世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
476 / 642

最上の味

しおりを挟む
「でも、『貪食』と言う二つ名が付いている訳ですから、情は駄目でも食欲では動くんじゃないですか?」


「供物を捧げる。って言うあの話?」


 俺に確認を取るバヨネッタさんに頷き返す。


「供物作戦なら、俺がもうやったぞ」


 そこにデムレイさんが口を挟んできた。


「そうなんですか?」


「まあな。ハルアキが今言ったように、二つ名として『貪食』が付いているからな。それにこいつの前で飯を食っていると、じろじろ見てくるんだよ。だから、野菜や穀物はもちろん、牛に羊にヤギ、鳥、蛙やトカゲ、オークや飛竜の肉なんかもこいつの口先に置いたし、ウサギも試してみたけど、口は開かなかったな」


「やっぱり駄目じゃない」


 とデムレイさんに同調するバヨネッタさん。う~ん、良い線いっていると思ったんだけどなあ。


「数とか雌雄の問題とかではないですよね?」


 恐る恐る尋ねると、デムレイさんは肩を竦ませる。もう試した。って事なんだろう。


「一番反応が良かったのが、チーズ類だった事は教えておいてやる」


 それはまあ、俺がチーズソースを作った時に反応していたからな。…………ん? カプレーゼの時にそんな反応していたっけ?


「牛乳も捧げたんですか?」


「乳か。そうだな」


「ヨーグルトやバターも?」


「なんだ? 乳製品がどうかしたのか?」


 俺の質問攻めに首を傾げるデムレイさん。


「いえ、アルティニンがカプレーゼよりも俺のチーズソースの方に良い反応を示していたので、もしかしたらアルティニンはチーズが好きと言うより、乳製品自体が好きなんじゃないかと」


「ほう?」


 俺の発言は皆の興味を集めるのに十分だったらしく、その期待に満ちた目がこちらに向けられている。


「もし、アルティニンが乳製品が好物で、でもチーズでも他の乳製品でも口を開かない。となると、恐らく鍵になるのは最上級の乳製品かも知れません」


「最上級の乳製品?」


 聞き返すバヨネッタさんに首肯する。皆の期待の視線が更に輝くのが分かった。


「はい。俺たちの世界では、それを醍醐と呼びます」


「醍醐って、醍醐味の醍醐か?」


 と尋ね返す武田さんにも首肯する。


「それです。元々仏教用語で、現在では最上とか真髄、味わい深いとかの意味で使われている、その醍醐です」


「醍醐ってそんな昔からあったのか」


 う。武田さんも痛いところを突いてくるなあ。確かに仏教も歴史が長いからなあ。俺はスマホを取り出して調べてみる事にする。


「醍醐は大乗仏教の経典に出てくるみたいですねえ。大乗仏教の成立が紀元前後なので、それ以前、二千年以上前から醍醐があった可能性は高いと思います」


「じゃあ、そのダイゴをこのアルティニン廟に持ってくれば、竜は口を開くと?」


 バヨネッタさんもなんだかんだ乗り気になってきているな。


「可能性はあると思うんですよ」


「じゃあハルアキ、今すぐ日本に戻って、そのダイゴを持ってきなさい」


「無理です」


「何でよ!?」


 俺も持って来れるならばいくら金を積んでも持ってくるのだが、醍醐は無理だ。


「醍醐は、現在では製法が失われ、幻の食べ物とされているんです」


「は?」


「いやあ、これじゃないか? って言う諸説は色々出ているんですよ。ヨーグルトとか、バターとか、チーズとか、一番有力なのがインドのバターオイル『ギー』ですね。でもこれが本当に醍醐なのかは分かりません」


 ああ、あれだけ期待を煽った上でのこの俺の仕打ち。皆の視線が痛い。


「でも、皆さん、失われたのは地球での話です。もし、その製法がこちらの世界に残っているとしたら?」


 俺の問い掛けに皆がハッとする。


「そうか。長年アルティニン廟とともにあったビチューレ王家ならば、そのダイゴの製法が受け継がれている可能性があるのね?」


 バヨネッタさんの言に、皆で顔を合わせて首肯する。あれだけ美味しい宮廷料理を出すのだ。ダイゴが受け継がれていてもおかしくない。そして俺たちはサングリッター・スローンで、コルト王家の宮殿にとんぼ返りするのだった。



「最上級の乳製品でございますか?」


 何でチーク王は俺に対して下手に出てくるのだろうか。まあ、デーイッシュ派とともに新国家を打ち立てようなんて企ててた国家の長だからなあ。それが水泡に帰した今、己の身の振り方に困窮しているのかも知れない。しかし今のチーク王は目を輝かせていた。あれ? この目の輝き、なんか知っているなあ。


「使徒様はその製法をご存知なのですか!?」


 これははっきりきっぱり知らないやつだ。


「いや、こっちが尋ねているんですが?」


 俺の答えに思いっきり肩を落とすチーク王。分かり易い人だなあ。


「申し訳ありません。その乳製品の製法は、五十年前の跡目争いで失われてしまいまして……」


 五十年前までなら伝わっていたのかあ。武田さんを見遣ると、う~ん? と首を捻っている。五十年前なら、武田さんがビチューレ王家から供されていた可能性がある。


「ガドガンに聞いてみる」


 と通信魔法でガトガンさんと会話する武田さん。数刻やり取りしてハッとした武田さんは、俺の方を向いた。


「それはアルミラージじゃないかって、ガトガンが」


 それにハッとさせられ俺たちは顔を見合わせた。アルは冠詞でミラージの意味が『昇天』。


「そうです! アルミラージです! それこそビチューレ王家より失われし最上の味の名です!」


 俺たちの考えを補完するように、チーク王が興奮気味に声を発した。つまりこっちのアルミラージは昇天する程美味い最上の味の乳製品って事か。


「武田さん、肝心の製法は?」


 逸る気持ちを抑えながら武田さんに尋ねるが、武田さんは残念そうに首を横に振った。


「ガトガンの話だと、製法は王家秘伝なので教えて貰えなかったそうだ」


 くう。だと思ったよ。そして皆と顔を合わせる。


「あれですよねえ。五十年前、アルミラージとなると……」


「ウサギのポーション漬けが入っていた金器に、その製法が記されていたんでしょうねえ」


 俺の言葉をバヨネッタさんが次いで、皆が首肯した。ああ、振り出しに戻ってしまった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

処理中です...