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久し振り
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「う~ん」
マンションのキッチンで、俺はフライパンとにらめっこしていた。
「何でだ?」
俺はフライパンの中で水が沸騰しているのを確かめ、IHコンロの電源が入っている事を確かめる。
「溶けない」
俺は腕組みをしてフライパンを睨み付ける。が、それで状況が改善する訳もなく。このまま無為な時間を過ごしてもしょうがないので、オルさんに連絡を取る事にした。
「やあやあハルアキくん。いらっしゃい」
「すみません、オルさん。お忙しいところ、時間を取って貰っちゃって」
魔法科学研究所で俺を出迎えてくれたオルさんに、頭を下げる。
「はっはっはっ。構わないよ。ここは今や来る戦いに向けて、地球や向こうの世界を問わず、頭脳の頂点が集まる最前線だからね。むしろ僕程度じゃあ邪魔になって居場所がなくなっていたところだよ」
「はあ」
まあ、それは冗談だろう。何せオルさんの後ろに控える研究員たちが、物言いたそうにしているから。すみません、貴重な時間を俺に割いて貰ってしまって。と、心の中で研究員たちに謝っておく。
「それで、塩が溶けないんだって?」
それをまるで気にした様子のないオルさんは、ワクワクした顔で早速本題に入ってきた。
「はい、そうなんです。俺の第三のギフトが『清塩』である事はお伝えしましたよね?」
首肯するオルさん。
「その塩なんですけど、水に溶けないんですよ」
そう。俺の『清塩』のギフトで生成した塩は、水に入れても、沸騰するお湯に入れても、まるで溶けなかったのだ。塩の飽和水溶液って訳でもなかろうに。一粒二粒をフライパンの中の水に落としてみても、まるで溶ける気配がない。これが溶けるなら、浅野やトモノリが言っていた事も実行出来るが、俺はその前で頓挫してしまったのだ。
「ふむ。確かにそれは不思議だね。『清塩』と呼ばれるくらいなのだから、塩で間違いないとは思うけれど、もしかしたら塩じゃない可能性が出てきたのか」
俺はそれに首肯する。
「じゃあ、早速その塩がどんなものか、僕に見せて貰おうかな。付いてきて」
踵を返して研究所を歩き出したオルさんの後を付いて行く。途中途中で研究員らしき人が何度も話し掛けてくるが、その度に、客人が来ているから。と断るので、研究員たちからの俺へのヘイトが凄い。めっちゃ睨まれるから、すぐに帰りたくなる。
「悪いね。皆、自分の研究に真っ直ぐなだけなんだ。話せば気の良いやつらばかりさ」
それは分かりますけど。
「やっぱり、俺、帰りましょうか?」
「ええ!? 何で帰るの!? 楽しみにしてたのに!」
ああ、オルさん楽しみにしていたのか。まあ、『清塩』なんてギフト、かなり珍しいだろうからなあ。それを調べられるのなら、他のものを横にどけてでも。って事かな。まあ、それならオルさんの世話になるのに、後ろめたさは軽減されるな。
オルさんが自身の研究室のドアを開けると、アンリさんが既にお茶の用意をしていた。
「じゃあ、僕はこの塩を観察してみるね。ハルアキくんはお茶でも飲んでゆっくりしてて」
俺は研究室の端の応接間へ案内され、そこでオルさんの前で塩を生成した。それをビーカーで受け取ったオルさんは、直ぐ様大きな顕微鏡のある机でそれを調べ始めた。
「アンリさん。なんかお久し振りですかね? 元気にされてました?」
「そうですね。ここのところは皆様お忙しそうになされておいででしたから。私一人、エルルランドで暇をしていて良かったのか、と色々考えていました」
うう。なんか心が痛い。まあ、アンリさんは戦闘要員でもないし、オルさんのような学者と言う訳でもないからなあ。こう言う時にぽっかりやる事がなくなってしまうのも分かる。
「オル様にお暇を貰って、別の方の下でご奉公する事も考えたのですが、そこにオル様から、こちらに来るよう要請されまして」
「良く決断されましたね」
アンリさんからしたら、異世界に行って働くなんて、オルさんに雇われた時には考えもしなかっただろう。オルさんに随行すると言う事は、今度の戦いの中心地に近付く事を意味する。それならエルルランドで新しい主人に仕えた方がマシだと言う考えもあったはずだ。
「悩みましたけれど、皆様と旅をしてきて、何と言いますか、私だけ後方の安全地帯で身を潜めているのが、我慢ならなくなったもので、今回、勇気を振り絞ってこちらへやって来ました」
勇敢だなあ。オルさんの翻訳機のお陰で言葉は通じるとは言え、異世界に身を投じるなんて普通出来ないよ。…………いや、俺は他人の事をとやかく言えないか。と言うか日本人、異世界行きたすぎ。
「……へえ、新しいレシピを覚える事にハマっているんですか」
「ええ。日本は凄いですね。テレビにネットに本。様々な媒体で、様々な人たちが、様々なレシピを公開しています。それを作るのがとても面白いですね」
おお。なんか充実した生活送っているんだなあ。
「休日とかは……ないか。オルさんは不眠不休で働いていそうだもんなあ」
「そうですね。でも、研究している時はお邪魔してはいけないので、冷蔵庫に食事だけ置いて、さささっと帰るようにしています」
冷蔵庫? と思って見渡したら、応接間の隅に確かに冷蔵庫があった。
「それにこの研究所の皆さんも良くしてくれて。この間も、一日休みになった女性研究員の皆さんと、スイーツを食べに行きました」
研究員の人たちも良くしてくれているなら、良いか。
「アンリは研究員たちにも差し入れを持ってきたりするから、皆慕っているんだよ」
「オルさん、聞いてたんですか?」
「まあね。三人しかいないんだ。そりゃあ聞こえるさ」
それもそうか。
マンションのキッチンで、俺はフライパンとにらめっこしていた。
「何でだ?」
俺はフライパンの中で水が沸騰しているのを確かめ、IHコンロの電源が入っている事を確かめる。
「溶けない」
俺は腕組みをしてフライパンを睨み付ける。が、それで状況が改善する訳もなく。このまま無為な時間を過ごしてもしょうがないので、オルさんに連絡を取る事にした。
「やあやあハルアキくん。いらっしゃい」
「すみません、オルさん。お忙しいところ、時間を取って貰っちゃって」
魔法科学研究所で俺を出迎えてくれたオルさんに、頭を下げる。
「はっはっはっ。構わないよ。ここは今や来る戦いに向けて、地球や向こうの世界を問わず、頭脳の頂点が集まる最前線だからね。むしろ僕程度じゃあ邪魔になって居場所がなくなっていたところだよ」
「はあ」
まあ、それは冗談だろう。何せオルさんの後ろに控える研究員たちが、物言いたそうにしているから。すみません、貴重な時間を俺に割いて貰ってしまって。と、心の中で研究員たちに謝っておく。
「それで、塩が溶けないんだって?」
それをまるで気にした様子のないオルさんは、ワクワクした顔で早速本題に入ってきた。
「はい、そうなんです。俺の第三のギフトが『清塩』である事はお伝えしましたよね?」
首肯するオルさん。
「その塩なんですけど、水に溶けないんですよ」
そう。俺の『清塩』のギフトで生成した塩は、水に入れても、沸騰するお湯に入れても、まるで溶けなかったのだ。塩の飽和水溶液って訳でもなかろうに。一粒二粒をフライパンの中の水に落としてみても、まるで溶ける気配がない。これが溶けるなら、浅野やトモノリが言っていた事も実行出来るが、俺はその前で頓挫してしまったのだ。
「ふむ。確かにそれは不思議だね。『清塩』と呼ばれるくらいなのだから、塩で間違いないとは思うけれど、もしかしたら塩じゃない可能性が出てきたのか」
俺はそれに首肯する。
「じゃあ、早速その塩がどんなものか、僕に見せて貰おうかな。付いてきて」
踵を返して研究所を歩き出したオルさんの後を付いて行く。途中途中で研究員らしき人が何度も話し掛けてくるが、その度に、客人が来ているから。と断るので、研究員たちからの俺へのヘイトが凄い。めっちゃ睨まれるから、すぐに帰りたくなる。
「悪いね。皆、自分の研究に真っ直ぐなだけなんだ。話せば気の良いやつらばかりさ」
それは分かりますけど。
「やっぱり、俺、帰りましょうか?」
「ええ!? 何で帰るの!? 楽しみにしてたのに!」
ああ、オルさん楽しみにしていたのか。まあ、『清塩』なんてギフト、かなり珍しいだろうからなあ。それを調べられるのなら、他のものを横にどけてでも。って事かな。まあ、それならオルさんの世話になるのに、後ろめたさは軽減されるな。
オルさんが自身の研究室のドアを開けると、アンリさんが既にお茶の用意をしていた。
「じゃあ、僕はこの塩を観察してみるね。ハルアキくんはお茶でも飲んでゆっくりしてて」
俺は研究室の端の応接間へ案内され、そこでオルさんの前で塩を生成した。それをビーカーで受け取ったオルさんは、直ぐ様大きな顕微鏡のある机でそれを調べ始めた。
「アンリさん。なんかお久し振りですかね? 元気にされてました?」
「そうですね。ここのところは皆様お忙しそうになされておいででしたから。私一人、エルルランドで暇をしていて良かったのか、と色々考えていました」
うう。なんか心が痛い。まあ、アンリさんは戦闘要員でもないし、オルさんのような学者と言う訳でもないからなあ。こう言う時にぽっかりやる事がなくなってしまうのも分かる。
「オル様にお暇を貰って、別の方の下でご奉公する事も考えたのですが、そこにオル様から、こちらに来るよう要請されまして」
「良く決断されましたね」
アンリさんからしたら、異世界に行って働くなんて、オルさんに雇われた時には考えもしなかっただろう。オルさんに随行すると言う事は、今度の戦いの中心地に近付く事を意味する。それならエルルランドで新しい主人に仕えた方がマシだと言う考えもあったはずだ。
「悩みましたけれど、皆様と旅をしてきて、何と言いますか、私だけ後方の安全地帯で身を潜めているのが、我慢ならなくなったもので、今回、勇気を振り絞ってこちらへやって来ました」
勇敢だなあ。オルさんの翻訳機のお陰で言葉は通じるとは言え、異世界に身を投じるなんて普通出来ないよ。…………いや、俺は他人の事をとやかく言えないか。と言うか日本人、異世界行きたすぎ。
「……へえ、新しいレシピを覚える事にハマっているんですか」
「ええ。日本は凄いですね。テレビにネットに本。様々な媒体で、様々な人たちが、様々なレシピを公開しています。それを作るのがとても面白いですね」
おお。なんか充実した生活送っているんだなあ。
「休日とかは……ないか。オルさんは不眠不休で働いていそうだもんなあ」
「そうですね。でも、研究している時はお邪魔してはいけないので、冷蔵庫に食事だけ置いて、さささっと帰るようにしています」
冷蔵庫? と思って見渡したら、応接間の隅に確かに冷蔵庫があった。
「それにこの研究所の皆さんも良くしてくれて。この間も、一日休みになった女性研究員の皆さんと、スイーツを食べに行きました」
研究員の人たちも良くしてくれているなら、良いか。
「アンリは研究員たちにも差し入れを持ってきたりするから、皆慕っているんだよ」
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