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ちょっとした事

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 オルさんの研究室でヒーラー体に関して研究員たちと喧々諤々と話していたら、スマホに電話が掛かってきた。見ればバヨネッタさんだ。天賦の塔を攻略したのかな? それにしても電話とは珍しい。


「はい、もしもし」


『そっちはどう?』


「こっちですか? 色々分かりましたよ。どうやら俺の新しいスキルは意外と有用である事とか」


『はあ?』


「今は、何で俺だけ他の回復系スキル所持者より回復が早いのか、ヒーラー体に違いがあるのか、色々話し合っています」


『…………』


 あれえ? 黙られてしまった。


「もしもし?」


『ハルアキ、あなた何しにオルのところへ出向いたのよ?』


 何の為に? …………あ! そうだ。天賦の塔で手に入れた宝箱に面白い機能があるとかで、その話を聞きにきたんだ。


「誰からだい?」


 バヨネッタさんと電話していたところへ、オルさんが尋ねてきた。


「バヨネッタさんです。天賦の塔に行っていたんですけど、戻ってきたみたいで」


「そうなんだねえ。こっちはこっちで調べているから、行ってきて良いよ」


 確かに、呼び出しの電話だろうからなあ。何かあったのだろうか? でもそれなら最初に言うよな?


『オルがそこにいるのね? ならこう伝えなさい。ハルアキの回復速度は、あなたの『時間操作』スキルの恩恵だと』


「あっ!!」


 俺が大声を上げたから、研究室の全員の視線を一身に浴びてしまった。皆不思議そうな顔をしている。


「え~と、どうやら俺の回復速度が早いのは、俺が『時間操作』のスキルを持っているのが要因だと、バヨネッタさんが」


「そっちかあ~~~~」


「またハズレ~~?」


「中々ヒーラー体の真相に近づけないなあ」


 などなど、研究室のそこかしこから嘆息と残念に思う声が上がる。


「何かすみません」


「ハルアキくんは悪くないよ。失念していたこっちにも落ち度があった。でもそうか。普通は一人一つのスキルだけど、今後は複数のスキルやギフトがどのように関係していくのか、そこから考えていかないとねえ」


 腕を組んで鷹揚に幾度も頷くオルさん。他の研究員たちも同様の気持ちらしく、面持ちは前向きだ。


『解決したのね?』


「恐らくバヨネッタさんの推測で合っているだろうとは、研究室で固まっていますね」


『そう。じゃあ適当に宝箱の話を聞いたら、迎えに来なさい。今日は気分が良いの。美味しいものが食べたいわ』


 そう言い残してバヨネッタさんは電話を切った。そうですか。きっと良いスキルが手に入ったのでしょうね。


「バヨネッタ様、何だって?」


 俺がスマホを仕舞ったところで、オルさんが尋ねてきた。


「いや、この後、美味しいものが食べたいからどこかに連れて行けと」


「ほう」


 オルさん、いや研究員の皆さん、何故ニヤニヤしているのですか?


「ファミレスは流石にないですよねえ」


 ふと俺が口にした言葉に、全員が残念なものを見るように白い目を向けてくる。


「いや、言うて高校生だし」


「でも大金持ちだよ?」


「ないわー」


 悪かったですねえ、女性と二人で食事とか経験ないんで! …………あれえ? これってもしかして……いや、考えないでおこう。


「オルさん、俺、天賦の塔で宝箱を手に入れたんですけど、何かこれに似たフーダオの花形箱に面白い効果があるとか何とか……」


 俺は頭に浮かんだ考えを振り払うように、『空間庫』から星の意匠の刻まれた宝箱を取り出した。


「ああ、それね。面白いって言ってもちょっとした事だよ。イーシンくん」


 イーシンと言われた男性研究員が、一つ頷き話し始めた。髪色が見事な青色をしているので、向こうの世界から来たのだろう。


「フーダオの花形箱と天賦の塔で見付かった宝箱は、恐らく同種のものであると推測されます。これはフーダオの花形箱と、中の宝を抜かれた宝箱に同種の機能が備わっているからです」


「同種の機能、ですか?」


 俺は首を傾げる。宝が抜かれた宝箱なんてただの小箱だ。『空間庫』の機能も失われているはずである。


「ええ。ここで勿体振っても仕方ないので、答えを言いますと、魔力の回復機能です」


「魔力の回復機能!? それって滅茶苦茶凄いんじゃ!?」


 異世界、地球合わせて、魔力を回復させるアイテムと言うのは存在しない。スキルの中にはゼラン仙者の『集配』のように、魔力を他者から集める事が出来るものもあるが、基本的に魔力回復は自然回復に任せるしかないのだ。つまりフーダオの花形箱や天賦の塔の宝箱にその機能があるのなら、世界中どころか、魔王軍まで欲しがる代物だ。


 だが俺の驚きとは対照的に、イーシンさんは首を左右に振った。


「悪いけど、君が思うような回復機能ではないよ。持っているだけで、所持者の魔力を回復させるなら、既に向こうの世界でその価値に気付かれていておかしくないからね。今回発覚したのは、それ程劇的なものじゃないんだよ」


 そうなのか。俺は自分の中でカアと盛り上がった熱を、息を長く吐き出す事で鎮める。


「今回分かったのは、魔石の魔力回復機能だ」


 それでも十分凄いのでは?


「しかもこの小箱に入るサイズ限定だから、大きさや量は期待出来ないし、壊れた魔石はもちろん回復しない」


 ああ、それは確かに。箱自体両手で握れる程の大きさだ。大量には入れられないのも分かる。


「成程。精々が指輪やイヤリングなんかの小物類を起動させる魔石の回復くらいしか出来ない。って訳ですね」


 イーシンさんが首肯する。でもまあ、それはそれで凄い事だ。今までは翻訳機なんかの魔石は壊れる前に付け替えてきたからなあ。それが回復すると言う事は、使い捨てだった電池が、充電池になったくらいの進化と言えるのではないだろうか。


「しかも回復はフーダオの花形箱や天賦の塔の宝箱のランクが関係していてね。高ランクの箱の方がもちろん回復速度が早い」


 ランクって事は花びらの枚数とか、星の数が多い方が回復速度が早いのか。


「何で、今まで気付かれていなかったんですかねえ?」


「フーダオの花形箱自体貴重だからね。それ自体を家宝として仕舞っていた家が少なくなかった事と、使用していたと言っても、それこそジュエリーボックスとしての使用だったようだね。魔導具の小物を収納していた人もいたようだけど、名家の人間が前線に出て戦う事は少ないし、そもそも前線に貴重品であるフーダオの花形箱を持っていく事自体なかっただろうから、減った魔力が回復する事に気付かなかったんだろう」


 成程。そう言われると機能に気付かなかったのも納得だな。


「でも小物系の魔導具って、地味に魔石交換面倒臭かったから、俺としてはありがたいかも」


 俺の意見にオルさんも同調して頷いてくれた。


「だね。魔導具開発でもそこがネックだったからねえ。これまでは長持ちさせる為に、強くて小さな魔石が必要だったけど、これからは多少ランクが落ちる魔石も使っていけるから、開発の幅が広がるかなあ」


 それはそうかも。オルバーニュ財団は魔石売買で財を成した財団だし、弱い魔石が捌けるなら、それだけ利益も出るもんなあ。


「まあ、宝箱の機能も分かったんで、俺、バヨネッタさんのところに行ってきますね」


「大丈夫かい?」


 全員が心配そうな視線を向けてくる。大丈夫でしょ。心配ないって。ちょっとした報告会だろうから。


「どこか良いお店紹介しようか?」


 と女性陣が声を掛けていた。


「お願いします」


 ここは万全を期すべきか。

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