437 / 642
暗中飛躍
しおりを挟む
「実際、デーイッシュ派が何を考えているのか、頭を割って中を覗いてみたいものだわ」
バヨネッタさんの発言は物騒だが、同意せざるを得ないのか、誰も何も言い返さなかった。
「まあ、危機感が薄いのは確かですよね」
「危機感?」
俺の言葉に全員が首を傾げた。
「デーイッシュ派だけでなく、コニン派も含めて、多分モーハルドの国民で魔王に世界が滅ぼされると本気で思っている人が何人いるのか。って話です」
言いながらガドガンさんを見遣ると、彼女はなんともバツが悪そうな顔で俯《うつむ》く。
「ずいぶんと脳天気な国民性なようね」
バヨネッタさんから目を逸して、お茶をすするガドガンさん。
「いやあ、なんと言いますか、逆に聞きますけど、皆さんは何割くらい、魔王によって世界が滅ぼされる。とお考えなんですか?」
ガドガンさんのこの発言には、バヨネッタさんが、信じられないものを見るように固まってしまった。なので俺が代わりに答えてあげた。
「このまま何もしなければ、九割方、魔王によって世界は滅ぶよ」
「ええ~?」
この反応が、世間一般の反応なのだろう。
「タケダ、この子をダンジョンに連れて行く訳にはいかないわ」
「いや! あの! 今のは失言でした! 旅は本気です! 死ぬ気で取り組みます!」
「あなたの死ぬ気は信じられないわ!」
バヨネッタさんは取り繕うガドガンさんを一蹴する。取り付く島もないと言う事だろう。ガドガンさんは武田さんやバンジョーさんに、視線でどうにか後押しして貰えないか訴えるが、二人に首を横に振られて愕然となっていた。更には、
「すまない、バヨネッタ。人選を間違えたようだ。俺やバンジョーも含めて、相応しい人間を再考させてくれ」
武田さんにここまで言われては、もうどうしようもない。ガドガンさんは顔を落とし、茶器を握る自分の手を見詰める事しか出来なくなってしまう。
だが俺にはガドガンさんの気持ちが分かる。日本人だからね。長年平和を享受してきた日本人からしたら、戦争とは対岸の火事であり、テレビの向こうの出来事なのだ。それは実感に乏しく、一般人が感じる危機感なんて、物価の上昇くらいなものだ。実際には政府や自衛隊、海上保安庁などの影の活躍によって保たれた、薄氷の如き平和であり、一度戦争となれば物資の乏しい日本は、その多過ぎる人口を支える事が出来ずに、海空の輸送路を閉鎖されただけで人口の半分は飢え死にしてもおかしくない。
モーハルドにとってもそうだったのだろう。ここは西大陸の西にあり、魔大陸は東の果てだ。距離があり過ぎる。今回ストーノ教皇が魔族(本当は忍者軍団)によって襲撃された事にしても、それが軽微な代償によって防げてしまった事によって、モーハルド国民からしたら、今回の魔王と勇者の戦いも、大したものではない。と言う認識となっている事が窺える。
どうせ今回も勇者が勝つに決まっている。戦いは勇者や一部の戦士たちに任せて、自分たちは普段と変わらぬ平和な日々を送ろう。それがモーハルド国民から感じるのだ。
ガドガンさんにしても本気は本気なのだろう。だがそれは年相応の本気度だ。『継承』によってこれまでの歴代ガドガンの記憶を継承していても、体験が伴っていないので、それはリアルな夢やVR体験のような感覚なのかも知れない。
「バヨネッタさん。ここは一つ、モーハルドの目を覚まさせる必要がある。と思いませんか?」
「へえ」
俺の言葉に、バヨネッタさんはすうっと目を細めて、片方の口角を上げた。
「おい、やめてくれよ。俺の故郷なんだよ。引っ掻き回さないでくれよ」
まだ何をやるのか言っていないのに、武田さんもバンジョーさんも心配そうな顔になっている。信用ないなあ、俺たち。
「まあまあ、任せてくださいよ。上手くいけばデーイッシュ派の問題も一挙に解決する良案を思い付いたんですよ」
「工藤の良案くらい恐ろしいものはねえよ!」
信用がないのは俺だった。
「分かってますよ。まずはストーノ教皇から、今回の件に関して許可を貰わないと。あ、ガドガンさん。心肺停止に備えて、お薬用意しておいてください」
「何をするつもりなんですか!?」
「念の為ですよ」
「まさか本気でこのモーハルドを更地にするつもりですか!?」
「して欲しいなら、今から作戦変更しますけど?」
しれっと言ったら、真っ青な顔で思いっきり首を横に振られてしまった。
「あら? せっかく暴れられると思ったのに、違ったのかしら?」
バヨネッタさんはやる気満々だったらしい。
「どうですかねえ。腑抜けのモーハルドですから、バヨネッタさんまで出番が回ってくるかどうか」
「工藤!」
俺の発言に対して、武田さんが慌てて人差し指を自身の口に押し当てた。分かっている。壁に耳あり障子に目あり異世界にスキルありだ。ここでの会話をどこの誰がスキルや魔導具を使って盗聴しているか分からない。
「だって、弱い犬ほど良く吠える。と言いますし、結局、デーイッシュ派にしろコニン派にしろ、口だけなんじゃないですか? もしも本当にモーハルドが、デウサリウス教が神の使徒であるならば、既に魔王に対して刺客を差し向け、討伐していてもおかしくないですから。それをしていない段階で、高が知れていますよ」
俺の発言に深く嘆息する武田さんとバンジョーさん。これだけ煽れば、向こうも黙っていられまい。さあ掛かってこい。舞台はこちらが用意してやる。
バヨネッタさんの発言は物騒だが、同意せざるを得ないのか、誰も何も言い返さなかった。
「まあ、危機感が薄いのは確かですよね」
「危機感?」
俺の言葉に全員が首を傾げた。
「デーイッシュ派だけでなく、コニン派も含めて、多分モーハルドの国民で魔王に世界が滅ぼされると本気で思っている人が何人いるのか。って話です」
言いながらガドガンさんを見遣ると、彼女はなんともバツが悪そうな顔で俯《うつむ》く。
「ずいぶんと脳天気な国民性なようね」
バヨネッタさんから目を逸して、お茶をすするガドガンさん。
「いやあ、なんと言いますか、逆に聞きますけど、皆さんは何割くらい、魔王によって世界が滅ぼされる。とお考えなんですか?」
ガドガンさんのこの発言には、バヨネッタさんが、信じられないものを見るように固まってしまった。なので俺が代わりに答えてあげた。
「このまま何もしなければ、九割方、魔王によって世界は滅ぶよ」
「ええ~?」
この反応が、世間一般の反応なのだろう。
「タケダ、この子をダンジョンに連れて行く訳にはいかないわ」
「いや! あの! 今のは失言でした! 旅は本気です! 死ぬ気で取り組みます!」
「あなたの死ぬ気は信じられないわ!」
バヨネッタさんは取り繕うガドガンさんを一蹴する。取り付く島もないと言う事だろう。ガドガンさんは武田さんやバンジョーさんに、視線でどうにか後押しして貰えないか訴えるが、二人に首を横に振られて愕然となっていた。更には、
「すまない、バヨネッタ。人選を間違えたようだ。俺やバンジョーも含めて、相応しい人間を再考させてくれ」
武田さんにここまで言われては、もうどうしようもない。ガドガンさんは顔を落とし、茶器を握る自分の手を見詰める事しか出来なくなってしまう。
だが俺にはガドガンさんの気持ちが分かる。日本人だからね。長年平和を享受してきた日本人からしたら、戦争とは対岸の火事であり、テレビの向こうの出来事なのだ。それは実感に乏しく、一般人が感じる危機感なんて、物価の上昇くらいなものだ。実際には政府や自衛隊、海上保安庁などの影の活躍によって保たれた、薄氷の如き平和であり、一度戦争となれば物資の乏しい日本は、その多過ぎる人口を支える事が出来ずに、海空の輸送路を閉鎖されただけで人口の半分は飢え死にしてもおかしくない。
モーハルドにとってもそうだったのだろう。ここは西大陸の西にあり、魔大陸は東の果てだ。距離があり過ぎる。今回ストーノ教皇が魔族(本当は忍者軍団)によって襲撃された事にしても、それが軽微な代償によって防げてしまった事によって、モーハルド国民からしたら、今回の魔王と勇者の戦いも、大したものではない。と言う認識となっている事が窺える。
どうせ今回も勇者が勝つに決まっている。戦いは勇者や一部の戦士たちに任せて、自分たちは普段と変わらぬ平和な日々を送ろう。それがモーハルド国民から感じるのだ。
ガドガンさんにしても本気は本気なのだろう。だがそれは年相応の本気度だ。『継承』によってこれまでの歴代ガドガンの記憶を継承していても、体験が伴っていないので、それはリアルな夢やVR体験のような感覚なのかも知れない。
「バヨネッタさん。ここは一つ、モーハルドの目を覚まさせる必要がある。と思いませんか?」
「へえ」
俺の言葉に、バヨネッタさんはすうっと目を細めて、片方の口角を上げた。
「おい、やめてくれよ。俺の故郷なんだよ。引っ掻き回さないでくれよ」
まだ何をやるのか言っていないのに、武田さんもバンジョーさんも心配そうな顔になっている。信用ないなあ、俺たち。
「まあまあ、任せてくださいよ。上手くいけばデーイッシュ派の問題も一挙に解決する良案を思い付いたんですよ」
「工藤の良案くらい恐ろしいものはねえよ!」
信用がないのは俺だった。
「分かってますよ。まずはストーノ教皇から、今回の件に関して許可を貰わないと。あ、ガドガンさん。心肺停止に備えて、お薬用意しておいてください」
「何をするつもりなんですか!?」
「念の為ですよ」
「まさか本気でこのモーハルドを更地にするつもりですか!?」
「して欲しいなら、今から作戦変更しますけど?」
しれっと言ったら、真っ青な顔で思いっきり首を横に振られてしまった。
「あら? せっかく暴れられると思ったのに、違ったのかしら?」
バヨネッタさんはやる気満々だったらしい。
「どうですかねえ。腑抜けのモーハルドですから、バヨネッタさんまで出番が回ってくるかどうか」
「工藤!」
俺の発言に対して、武田さんが慌てて人差し指を自身の口に押し当てた。分かっている。壁に耳あり障子に目あり異世界にスキルありだ。ここでの会話をどこの誰がスキルや魔導具を使って盗聴しているか分からない。
「だって、弱い犬ほど良く吠える。と言いますし、結局、デーイッシュ派にしろコニン派にしろ、口だけなんじゃないですか? もしも本当にモーハルドが、デウサリウス教が神の使徒であるならば、既に魔王に対して刺客を差し向け、討伐していてもおかしくないですから。それをしていない段階で、高が知れていますよ」
俺の発言に深く嘆息する武田さんとバンジョーさん。これだけ煽れば、向こうも黙っていられまい。さあ掛かってこい。舞台はこちらが用意してやる。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果
yuraaaaaaa
ファンタジー
国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……
知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。
街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる