘘でしょ!? まさかこんな遠くの魔力を感知しているって言うの!?」
暴れる金毛の角ウサギによって、ミデンによるオレンジの輪が乱されていく。
「バヨネッタさん」
「急かさないで。ミデン、聞こえる? 今から射撃するわ。気を引き締めなさい」
バヨネッタさんが通信魔道具越しにそう口にすると、ビシッとオレンジの輪を固めるミデン。これによって金毛の角ウサギが一瞬動きを止めた。
「今!」
リコピンのアシストの元、バヨネッタさんが側車からトリガーを引けば、熱光線が一直線の尾を引いてハーンシネア山脈に突き刺さった。
蒸発とともに立ち昇る雪煙。が、その中でキラキラしている何かが動いているのが見えた。
「くっ、外した」
この距離から、ほぼ光速の熱光線を避けるとか、意味が分からん。しかもこれによって金毛の角ウサギの動きは更に活発となり、ミデンのオレンジの輪がどんどん崩されていく。ミデンにしても頑張っているが、やはり金毛の角ウサギの『威圧』は尋常ではないようだ。
「一旦バラして、立て直した方が良くないですか?」
「その間に山向こうに行かれたら最悪よ。オルドランドは平地が多いから、下から狙い撃つ事になる。更に狙いを付け辛くなるわ」
そうなるのか。となるとここで金毛の角ウサギを仕留めておきたい。俺はバヨネッタさんから通信魔道具を借り、ミデンに指示を出す。
「ミデン、数を増やして輪を大きくしてくれ。狙いはこちらで付ける。逃さないようにだけ集中してくれ」
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