世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
366 / 639

影からの招待

しおりを挟む
「じゃあ、今日はありがとうございました」


 タクシーに乗り込むバヨネッタさんに頭を下げる。


「そうね。ハルアキ、おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


 別れのあいさつを済ますと、バヨネッタさんを乗せたタクシーは夜の街へ消えていった。それを見送っているとスマホに電話が掛かってくる。またか。と思いながら画面を見るとオルさんだ。


「もしもし」


『ハルアキくんかい? 悪いねえ、歓談中に』


「いえ、今解散したところです」


『そうなの?』


 悪いですけど、オルさんたちが期待するような展開にはなりませんでしたよ。


「何か?」


 夜もそれなりに更けてきた。この時間にDMでなく電話となると、何かあったのかと勘繰りたくもなる。まさか俺とバヨネッタさんの関係の進み具合を確認する為に電話は掛けてこないだろう。


『すまない。君の塩が盗まれた』


 ビンゴか。


「塩、『清塩』ですか?」


『ああ』


「それって、バヨネッタさんが無理矢理転移扉で研究所に来た時ですか?」


「…………ああ」


 はあ。バヨネッタさ~ん。


「状況は? どのようにして盗まれたとか分かっているんですか?」


『僕らがバヨネッタ様の対応に追われているあの時に、僕の研究室にあったものが、何者かが現れて、その何者かによって盗まれたんだ』


 ? 俺はスマホを持ち直しながら首を傾げた。


「何者か? ですか? 監視カメラに映っていなかったんですか?」


 透明人間にでも盗まれたのか?


『いや、映ってはいたが影だったんだ』


「はあ?」


 何を言っているのか良く分からない。


「それは、身体が透明で、でも影だけが監視カメラに映っていたとか?」


『いや、人型の影が僕の研究室に侵入して、君の塩を体内に吸収したかと思ったら、その場から消えたんだ』


 成程。影人間に盗まれたのか。そう聞くと、現れた。と言う表現もきな臭いな。


「その影人間は、研究室にいきなり現れたんですか?」


『いや、現れたのは研究室手前の廊下だね。廊下に観葉植物が置かれているんだけど、その影からいきなり現れた』


 となると、タカシが獲得した影移動に似たスキルかも知れないな。


『その影が人型となって、ドアを半開きにしていた僕の研究室に、手ずから開いて入ってきたんだ』


 ドアを閉め忘れていたのか。していたっけ? まあ、緊急事態にドアの開け閉めまで気を使っていられないよな。


「じゃあ、その影人間が研究室のドアを通り抜けて侵入した訳じゃあないんですね?」


『うん。そもそも僕の研究室は特別で、閉めれば自動で鍵が掛かるし、魔法で結界も展開するから、普段であれば影人間は侵入出来なかったはずなんだ』


 塩を盗んだって話だし、半開きのドアを手ずから開いて侵入したのなら、完全に閉まらないと発動しない結界だったんだな。


「他に何か盗まれた物はないんですか?」


『研究員総出で確認しているけれど、ハルアキくんの『清塩』以外は今報告は上がってきていないね』


 って事は、相手の狙いは俺の『清塩』一択だったと? 何で?


「あの研究所は両世界の研究の最先端で、それこそ浅野からもたらされたサンドボックスやデータの数々も有るのに、俺の『清塩』だけが盗まれたんですか?」


『そうなるね』


「…………。オルさん、盗んだ相手はどこだと思いますか?」


『まあ、十中八九魔王軍だろうねえ』


 だよなあ。俺が『清塩』のギフトに目覚めたのはトモノリの目の前で、その時の塩は回収せずにあそこに置いてきた。あの『清塩』をトモノリが回収し調べた結果、今回の行動に至った。と考えるのが自然な流れか。


「他国の可能性はないですかね?」


『確かに、その線は消えないけど、『清塩』だけって言うのがねえ。ハルアキくんがどう思っているかは分からないけど、僕らの中では、君は確実に聖属性だと認識されているよ。『聖結界』に『清塩』、そして今回の『ドブさらい』だ。聖属性がどんどん強化されていくハルアキくんは、魔属性だろう魔族や魔王からしたら、勇者であるシンヤくん以上に厄介な存在だろうからねえ』


 ふ~む。そんなもんかねえ。


「でも、わざわざ盗んだって言うのが分からないですね。『清塩』を消し去るのではなく、盗んだって事は、そこに有用性を見い出したから、盗んだんですよねえ?」


『ああ、確かに。もしかしたら、中のヒーラー体が気になったのかも。もしもこれでポーションを作れる技術が魔王軍にあるなら、魔王軍からスカウトされるかもよ?』


 成程。その考えはなかったな。トモノリも俺がポーションを大量生産出来るようなら、この戦いから下りると言っていたものな。初めて『清塩』を見た時には気にならなかったけど、改めて調べてみたら、このギフトのやばさに気付いたって感じか。


『とにかく、こちらも日本政府と協力して調査するから、ハルアキくんも、地球だからって周辺には注意してね』


「はい。連絡して頂き、ありがとうございました」


 ここで電話が切れた。


 まあ、何であれ、その影人間ってのがやばいよなあ。タカシと同種のスキルだとしても、あっちは影から影に人間が移動するスキルだしなあ。確か武田さんの話だと、ああ言う移動系は基本的に自分の認知出来る範囲しか移動させられないって話だったなあ。それ以前に研究所自体にオルさんの結界が張られているから、侵入が困難か。


 となると、前々からそのスキル持ちに研究所が監視されていて、今回の騒動を好機と侵入してきた。それか影人間のスキル持ちが、バヨネッタさんが入ってきた当時、研究所内にいた。この二つの可能性が浮かび上がってくる。


 前々から監視はされていただろう。トモノリとの会話から察するに、魔王軍は地球全体に監視網を張り巡らせている。研究所もターゲットの一つだろう。でも、それならもっと前に研究所が襲われていてもおかしくない。あそこは研究データの宝庫なんだから。


 もう一つの可能性。これはこちら側に裏切り者がいると言っているようなものだ。考えたくはないが、何があるか分からないからなあ。オルさんにDM送っておこう。そうなると研究員や所員の中にいるパターンと、俺みたいに外部から入ってきたパターンとがあるよなあ。今日の入館者リストも調べて貰って。


「よう! 何しているんだ? こんな夜の街で」


 オルさんにDMを送ったところで、不意に声を掛けられて振り返ると、そこには祖父江兄妹がいた。


「ああ、二人か」


「二人か、って。何だよその驚きよう。レベル四十オーバーのやつがビビり過ぎじゃね?」


 祖父江兄の小太郎くんが煽ってくる。


「うるさいなあ。色々あったんだよ。そっちこそ何やっているんだよ?」


「俺たちか? 人探ししていたんだけど、もう良いや」


「何だそりゃ?」


「探し人は見付かったからな」


 小太郎くんがそう言う間に、百香が俺の後ろに回り込み、俺を羽交い締めにする。しまった! 知り合いだから油断していた! 小太郎くんのスキルは、


「一名様ご案なーい」


 小太郎くんの影から、巨大な影の狼の顔だけが現れ、俺を百香共々丸呑みにしたのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...