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「ふむ。夢幻香の力を借りれば、『有頂天』を使う事も問題なさそうだな」
腕を組むゼラン仙者に、俺は首肯で返す。
「では、『有頂天』の修行を続けよう。とは言っても、『有頂天』を極めるのは、一朝一夕でないどころか、一生懸けて行うものだ。それにハルアキは後がつかえているしな」
バヨネッタさんと約束している三月一日まで時間がない。
「そこでこれだ」
とゼラン仙者が『空間庫』から出したのは、何やら魔導具であった。ジョイントのような形で、それが次から次へと放出されて、俺の前に山と積まれる。
「何ですか? これ?」
「罠用の魔導具だ」
へえ、これがそうなのか。確かムーシェンとグッドマンの襲撃で、ムーシェンに駄目にされたと聞いていたが。
「これをどうするんですか?」
「確かハルアキ、『偽装』のスキル名を偽装する為に、『聖付与』へスキル名を変更していたな?」
「はい」
「なら、『聖付与』が使えるのだろう? お前の性格的に、ただ名前を変更しただけとは思えん。それではすぐにバレるからな」
当たりだ。『偽装』のスキル名を適当な名前で偽装する事は可能だったが、それだと『鑑定』を持った人間、疑り深い人間に怪しまれるのは必然だ。だからこそ、使えそうな『聖付与』を偽装名に選んだのである。
「でも、可能性ですよ」
「そうなのか?」
「俺の聖属性のギフトやスキルが融合して、『清浄星』と言うギフトになったんですけど、尸解仙法で逝った死後の世界で、このギフトを持っていれば、聖属性系の事は大抵出来る。と言われたので、出来るだろう。くらいの感じです」
ちなみに『清浄星』の鑑定結果はこんな感じだ。
『清浄星』:極々小の聖なる星を生成する。生み出された星には無限の可能性が詰まっている。
何これ? 説明じゃなくてフレーバーテキストの間違いじゃないのか?
「そうか。ならば一つやってみてくれ」
とゼラン仙者に、罠魔導具を一つ差しだされたので、俺はそれを右手で掴むと、感覚に従ってそれを握り、魔力を注ぐ。すると罠魔導具を握った右拳の周りに、リングが発生した。土星の輪とも天使の輪ともとれるリングだ。それが一回転するとすぅっと消える。
魔力の消費を感じて右手を開くと、罠魔導具が淡い光に包まれていた。聖属性の光だ。それを俺から取り上げたゼラン仙者が、罠魔導具を回転させながら、しげしげと色んな角度から観察し、
「出来ているな」
とオーケーを出す。ふう。なんかこう、値踏みされている感じで、精神的にくるな。
「では、残るこれらにも聖属性を付与して貰おう」
「全部、ですよね」
「当然だろう」
それはそうなんだけど、山と積まれた罠魔導具たちは俺の身長よりも高い。時間掛かりそう。きっとゼラン仙者が夢幻香を持ってくるのに一時間以上掛かったのって、これらを各所から集めてくる時間だったんだろうなあ。
「もちろん『有頂天』状態でやるのだぞ」
ああ、そっちの修行だったっけ。と修行内容を思い出して嘆息した。
俺は罠魔導具の前で胡座をかくと、右横に夢幻香を立てて香を焚く。香の香りが立ち上れば、直ぐ様半覚醒状態となる俺。世界との境界線が曖昧となった俺に、ゼラン仙者が声を掛けてくる。
「手で持つなよ。『有頂天』状態を維持して、念動で魔導具を掴み、一つ一つに聖属性を付与していくのだ」
面倒臭いなあ。と思いながら俺は眼前の罠魔導具の山へ視線を向けると、その一つに触れるような感覚に従い、掴み上げようと試みるも、出来ない。
出来ないじゃん。と恨みがましくゼラン仙者に半眼を向ければ、向こうも渋い顔をしていた。
「私の話を聞いていたのか? ハルアキの『有頂天』は探知特化状態にあるのだ。茫洋に広がった己の感覚を、念動が使えるまで凝集せねば、何も触れられぬ」
そうだった。でもそう言われてもなあ。そのやり方が分からない。
『海賊剣術も重拳も、感覚で出来たのだから、『有頂天』も感覚に従えば良いのではないか?』
とアニンのアドバイスに従い、俺は自分の感覚と対話するように胡座を組み直し座ると、身体から力を抜いて、両手を組まれた脚の上に、目を半眼に、視線を数メートル先へ向け、完全リラックスモードへと突入する。
ボーッとしながらも冴えていく感覚。半眼なのに視界はクリアで、360度見渡せる。俺の前ではゼラン仙者が飛行雲に乗ってこちらの様子を窺い、右横にはゴウマオさん、左横ではパジャンさんが、少し離れたところから俺の一挙一動を見逃さないように注視していた。
微風が首筋をくすぐる。振り返る事もなくそちらへ意識を向ければ、シンヤたちが修行の真っ最中で、少し離れたところでは、リットーさんがガッパさんに重拳を習っている。
世界に溶けたような今の感覚は、新たに得た知覚だと言うのに、まるで生来から獲得していた知覚のように錯覚する程、心体に馴染んでいた。これなら何でも出来そうだ。
俺は広く溶けた己の感覚、このままでは何も掴めない感覚を少しずつ狭めていく。少しずつ少しずつ、知覚出来る範囲を狭めていくと、己の感覚に変化を得る。拡大化された感覚と、周囲の物体に摩擦を感じるのだ。しかしそれはまだ極微細なもので、物を掴むには少な過ぎる為に、俺は更に感覚範囲を縮小させていく。そうして大体半径百五十メートル程になったくらいだろうか。俺は己の『有頂天』の中で、念動によって罠魔導具を一つつまみ、聖属性を付与する事に成功していた。
腕を組むゼラン仙者に、俺は首肯で返す。
「では、『有頂天』の修行を続けよう。とは言っても、『有頂天』を極めるのは、一朝一夕でないどころか、一生懸けて行うものだ。それにハルアキは後がつかえているしな」
バヨネッタさんと約束している三月一日まで時間がない。
「そこでこれだ」
とゼラン仙者が『空間庫』から出したのは、何やら魔導具であった。ジョイントのような形で、それが次から次へと放出されて、俺の前に山と積まれる。
「何ですか? これ?」
「罠用の魔導具だ」
へえ、これがそうなのか。確かムーシェンとグッドマンの襲撃で、ムーシェンに駄目にされたと聞いていたが。
「これをどうするんですか?」
「確かハルアキ、『偽装』のスキル名を偽装する為に、『聖付与』へスキル名を変更していたな?」
「はい」
「なら、『聖付与』が使えるのだろう? お前の性格的に、ただ名前を変更しただけとは思えん。それではすぐにバレるからな」
当たりだ。『偽装』のスキル名を適当な名前で偽装する事は可能だったが、それだと『鑑定』を持った人間、疑り深い人間に怪しまれるのは必然だ。だからこそ、使えそうな『聖付与』を偽装名に選んだのである。
「でも、可能性ですよ」
「そうなのか?」
「俺の聖属性のギフトやスキルが融合して、『清浄星』と言うギフトになったんですけど、尸解仙法で逝った死後の世界で、このギフトを持っていれば、聖属性系の事は大抵出来る。と言われたので、出来るだろう。くらいの感じです」
ちなみに『清浄星』の鑑定結果はこんな感じだ。
『清浄星』:極々小の聖なる星を生成する。生み出された星には無限の可能性が詰まっている。
何これ? 説明じゃなくてフレーバーテキストの間違いじゃないのか?
「そうか。ならば一つやってみてくれ」
とゼラン仙者に、罠魔導具を一つ差しだされたので、俺はそれを右手で掴むと、感覚に従ってそれを握り、魔力を注ぐ。すると罠魔導具を握った右拳の周りに、リングが発生した。土星の輪とも天使の輪ともとれるリングだ。それが一回転するとすぅっと消える。
魔力の消費を感じて右手を開くと、罠魔導具が淡い光に包まれていた。聖属性の光だ。それを俺から取り上げたゼラン仙者が、罠魔導具を回転させながら、しげしげと色んな角度から観察し、
「出来ているな」
とオーケーを出す。ふう。なんかこう、値踏みされている感じで、精神的にくるな。
「では、残るこれらにも聖属性を付与して貰おう」
「全部、ですよね」
「当然だろう」
それはそうなんだけど、山と積まれた罠魔導具たちは俺の身長よりも高い。時間掛かりそう。きっとゼラン仙者が夢幻香を持ってくるのに一時間以上掛かったのって、これらを各所から集めてくる時間だったんだろうなあ。
「もちろん『有頂天』状態でやるのだぞ」
ああ、そっちの修行だったっけ。と修行内容を思い出して嘆息した。
俺は罠魔導具の前で胡座をかくと、右横に夢幻香を立てて香を焚く。香の香りが立ち上れば、直ぐ様半覚醒状態となる俺。世界との境界線が曖昧となった俺に、ゼラン仙者が声を掛けてくる。
「手で持つなよ。『有頂天』状態を維持して、念動で魔導具を掴み、一つ一つに聖属性を付与していくのだ」
面倒臭いなあ。と思いながら俺は眼前の罠魔導具の山へ視線を向けると、その一つに触れるような感覚に従い、掴み上げようと試みるも、出来ない。
出来ないじゃん。と恨みがましくゼラン仙者に半眼を向ければ、向こうも渋い顔をしていた。
「私の話を聞いていたのか? ハルアキの『有頂天』は探知特化状態にあるのだ。茫洋に広がった己の感覚を、念動が使えるまで凝集せねば、何も触れられぬ」
そうだった。でもそう言われてもなあ。そのやり方が分からない。
『海賊剣術も重拳も、感覚で出来たのだから、『有頂天』も感覚に従えば良いのではないか?』
とアニンのアドバイスに従い、俺は自分の感覚と対話するように胡座を組み直し座ると、身体から力を抜いて、両手を組まれた脚の上に、目を半眼に、視線を数メートル先へ向け、完全リラックスモードへと突入する。
ボーッとしながらも冴えていく感覚。半眼なのに視界はクリアで、360度見渡せる。俺の前ではゼラン仙者が飛行雲に乗ってこちらの様子を窺い、右横にはゴウマオさん、左横ではパジャンさんが、少し離れたところから俺の一挙一動を見逃さないように注視していた。
微風が首筋をくすぐる。振り返る事もなくそちらへ意識を向ければ、シンヤたちが修行の真っ最中で、少し離れたところでは、リットーさんがガッパさんに重拳を習っている。
世界に溶けたような今の感覚は、新たに得た知覚だと言うのに、まるで生来から獲得していた知覚のように錯覚する程、心体に馴染んでいた。これなら何でも出来そうだ。
俺は広く溶けた己の感覚、このままでは何も掴めない感覚を少しずつ狭めていく。少しずつ少しずつ、知覚出来る範囲を狭めていくと、己の感覚に変化を得る。拡大化された感覚と、周囲の物体に摩擦を感じるのだ。しかしそれはまだ極微細なもので、物を掴むには少な過ぎる為に、俺は更に感覚範囲を縮小させていく。そうして大体半径百五十メートル程になったくらいだろうか。俺は己の『有頂天』の中で、念動によって罠魔導具を一つつまみ、聖属性を付与する事に成功していた。
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