世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
429 / 636

出来る事と出来ない事

しおりを挟む
「あら、もう戻ってしまったのね」


 バヨネッタさんは、周囲の風景が真っ白に戻った事を残念がるように、辺りを見渡しているが、


「勘弁してください。これ以上は本当に死ぬので」


 俺は『有頂天』も解除して、へとへとで地面に突っ伏している。


「流石にあの規模を、個人で長時間維持するのは、無理があるか」


 とバヨネッタさんも納得してくれた。


『何があったんですか?』


 そこに天からオルさんの声が降ってきた。


「そちらからは観測出来なかったの?」


 とバヨネッタさんは何もない空を見上げながら、オルさんに尋ねる。


『こちらからは、『清浄星』が光を発したと思ったら、光に包まれた二人の姿が消えて、後には『清浄星』だけが浮かんでいました』


 オルさんの答えに、バヨネッタさんが、どう言う事? とこちらを見遣る。


「実際に俺たちは『清浄星』と言う別空間に入り込んでいた。と言うのがゼラン仙者の見解です」


「あの外道仙者の」


 俺はうつ伏せのまま返事をする。


「はい。どうやら『聖結界』の上位版のようなもののようです。『絶結界』に近いと言った方が良いでしょうか。結界の内外を完全に隔てるので、どうやっても干渉出来なくなるようですね」


「ふ~ん。規模の大きな『絶結界』と捉えた方が良いのかしら。でも無防備過ぎない? 『清浄星』はハルアキの命と同義なのでしょう? それなのに、能力使用中は結界の外に無防備にその姿を晒したままになるのよ?」


「多分、問題ありません。この『清浄星』の内部に降り立つ能力を使用中は、外の『清浄星』には触れる事が出来なかった。と皆が証言していますから」


 納得してくれたのか、バヨネッタさんは何度か頷いている。


『ハルアキくん、質問して良いかな?』


「はい、なんでしょう? オルさん」


 俺は仰向けになってオルさんに応える。


『『清浄星』には、外の人間や物を、その中に取り込む能力があるようだけど、逆に、『清浄星』の中の物を外に出す事って可能なのかな?』


「言いたい事は分かります。どうやら俺の『清塩』は、この『清浄星』から取り出されているらしいです」


『やっぱりか』


 オルさんもその可能性に気付いていたようだ。


「他にも、聖属性の付与されている水や土なんかも取り出せます」


「ずいぶん便利な能力ね」


 バヨネッタさんが呆れたようにそう口にする。


「ははは。水やら塩程度なら、『有頂天』状態じゃなくても難なく取り出せるんですけど、比重なのか何なのか、貴金属なんかは相当魔力使うんですよ。多分、バヨネッタさんの『金剛』や『黄金化』の方が、魔力の使用量は少ないと思います」


「何でも出来る分、特化しているものと比べて、コストが掛かるのね」


 俺はバヨネッタさんの意見に首肯で返した。


『星なら、その中で植物や動物を育てたり出来ないのかい?』


 オルさんの期待のこもった声に、しかし俺は首を横に振るう。


「現状では難しいですね。まだ出来たての星ですから。生命を育むには、俺のレベルが低過ぎるみたいで」


『そうかい』


 オルさんの声が残念さを物語っていた。


「そもそも、三分しかいられないのなら、その中で生物を育てられないでしょう」


 そうなのだ。でも、


「空気のある惑星ですし、地形を変える事が出来ますから、内部の時間を加速させたり、逆に停止させたりして、一定の生育環境を維持出来るようになる可能性はあるかも。とはシンヤと話していました」


「可能性、ねえ。なくはない。くらいでしょうけど。それにしても、良くその中に飛び込もうと考えたわね?」


「あはは。元々、ゼラン仙者のところで、罠魔導具に聖属性を付与していた時に色々やっていて気付いたんです。どうやらこのギフトはとんでもない。と」


「そうね。人類が生存可能な世界を生み出せるのだとしたら、それは私たちが相対する今世の魔王たちが欲する能力だもの」


 きっとバヨネッタさんが言う通りなのだろう。が、


「魔王たちでも扱いきれるものではないでしょうけど」


 俺は上半身を起こして答えた。


「何故? 『清浄星』が聖属性だから?」


「それもありますけど、コストの問題です。今みたいに小さな状態の『清浄星』は、出していてもそれ程コストは掛かりません。ですが、中に居続けるには相当なLPを消費するんです。聖属性の特性なのか、異物を外に弾き飛ばす性質があるらしく、魔王たちだって中に居続けるのは難しいと思いますよ。それこそ、世界人口全てを使い潰すくらい魔力を消費する事になるんじゃないかと」


「成程」


 と俺の説明に腕を組むバヨネッタさん。


「と言う事は、ハルアキのお友達であるトモノリが説明した、二つの世界の人類を新世界へ連れて行く。と言う話の方が、魔王が採用する方向性としては妥当なのね」


「ですねえ。向こうは勇者のコンソールを使う訳ですし、二つの世界を統合する訳ですから、使える魔力量も二倍です。それなら俺の『清浄星』をどうにかするより、世界運営もし易いでしょう」


 首肯するバヨネッタさん。


「にしても、面白い能力ね。瞬間的な能力の上限は、私が用意したサングリッター・スローンを超えていると言っても過言じゃないわ」


 バヨネッタさんは、俺の頭上でふよふよ浮かんでいる『清浄星』を、しげしげと見詰めていた。


「ははは。俺のレベルが低くて、まだまだ燃費悪いんですけどね。可能性は感じています」


 と俺は『空間庫』からポーションを取り出して呷った。『有頂天』を解除してあるので、LPはHPとMPに戻っている。この場合、減ったLPは等分されてHPとMPに分けられるのだが、俺の場合は『魔力回復』のスキルがあるので、MPの回復が早く、HPは自然回復しないので、ポーションが重要になってくる。ああ、『回復』があった頃が懐かしい。


「ポーションもそうだけど、有事に備えてマナポーションも用意しておけば良かったかなあ」


 俺がそんな事をポロッと口にすると、バヨネッタさんが目を見開いて固まっている。


「ハルアキ、その名前をどこで?」


「その名前? マナポーションの事ですか?」


「そうよ! まさか持っているの!?」


「いえ」


 と俺が頭を横に振るうと、バヨネッタさんがガックリと項垂れる。


「そんなに欲しかったんですか?」


「欲しいとか欲しくないとかの話じゃないの! 伝説の代物なのよ! この世に存在しないのよ!」


 え? そうだったの?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...