世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
487 / 636

実在

しおりを挟む
「そもそも、そのウルフシャの伝承って本当なの?」


 バヨネッタさんは懐疑的だ。国を一つ跨いで弓でウサギを射るなんて、スキル持ちでもレベル五十オーバーでも難しい離れ業だからなあ。


「ウルフシャの弓なら、復元したものを私の地元の地方議会の管財人が保管しているよ」


 と声を上げたのはミカリー卿だ。そう言えばミカリー卿の地元はセクシーマン山のお膝元だった。


「本当に存在するんですね」


「実際にウルフシャが使用した弓かは分からないけどね。何せセクシーマン山から遠く、ビチューレさえ超えたハーンシネア山脈にいるウサギを射ったと言う伝承だからねえ。それに地元には何故ウルフシャがウサギを射ったのか、その肝心の理由が失伝していてね。まさかこれ程重要な場面で使われた弓だったとは思わなかったよ」


 ミカリー卿としては、まさかここで地元民しか知らないだろう謎の英雄の名前が出てくるとは思わなかったのだろう。感慨深そうな顔をしている。


「どんな弓なんですか?」


「カッテナくんが使っているのと同様のパデカ樫の弓だよ。特別なものではないね。ウルフシャは剛力の持ち主だったらしくてね。その剛力を十全に発揮すれば、身体が裂けて散り散りとなると言われていた程だそうで、その為にどんな剛弓も壊してしまうから、壊れても良い弓をいつも使用していて、私の地元では弓を壊す事を、ウルフシャする。と言うくらいだよ」


「普通の弓で国超えの矢を放ったの?」


 驚くバヨネッタさんに、ミカリー卿は首肯で返す。恐らくはギフトかスキルで、シンヤと同じ『怪力』を持ち、更にギフトかスキルで武田さんと同様に空間把握系のものを持っていたのだろうなあ。そう言えば、


「武田さんって、前世の勇者時代、どうやって戦っていたんですか? 当時はデウサリウス教徒だった訳だから、『空織』のみでしょう? それともカッテナさんみたいにギフト持ちだったんですか?」


「何だよ、藪から棒に。俺は未来視なんかも使ってカウンターや奇襲をするタイプだから、遠距離は苦手だぞ」


 そうか。ウルフシャみたいな事は望めないのか。


「武器って言うなら、オルガンを使っていたけどな」


「オルガンを?」


 バンジョーさんの相棒で、化神族であるオルガンを使っていたのか。


「それにしては、バンジョーさんに対する態度は素っ気なかったですね」


「あいさつはお前らが来る前に済ませてあったからな」


 そうか、俺が『有頂天』を覚えている間に、武田さんはもうモーハルドに入国していたんだもんな。昔の戦友ともあいさつ済みか。しかしバンジョーさん、勇者が使うような武器を使っているんだな。


『ハルアキもだろう』


 とアニンが一言。そうでした。


「まあ確かに、武田さんにパイルバンカーは似合いそうですね」


 武田さんに呆れた顔をされてしまった。


「あれはバンジョーだからああなっているんだ。俺の戦闘スタイルは、剣、槍、斧など、戦う相手に合わせた武器にオルガンを変化させてのカウンターや奇襲だった」


 そうか、たとえ同じ化神族でも、使い手が違えば、それに合わせて化神族の方が変化するのか。そう言えば、アニンの前の持ち主である海賊のゼイランは曲剣の使い手だったみたいだけど、俺が初めて見たアニンは直剣で、その後これまで直剣やら様々な武器に変化させて戦ってきたもんなあ。あれは俺のイメージが反映されていたのか?


『まあ、そのようなものだな』


 その返事の仕方、アニンもどう言う仕組みで自分が使い手に合わせているのか、分かっていないんじゃないの?


『そう言うハルアキは、己の身体が、どのようにして生命活動を維持しているのか完璧に理解出来ているのだな?』


 すみませんでした。ちょっと煽りました。


『全く、そんな事よりも、今はウサギをどのようにして捕らえるかだろう?』


 そうなんだけどねえ。考えてはいるんだけど、思い付かない。


『はあ』


 呆れた声は出さないで欲しい。


「見えない相手をどうにかする。って言うのが難しいですよねえ」


「そうだな。今、ヒカルを偵察に出させているが、全く接触しないからな。俺の『空織』にも反応なし。その金毛の角ウサギは、余程警戒心が強いみたいだな」


 と武田さん。パターンAは駄目か。となると、パターンBに賭けるか。



 数時間後━━。


「武田さん、一度全てのカメラを回収して貰って良いですか?」


「分かった」


 と武田さんが首肯するなり、ドサドサと『転置』によって回収されるビデオカメラが二十台。オヨボ族の人たちに許可を貰って、ハーンシネア山脈各地に定点カメラを仕掛けさせて貰ったのだ。ふっふっふっ。異世界の角ウサギよ。人間の文明は日々進歩しているのだよ。それらで撮影した映像を、ノートパソコンで観てみる事に。


「う~ん…………」


「なんか、金色? のものが画面の遠くでチラッと動いていたな」


 二十台のビデオカメラのうち、一台にだけ、チラッと一瞬何かが映った気がしたので、コマ送りにして観てみると、一フレームにだけ、雪山の雪に埋もれる形で、金色の何かが遠くからこちらを覗いている。本当に一フレームだけだったので、一瞬こちらを見て、すぐに隠れてしまったのだろう。


「武田さん、アップにしてください」


 俺の指示を受けるまでもなく、武田さんが金色の何かが映っている部分を拡大してくれた瞬間だった。


 ズザザザザザッ!!


 パソコンの画面を覗いていた俺たち全員が、パソコンから飛び退いたのだ。見てはいけないものを見てしまった気になり、俺は目を背けながら、じりじりとノートパソコンに近付くと、パタンとノートパソコンを閉じたのだった。


「ふう…………。嫌過ぎる」


 思わず本音がこぼれてしまったが、皆首肯しているので、皆の意見も同じなのだろう。


「『威圧』なんてレベルではなかったねえ。画面越しであの威圧感。ウルフシャが国を超えて弓を射た理由が理解出来たよ。あれには近付けない」


 とミカリー卿。それには賛同する。何と言うか、あの金色の物体は、根源的恐怖を呼び起こすのだ。たとえこちらの方が圧倒的強者であったとしても、あれに近付くのは不可能だろう。となるとやはり超長距離からの狙撃か。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

成長チートと全能神

ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。 戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!! ____________________________ 質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。

処理中です...