世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
454 / 636

拍車が掛かる

しおりを挟む
 こう守られながらじっくり観察すると、コニン派の戦士たちにも傾向があるのが分かる。


 数が多く統率が取れているのがマッカメン枢機卿の麾下きかだそうだ。お揃いの鎧やら腕章を身に着けてる者が多いので、モーハルド正規軍からでも引っ張ってきたのだろう。流石は政界にも進出しているマッカメン枢機卿だ。その政治力を遺憾なく使っている。


 聖職者のローブを着ている集団はテイニー枢機卿の麾下だ。テイニー枢機卿は聖職者に支持者が多いのだろう。白や黒などのローブを着た集団が、魔導具でこちらへ魔法を放ってくる。ミカリー卿と同じような魔導書を持つ者もいる。デウサリウス教の聖職者としては正統派な戦法なのかも知れない。


 ダンッ!!


 そして今カッテナさんが構築した砦の丸太を真っ二つに斬り裂いてやって来た男は、コニン派で最初に俺の『聖結界』内に入り、マチコさんが繁茂させた長草を、その大剣で斬り裂いた男だ。


「彼はイヤルガム。確かゴウーズ首席枢機卿の親戚筋で、モーハルド東部軍の幹部だったはずだよ」


 とミカリー卿が俺に耳打ちしてくれた。成程、どうやらゴウーズ首席枢機卿は、モーハルド東部にコネを持っているようだ。イヤルガムが率いる集団は、少数だが一人一人が強い事はここまで全合一で全体を見ていて分かっている。あとデーイッシュ派と積極的に小競り合いをしていたのもこの集団だ。その度に『聖結界』の外に弾き出されていた。


 ゴウーズ首席枢機卿からはそれ程強いデーイッシュ派への憎しみを感じていなかったが、ここはモーハルドの東南部だ。東部軍に属しているイヤルガムからすると、避けては通れない相手なのかも知れない。


 丸太を排して砦内に入ってきたイヤルガムは、状況を理解する為に周囲を見回し、俺の姿を見付けるなり、一気にその距離を詰めてきた。


 ガゴンッ!!


 が、そうはさせない。とばかりにマチコさんが飛び出し、素早くイヤルガムの懐に入ると、右ストレートを打ち込む。が、イヤルガムはそれを器用にも大剣の側面で受けてみせた。そしてそのままマチコさんを弾き飛ばすイヤルガム。


「くっ」


 弾き飛ばされたマチコさんは、俺の前まで吹っ飛ばされてきて、くるりと一回転して着地した。


「流石は東部軍の将ともなると強いねえ。私よりレベルが高そうだ」


 俺はそんな事を口にしながら立ち上がり、椅子やティーセットなどを『空間庫』に片していく。


「そう言う割りには、余裕がありそうですな」


 イヤルガムは大剣を肩に担ぎながら、のっしのっしとこちらへ歩み寄ってきた。それに追随するイヤルガム麾下の部隊。それを警戒して、二次テスト挑戦者たちが俺を守る為に周囲を固めていく。


「ありがたいけど、皆にはイヤルガムさん以外の相手をして貰いたいかな」


 俺の言葉に、どう言う事か? と皆が一瞬視線を向けてくる。


「こう見えて私は『逆転』のスキル持ちなんでね。なんなら大物食いジャイアントキラーの才能があると思って貰って構いません」


 まあ、小太郎くんに無理矢理付与された『逆転(呪)』だけどね。それでも周囲を納得させるには足る材料だろうと思ったのだが、俺の言葉には説得力が足りないらしい。皆俺の周囲を離れてくれない。俺の事大好きかよ。


「まあ、それでも別に良いですけど、俺とイヤルガムさんの戦いの巻き添えで戦闘不能になれば、それで二次テスト不合格にもなりかねませんよ」


 との俺の言葉には、流石に皆渋面となる。


「それは逆に、ここで使徒様を守る事を放棄して、他の者たちと戦闘に入っても、二次テスト不合格にはならない。と解釈しても良いのかな?」


 流石はミカリー卿である。話が早くて助かる。


「さあ。働き方次第ですかね。こちらが求める人材は、人の形をした肉盾ではなく、活躍してくれる人材ですから」


 俺の言に、まずミカリー卿が俺の防衛から外れ、炎で出来た人を呑み込む程大きな大蛇を召喚する。炎の大蛇は俺とイヤルガム隊との睨み合いから、漁夫の利を得ようとしていた周囲の戦士たちを一掃するように、サングリッター・スローンを中心に、丸太砦の中を暴れ回る。


「そう言う事なら」


 続いてマチコさんが飛び出す。大剣を担いだイヤルガムの脇を抜け、その後ろで控えていたイヤルガム隊の一人に向かって右ストレートを打ち込んだ。しかし相手はそれを盾で受け止める。そこに横の一人が槍を突いてきた。躱して後退するマチコさん。更に水球がマチコさんを狙う。これを拳で打ち落とすマチコさん。やはりイヤルガム隊は一人一人が精鋭だな。マチコさん一人では対処し切れない。


 マチコさんが攻めあぐねているところで、ふわりと何かがマチコさんの横を抜けていった。紙飛行機だ。その場違いな代物に、呆気に取られたイヤルガム隊は、思わず動きを止めてしまった。そしてイヤルガム隊の一人に紙飛行機が当たり、


 ドーン!


 大爆発が起こる。ガドガンさんの爆弾紙飛行機は、ここに来るまでも見ていたはずだが、思わぬタイミングで放たれると、野球のチェンジアップのようでタイミングが外されるんだろう。しかし流石は精鋭、犠牲はその一人で収まった。爆発が起こった瞬間に、その一人から皆飛び退いたからだ。判断が早いのは流石だが、仲間を助けるって行動には出ない訳ね。


 しかし紙飛行機だけでこちらの攻勢は止まらず、爆弾紙飛行機を避けたイヤルガム隊を狙って、ガドガンさんを乗せたユニコーンが突進していく。これに一人轢かれ、更にカッテナさんがスリングでビシバシと小石を飛ばしていく。これが中々に厄介な上、マチコさんがその機動力を使って近距離から拳を叩き込んでくるので、陣形を乱されるイヤルガム隊。それでも総崩れとはならず、場面場面では三人を押し返してくるので、互角と言ったところか。


 他の二次テスト挑戦者たちも、テイニー枢機卿やマッカメン枢機卿麾下の隊と戦っており、今はまだ善戦している。


 などと全合一で事態把握に努めていたところへ、大剣から衝撃波のようなものが発せられて攻撃された。それをアニンの大盾で防ぐ。


「さっきも私を見るなり突っ込んできたし、せっかちですよねえ、イヤルガムさん」


「茶番に興味がないだけですよ」


 言ってイヤルガムは大剣を両手で持つと、大剣を立てて顔の右横に持ってきて構える。八相の構えとか蜻蛉の構えと呼ばれるやつだが、身長程の大剣でそれをやられると、威容さが際立つな。俺は一息吐くと、アニンの大盾を、海賊曲剣へと変化させて右手に携えた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...