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暗中飛躍
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「実際、デーイッシュ派が何を考えているのか、頭を割って中を覗いてみたいものだわ」
バヨネッタさんの発言は物騒だが、同意せざるを得ないのか、誰も何も言い返さなかった。
「まあ、危機感が薄いのは確かですよね」
「危機感?」
俺の言葉に全員が首を傾げた。
「デーイッシュ派だけでなく、コニン派も含めて、多分モーハルドの国民で魔王に世界が滅ぼされると本気で思っている人が何人いるのか。って話です」
言いながらガドガンさんを見遣ると、彼女はなんともバツが悪そうな顔で俯《うつむ》く。
「ずいぶんと脳天気な国民性なようね」
バヨネッタさんから目を逸して、お茶をすするガドガンさん。
「いやあ、なんと言いますか、逆に聞きますけど、皆さんは何割くらい、魔王によって世界が滅ぼされる。とお考えなんですか?」
ガドガンさんのこの発言には、バヨネッタさんが、信じられないものを見るように固まってしまった。なので俺が代わりに答えてあげた。
「このまま何もしなければ、九割方、魔王によって世界は滅ぶよ」
「ええ~?」
この反応が、世間一般の反応なのだろう。
「タケダ、この子をダンジョンに連れて行く訳にはいかないわ」
「いや! あの! 今のは失言でした! 旅は本気です! 死ぬ気で取り組みます!」
「あなたの死ぬ気は信じられないわ!」
バヨネッタさんは取り繕うガドガンさんを一蹴する。取り付く島もないと言う事だろう。ガドガンさんは武田さんやバンジョーさんに、視線でどうにか後押しして貰えないか訴えるが、二人に首を横に振られて愕然となっていた。更には、
「すまない、バヨネッタ。人選を間違えたようだ。俺やバンジョーも含めて、相応しい人間を再考させてくれ」
武田さんにここまで言われては、もうどうしようもない。ガドガンさんは顔を落とし、茶器を握る自分の手を見詰める事しか出来なくなってしまう。
だが俺にはガドガンさんの気持ちが分かる。日本人だからね。長年平和を享受してきた日本人からしたら、戦争とは対岸の火事であり、テレビの向こうの出来事なのだ。それは実感に乏しく、一般人が感じる危機感なんて、物価の上昇くらいなものだ。実際には政府や自衛隊、海上保安庁などの影の活躍によって保たれた、薄氷の如き平和であり、一度戦争となれば物資の乏しい日本は、その多過ぎる人口を支える事が出来ずに、海空の輸送路を閉鎖されただけで人口の半分は飢え死にしてもおかしくない。
モーハルドにとってもそうだったのだろう。ここは西大陸の西にあり、魔大陸は東の果てだ。距離があり過ぎる。今回ストーノ教皇が魔族(本当は忍者軍団)によって襲撃された事にしても、それが軽微な代償によって防げてしまった事によって、モーハルド国民からしたら、今回の魔王と勇者の戦いも、大したものではない。と言う認識となっている事が窺える。
どうせ今回も勇者が勝つに決まっている。戦いは勇者や一部の戦士たちに任せて、自分たちは普段と変わらぬ平和な日々を送ろう。それがモーハルド国民から感じるのだ。
ガドガンさんにしても本気は本気なのだろう。だがそれは年相応の本気度だ。『継承』によってこれまでの歴代ガドガンの記憶を継承していても、体験が伴っていないので、それはリアルな夢やVR体験のような感覚なのかも知れない。
「バヨネッタさん。ここは一つ、モーハルドの目を覚まさせる必要がある。と思いませんか?」
「へえ」
俺の言葉に、バヨネッタさんはすうっと目を細めて、片方の口角を上げた。
「おい、やめてくれよ。俺の故郷なんだよ。引っ掻き回さないでくれよ」
まだ何をやるのか言っていないのに、武田さんもバンジョーさんも心配そうな顔になっている。信用ないなあ、俺たち。
「まあまあ、任せてくださいよ。上手くいけばデーイッシュ派の問題も一挙に解決する良案を思い付いたんですよ」
「工藤の良案くらい恐ろしいものはねえよ!」
信用がないのは俺だった。
「分かってますよ。まずはストーノ教皇から、今回の件に関して許可を貰わないと。あ、ガドガンさん。心肺停止に備えて、お薬用意しておいてください」
「何をするつもりなんですか!?」
「念の為ですよ」
「まさか本気でこのモーハルドを更地にするつもりですか!?」
「して欲しいなら、今から作戦変更しますけど?」
しれっと言ったら、真っ青な顔で思いっきり首を横に振られてしまった。
「あら? せっかく暴れられると思ったのに、違ったのかしら?」
バヨネッタさんはやる気満々だったらしい。
「どうですかねえ。腑抜けのモーハルドですから、バヨネッタさんまで出番が回ってくるかどうか」
「工藤!」
俺の発言に対して、武田さんが慌てて人差し指を自身の口に押し当てた。分かっている。壁に耳あり障子に目あり異世界にスキルありだ。ここでの会話をどこの誰がスキルや魔導具を使って盗聴しているか分からない。
「だって、弱い犬ほど良く吠える。と言いますし、結局、デーイッシュ派にしろコニン派にしろ、口だけなんじゃないですか? もしも本当にモーハルドが、デウサリウス教が神の使徒であるならば、既に魔王に対して刺客を差し向け、討伐していてもおかしくないですから。それをしていない段階で、高が知れていますよ」
俺の発言に深く嘆息する武田さんとバンジョーさん。これだけ煽れば、向こうも黙っていられまい。さあ掛かってこい。舞台はこちらが用意してやる。
バヨネッタさんの発言は物騒だが、同意せざるを得ないのか、誰も何も言い返さなかった。
「まあ、危機感が薄いのは確かですよね」
「危機感?」
俺の言葉に全員が首を傾げた。
「デーイッシュ派だけでなく、コニン派も含めて、多分モーハルドの国民で魔王に世界が滅ぼされると本気で思っている人が何人いるのか。って話です」
言いながらガドガンさんを見遣ると、彼女はなんともバツが悪そうな顔で俯《うつむ》く。
「ずいぶんと脳天気な国民性なようね」
バヨネッタさんから目を逸して、お茶をすするガドガンさん。
「いやあ、なんと言いますか、逆に聞きますけど、皆さんは何割くらい、魔王によって世界が滅ぼされる。とお考えなんですか?」
ガドガンさんのこの発言には、バヨネッタさんが、信じられないものを見るように固まってしまった。なので俺が代わりに答えてあげた。
「このまま何もしなければ、九割方、魔王によって世界は滅ぶよ」
「ええ~?」
この反応が、世間一般の反応なのだろう。
「タケダ、この子をダンジョンに連れて行く訳にはいかないわ」
「いや! あの! 今のは失言でした! 旅は本気です! 死ぬ気で取り組みます!」
「あなたの死ぬ気は信じられないわ!」
バヨネッタさんは取り繕うガドガンさんを一蹴する。取り付く島もないと言う事だろう。ガドガンさんは武田さんやバンジョーさんに、視線でどうにか後押しして貰えないか訴えるが、二人に首を横に振られて愕然となっていた。更には、
「すまない、バヨネッタ。人選を間違えたようだ。俺やバンジョーも含めて、相応しい人間を再考させてくれ」
武田さんにここまで言われては、もうどうしようもない。ガドガンさんは顔を落とし、茶器を握る自分の手を見詰める事しか出来なくなってしまう。
だが俺にはガドガンさんの気持ちが分かる。日本人だからね。長年平和を享受してきた日本人からしたら、戦争とは対岸の火事であり、テレビの向こうの出来事なのだ。それは実感に乏しく、一般人が感じる危機感なんて、物価の上昇くらいなものだ。実際には政府や自衛隊、海上保安庁などの影の活躍によって保たれた、薄氷の如き平和であり、一度戦争となれば物資の乏しい日本は、その多過ぎる人口を支える事が出来ずに、海空の輸送路を閉鎖されただけで人口の半分は飢え死にしてもおかしくない。
モーハルドにとってもそうだったのだろう。ここは西大陸の西にあり、魔大陸は東の果てだ。距離があり過ぎる。今回ストーノ教皇が魔族(本当は忍者軍団)によって襲撃された事にしても、それが軽微な代償によって防げてしまった事によって、モーハルド国民からしたら、今回の魔王と勇者の戦いも、大したものではない。と言う認識となっている事が窺える。
どうせ今回も勇者が勝つに決まっている。戦いは勇者や一部の戦士たちに任せて、自分たちは普段と変わらぬ平和な日々を送ろう。それがモーハルド国民から感じるのだ。
ガドガンさんにしても本気は本気なのだろう。だがそれは年相応の本気度だ。『継承』によってこれまでの歴代ガドガンの記憶を継承していても、体験が伴っていないので、それはリアルな夢やVR体験のような感覚なのかも知れない。
「バヨネッタさん。ここは一つ、モーハルドの目を覚まさせる必要がある。と思いませんか?」
「へえ」
俺の言葉に、バヨネッタさんはすうっと目を細めて、片方の口角を上げた。
「おい、やめてくれよ。俺の故郷なんだよ。引っ掻き回さないでくれよ」
まだ何をやるのか言っていないのに、武田さんもバンジョーさんも心配そうな顔になっている。信用ないなあ、俺たち。
「まあまあ、任せてくださいよ。上手くいけばデーイッシュ派の問題も一挙に解決する良案を思い付いたんですよ」
「工藤の良案くらい恐ろしいものはねえよ!」
信用がないのは俺だった。
「分かってますよ。まずはストーノ教皇から、今回の件に関して許可を貰わないと。あ、ガドガンさん。心肺停止に備えて、お薬用意しておいてください」
「何をするつもりなんですか!?」
「念の為ですよ」
「まさか本気でこのモーハルドを更地にするつもりですか!?」
「して欲しいなら、今から作戦変更しますけど?」
しれっと言ったら、真っ青な顔で思いっきり首を横に振られてしまった。
「あら? せっかく暴れられると思ったのに、違ったのかしら?」
バヨネッタさんはやる気満々だったらしい。
「どうですかねえ。腑抜けのモーハルドですから、バヨネッタさんまで出番が回ってくるかどうか」
「工藤!」
俺の発言に対して、武田さんが慌てて人差し指を自身の口に押し当てた。分かっている。壁に耳あり障子に目あり異世界にスキルありだ。ここでの会話をどこの誰がスキルや魔導具を使って盗聴しているか分からない。
「だって、弱い犬ほど良く吠える。と言いますし、結局、デーイッシュ派にしろコニン派にしろ、口だけなんじゃないですか? もしも本当にモーハルドが、デウサリウス教が神の使徒であるならば、既に魔王に対して刺客を差し向け、討伐していてもおかしくないですから。それをしていない段階で、高が知れていますよ」
俺の発言に深く嘆息する武田さんとバンジョーさん。これだけ煽れば、向こうも黙っていられまい。さあ掛かってこい。舞台はこちらが用意してやる。
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