世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
337 / 642

報酬

しおりを挟む
「あ!」


「どうかしたか?」


 頭を過ぎった想像に思わず声を上げて、ゼラン仙者に首を傾げられてしまった。


「ああ、いえ、このパジャンさんも勇者で、シンヤも勇者じゃないですか。そうなると魔王ノブナガが狙う、勇者が持つと言うコンソールはどうなるんだろう? と思いまして」


「その事か。それならパジャンが今もここで封印されているのが答えだ」


「答えだ。と言われましても」


 抽象的な答えを返されても、俺はこう言った勘は悪いんだよな。察しが悪いと言うか。


「どうやら勇者と魔王の関係と言うのは、一勇者一魔王で相対しているらしくてな。魔王が他の勇者を狙ったり、勇者が他の魔王を倒しても、意味がないらしい」


「ああ、そうなんですね」


 …………ん?


「魔王が勇者を狙う理由は知っていますけど、勇者が魔王を倒すのに、世界平和以外の理由があるんですか?」


「ああ。魔王を倒すと神と対面出来る。そこで勇者パーティの願い事を叶えてくれるのだ」


「へえ~」


 武田さんが地球に転生したのは、もしかしたらそれかも知れないな。


「へえ~、とは大きく出たな」


 ゼラン仙者は俺の反応に呆れたような溜息を漏らす。そんな事言われてもな。


「ピンとこないんですよ。願い事が叶えられると言われても」


「ハルアキお前、何の見返りもなしに魔王討伐なんて狂気の沙汰をしようとしていたのか?」


 そんなに目をかっ開いて驚かなくても。


「えへへ」


「信じられん。ハルアキこそ聖人だな。モーハルドやパジャン天国のエセ聖職者どもに説教してやれ」


 両国とも酷い言われようだなあ。


「でも神様が願い事を叶えてくれるなら、何でパジャンさんを元の状態に戻して上げなかったんですか?」


 俺の質問が痛いところを突いたのだろう。ゼラン仙者が苦い顔をなった。


「結論から言えば、無理だったのだ」


「無理、でしたか」


 どうやら神と言っても万能ではないらしい。まあ、万能な神ならこんな不便で不平等で不公平な世界は創らないか。いや、神の性格によるのか。


「一応理由をお聞きしても」


 俺の質問にゼラン仙者が首肯し、一息吐いてから話し始めた。


「まず、私たちは魔王を倒していない。パジャンの融合封印によって封印しただけだ」


 成程、確かに。


「この為に我々の代の勇者パーティは、神から願い事を叶えられる事が出来なかった」


 う~ん。厳しい判定だが、理解は出来る。完全に滅していないのなら、魔王がまた復活するかも知れないもんな。でも、


「魔王はゼラン仙者の代以外にも出現したんですよね? そこのパーティに同行はしなかったんですか?」


 ゼラン仙者の代で願いが叶えられなかったとしても、次世代の勇者パーティと一緒に次世代の魔王を倒せば、パジャンさんを救えたのでは?


「そんな事は当然考えたし実行した」


 そりゃあそうですよねえ。


「でも駄目だったんですね?」


「ああ。次の魔王は存在を魂ごと消滅させて、転移も転生も出来ないように滅却してやったんだがな。パジャンはあれで完全に魔王と融合しているらしく、あの状態から魔王だけを取り除くのは、神を以ってしても無理だそうだ。やればパジャン自体も消し去る事になるそうだ」


 それは辛いなあ。


「じゃあ、あの状態を受け入れるしかないんですね?」


「ああ。一応時を過去に戻して、両者を分離する方法もあるにはあるが……」


「そうすると魔王も復活しちゃいますもんね」


「そうなのだ。神も融通が利かなくてな、願い事を叶えるのは、魔王を倒してすぐと決まっている。そんな状態で新たに魔王を復活させる事なぞ、出来ないだろう」


 それは出来ないなあ。やっとの思いで倒した魔王と連戦とか、たとえ二倍願い事が叶えられるとしても、御免被りたい。


「成程、つまりこの状態でパジャンさんを復活させるのが、一番って訳ですね」


 首肯するゼラン仙者。


「では、勇者パジャンに復活して貰いましょう」


 俺は『空間庫』から、まだ誰のものでもないガイツクールを取り出す。


「…………」


「…………」


「え? あれ? なんか呪文とか唱えないんですか?」


「私がか? 何故だ?」


「いや、だってゼラン仙者が封印しているんですよね?」


「私じゃない。パジャン自身が己のスキル『水晶』で、己を封印しているのだ」


 そうなの!?


「え~と、それじゃあどうすれば?」


「おい! パジャン! いつまで水晶の中に閉じ籠もっているつもりだ! さっさと出てこい!」


「ええ~、そんなに饒舌なゼランくんなんて珍しいから、もうちょっと見ていたかったんだけどなあ」


 とゼラン仙者がパジャンさんに声を掛けると、水晶壁の中から、女性の声が返ってきた。


 見ればパジャンさんを中心に、水晶壁に放射状にヒビが入り、そして壁は一気に砕け散った。


「はいはーい! 皆、こんにちは~! 世界の希望! 子供の味方! 魔王の脅威を取り除く! 勇者パジャン、ここに復活!」


 …………ええ。


「あれあれ~? 元気ないなあ。こんにちは~」


「こ、こんにちは」


「うん。良い返事ね! 僕の名前はパジャン! 親しみを込めて、パジャンちゃん! って呼んで良いわよ!」


 と握手の為に手を差し出すとともに、ウインクしてきたパジャン……ちゃん。俺は握手を返すとともにゼラン仙者を見遣る。あからさまに横を向かないで欲しい。


「う~ん! 久し振りの外の世界だけど、洞窟の中じゃ、あんまり良く分からないわね!」


 溌剌はつらつとした笑顔で、キョロキョロと辺りを見渡すパジャンちゃん。元気な僕っ子って感じだな。


「それより~、ゼランくん久し振り~!」


 言ってパジャンちゃんはゼラン仙者に抱き着いて、撫で撫でしたり頬擦りしたりやりたい放題だ。ゼラン仙者はその事に半ば諦めていた。


「この千年間、僕と触れ合えなくて寂しかったんでしょう? 今日からはいくらでも触れ合えるからねえ!」


 ほほう。そう言う間柄だったのか。もしかしてゼラン仙者がその幼い姿から成長したかったのって、見た目的にパジャンさんと釣り合う為? それなら……、


「ゼラン仙者、前に言われていた、身体を成長させるアレですけど、今の俺だったら、可能だと思いま……」


「はあ!? あんた何言っているの!?」


 ええ!? パジャンちゃんにキレられたんですけど? そしてゼラン仙者が諦観している。


「ゼランくんはこの幼い見た目で完成体だから! 成長とかないから! ゼランくんは永久にこのままだから!」


 この人、ショタコンや。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...